この曲は、AKB48・チームK「最終ベルが鳴る」公演の構成曲です。
曲名から察せられる通り、太宰治の短編小説「走れメロス」をモチーフにした歌詞になっています。

 

太宰治の「走れメロス」といえば、大概の人が小学校で習っていて、よくご存じかと思います。
友情や信頼関係の大切さを教訓として教わったと思うのですけれども、大人になってからあらためて読み直してみると、いろいろとツッコミどころの多い滅茶苦茶なストーリーに感じますよね。

 

そもそも主人公のメロスは、ディオニス王の悪評を聞かされて、そんな暴君は始末してやろうと城にひとりでのこのこ乗り込んでしまうような短絡的な人なのですよね。
そのうえ、間抜けなことにあっさりと捕まって、自分を3日間解放してもらう代わりに親友を人質に差し出してしまう。
そして、約束通り戻ってこなかったらその人質を処刑しても構わないとか、「いやいや、何を言っているんだコイツは」と思ってしまう。
人質にされてしまったセリヌンティウスにしてみれば、とんだとばっちりを受けてしまったことになるわけです。
そんな「それ、どういうことなんだよ!」と思わず言いたくなるような箇所がたくさんある。

 

この小説の元ネタはギリシャ神話か何かだそうで、それを太宰治がアレンジして作品にしているのだとか。
もしかしたら太宰治の真意としては、教訓を提示するというよりも、社会に対する風刺か皮肉か、そういったものを込めているのかもしれませんね。
まあ、なにせ太宰治ですからねぇ……。
道徳的な教訓なんて、いったいどの口が言っているんだという話になりますので。

 

 

1番Aメロ1

世界のどこか
君を待ってる
誰かがいるよ きっと…
神と交わした
その約束は
mission

人質に差し出されてしまったセリヌンティウスにしてみれば、メロスが戻ってくるのを、ひたすら信じて待つしかない。
もしメロスが戻ってこなければ、自分が処刑されてしまうわけですから……。
メロスは直情径行型の短絡的な人ではあるけれども、愚直なまでに信義を重んじる人でもあるのでよね。
ですから、自分の命に代えてでも約束は守ろうとする。

 

自分を信じて待ってくれている人がいる以上、その信頼に応えるべく最善を尽くすのは、信頼されている者の使命であり責務なのですよね。
まさしく、神聖なミッションということになるのでしょう。

 

ときには信頼が重荷に感じられてしまうこともあるでしょう。
だとしても、決して信頼を裏切ってはならない。
それは、自分自身の誇りを守るということでもあるわけですから。

 

上っ面な関係ではなく、他者との真に良好な関係は、お互いの信頼があってこそ成り立つもの。
ひとたびその信頼関係が失われてしまったなら、それまで親しくしていた人たちが蜘蛛の子を散らすように離れていく。
そして、失われた信頼を取り戻すためには、とてつもないエネルギーと、長い長い時間が必要となってしまう。

1番Aメロ2

君が生まれた
その意味を知る
出会いがあるよ いつか…
空のその下
夢を見ている
Unknown

まだ見ぬ未来の可能性に期待を寄せているということでしょうかね。
自分の存在意義をまだ見出せていないけれども、いずれそうしたものを見出すことになるような出会いが必ずあるはず。
それはまさに人生の転機となるような出会い、もしくは経験であるということを言っているのでしょう。

 

メロスもディオニス王と対峙(たいじ)したことによって、人生が大きく変わったわけですからねぇ、ある意味。
いたって平凡な牧人にすぎなかったメロスが、怒りに任せてディオニスを暗殺しようとして失敗し、そこでディオニスと残酷な約束を交わす事になる。
その約束には身代わりとなった親友の命が懸っている。
そして、約束を果たせば、自分は処刑されてしまう。
それでも信義を貫くために、その約束を果たすことに自分が生きていることの意味、あるいは自分が生きていることの使命を見出したわけです。

1番Bメロ

耳を澄ませば聞こえる
声にならない叫びを…
選ばれた
君だから
すべてを捨てても…

そもそもメロスが暴君ディオニスを暗殺しようとしたのは、買い物をするために遠い村から2年ぶりにやって来た町で、人々が暴君の圧政に苦しんでいるのを聞かされたからなのですよね。
まあ、正義感に駆られたということでしょうかねぇ……。
すかさず過激な行動に打って出られるというあたりは、事の良し悪しはともかくとして、凄い行動力ですよね。
まさに「選ばれた君」すなわち特別な人ではあるのでしょう。

 

ここでは、社会の片隅で苦しむ人々の声や助けを求める声に耳を傾け、それに応えることの重要性を説いているのではありませんかね。
「選ばれた君」というのは、そうした声に応えて行動を起こすことのできる人のことを指しているのでしょう。
そして、そういう人なればこそ、使命のためにすべてを投げ打つ覚悟を持っている。

1サビ

急げ!
メロスの道
今すぐに
駆け出すんだ
君のことを
信じている
その人のために
急げ!
メロスの道
ゴールまで
遠くたって
弱音 吐くな!
あきらめるな!
走り続けろ!
命の限り

親友セリヌンティウスを処刑から救うためにひたすら走り続けるメロスの姿を称して「メロスの道」と言っているのでしょう。
とはいえ、そもそもそんな危機的な状況を作り出してしまったのはメロス自身に他ならないのですけれども……。
それはまあとりあえず横に置いておくとして。
そんなわけで、「メロスの道」というのは、困難な道を諦めずに突き進むことを象徴しているのでしょう。

 

「君のことを 信じている その人のために」というのは、他者からの信頼が行動の原動力となるということを強調しているわけです。
そして、「弱音吐くな!」、「あきらめるな!」、「走り続けろ!」と、力強く鼓舞する言葉が列挙されていて、どんな困難があろうとも、目標に向かって命の限りを尽くして努力すべしと説いている。

2番Aメロ1

誰もがみんな
君は来ないと
思っているよ ずっと…
どれだけ 時間(とき)を
待っていたって
no chance

誰しもわれとわが身が一番大事なのですよね。
ですから、メロスが約束通り戻ってくるなどとは、ほとんどの人が思っていなかったでしょう。
とりわけ懐疑心の強いディオニス王は、メロスが約束を守るとはまったく考えていなかったわけです。

 

これは、何かに挑戦しようとしている人が直面することになる状況を表しているのではありませんかね。
できるかどうかわからないことに挑むことを「挑戦」と言う。
そんな挑戦者の周囲には、「そんなのできるわけがない」という冷ややかな視線を浴びせる者が必ず現れるもの。

2番Aメロ2

愛を忘れた
野次馬たちは
信じる者を笑う
そんな約束
守れやしない
impossible

「愛を忘れた 野次馬たち」というのは、信念を貫くとか約束を信じるとかいったような高尚(こうしょう)な精神を否定的に捉えて、むしろそれを嘲笑するような人たちのことを指しているのでしょう。
まさしくディオニス王がそうした(たぐい)の人でしたよね。
人のことをまったく信じられずに、次から次へと臣下の者はおろか身内の者まで(あや)めてしまうような……。

 

そうそう、目標に向かって努力していることに対して、「努力したからといって、必ずしも報われるわけではない」とか、「努力しても無駄だ」とか、したり顔で嘲笑的に言う人、いますよねぇ……。
余計なお世話だと思うのですけれども。

2番Bメロ

「行かなくたっていいさ」と
悪魔が 傍で囁く
リタイアは
楽だけど
裏切れないだろう

さすがのメロスでも、道中で何度も諦めそうになったり、このまま逃げてしまおうかという誘惑に駆られたりもしていますよね。
そりゃまあそうですよね。
親友のセリヌンティウスには悪いけれども、このまま城に戻らずに逃げてしまえば、自分は処刑されずに済むわけですから。
今こうして自由でいられることで、命が惜しくなったとしても不思議ではないでしょう。

 

ここでの「悪魔」というのは、困難や苦しい状況から逃げ出したいという弱気な気持ち、あるいは自分だけ良い思いをしようという誘惑のことを指しているのでしょう。
リタイアしてしまえば楽にはなれる。
けれども、自分を信じてくれている人がいるわけです。
そうした人たちの信頼を裏切ることなんてできませんよね。

2サビ

君は
メロスになれ!
地を蹴って
風を切って
無我夢中で
走り抜けろ!
真実はひとつ
君は
メロスになれ!
疲れ果て
倒れたって
何回でも
起き上がれよ
信じて待ってる
自分のために…

道中いろいろあって断念しかけたりもしたけれども、メロスはセリヌンティウスが処刑される寸前に、なんとか城にたどり着く。
そしてこう叫ぶわけです、「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ」と。
いろいろとツッコミどころの多い物語ではありますけれども、ここの場面に関しては少しばかり感動を覚えますよね。
命を惜しむよりも信義を貫いたということで。

 

そんな、信義を貫き通したメロスのようになれということでしょうかね。

 

「地を蹴って 風を切って 無我夢中で 走り抜けろ!」というのは、全力を尽くして努力せよということを言っているわけです。
そして、「真実はひとつ」というのは、真実や正義は揺るぎないものであるのだから、自分の信じる道を突き進めということではないでしょうか。

 

「疲れ果て 倒れたって 何回でも 起き上がれよ」というのは、挫折や失敗があったとしても、決して諦めずに何度でも立ち上がれる強さを持てということでしょう。
そしてそれは、「信じて待ってる 自分のために…」ということになるわけです。
つまり、他者の信頼に応えるというだけでなく、自分自身の信念に忠実であらんとする、そして自分自身の誇りを守る、そうしたことのために強くなれということを言っているのではありませんかね。

 

ラスサビは2サビの繰り返しになっていますね。

 

困難な状況に直面したとしても、自分を信頼してくれる人のために、そして何より自分自身のために、決して諦めることなく目標に向かって努力し続けることの大切さを、この曲は力強く訴えかけています。

 

※引用:
秋元康 作詞, 太田美知彦 作曲, 市川裕一 編曲
AKB48「メロスの道」 (2008年)