「病は気から」というタイトルから想像して、心の持ちようで病気になるよ、って話なのかと思ってました。メインの内容は、心の持ちようで、薬や手術などの治療に効果が上乗せされるといった話でした。「すごく効く薬です」と言われた薬を信じて飲むと、偽薬でも効くことがあるし、「素晴らしい手術です」と言われて、手術をしたと思わせると、病院を出た瞬間から元気になった人もいて、人間の体って不思議だな、と思いました。

 

偽薬

パーキンソン病患者に偽薬を与えるという、ブリティッシュコロンビア大学 神経学者ジョン ストールスが行った症例では、実薬と同じ変化が起こった。パーキンソン病は、ドーパミンが徐々に死んでいく変性疾患。脳内のドーパミン濃度が低下するにしたがって、筋肉がこわばり、動きがゆっくりになったり、震えたりする症状が徐々に進行していく。症例の患者のドーパミン濃度は、健康な人のアンフェタミン服用時と同等になったという。

 

ノセボ効果

 心に良い影響を与えるのが、プラセボ効果。その反対に、悪い影響を与えるのが、ノセボ効果という。薬の副作用のほとんどは、ノセボ効果とのこと。

 β遮断薬アテノロールを処方された96名の心疾患の男性を追跡調査した、イタリアの研究者たちが行った研究。どういった副作用があるか知らされていない群と「勃起不全になるかもしれない」という副作用の説明をされた群に分ける。副作用が現れた割合は、説明を受けなかった群は、3.1%、受けた群は、31.2%だった。副作用の説明を受けて、不安になると、その不安が現実化しやすいことがわかった。

 

疲労

 疲労は、体が深刻なダメージを受けるだいぶ前に、脳が疲労を感じさせ、身体活動を休止するので、体には、まだ若干の余裕がある。

 インターバルトレーニングとは、負荷の高い運動と休憩を短時間に繰り返すトレーニング方法。その人の最大能力の限界を少し超えるところまで追い込み、体力を強化させる。「かなりきつい」と思うよりほんの少しだけがんばる。そうすることで、「ここまで頑張っても大丈夫。」ということを脳に教える。「ほんの少し」を段階的に繰り返すことで、自分の能力を高めていく。

 本書では、慢性疲労症候群のサマンサという女性が、病気を治した話が書かれていた。彼女は、疲労のせいで、日常生活が送れず、長期間、寝たきり状態だった。 「不治の病」だと信じれば、その病気は「不治の病」になってしまう。疲労かどうかを判断し、行動を制御するのは、脳の仕事。少々動いても大丈夫、そして、回復できると信じること。その人ができる動きをすることから始め、ほんの少しずつ強度を上げていく。サマンサは、一時間に一回、ベッドで寝返りをうつことから始めた。そのうち、5分間上半身を起こしていられるようになった。このような訓練を根気よく続け、5年の歳月をかけて、普通の生活ができるようになった。

 

痛み

 痛みに集中すれば、痛みが増す。しかし、別のことに意識を向ければ、痛みは軽減する。視覚イメージを使えば、さらに効果は上がる。

 本書では、車の事故で、骨折や重度の火傷を負った青年の話が書かれていた。短期間のうちに、5回ほど手術を受け、皮膚の移植をした。オピオイド鎮痛薬を多量に投与していたにもかかわらず、痛みはあった。その彼に、ラップトップとゴーグルを使って、「痛みが消える」催眠術を施した小川や草地の映像を見せたところ、痛みがなくなった。痛みが消える前は不愛想だったのに、消えた後は、礼儀正しく、愛想の良い彼になったという。

 

ストレス

 慢性的なストレスがあると、感染症にかかりやすくなる。さらに長いことストレスにさらされると、アレルギーや慢性炎症が起きやすくなる。炎症レベルが高くなると、自己免疫疾患が悪化し、さらに時間がたてば、骨や筋肉など健全な組織までもが浸食されていく。色々な種類のがんのマウスにストレスを与えたり、アドレナリン(ストレスホルモン)を注射した実験で、腫瘍の成長速度が速まり、広がっていくことがわかった。

 

瞑想

 ウィスコンシン大学マディソン校のリチャード デビッドソンは、数万時間も瞑想をしてきた僧侶 8名を対象にした実験を行った。瞑想中、ガンマ波が劇的に増え、左側の前頭前皮質(ポジティブな思考と感情と関連のある領域)の活動が非常に高くなっていた。

 ハーバードの神経科学サラ ラザーは瞑想を習慣化している様々な職業の人たちを調査した。瞑想をしていない人たちと比べると、大脳皮質(前頭前皮質を含む)は、約1/10㎜ 厚くなっていた。つまり、瞑想は脳の構造を物理的に変えられるということ。また、ラザーの別の研究では、老化に伴う流動性知能(本書では、IQに似た指数とありました)の低下は、ヨガや瞑想を行う人の方が行わない人よりも、遅く、脳の様々な領域のつながりが向上していることも発見した。

 1998年 高齢のがん患者の脳を解剖し、新しい脳細胞が作られていることがわかった。つまり、「瞑想やヨガが良いのは、わかったけど、もう、こんな年だし、今更やっても遅いよね」という言い訳は通用しないということ。

 

ルルドの泉

 一番印象に残ったのは、「ルルドの泉」の章でした。フランスにあるルルドの泉は病気を癒す奇跡を起こす場所として有名で、世界中から、病気を治すために多くの人が訪れます。本書では、そこに来た数人にインタビューをした話が載っています。病気が治ったかどうか、とは別に、心が癒された人たちの話でした。ルルドにボランティアで来た人達がとても優しくて癒されたとか、ボランティアに来た人たちが、知らない人にやさしくされたとか、人に優しくすることで、自分が癒されたとか、とにかく「私も行きたいなぁ」と思ってしまうくらい暖かい気持ちになりました。例え、病気が治らなくても、一人の人間として、大切に扱われたり、他者を大切に扱うことで、幸せになれるのだということがわかりました。

 

さいごに

 

 病気を治すには、病院で出されたからといって、機械的に薬を飲むのではなく、「ものすごくよく効く薬」と心底信じて飲む、という傍から見たらちょっと「馬鹿げてる」ようなことを真剣に、楽しんでやっちゃうのがいいのかも、と思いました。

 今、病気が治らなくて、苦しんでいる人や将来、病気になったらどうしよう、と不安になっている人におすすめしたい本です。これを読んで、一緒に健康長寿を目指しましょう!