うさぎのぼうけん ありがとうヘミシンク
♪うさぎ うさぎ なにみて はねる
じゅうごや おつきさま みて はねる♪
よぞらにぽっかり、まんまるおつきさまの浮かぶ晩に、
うさぎのせつこは、何者かに起こされた。
「せつこ、起きろよ!」
その声は、隣の部屋でねているはずの、兄のあっくんの声だった。
うさぎが目を開けると、寝床の横にたって(浮かんで)いたのは、あっくんではなく、お侍さんの格好をした男の人だった。部屋の向こうが透けて見える。
うさぎがびっくりして男の人をみると、ポニーテールのように後ろに一つに結わえた髪型の男の顔が、うさぎの顔の前に、顔だけアップになって飛んできた。
うさぎは、怖くなって目を閉じたが、なぜだろう? めをつぶっても男の人の顔がみえる。
からだは、カチンコチンに固まって、となりのあっくんに「助けて!」と叫ぼうとしても、声も出なかった。
うさぎは祈った。
「何か私に、悪いことをしに来たのでなかったら、どうか消えてください!
私には、まだまだ怖くて、とてもあなたの話を聞く気にはなれないから。」
するとその男の人は、スッと姿を消し、もとの静かな月夜に戻った。
うさぎは、その晩、1階で寝ていたおとうさんとおかあさんの間に、無理やり割り込んで眠った。
あくる朝、起きてから、うさぎには、何かが違っていた。
見えないものの音を聞くように、うさぎの耳は、いつもピンとアンテナを立てていた。
さわさわさわ、さわさわさわ。
風の音とともに、誰かがうさぎに語りかけてくる。
「いつもそばにいるよ。」
「誰?」
「さわさわさわ、さわさわさわ…。」
「何?」
「じき、会えるさ。」
うさぎは、風に、『さわやかさん』と名前を付けた。
さわやかさんは、ときどきうさぎの左後ろから、さわやかな風をふかしながら、
歌うように、ポツリとささやく。
「お友達のお誘いにのって、でかけてね。」
うさぎは、おともだちののっぽ君に誘われて『火祭り』にでかけた。
のっぽくんの話によると、くじゃくのやまぶしくんが、お祭りのとき、
火つけ石も、ライターもないのに、木に火をつけて、みんなの願いをかなえてくれるんだって。
うさぎは、のっぽくんのことが、大好きだったから、のっぽ君の言うことを信じてあげたかったけど、自分の目で確かめるまでは、そんなことはありえない、と思っていた。
火祭りの夜、やまぶしくんは、虹色の羽を広げるように天を仰ぐと、一瞬周りの空気が押しつぶされたように固まって、やまぶし君の前に積み重ねられていた木のかたまりに、火柱が立った。
うさぎは、思った。
「今まで見ていた世界は、小さな小さな世界だったかも。私が考えていた以上に、この世界には、もっともっと、広くて大きな、不思議に満ちた世界が待っているかもしれない。」