新栄の大通り沿いにあるパーキングに車を停めて僕とバイトは歩き出した。まだ空は暗くなる前。行きの車内でビールとつまみを食った19歳のバイトが僕の横で機嫌良さそうに顔を紅潮させている。

細い路地裏の先には飲み屋の提灯と風俗のネオンサイン。


そしてライブハウス、クラブロックンロール。


均衡に見方によっては無茶苦茶に張られたフライヤーがライブハウスの壁一面に張られ。その狭い入り口には「○×大学卒業ライブ」なんて書かれてる。


大学もバイトも無事卒業して4月から社会人になるバンドマンのO君のラストステージをバイトの皆で見に行こくことは前から決まってたんだけど、僕らの中も色々あって結局こうして当日ライブに来れたのはこの2人ってわけだ。

僕とバイトは向かいのタバコ屋で両替ついでにガムとタバコを買って、ほろ酔いのバイトは、

「どっかで大麻買えませんかね?」

なんてタバコを吹かして言った。

にっぽんの未来は、せっかいがうらやむ♪

僕は歌ってその言葉を煙にまいた。


国の未来も君達の未来もこの先どうなるかなんて僕にはわからないんだ。


ライブハウスの前で時間を潰していると、ライブハウスからO君が出て来た。

「久しぶり」

「オバマ氏、緊張してる?」

苗字が似てるってこととインテリゆえに、僕は彼を新しいアメリカの大統領と引っ掛けてそう呼んでいる。

無駄に偏差値の高い大学に在籍してやはり頭も良いのにうちの店の安時給で働いてくれてるナイスガイ風なキ○ガイそれが彼だ。

挨拶をして、さして面白みのない会話を交わしてライブまでの時間を潰した。


彼はいつもの様子で大きな声で笑っている。


2月の夕暮れは早く、辺りが急に暗くなりライブの時間も近づいて来てでたらめなネオンサインがチラつくライブハウスに僕らは光に群がる羽虫のように飲み込まれたんだ。


中は大学の卒業ライブだけに大学生だらけで、酷く居心地が悪かった。

まるで卒業式の2次会にでもいるような浮ついた感じ。


ブラックライトにいくつものまっさらなリクルートスーツがうっすらと輝いている。

僕は、

「嗚呼、歳喰ったなぁ」

なんて思うんだ。

きっとここで音楽が奏でられようが奏でられまいがきっと盛り上がるのだろう。

学生自体はきっと盛り上がることが目的なのだ。

その手段としてのライブなのだ。


僕は自分の時の短大の卒業式なんて思い出していた。

僕は卒業式の2次会の実行委員をやっていて、当時ソコソコ気になっていた英文科の女の子と実行委員だったんだ。しかしあまりにも物事が上手く行かないやるせなさと自己嫌悪と緊張を紛らわす為に飲めないビールを大量に煽って、
池下の厚生年金会館の分厚い絨毯の上でまるでマーライオンのようにハデにビールを吐き散らかしたっけ。

その後僕らは4大に編入したんだけど、そっからは疎遠だった。


1つ目のバンドが演奏を始める。

邦楽のカヴァーバンドでサンボマスターみたいな顔でヴィジュアル系の曲をやっている。

こういった学生のライブを見るとプロの演奏がいかにスゴいかということが素人ながらよくわかるよね。

それでも学生は無理矢理に盛り上がってる感じで踊っているんだ。

夏場の蝉が鳴くように学生とはそういった生き物なんだ。

早々に浪人を決めた学生と大学院生の演奏する誰かさんの曲はチャージで貰ったソフトドリンクのように味気のないものだった。


次に出てきたのがオバマのバンドだ。


低いステージでチューニングに余念のない彼は服を着替えていた。


着ていたTシャツは彼が一度店を辞める時に贈ったもので、
僕が大学の時に買ったオバマと共通の好きなバンドWEEZERのTシャツでサイズはSだ。
それに思いつきで僕とバイトのシロとで寄せ書きをしたんだよ。
少し汚れて黄ばんだそれに子供が書いた落書きみたいな寄せ書きを、僕は「どこかに捨てておくれよ」なんて言って渡したんだ。

身長が180cm近いガタイが良い彼がサイズSのそれを着るともうそれはピチピチで、もう明らかに乳首とか立ってて。その上なんか半ズボンで、そんなちょっと陽気な不審者みたいな様の頭の良い彼がそれこそ体を激しく踊らせて、うがーっと、ドラムを弾いて演奏は始まったんだ。

演奏したのはWeezerの「Tired of Sex」だ。

WEEZERの中でも一番評価の低いセカンドアルバムのリードトラック。

歌詞が色々問題だが、それをこの場で選ぶセンスに僕はたまらなく嬉しな気持ちになったんだ。

やはり洋楽にあんまピンと来ないのか客の盛り上がりはイマイチだ。

空転するパーティーには持って来いじゃないか。

2曲目も3曲目も彼はピチピチのそのTシャツでドラムを懸命に叩いたんだ。

君の新しい彼女が小奇麗で柔らかそうな素材のコートを着ながら見つめているのにだ。


正直、演奏はボロボロで、プロが出すような体の底からわきあがるような興奮するようなもんではなかったんだ。


僕はいつからか楽しいとか幸せとかいう実感が欠如しているガラクタみたいな男だ。けどこんなふわふわと熱をもった気持ちがそれなんだと今感じたんだ。


オバマ、サイコーだ。

お前はサイコーの男だ。

いつも人のことをハゲ呼ばわりするがサイコーだ。

実際にハゲ散らかしてることはサイコーではないが、お前はサイコーなんだ。


僕は君になにか応えてあげただろうか?なにかと闘っただろうか?もっと何かしてやれたんじゃないだろうか?


さして盛り上がりの薄いその中でも、僕は天井の低いライブ会場で拳を高く一人突き上げ続けたんだ。


演奏が終わって。

低いステージを降りて一番にこっちに来てくれた。

「オバマ最高だった」

そう言うと、

彼はいつもの様子で大きな声で笑うと、すぐに着替えて彼女の方に駆けて行った。



国の未来も君達の未来も自分自身の未来もこの先どうなるかなんて僕にはわからないんだ。

わからないことだらけだから僕らはどっかで繋がる必要があるんだ。

一年前の話。



暗闇の中で光を照らして道を示してくれるような存在があんたにはあっただろうか?



そんな「友人」って言葉が軽く感じるような存在に出会うことが人生の醍醐味みたいなとこってあるよな。



しかし、そんな出会いって大人になればなるほどなくなってるような気はしないかい?



今日は、僕がこの店で出合った恩人との別れの日になった。




いい人は居なくなってからわかるってのは本当のこと。





これは別に不幸話ではなくどっちかというと当人にとっては良い方向の話しだけど、必ずしも当人の望む最善といかないのが人生ってものかもしれない・・・。





本屋。



いつものように社員のK君と開店作業をしてると・・・



会社の偉い人、GM(ゼネラルマネージャー)が顔を出す。



自分と大体同い年だが、その年収にはもうどうしようもないくらいに開きのあるお方なのだが・・・



その人が急に来たと思ったら、社員のK君を呼んで向かいの喫茶店へ消えていく・・・。





まぁー、うちの店長が病気で休職をしてるんで、そのことで打ち合わせなんだろう。



28歳フリーターのどうしようもない頭でも容易に想像できる話だった・・・





そういえば店長が休みだして今日で丁度1週間くらい経っただろうか?


休みに入る前の日に電話で、



「96da、留守を頼んだぞ!」



言われ、



「わかってます、はやく帰って来てくださいよ・・・」



なんて軽い調子で返したっけ。


それから、1度も連絡はないっけ?



なんだかんだ店長には世話になってる。


―――そういえば、うちの店に赴任した時に最初に話したことは、


「俺、29歳からこの店入ったから96daもこれからだよ!」


って、年齢を気にしていた俺に声をかけてくれたんだ。


その何ヶ月後には契約社員の話をいただいて、俺は断ったんだけど、


「どこに行っても通用するように鍛えてやるっ!」


って、誰よりも気にかけてもらったことをふと思い出した―――




そうだ、あの日から人が居ないのに店の模様変えとかで、僕もこの1週間は時間だけなら大体社員と同じくらい働いてたりしてるな・・・



体にこびりつくような疲れと眠気はそのせい。





そんなことを思い出してると、2人が帰って来てGMが帰る時に俺に、



「苦しい時期だけど、店をお願いします・・・」



なんて柄になく頭を下げたんで、俺も軽くテンパって何度も頭を下げたんだけどね・・・。



GMが帰って、



「変なの・・」



とか思っていると、



社員のK君から、





「店長もう店に帰って来ないらしい・・・」



と聞かされて、僕の頭は真っ白になったんだ・・・。


社員から詳しく話しを聞くと、


ストレス性の病気らしく。

恐らく今後現場に立つのは無理のようで、

もう店長として店に立つことはなく恐らく本部配属になるのだろう。


そりゃ、毎週通院してたし。

苦しそうにしてたところを見たこともあるしね。



結果的に当人にとっては体を配慮されての移動みたいにも思うし・・・
よかったんじゃないかと思うところもある・・・

ただ、自分が店を辞めるタイミングってのも、


「大体店長が交代するときがタイミングいいんじゃねーかなー?」


なんて、前の人達がそうだったように自分もそうしようなんて漠然と思っていた節があり、


突然の話に頭が追いつかなくって、途方に暮れた。


春は目の前まで来てるってのに、その日は朝から雨降りで。


いつもと同じ間に合わせの毎日がきょうは酷くどうしよもなく感じたんだ。


いつもそうだ。

大事なもんはいるあいだに大事にしろってね。

僕らは誰もが別れることが定められたストレンジャーでもあるのだから。

出会うななんて言わない、出会いの分だけ人の人生は厚くなるもんだぜ。

ただね、一緒に働いてるときにどんだけ学べただろうかってね?

もっと近くにいるうちに聞いときゃよかったよ。


そんな色々な思いを馳せて店内を回った。


「いらっしゃいませ!」

なんて、

あんま元気良くいうような店じゃないけど店長は違ったんだぜ。

雨の降る店内で店長がそうするようにやってみたけど自分が出した声が歪んだように震えてやめた。


一息ついたころに雨は止んで、

店には卒業式か始業式帰りの親子連れのお客さんが大量に買い物に入って来た。

商品をレジに持ってきた、胸元に桜の花みたいなコサージュをつけたピカピカの笑顔の少女に、

はじまりもおわりも同じようなものだから。


おめでとう


って、声をかけたくて仕方なかった。




おやすみって言うのは さよならを言うのと同じ。


大好きなバンドが解散した時のような喪失感を抱きながら、雨の中バイクを飛ばして帰った。

「96さんなに焦ってんですか?」

そんな事を随分と年下のバイトから言われても自分自身で焦っているという感覚なんてわかるものなのだろうか?

ただでさえ要領が悪くて溺れるように生きてるってゆうのにさ。

ただ、僕はイライラすると爪を噛むクセがあって確かに指はボロボロになってるんだけど。

今日も僕は狭い通路の店内をシャカリキに走り回っている。


先週末。


僕の異動先は決まり。その施設のオープン日も4月と決まっているのにいつからそこで仕事をするのかはまだ決まっていない。

そのくせ、僕の代わりの人材が店に来る日取りは着々と進められていて週末の晴れた日に代わりの人はやってきて店長と談笑なんかしちゃってんだ。

僕はボインの客に気をとられたフリをしたんだけど、なんだかんだで人を見るときって胸を見るような気がするよねって今なんの話をしてたんだっけ?

そうそうアレだ。

代わりの人は来たってのに、僕の予定は未定なわけで。

なんか1人取り残されたような気がする最中、

店長が「店頭を卒業シーズンに向けて作り変えてくれ」なんていうから、

僕はその日徹夜をして売り場を変えることに決めたんだ。




朝。



まぁ、


最終的になんか売り場は全体的にモコモコと仕上がり。とてつもなく残念な出来になった。


どうやら僕はやっぱり焦っていたようで。

計画やら構想がチグハグで。

朝焼けの浮かぶ空の下、顔は油でテカテカになりながら僕は意識が朦朧としてて。大抵の人はこの時間は眠りについてて。どっかのカップルは夜明けのコーヒーなんかを酌み交わし、お前なんかは不安で夜眠れなくてエロビデオなんか見て・・・

上手に泳げない魚の方が僕は好きで。


なんか泣きたくなったんだ。


けどなんか泣けなかったんだけど、

それkら数時間後に出勤して来た店長に残念な感じになった売り場のことで散々こき下ろされて三十路間近にして泣かされたんだけどね。


そうそう。

勢いでどうにかなる素晴らしい時期は過ぎた。

素晴らしかったか?

なんて思うと、そうでもなかったんじゃねーかって思えるけれど。

それはそれでこれはこれなんだろう。

なんにしても情けなくてもみみちくってもね。それでも人生は止めない限り続くってこと。


今日も僕は狭い通路の店内をシャカリキに走り回っている。


溺れそうになっても、もがくようになんかを掻き分けているときが一番愉快だったりするんだぜ。


君にはまだわからないかもしれないけれど。



最後の日には店内で「On With The Show」と「Regret」を流したいと思ったから発注しといた。