細い路地裏の先には飲み屋の提灯と風俗のネオンサイン。
そしてライブハウス、クラブロックンロール。
均衡に見方によっては無茶苦茶に張られたフライヤーがライブハウスの壁一面に張られ。その狭い入り口には「○×大学卒業ライブ」なんて書かれてる。
大学もバイトも無事卒業して4月から社会人になるバンドマンのO君のラストステージをバイトの皆で見に行こくことは前から決まってたんだけど、僕らの中も色々あって結局こうして当日ライブに来れたのはこの2人ってわけだ。
僕とバイトは向かいのタバコ屋で両替ついでにガムとタバコを買って、ほろ酔いのバイトは、
「どっかで大麻買えませんかね?」
なんてタバコを吹かして言った。
にっぽんの未来は、せっかいがうらやむ♪
僕は歌ってその言葉を煙にまいた。
国の未来も君達の未来もこの先どうなるかなんて僕にはわからないんだ。
ライブハウスの前で時間を潰していると、ライブハウスからO君が出て来た。
「久しぶり」
「オバマ氏、緊張してる?」
苗字が似てるってこととインテリゆえに、僕は彼を新しいアメリカの大統領と引っ掛けてそう呼んでいる。
無駄に偏差値の高い大学に在籍してやはり頭も良いのにうちの店の安時給で働いてくれてるナイスガイ風なキ○ガイそれが彼だ。
挨拶をして、さして面白みのない会話を交わしてライブまでの時間を潰した。
彼はいつもの様子で大きな声で笑っている。
2月の夕暮れは早く、辺りが急に暗くなりライブの時間も近づいて来てでたらめなネオンサインがチラつくライブハウスに僕らは光に群がる羽虫のように飲み込まれたんだ。
中は大学の卒業ライブだけに大学生だらけで、酷く居心地が悪かった。
まるで卒業式の2次会にでもいるような浮ついた感じ。
ブラックライトにいくつものまっさらなリクルートスーツがうっすらと輝いている。
僕は、
「嗚呼、歳喰ったなぁ」
なんて思うんだ。
きっとここで音楽が奏でられようが奏でられまいがきっと盛り上がるのだろう。
学生自体はきっと盛り上がることが目的なのだ。
その手段としてのライブなのだ。
僕は自分の時の短大の卒業式なんて思い出していた。
僕は卒業式の2次会の実行委員をやっていて、当時ソコソコ気になっていた英文科の女の子と実行委員だったんだ。しかしあまりにも物事が上手く行かないやるせなさと自己嫌悪と緊張を紛らわす為に飲めないビールを大量に煽って、
池下の厚生年金会館の分厚い絨毯の上でまるでマーライオンのようにハデにビールを吐き散らかしたっけ。
その後僕らは4大に編入したんだけど、そっからは疎遠だった。
1つ目のバンドが演奏を始める。
邦楽のカヴァーバンドでサンボマスターみたいな顔でヴィジュアル系の曲をやっている。
こういった学生のライブを見るとプロの演奏がいかにスゴいかということが素人ながらよくわかるよね。
それでも学生は無理矢理に盛り上がってる感じで踊っているんだ。
夏場の蝉が鳴くように学生とはそういった生き物なんだ。
早々に浪人を決めた学生と大学院生の演奏する誰かさんの曲はチャージで貰ったソフトドリンクのように味気のないものだった。
次に出てきたのがオバマのバンドだ。
低いステージでチューニングに余念のない彼は服を着替えていた。
着ていたTシャツは彼が一度店を辞める時に贈ったもので、
僕が大学の時に買ったオバマと共通の好きなバンドWEEZERのTシャツでサイズはSだ。
それに思いつきで僕とバイトのシロとで寄せ書きをしたんだよ。
少し汚れて黄ばんだそれに子供が書いた落書きみたいな寄せ書きを、僕は「どこかに捨てておくれよ」なんて言って渡したんだ。
身長が180cm近いガタイが良い彼がサイズSのそれを着るともうそれはピチピチで、もう明らかに乳首とか立ってて。その上なんか半ズボンで、そんなちょっと陽気な不審者みたいな様の頭の良い彼がそれこそ体を激しく踊らせて、うがーっと、ドラムを弾いて演奏は始まったんだ。
演奏したのはWeezerの「Tired of Sex」だ。
WEEZERの中でも一番評価の低いセカンドアルバムのリードトラック。
歌詞が色々問題だが、それをこの場で選ぶセンスに僕はたまらなく嬉しな気持ちになったんだ。
やはり洋楽にあんまピンと来ないのか客の盛り上がりはイマイチだ。
空転するパーティーには持って来いじゃないか。
2曲目も3曲目も彼はピチピチのそのTシャツでドラムを懸命に叩いたんだ。
君の新しい彼女が小奇麗で柔らかそうな素材のコートを着ながら見つめているのにだ。
正直、演奏はボロボロで、プロが出すような体の底からわきあがるような興奮するようなもんではなかったんだ。
僕はいつからか楽しいとか幸せとかいう実感が欠如しているガラクタみたいな男だ。けどこんなふわふわと熱をもった気持ちがそれなんだと今感じたんだ。
オバマ、サイコーだ。
お前はサイコーの男だ。
いつも人のことをハゲ呼ばわりするがサイコーだ。
実際にハゲ散らかしてることはサイコーではないが、お前はサイコーなんだ。
僕は君になにか応えてあげただろうか?なにかと闘っただろうか?もっと何かしてやれたんじゃないだろうか?
さして盛り上がりの薄いその中でも、僕は天井の低いライブ会場で拳を高く一人突き上げ続けたんだ。
演奏が終わって。
低いステージを降りて一番にこっちに来てくれた。
「オバマ最高だった」
そう言うと、
彼はいつもの様子で大きな声で笑うと、すぐに着替えて彼女の方に駆けて行った。
国の未来も君達の未来も自分自身の未来もこの先どうなるかなんて僕にはわからないんだ。
わからないことだらけだから僕らはどっかで繋がる必要があるんだ。