■安倍政権下で防衛費は増加の一途~過去5年連続最高額を更新

平成31年度の防衛予算は、5兆2,574億円で過去最高額を5年間連続で更新し続けています。名目GDPは566.1兆円の見込みですから、防衛費の対GDP比は9.3%となり、かつてGNP1%枠などと防衛費の増長に抑制的に対応していた時代からは、想像もつかない驚異的な伸びを示しています。防衛予算は安倍政権が誕生した平成24年度以降増え続け、特に平成27年度以降の5年間は過去最高額を更新し続けています。(グラフ1参照)

※防衛関係予算の推移(グラフ1)
※平成24年12月26日 第二次安倍政権が担当して以来、防衛費は増加の一途。
※平成27年度以降、防衛予算は最高額を更新し続けています。


■平成31年度FMS 7,013億円~分かりにくい自衛隊の武器購入

FMSは、Foreign Military Salesの頭文字ですから、直訳すると「外国への武器販売」となります。これはアメリカ側の表現ですから、「外国への米国の武器販売」という意味です。しかしこれを日本国政府では、(米国からの)「対外有償軍事援助」と公式に表現しています。実は「武器購入」という語彙も日本政府は使いません。「武器」ではなく、「防衛装備品」です。FMSは、日本国内では「米国から防衛装備品の有償軍事援助を受けること」と公式に説明され、「米国からの武器購入」は、「FMS調達」と呼びます。
平成31年度のFMS調達の総額予算は7,013億円であり、①イージス・アショア(ロッキード・マーチン社)1,382億円、②SM-3弾道弾迎撃ミサイル(レイセオン社)717億円、③F-15の性能向上(ボーイング社)212億円、④グローバルホーク無人偵察機(ノースロップ・グラマン)71億円、⑤E-2Dホークアイ早期警戒機9機(ノースロップ・グラマン)1,940億円、⑥F-35A戦闘機6機(ロッキード・マーチン)730億円等が平成31年度に支払われる新規FMS調達の主な中身です。
しかし、国民の皆様もイージス・ショア2基の総額だけで6,000億円以上との報道をお聞きになっておられるでしょうから、上記の金額とは一致しておらず、平成31年度に米国から新規購入するこれらの大規模な武器の購入金額の合計が7,013億円で納まるはずがないことにお気づきになるでしょう。実はこの金額はあくまでも「手付金」にすぎないと聞いたら、あなたは驚かれるでしょうか。(グラフ2参照)

※FMSによる防衛装備品の取得に係る予算の推移(グラフ2)
※FMS=アメリカからの防衛装備品調達額は6年間で3倍以上の増額


■FMSによる防衛装備品の取得(武器購入)と後年度負担(ローン残高)

平成31年度のFMSによる装備品等の取得に係る予算額(当初予算)は、7,013億円です。日本では、米国からの防衛装備品の取得経費は、一部の長期契約を除き、基本的に5か年の契約期間の範囲で支出されています。つまり、過去5年間に取得した防衛装備品に係る経費の支払いが常に支払いと後年度負担の新規積み増し(新規ローン残高の累積)を繰り返し、ローリングしているのです。
後年度負担を設定した事業はFMSだけではありません。FMSはアメリカからの武器購入だけが対象なのですが、艦船を建造したり、P-1などの純国産の航空機を製造する場合も、後年度負担を設定しているのです。(FMS及び物件費はローンで支払われます。)
平成31年度にFMS調達するための予算7,013億円というのは、簡単に言えば「頭金」とか「手付金」に過ぎず、平成31年度のFMS及びその他の物件費の後年度負担の合計額=新規後年度負担(新規ローン残高累積額)は2兆4,013億円となるのです。(グラフ3参照)

※5年間でローリングさせるFMSを含む防衛費の構造(グラフ3)
※FMS=米国からの装備品調達と国内調達を合わせた平成31年度に新たに計上される後年度負担は2兆4,013億円


■防衛費も国家財政も借金で回っています

アメリカから防衛装備品(武器)の有償軍事援助を受ける(購入する)場合も、国内で防衛装備品(武器)を開発(購入)する場合も、艦船や航空機などの主要な装備品は契約から納入、完成までに複数年を要するものが多いため、複数年度に及ぶ契約を結びます。契約の翌年度以降支払う経費のことを後年度負担と言うのです。
ですから、平成31年度に累積する後年度負担の合計額は防衛関係費全体では何と5兆3,613億円にまで膨れ上がり、初めて後年度負担が当初予算額を上回ることになります。(参考資料10参照)

※防衛関係費及び後年度負担の推移(参考資料10)
※平成31年度の防衛費本予算は5兆2,574億円で、後年度負担が5兆3,613億円となるので、初めて後年度負担が本予算を超えることになります。
※毎年の本予算を事実上の借金である後年度負担が上回る歴史的瞬間が今年度の防衛予算だということになります。

■P-1哨戒機ではなく、イージス・アショアの導入が決定されました

平成30年12月20日午後3時ごろ、韓国軍所属の駆逐艦クアンゲト・デワンが日本の排他的水域内で海上自衛隊所属のP-1哨戒機に対して、火器管制レーダー(射撃用管制レーダー)を照射した事件が報道されました。国土の四方を海で囲まれた日本の防衛にとって、領海侵犯してくる艦船や潜水艦をいかに早く発見して対処するかは重要な自衛措置の第一歩です。P-1哨戒機は初の純国産哨戒機で、海上を飛行しながら、不審船や海面下の潜水艦を早期発見できる航空機です。
当初から、海上自衛隊内部では、このP-1哨戒機を海上防衛に不可欠なものとして追加配備する予算要望を提出する動きがありましたが、平成31年度予算にはこれが計上されていません。一方、陸海空いずれの自衛隊からも予算要望の痕跡のないイージス・アショアの導入が決定されました。
イージスアショア(陸上イージス)は、イージス艦というミサイル防衛艦8隻体制で、日本の海上警備に当たり、飛来するミサイルを海上で迎撃する計画だったものに、突然2基のイージスシステムを陸上に配備することが決まったものです。システムそのものは強力な電磁場を発生しますので、今後受け入れ自治体の反発も予想されます。(図1参照)

※イージス・アショアの防護範囲のイメージ(図1)出典:産経新聞

■イージス・アショアはなぜ必要なのか?なぜ山口と秋田に配備されるのか?

イージス艦は8隻体制で日本の領土領空領海すべてが護れるという触れ込みで導入しました。日本の領海に8隻が展開することで、日本全土にミサイル防衛のバリアが張れるというイメージです。ところが今回、これを補完する必要性から、山口と秋田に陸上イージス=イージス・アショアを配備することになりました。政府の説明によると、山口と秋田に配備すれば、日本全土を網羅できるというのです。
これで本当に二重のバリアによって日本は安全だと言い切れるのでしょうか。実は迎撃ミサイルというのは飛来するミサイルの正面からでないと撃ち落とす確率が激減する発展途上の技術なのです。
野球に例えれば、外野フライをキャッチするために野手はいかに速くその落下地点に駆け寄ることが出来るかが勝負なのですが、ミサイルの迎撃もまったく同じ理屈なのです。2基の陸上イージスを配備したから、日本全土が護れるというのは限りなく幻想に近いわけです。
ところが、山口と秋田で確実に北朝鮮のミサイルを迎撃できる弾道があるのです。
北朝鮮からハワイに向けられた弾道ミサイルが秋田上空を通過し、グアムに向けられた弾道ミサイルが山口を通過します。
つまり、平成31年度に突然配備が決まったイージス・アショアが迎撃できる(撃ち落とせる)可能性が最も高いのは、日本国内に向けられたミサイルではなく、ハワイとグアム、つまり米国に向けられたミサイルなのです。(図2参照)

※北朝鮮から発射されるミサイルの弾道シミュレーション(図2)出典:#RegaindemocracyJP
※北朝鮮から発射されたハワイへのミサイルが秋田を通過し、グアムへのミサイルが山口を通過する


■まとめ

自衛隊が日本を護るために十分な装備を整えるのであれば、私はその予算を認めるべきだと思います。しかし安倍政権の下で可決された安保法制によって、日本はアメリカの戦争に集団的自衛権という名目で参戦する道が確保されました。
アメリカは「自由と民主主義のために」と言って、国家の威信をかけた戦争を世界中に展開する国です。このような戦争を「国権の発動たる戦争」と呼びます。日本国憲法第9条が禁止している戦争です。
「国際紛争を可決する手段として」、「武力による威嚇」もしくは「武力行使」はしないとも日本国憲法は明確に規定しています。ですから安保法制は違憲です。
それでは自衛隊は違憲ではないのか?違憲ではありません。戦後、国際法の基本的な大前提として、「民族自決権」(Self Determination)があり、どんなに小さな民族国家であったとしても、自衛の権利が保障されています。これを「自然権としての自衛権」と言います。
憲法の規定がどうあろうとも、この自然権としての自衛権は国際社会において認められている。この権利は日本国にも存するのです。そして、この自然権としての自衛権を行使する。言い換えれば、専守防衛に特化した自衛隊は、「国権の発動たる戦争」や「国際紛争を解決する手段として」の「武力による威嚇」も「武力行使」もしない限り、日本国憲法第9条には違反していないわけです。
しかし、安保法制によって、自衛隊がアメリカが展開する軍事行動に集団的自衛権を理由に駆り出される可能性が開かれています。これは違憲です。
百歩譲って、集団的自衛権を最低限度認めるとすれば、アメリカに向けられた日本上空を通過するミサイルを自衛隊が打ち落とすことまで認めるとすれば、今回のイージス・ショアの秋田と山口への配備にはその意義が隠されている可能性があるのです。
集団的自衛権や日米軍事同盟がどこまで拡大解釈されるのかが、充分な議論もされぬまま、日本国民の税金を今回のような説明のままイージス・アショアに支出することは、誠実な予算執行とは言えないと私は思います。

みなさんはどのようにお考えになりますか?

瀬戸健一郎
Kenichiro Seto
衆議院議員 山川ゆりこ事務所長
Chief of Staff,
MP Ms. Yuriko Yamakawa's Office