この曲は、NGT48の11thシングル「希望列車」のカップリング曲で、加入して間もない5期研究生に提供された曲です。
夢を叶えるために希望に胸を膨らませて加入したのは良いけれども、これから本当に自分はここでやって行けるのだろうかという不安や迷いもある。
そうした葛藤を乗り越え前へ進んで行こうとする研究生たちの、等身大の心情を描いた曲になっています。
1番Aメロ
遊歩道のすぐ近く
うるさいくらい鳴いてる
蝉たちは何を叫ぶ?
色の褪せてるベンチで
夢について語っても
もやもやが晴れないんだ
「うるさいくらい鳴いてる 蝉たちは何を叫ぶ?」というのは、心のざわつきを表しているのでしょう。
わくわくしているはずなのに、どこか落ち着かない。
何だか分からないけれども焦りを感じてしまう。
まさに、加入したての研究生たちの心理状況は、そんな感じなのではありませんかね。
さらに、「夢について語っても もやもやが晴れないんだ」とありますけれども、おそらく同期メンバーたちと、お互いに自分の夢について語り合ったのでしょう。
何と言っても、加入して真っ先に心が通じ合えるのは、同じ状況、同じ立場に置かれている同期メンバーということになりますから。
お互いの夢の話などしていれば、きっと期待も膨らんで、気持ちも高ぶってくることでしょう。
けれども一方で、これから自分はどうなっていくのだろうかという漠然とした不安や、本当にこれで良かったのだろうかという迷いも心にまとわりついて離れない。
そして、そんな夢について語り合っている場所が、「色の褪せてるベンチ」というわけです。
この「色の褪せてるベンチ」というのは、もしかしたら現実の厳しさを象徴させているのかもしれませんね。
塗装したてのときには色鮮やかだったけれども、雨風や紫外線に曝されているうちに、どんどん色が褪せてきてしまったということで……。
アイドルとしての一歩を踏み出したばかりの研究生たち。
未来への不確かさに対する彼女たちの心の揺らぎを、ここでは夏の情景を通して表現しているのではありませんかね。
1番Bメロ
(たぶん) 決めてたはずの
(きっと) 未来への道
(Maybe) そっちでいいか
迷い始めた
一念発起してオーディションを受け、見事合格して加入したわけですから、当然これからアイドルとして頑張っていこうという決意を固めていたはずです。
そのはずだったけれども、本当にこの道で良いのか、本当に自分にできるのか、正直なところあまり自信が無い。
実際のところ、大勢の応募者の中からオーディションに合格して加入しているのに、なぜか自信のなさを口にするメンバーが結構多いですよね。
「たぶん」「きっと」「Maybe」といったあいまいな言葉の繰り返しで、そうした彼女たちの拭いきれない心の迷いを表しているのでしょう。
1サビ
夕立雲 空の向こう
きっと雨が降るのだろう
わかってても この場所から
動きたくない
夕立雲 変わりやすい
天候のように
青春もいつだって
不安定だ
夏の不安定な天候を象徴している「夕立雲」ですけれども、その「夕立雲」に、ざわついている不安定な心の状態をなぞらえているのでしょう。
この先、幾度となく試練や困難に直面して、傷ついたり落ち込んだりすることが必ずあるはず。
それは自分でもわかっているのですよね。
わかったうえで、「この場所」すなわち自分の夢を叶える場所から離れたくないというわけです。
それはそうでしょう。
ようやく夢へのスタート地点に辿り着いたわけですから、迷いや不安があったとしても、そう簡単に背を向けるわけにはいきませんよね。
未来への不確かさから、期待と不安の間で感情が激しく揺らいでしまうのが、青春期の心理状況でもあるわけです。
人は、そういった時期を経ることで、豊かな感情が育まれていくものなのでしょう。
そうした青春の不安定さを、ここでは肯定的に捉えているのではありませんかね。
2番Aメロ
緑の木々ざわざわと
落ち着かないように見える
鳥たちは飛び立ったのか?
僕たちはまだ あれから
やりたいこと 見つからず
この時間 持て余してた
「緑の木々ざわざわと 落ち着かないように見える」というのは、それこそまさに心がざわついて落ち着かない様子を喩えているのでしょう。
周りの仲間たちが夢に向かって進んでいるのに、自分たちはまだ目標を見出せずに立ち止まっている。
なんだか取り残されているようで焦ってしまう。
今、48グループに入ってくる人たちの多くは、グループに加入すること自体が目標であり目的だったりするわけです。
では、加入してからその先、どんな夢や目標があるのかと問うても、必ずしも明確な答えが返ってこなかったりする。
もちろん、早く正規メンバーに昇格したいとか、選抜に入りたいとかはあるのでしょう。
グループのメンバーとしては、それも大切なことなのだけれども、もっと大きな意味での夢や目標、アイドルになった自分が実現したいこと、あるいはなりたい自分など、何かそうしたものを早く見つけたいところですよね。
より充実したアイドル活動を続けるためにも。
2番Bメロ
(いつか) なりたい自分
(ある日) 気づけるように
(Someday) 自問自答して
成長しよう
1番Bメロと対になっていますね。
1番Bメロでは、「たぶん」「きっと」「Maybe」といったあいまいな言葉の繰り返しで、心の迷いを表していました。
ここでも、「いつか」「ある日」「Someday」といったあいまいな言葉が繰り返されています。
ただ、ここで表現されているのは、漠然とはしていますけれども、未来への希望や期待なのではないでしょうか。
「自問自答して 成長しよう」とありますように、自分自身で答えを見つけようとする前向きな姿勢も見られますし。
2サビ
積乱雲が 広がってる
不意に雨が降り始めた
誰もみんな 屋根を探し
蜘蛛の子 散らす
積乱雲が 僕の悩み
わかってるように
あと少し待ってたら
陽が射すだろう
「積乱雲」イコール「夕立雲」なのですけれども、その言葉から受ける印象は微妙に異なっていませんか?
「夕立雲」という言葉には、これから激しい雨が降るかもしれないという嵐の前の静けさのような雰囲気を感じますけれども、「積乱雲」という言葉には、見る見るうちに雲の層が厚くなって、今まさに土砂振りの雨が降ってくるという、アクティブで激しい印象を受けますよね。
そんなふうに考えてみると、1サビにおける「夕立雲」は、心の不安定さをなぞらえていましたけれども、この2サビにおける「積乱雲」は、葛藤を乗り越えようとする心の動きをなぞらえているのではありませんかね。
「不意に雨が降り始めた」というのは、なにがしかの試練が実際に降りかかってきたということを示しているのでしょう。
誰しも辛い試練など避けられるものなら避けたいですよね。
けれどもこの主人公は、「あと少し待ってたら 陽が射すだろう」と、雨の後の晴れ間を信じ、試練を乗り越えようとするわけです。
これは、困難に直面しても逃げずに立ち向かえば必ず光が見えてくるという、前向きなメッセージなのではありませんかね。
Cメロ
誰かの小さなアドバイスより
もっと大きな
答えが見つかるだろう
他人からのアドバイスには自分とは異なる観点があったりして、有用なことも少なくありませんので、しっかりと耳を立てておいた方が良い場合もありますよね。
ただ、アイドル界隈における、ファンからの上から目線のああすべきこうすべきといった独りよがりな「アドバイス」は、内心では鬱陶しいと思いつつも、良かれと思って言ってくれているのだろうし、なによりも自分を応援してくれているわけですから、そうそう無碍にはできないところが厄介ですよね。
そうしたありがたい「アドバイス」には、「はい、わかりました」とでも言っておいて、右から左に聞き流しておくのがベストかもしれませんね。
まあいずれにせよ、他人のアドバイスに頼るよりも、自分自身で悩み、自問自答し、答えを見出すことの方が、よほど大切なことなのではありませんかね。
たとえその答えが間違っていたとしても、自分で納得して出した答えならば、諦めもつくでしょうし、怒りも生じないでしょう。
多少の後悔は生じるかもしれませんが……。
それもこれも、自分が成長するための糧になるのですから、大いに悩み、大いに悔いれば良いのです。
ラスサビは1サビの繰り返しになっています。
青春は、いろいろな面で葛藤の季節なのですから、悩むことも多く、気持ちが不安定になりがちですよね。
ただ、そうした心の不安定さを否定的に捉える必要はなく、自分が成長していく過程の通過儀礼みたいなものだと肯定的に捉えれば良いのではありませんかね。
数多くのアイドルグループを手掛けてきた秋元Pにしてみれば、アイドルとしてのスタート地点に立ったメンバーたちの心境など、手に取るようによくわかるのではないでしょうか。
希望に胸を膨らませて加入したけれども、すぐさま厳しい現実を目の当たりにすることになる。
しかも、まだ右も左も分からない状態で、めまぐるしく物事が進んで行く。
不安と戸惑いを抱えながら、ともかく忙しく動き回らなければならない。
期待と不安の狭間で揺れ動く心を抱えたそんな彼女たちに、この曲を通じて秋元Pは伝えようとしているのではありませんかね。
自分自身と向き合い、とことん悩み抜くこと。
そして、周りの言葉に惑わされずに自分自身で答えを見つけ出すこと。
そうやって葛藤を乗り越えていくことで、人は成長していけるのだということを。
秋元康 作詞, 板垣祐介 作曲, 板垣祐介 編曲
NGT48「夕立雲」(2025年)
