その夜、トーマスはカーク・ローナンの港での仕事を終えてファーカー駅にいた。郵便を運んできたトラックから彼の牽く郵便貨車に積み荷が積み込まれている間、彼はずっとソワソワして落ち着かない様子だった。
「トップハム・ハット卿は本当にこの支線をニールに譲るつもりなのかなあ。僕もあれから支線に戻してもらえないし。」

 トーマスはため息をついた。

「だがディーンも言っていただろう。仮にそうだとしてもニールが役に立つ機関車だと認めるのが大切だし、この支線に君の居場所があるって。」

「そうだね……そうだったね。」
 機関士の言葉にトーマスはそう答えたものの、笑顔は弱々しかった。

「それにお前がニールに支線の走り方を上手に教えられれば、トップハム・ハット卿は君が役に立つ機関車だとみなおしてこの支線に戻してくれるかも知れないぞ。」

 機関士が付け加えたが、トーマスは聞いていなかった。
 トーマスはニールを待ったが、待てど暮らせど彼が現れる気配は一向になかった。出発時間を過ぎても姿を現さない彼にトーマスはだんだんとやきもきし始めた。

「遅いなあ、ニールの奴一体どれだけ待たせるんだ?」

「郵便列車をこれ以上遅れさせる訳にもいかないし、ニールをほったらかしにさせる訳にもいかないしなあ。」
 機関士が頭を悩ませる一方で、トーマスは近くの機関庫にパーシーがいるのを見つけた。

「パーシー、悪いけど今夜郵便列車を牽いてくれない?」

「ええ、今日は君とニールで牽いてくれるって話を聞かされてたんだけど?それに僕、君の分まで支線の仕事をしているから疲れているんだよ……。」
 叩き起こされた文句を言うパーシーはトーマスの返事が返ってこないのに気づいて、両目を開けた。

「……トーマス?どこなの?」

 パーシーはトーマスの探すを探したが、その頃にはトーマスはそこからいなくなっていた。

「トーマス、どこに行くんだ?」

「ニールを探しに行くんだ。心配で居ても立っても居られないよ。」

 機関士に聞かれたそう言いながらトーマスは夜の暗闇の中を走り続けた。まず彼が探しに向かったのはカーク・ローナンの港だ。ここが1番心当たりがある。ところがそこにはニールの姿は無かった。仕事も終わって、見張りをしているディーン達の他に機関車達の姿は見当たらない。

「おやトーマス。今日の夜は支線でニールと一緒にはたらいく予定だったんじゃないのかい?彼からそう聞いていたけど?」

 近づいてきたトーマスに気づいてディーンが言った。
「ところが、それどころじゃなくなったんだよ。ニールが姿を現さなくて、もしかしたらここにいるんじゃないかと思って探しに来たんだ。」

 トーマスが切羽詰まった様子で伝える。

「何だって、ニールがいなくなった?そいつは一大事だ!レスキューセンターに連絡して助けを求めた方が良いんじゃないか?」と、ディーン。
「彼ならクリスといるのを見たよ。」

 ジャニスが落ち着いた素振りで答えた。

「どこで?」

「2人とも今はここにいないよ。ブレンダムの港じゃないかな。見張りの時間になったらクリスがブレンダムの港に用事があるとか言って勝手に行っちゃったからさ。何の用事かは聞いてないけどね。単にサボりたいだけだと思うけど。」
 それを聞いたトーマスは少し嫌な予感がした。彼はディーンとジャニスが呼び止めるのも聞かずにカーク・ローナンの港を飛び出して行った。

 ブレンダムの港の船着き場ではクリスがニールと一緒にいた。

「それで……トップハム・ハット卿はどこだ?大事な仕事は?」

「彼は忙しいからな。まあ、楽しみに待ってろって。」

 そう言うクリスは遠くから近づいてくるフェリーを見ながら、フェリーが到着するのを落ち着かない様子で待っていた。

 トーマスはブレンダムの港に滑り込んだ。港は静まり返っており、動いている機関車も人もいなかった。トーマスはすぐに港の奥にある機関庫に向かった。

「ソルティー!ポーター!」

「な、何だ!?」

「トーマス、こんな夜中に一体どうしたの?」

「クリスとニールを探しているんだ!彼らを見なかったかい?」
「知らないよ。僕らはメインランド行きのフェリーが着いたら貨車を乗せないといけないんだから。それまでゆっくり休ませてくれよ。」

 ポーターが眠たげに言った。その時、船着き場の方からフェリーの低い汽笛が聞こえてきた。

「フェリー!?」

 トーマスは急いで船着き場の方へ駆け出した。

 船着き場ではフェリーが到着したところで、レールとフェリーのタラップがゆっくりと降りて岸と繋がっていた。

「さあニール、大事な仕事だぞ。その貨車をフェリーに乗せるんだ。」

「何だ、それだけか。よし、僕に任せておけ。」

 ニールが長い貨車の列をフェリーまで押し込んでいくのを見てクリスは彼の後ろに回り込んだ。
「クリス、そこで何してるんだ!逃げてニール、何を企んでるか知らないけどクリスは君を罠に嵌めようとしているよ!」

「な、何だって?おい、それって……つまりどういう意味なんだクリス?」

 トーマスに見つかったクリスは悔しそうに顔を歪めたが、すぐに計画を実行に移した。
「気づかれたか……良いからフェリーに乗れよ!」

 そう言うや否やクリスはニールに向かって突進した。

「やめろ!」

 クリスに追いついたトーマスは彼に体当たりして別の線路まで吹っ飛ばした。

「急いでニール、そこから出て逃げるんだ!」
「一体どういう事だ!何が起きてるんだ!?」

 ニールは訳が分からないままフェリーから出た。ニールに線路を譲ってフェリーから降ろす事ができたトーマスはホッと胸を撫で下ろしたが、それも束の間、クリスが後ろ向きのまま戻って来てトーマスに体当たりして吹っ飛ばした。
「さっさとしろニール!」

 クリスは再びニールの後ろに回り込み、フェリーに乗せようと押し始めた。

「い、嫌だ。やめてくれ。」

 ニールはブレーキをかけて必死に踏ん張ったが、力はクリスの方が強かった。

「逃げるんだニール!前に向かって進んで!」
 トーマスに言われるがままニールは前に走り始めた。

「ポイント!」

 トーマスの声で船着き場の手前にあるポイントが切り替わり、ニールはフェリーに乗る直前別の線路に引き込まれて港の奥に走っていった。その後をクリスが追いかけ始め、それを止めようとトーマスも走り始めた。
「何がしたいんだクリス!」

「お前にはフェリーに乗ってメインランドまで行ってもらうのさ。お前を追い出しさえすりゃ俺の立場や居場所が危ぶまれる事はないからなあ!」

 逃げるニールを追いながらクリスは得々と自分の計画を披露した。
「そんな事させない!」

 クリスに追いついて隣に並んだトーマスは目の前に止まっている貨車の列を見つけた。トーマスは貨車の列を押しだして、クリスの行く手を塞いだ。慌ててブレーキをかけたクリスは間に合わず、貨車に突っ込んだが貨車をなぎ倒して強引に突破して追走を続けた。トーマスもその後を急いで追いかける。
 クリスはニールの真後ろに迫っていた。

「待て!止まれ!車輪のついた箱め!」

「止まれって言われて止まる機関車がいるもんか!」

 追いかけながら罵声を浴びせるクリスに、逃げながらニールが言い返した。ニールの後姿が目前になってクリスが捕まえようとした時、トーマスが叫んだ。

「ポイント!」
 ニールとクリスの目の前のポイントが次々と切り替わり、次から次へと切り替わるポイントにクリスは翻弄された。前を走るニールも右の線路から左の線路へ、左の線路から右の線路へと普通に走る事ができないでいたが、そのおかげで何とかクリスに捕まえられずに済んだ。
「邪魔ばっかりしやがって!」

 クリスはトーマスを睨んで叫んだ。そのうちクリスはニールと離れ離れになり、トーマスからも遠ざかっていった。

「良かった。今のうちに港から出よう!僕についてきて!」
 ニールを連れて港の奥から出口へ向かうトーマスの目の前に石が積まれた貨車の列が現れた。その後ろではクリスが意地悪く笑っている。

「お返しだ!」

 急停車したトーマスは何とか貨車にぶつからなかったが、逃げ道を塞がれてしまった。

「こっちに行こう、早く!」

 トーマスはニールと逃げ道に繋がる線路を探しに向かった。
「ウロチョロ逃げ回りやがって!じっとしてろ!」

 煙をまき散らしながら港の中をうろつくトーマスとニールの後ろに再びクリスが現れた。

「うわっ、こっちに来た!」

「二手に分かれよう。君はこっちの線路から行くんだ。ここから港の外に出られるはずだよ!僕は囮になってクリスを引き付ける!」
「ありがとう。気をつけてね、トーマス。」

 心配してくれるニールを安心させるようにトーマスは微笑みかけた。

「ほら、クリス!こっちだ、こっち!僕の事を捕まえてごらんよ!」

 クリスは怒り狂ってトーマスに矛先を切り替え、後ろ向きで逃げ出したトーマスを追いかけ始める。
「脱線させてやる!」

 クリスはトーマスに何度も体当たりしてきた。トーマスも負けじと線路にしがみつく。しつこく続いた追いかけっこだったがそれも終わりを迎えた。クリスに体当たりされたトーマスは船着き場の方まで吹っ飛ばされた。悪い事にフェリーが出港したので、線路の先は海になっている。
「しまった!」

「ここが終着点だ。よくも散々邪魔してくれたな。このまま海に突き落としてやる!」

 怒りに震えるクリスはトーマスに狙いを定めている。ふと、トーマスはクリスの手前に隣の線路に移れるポイントがある事に気づいた。彼は一か八かの大勝負に出た。
「よし、行くぞおおおおっ!」

 トーマスは大声を上げて勢いよくクリスに向かって突進し始めた!

「やる気か!」

 クリスもトーマスに向かって突進していく。2台の間にあるポイントがどんどん迫って来る。クリスより先にポイントで隣の線路に移らなければ、彼に吹っ飛ばされて海に真っ逆さまだ!2台は先にポイントを通過しようと懸命にピストンと車輪を動かして全速力で突進していく。

「ポイント!」

 トーマスがポイントを通過するや否や叫んだ。その瞬間クリスが車体を擦れる距離を掠めて通り過ぎていった。

「うおおおおっ!?」

 トーマスに衝突をかわされたクリスは勢い余ってそのまま海に向かって突っ走っていく。クリスはブレーキをかけ、必死で線路にしがみついたが勢いづいたまま滑っていき、止まった時には前輪が線路から外れて車体の半分が海の上でゆらゆらと揺れていた。

「た、助けてくれ!」

 クリスが思わず助けを求めた。

「クリス!」

 その光景を見たトーマスはギョッとした。
「僕に任せろ!」

 声がしたかと思うと、何とニールがすっ飛んできてクリスの後ろで止まった。彼の機関士がクリスの連結器に救援用の長い鎖をひっかけ、それをニールの連結にも繋げた。

「よし、引っ張れ!」

 ニールの機関士の掛け声でニールは後ろに力強く引き始めた。ところが、ニールの力ではクリスを引き上げられない。ニールの車輪はその場で空回りするだけだ。

「は、早く引き上げてくれ!このままじゃ海に落ちちまうぞ!」

 クリスが悲鳴を上げる。

「待ってろ、今助ける!」

 不意にニールの車輪が滑り、クリスの車体が海側にぐらついた。
「ニール!クリス!もう少しの辛抱だ、踏ん張って!」

 顔を赤くして力を込めていたニールが目を開けて振り返ると、向きを変えたトーマスが助けに駆けつけたのが見えた。

「頑張ったねニール。さあ一緒にクリスを線路に戻そう!1、2の3!」

 トーマスとニールは煙を上げ、必死に車輪を回転させてクリスを引き上げ始めた。そして遂にクリスを安全なところまで引き上げる事に成功したのだ。

「あははははっ!やったぞ!」

 クリスは助けてもらった事も忘れて大はしゃぎしていると、トーマスが咳払いして注意を引き付けた。

「クリス、何か言う事は?」

「あ、その……ありがとよ。」

「それから?」

 トーマスが何か言いたげに片眉を上げる。
「お前の事を騙してフェリーに乗せようとしたり、追いかけまわしたりして悪かった。それとトーマスも。お前の事を海に突き落とそうとした事も謝るよ。」

 クリスがバツの悪そうな表情を浮かべて謝った。

「でもどうしてこんな事をしようと?」

 トーマスが尋ねると、クリスは白状した。
「ニールがこの港に来てから役に立つ仕事ぶりを見せて感心されているのを見て、俺がまた必要にされなくなるんじゃないかと思ったんだ。丁度トップハム・ハット卿から罰を受けたばかりの時だったからな。」

「そんなこと気にしなくてもトップハム・ハット卿は君をお払い箱にしたりしないさ。」

 ニールが微笑みかけた。
「本当か?」

「ああ、本当だよ。だってトップハム・ハット卿は長い事操車場で置き去りにされていた君を修理してまたこの鉄道で働かせてくれたんだろう?それは君を役に立つ機関車だと見込んだからそうしたんだ。そんな機関車をすぐに必要ないと考えるわけがないだろう!」

 ニールの言葉にトーマスも頷く。
「それにねクリス。この鉄道で働く機関車達はどんな機関車でもどこかで誰かに必要とされているんだよ。必要にされていない機関車なんていないんだ。」

 トーマスの言葉にクリスは小さく笑みを浮かべた。
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 カーク・ローナン港の工事は終わりが見え始めていた。トーマス達は早くカーク・ローナン港が再開できるように懸命に働いた。

 ニールもクリスもトーマスに負けない程の役に立つ仕事ぶりを見せた。クリスとの間で起こったいざこざの件はトーマスとニール、クリス以外誰も知らなかったので3台だけの秘密にすることにした。
 その分、クリスはトーマスとニールに迷惑をかけたお詫びにと彼らに代わって使わなくなったからの貨車を運ぶような簡単な仕事も引き受けるようにした。重要な仕事と言うにはほど遠い仕事だったが、彼は不満を言う事もなく仕事を熟していった。トーマスとニールが資材を運ぶ重要な仕事をしていても邪魔をすることはない。

 やがて、トーマス達の頑張りでカーク・ローナンの港が再開する事となった。港の剥き出しだった地面は綺麗に舗装され、立派な倉庫やタワークレーンがいくつも立ち並んでいる。港の再開を祝うセレモニーには工事に携わった機関車達や作業車、それから作業員達が呼ばれた。
「凄く立派な港じゃないか!」

 セレモニーに参加したディーンが港を見渡して言った。

「僕達やったんだね!こんなに大きな港を僕らの力で再開させたんだ!」

 ジャニスもはしゃいでいる。
 港を1周したレール点検車のウィンストンが停車して、トップハム・ハット卿が降りて来た。

「カーク・ローナンの港の工事に関わってくれた諸君。君達の働きで今日、寂れていたカーク・ローナン港が新しく生まれ変わった。では、ここにカーク・ローナン港の再開を宣言する!」
 トップハム・ハット卿がテープを切ると、そこにいた機関車や作業車、作業員達は皆、歓声を上げた。

「さて、これだけ大きな港だ。カーク・ローナン港で働く専属の機関車が1台必要になるな。」

 その一言で集まった機関車達に緊張した固い表情が浮かび上がった。
「トーマスはどうですか。彼なら俺よりもこの港で役に立つ仕事をしてくれると思いますよ。」

 クリスが切り出した。

「僕も彼の考えに賛成です。トーマスは僕らを再び役に立つ機関車にしてくれました。」

「そうそう。いろんなことを教えてくれたんです。彼こそ役に立つ機関車だ。」

 ディーンとジャニスも賛成した。
「ふむ、トーマス。君はどうだね?引き受けてくれるかい?それともこの港で働くのは嫌かね?」

「あなたからの頼みなら僕は引き受けます。でも1つお願いがあるんです。ニールを僕の支線で働かせてあげてください。彼なら僕に負けない程役に立つ仕事をしてくれますし、安心して支線を任せられます。」
 その言葉を聞いてトップハム・ハット卿は暫く考えてから口を開いた。

「そうか。君や君の仲間がそう言うなら考えを変えないといかんかも知れんな。私の考えでは君を支線に戻して、ニールをこの港で働かせるつもりだったのだが。」
「……トーマスは彼の支線に必要だと思います。僕がこの港で働くので、どうか彼を支線に戻してやってくれませんか。」

 話を聞いていて、それまで黙っていたニールが言った。
「私も君の意見に賛成だよ。トーマスはあの支線に無くてはならない存在だ。君さえよければ喜んでトーマスを支線に戻して、君をここで働かせよう。」

「もちろんです!」

「よし、ではこれで決まりだ。君はトーマスに負けない程の仕事ぶりを見せてくれる役に立つ機関車だ。期待しているよ。」

「はい、一生懸命働きます!」
「よしよし、ではトーマス。君をそろそろ支線に戻してあげよう。」

「え、い、良いんですか?」

「もちろんだとも。君はこの港で十分に働いてくれた。クリス達の事も役に立つ機関車にしてくれたし、正真正銘役に立つ機関車に戻った君はあの支線に必要な存在だ。それにパーシーの為にも早く戻ってあげた方が良い。」
「ありがとうございます!」

「もしこの港に手伝いが必要になったら、喜んで君を歓迎するからね。」

 ニールはそう言ってトーマスを見送った。

 トーマスを見届けると、トップハム・ハット卿はクリス達の方に振り返った。
「君達もだ。ここ数日の働きを見て私は君達3台ともエドワードの支線に見合う働きができる機関車だと認める事ができたよ。君達にはこれからエドワードの支線にあるウェルズワースの大きな操車場で働いてもらう。」

「イェーイ!」

 ディーンとジャニスが大喜びする中、クリスは信じられないと言った表情だった。
「本当ですか?あんな大惨事を引き起こしたのに?」

「クリス、トーマスだって失敗をしたが名誉挽回した。君だってそうだ。誰にだってやり直すチャンスは何度でもあるんだよ。」

 トップハム・ハット卿が優しく言うと、クリスも笑顔になってディーン達についてエドワードの支線を目指して走り出した。

 ファーカー駅ではパーシーが重い石が積まれた沢山の貨車を何台も繋げて引っ張っていた。

 トーマスがカーク・ローナン港に行っている間、パーシー1人では大変なのでニールが仕事を手伝ってくれた日もあったので仕事は捗っていたが、彼がカーク・ローナン港に戻る事になったのでまた1人で支線の仕事をする事になった。
「早く……この貨車を……ブレンダムの港に……持って……行かなくちゃ。」

 そこへ聞き覚えのある汽笛が聞こえてきた。

「トーマス?」

 パーシーの目の前に青いボディを朝日に煌めかせて懐かしい友人が帰って来たのだ。
「運ぶの手伝おうか?」

 しばらくの沈黙の後、トーマスが言った。

「うん。お願いするよ。」

 パーシーは素直にお願いした。

 トーマスとパーシーは重連してブレンダムの港に向けて重たい列車を牽き始めた。その間2台の間に会話はなかったが、やがてパーシーが口を開いた。

「手伝ってくれてありがとう。僕、間違ってたよ。君無しであの支線を動かせると思ったのが間違いだったんだ。やっぱりあの支線には君が必要だね。」
「いや、謝るのは君のじゃないよ。謝らなきゃいけないのは僕だ。僕が自分が誰よりも必要にされてるだなんて自惚れてたから……。この鉄道には不要な存在なんてないんだよパーシー。皆が必要な存在だ。」
 この鉄道には不要な存在なんて存在しない。誰もが誰かに必要とされる存在だ。例え失敗してもやり直すチャンスがある。トーマスはカーク・ローナン港の工事の間に起きた事をを振り返りながら心の中でそう呟いて、親友のパーシーと一緒に走っていくのだった。
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 それから何日かして。高山鉄道の機関車達がブルーマウンテンの採石場で働いていると、汽笛を響かせて誰かがやって来た。

「おや、トーマスが来たみたいだぞ。予定より少し早いな。」と、サー・ハンデル。

「トーマスだけじゃない他の機関車の汽笛がもう1つ聞こえてきたぞ。」

 ピーター・サムが眉をひそめた。
「もしかしたらこの間見つけたって言うエドワードの支線の古い機関車じゃないかな。」

 ラスティーがワクワクして言う。

 山道を登って採石場に来たのはトーマスだ。彼と列車の間にはニールがいて一緒に列車を牽いている。

「あれ、サムソンじゃない。いや……でもサムソンとは少し違うな。」

 ラスティーが怪訝そうに言う。
 3台のやり取りを聞いた駆け寄ってきたスカーロイとレニアスはニールの姿を見て、顔を輝かせ満面の笑みを見せた。

「ニール!ニールじゃないか!」

「もうずっと長いこと会っていなかったけど、元気にしてたんだね。」
「ああ、長い間忘れ去られていたところをトーマスに見つけられて、修理してもらったんだ。君達も元気そうで何よりだ。」

 ニールも嬉しそうに微笑む。

「へえ、君達は知り合いだったんだね。」

「ああ、ニールとは僕らが島に来た時に知り合ったんだよ。」

 驚くトーマスにレニアスが答えた。
「それにしても古い時代の機関車の割には新車みたいだね。」

 スカーロイがニヤニヤしながらニールをからかった。

「君達も年の割には若造みたいじゃないか。まあ、僕ら蒸気機関車は生涯現役さ。」

 古い1台のタンク機関車は2台の小さな機関車達は久しぶりの再会に、笑い声を上げて喜ぶのだった。
 

~完~

 

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