この曲は、NMB48の19thシングル「僕だって泣いちゃうよ」のカップリング曲であり、山本彩のソロ曲です。
19thシングル表題曲の「僕だって泣いちゃうよ」は、初代キャプテンとして長いことNMBを牽引してきた山本彩の、卒業シングルになります。
カップリング曲である「忘れて欲しい」は、歌詞をそのまま読むと、恋人同士の別れを歌っているようにも思えます。
けれども、山本彩の卒業、そして後に残されるNMBの状況を考えると、歌詞の内容が別の意味を帯びてきます。
実はこの曲、山本彩からNMB48のメンバー達への、厳しくも優しさのこもった別れのメッセージなのですよね。
1番Aメロ
いつものように笑っておくれ
悲しい顔で別れたくない
ずっと一緒にいられないのなら
お互いの道 歩き始めよう
冒頭の「いつものように笑っておくれ 悲しい顔で別れたくない」というのは、キャプテンとしてグループの象徴的な存在であった山本彩の強がりなのかもしれません。
また、ずっとグループの要であり続けた自分が抜けることで、メンバーたちが動揺してしまうのを鎮めようということでもあるのかもしれません。
大人数アイドルグループというのは、メンバーの加入と卒業が繰り返されることによって、長いこと存続することができるわけです。
加入してグループに在籍している間、メンバーたちはお互いに濃密な時間を過ごすことになります。
そこでは、同級生や遊び友達との関係とはまた別の深い絆が育まれる。
けれども、やがて自分の進むべき道を見出して卒業してゆく。
それぞれが別々の道を歩み始めるときがやってくるわけです。
「ずっと一緒にいられない」というのは、大人数アイドルグループのそうした宿命を表しているのでしょう。
そうした宿命を受け入れ、ここからはお互いの道を進もうと呼びかけています。
山本彩はソロ・シンガーの道へ、残されたNMBは山本彩のいない新しいグループとして再生する道へ、それぞれ歩み始めることになります。
1番Bメロ
これから先の未来
荷物にならぬように…
これまでのNMB48は、山本彩あってのNMB48だったと言っても過言ではないでしょう。
例えて言うならば、AKBにおける前田敦子と高橋みなみの役割を、NMBにおいて山本彩が一人で担っていたようなものだったのですから。
それほどまでに、NMBにおける山本彩の存在は大きかったわけです。
けれどもそうなると、山本彩がいた頃のNMBは、彼女の卒業後に残るメンバーたちにとって大きな重荷になってしまうのではないでしょうか。
「これから先の未来 荷物にならぬように…」というフレーズには、そんな重荷になってほしくないという、キャプテンとしての彼女の深い配慮が滲んでいます。
1サビ
もう忘れて欲しいんだ WOWOWOW
僕のことは思い出さないで
すべては消えて行く WOWOWOW
長い夢を見ていただけさ
「もう忘れて欲しいんだ」とは言うものの、何も本当に自分のことを忘れて欲しいわけではないのですよね。
それは、山本彩本人が卒業公演でも言っていました。
ここでの「もう忘れて欲しいんだ」や「僕のことは思い出さないで」の真意は、「山本彩」の影を追うなということなのでしょう。
山本彩は、NMBのキャプテンとして、8年間にわたってグループを先導してきました。
メンバーたちは、その背中をずっと追っていたわけです。
けれども、山本彩が卒業した後、自分たちの前にはもう彼女はいません。
にもかかわらずいつまでも「山本彩」の幻影を追いかけていたのでは、グループの新しい未来を切り拓くことはできません。
ですから、「もう忘れて欲しいんだ 僕のことは思い出さないで」と、あえて突き放すような物言いをしているのでしょう。
そして、NMBのキャプテンとして駆け抜けた年月について、「長い夢を見ていただけさ」とうそぶくことで、メンバーたちを夢から目覚めさせ、現実の新しい一歩を踏み出させようとしているのではないでしょうか。
2番Aメロ
最後にぎゅっと抱きしめたいけど
回した腕を離せなくなる
こんな別れが早く来るのなら
君への想い話せばよかったよ
本当はメンバーみんなを抱きしめたいほど愛おしいのだけれども、そうすれば情が移って離れられなくなってしまう。
それが彼女の本音なのでしょう。
キャプテンという立場上、心ならずも厳しく接しなければならなかったこともあったはずです。
そうした日々を振り返ると、もっとたくさんの愛を言葉で伝えておけばよかったと後悔してしまう。
「君への想い話せばよかったよ」というのは、キャプテンとしてではなく仲間として、あるいは一人の人間としての偽らざる気持ちなのではないでしょうか。
2番Bメロ
寂しい気持ちなんか
そのうち慣れるだろう
寂しさもいつか風化してゆく。
「寂しい気持ちなんか そのうち慣れるだろう」というのは、残されるメンバーたちへの慰めであると同時に、自分自身への言い聞かせてもあるのでしょう。
2サビ
そう明日になれば WOWOWOW
今日のことも遠く思えて
過ぎ去った時間が WOWOWOW
この痛みを癒してくれる
自分が卒業することによって、残されたメンバーたちやファンの人たちの心に、大きな穴が空いてしまう。
グループとしても、その戦力に大きな穴が空くことになる。
前向きな卒業ではあっても、それぞれの人に、何がしかの痛みを与えてしまうわけです。
ここでは、そのことを心苦しく思いながらも、その痛みもいつしか時間が解決してくれるはずだと、説いています。
これはつまり、自分がいなくなっても、みんなならその後の困難を必ず乗り越えていける、そう信じているということなのでしょう。
Cメロ
いつの日か会おうなんて
自分から言いたくない
帰って来られる場所があったら
甘えてしまうだろう
「いつかまた会おう」と再会を約束して別れるのが、わりと普通のパターンなのではないでしょうか。
ところが、そんな再会の約束などしたくないと、ここでは拒絶の意思を示しています。
その理由は、甘えてしまうからだというのです。
なまじ再会を約束してしまうと、メンバーたちが挫けそうになったときに自分(山本彩)を頼ってしまうかもしれない。
また一方で、山本彩自身にとっても、帰って来られる場所があるというのは、自分がソロの世界で壁にぶつかったときに、逃げ場所として甘えてしまうかもしれない。
再会を約束したくないというのは、そうした甘えを捨て、お互いがそれぞれの戦いの場で自立することを促すためなのでしょう。
退路を断つというのは、ソロの世界で生きてゆく彼女自身の覚悟を示していると同時に、メンバーたちにも「さや姉」から自立する覚悟を求めているということになります。
落ちサビ
いつものように笑って帰ろう
涙ひとつも見せたくはない
だって新しい旅立ちだから
僕の背中を追ってちゃダメだ
よく見聞きするセリフではありますけれども、「別れは新たな旅立ち」なのですよね。
ですから、涙を見せずに「いつものように笑って帰ろう」というわけです。
別れの感傷に浸るのではなく、新たな旅たちに向けて気持ちを奮い立たせろ、ということなのでしょう。
そのうえで、「僕の背中を追ってちゃダメだ」という厳しいメッセージを発しています。
メンバーたちが山本彩の幻影を追いかけているうちは、「山本彩」を超えることも、新しいNMB48を作ることもできません。
早く「山本彩」を忘れて、新しい自分たちを作り出さなければならない。
そのことを、メンバーたちに強く促しているのでしょう。
ラスサビは1サビの繰り返しになっていて、最後にもう一度、僕のことは忘れてほしいと強く念を押しています。
私(山本彩)の背中を追うのはもう終わりにして、これからは自分たちの前にある道を走れ、というキャプテンとしての最後の鞭撻なのでしょう。
この曲のタイトルでもある「忘れて欲しい」という言葉に、どこか突き放しているような冷たさを感じる向きもあるかもしれません。
けれども、この言葉の真意は、「山本彩」という存在を早く過去にして、あなたたちの新しい時代を築きなさい、ということなのですよね。
何よりもメンバーたちの未来を案じる、山本彩らしいラスト・メッセージなのではないでしょうか。
秋元康 作詞, 丸谷マナブ 作曲, 野中“まさ”雄一 編曲
NMB48・山本彩「忘れて欲しい」(2018)
