ブルーマウンテン採石場では、高山鉄道の機関車達が今日も忙しい日を迎えていた。その日機関車達は落ち着かず、そわそわしていた。早く仕事を終わらせて機関庫に戻りたかったのだ。何といっても今日はハロウィーンだ。
 彼らは機関庫でお互いに怖い話を披露するのが楽しみで仕方なかった。だが1人だけ、違った意味でそわそわしている機関車がいた。ルークだ。彼はハロウィンの怖い話が楽しみでそわそわしているのではなく、ハロウィーンで何だか不気味に感じる採石場から離れたくて落ち着かず、そわそわしていたのだ。
 そんなルークをからかいたくて、うずうずしているのがダンカンだ。彼は故障したレニアスの代わりに採石場を手伝いに来ていた。
「おいルーク、お前が気に入っているあのトンネルから呻き声が聞こえるぞ。いつも1人であのトンネルで寝てるけど、今夜はお化けも一緒だから寂しくないなあ?」
「ルークは今日も機関庫で寝るぞ。僕らと一緒にね。」スカーロイが口を挟んだ。
「へっ、ハロウィーンの怖い話を聞いてられるのかよ。」ダンカンが鼻を鳴らして馬鹿にすると、今度はピーター・サムがルークを庇った。
「それは君も同じじゃないかいダンカン。満月の夜に鉄橋を渡る機関車の幽霊の話も聞いてられない癖に。」それを聞いたダンカンはムッとして、去って行った。
「アイツの事はほっとけよ、本当に幽霊を見たらどうせ怖がるに決まってる。」話をラスティーがルークに囁きかけると、サー・ハンデルも言った。
「鉄橋で幽霊を見た時の様にね。」彼が昔の話をすると、その事を知ってる仲間達はクスクスと笑った。
 
 ピーター・サム達から自分の昔の話を蒸し返され、ダンカンは暫くルークをからかうのをやめたが、それでもお昼を過ぎた頃にはまたさっきと同じようにからかい始めた。
 ルークもその日1日中ずっとびくびくしていた。見慣れた景色の採石場だが、岩陰に恐ろしいお化けや怪物が潜んでいそうで、怖くて仕方なかった。
 ルークは石やスレートを積んだ貨車を牽いてトンネルに入っていった。ルークはトンネルに慣れているので普段なら怖いと感じる事も無いのだが、その日はトンネルですら不気味に感じれた。
「お化けが出なけりゃ良いけど……。」そう呟いたルークのバッファーがカチャンと音を立てて、何かにぶつかった。
「ん?何だこりゃ。何か線路を塞いでるみたいだぞ……。」と、恐ろしい顔がルークの前に現れて、気味の悪い声をあげた。「
お化け~!」
「で、出たあああああっっっ!」ルークはその顔を見るなり、後ろ向きで一目散に逃げだした。
 ルークはそれがライトで自分の顔を下から照らしたダンカンだとは気づかなかったのだ。逃げ出したルークを見てダンカンは意地悪く笑った。
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「よーし、今日の仕事はここまで!皆機関庫に帰ろう!」夕方になり、スカーロイが大声で仲間達に言った。
「機関庫でハロウィーンの怖い話が聞けるぞ!でもルーク、お前は怖い話を聞く勇気ができるまで、1人で夜の採石場にいた方が良いんじゃないか?」ダンカンは馬鹿にすると、笑いながら走り去った。
「気にしない気にしない。君は怖い話が苦手かもしれないけど、崖から落ちそうになったトーマスを助けた事があるんだ。それはダンカンや怖い話に怖がらない事よりも勇敢な事かも知れないよ。」ラスティーが励ました。
 
 やがて夜になり、クロバンズゲートの機関庫に機関車達が集まった。
「それじゃあ誰から披露してもらおうか。」スカーロイが尋ねると、サー・ハンデルとピーター・サムは顔を見合わせてニヤリとした。
「おじいちゃんポッポから話してよ。」と、ピーター・サムが言うとサー・ハンデルも頷いた。
「ああ、そうだ。それが良い。」
「ワシがか?何の話が良い?」
「そうだなあ、スマージャの話なんてどうだい?」
「ああ、あの話なら皆きっと震え上がるぞ。」
 ピーター・サムとサー・ハンデルがせがんだ。
「それじゃあスマージャの幽霊の話をしてやろう。」そう言ってデュークは語り始めた。
「昔々、スマージャと言う鼻持ちならない奴がいた。奴は脱線ばかりして何の役にも立たなかったから支配人に発電機にされおった。だが発電機にされた後も問題ばかりで奴はとうとう鉱山のポンプにされたんだよ。ところがある時。鉱山が崩れて奴は生き埋めになった。それからだよ、奴の幽霊が出るようになったのは。」
 デュークは仲間達の顔を見渡しながら話を続けた。
「車輪を外されてから奴はもう1度線路に戻る事が諦められなかったんだろう。それから奴は他の機関車の車輪を奪い、そいつと入れ替わろうとして、霧の中で車輪を奪える機関車を探して彷徨っとる……。」
 デュークの話を聞き終えた機関車達は皆静まり返っていた。
「おやダンカン、君の方から煙突が震える音が聞こえるぞ?まさか怖いんじゃないのかい?」ピーター・サムが尋ねた。
「ま、まさか!きっとルークだろ!」ダンカンが声を震わせないように絞りだした。
「それならダンカン、君が怖がってないって事を証明する為に今から廃鉱に行って来てそこで一晩過ごしてきなよ。今夜は霧が出てるし、会えるかもしれないよ?スマージャの幽霊にさ……。」ピーター・サムが提案するとダンカンは強がって答えた。
「そ、それぐらい余裕さ!い、いいだろう。行ってきてやるよ!」
 勇んで出発するダンカンを見て、機関車達はニヤニヤした。ダンカンが怖がっていないふりをしているという事を知っていたのだ。
 
「はあ~。とんでもない事になっちまったなあ……。」ダンカンは溜息をつきながら夜の闇の中を走っていた。
 仲間達がいる手前、怖がっていないように見せていたが本当は怖くて仕方なかった。
 廃鉱に行くまでには谷の線路を走らなければならない。谷底を走っていたダンカンだが、ふと立ち止まった。
「どうしたんだダンカン。怖くなったのかい?」
「そ、そんなんじゃないさ。けどオイラ以外に機関車の走ってる音が聞こえるんだよ。」機関士に聞かれたダンカンが顔を青ざめて言った。
「そんなまさか。この谷には今俺達しかいないはずなんだから。こんな夜中にこんな寂しい谷に来る奴がいたら、よっぽどの物好きなんだろうな。」怯えるダンカンに機関士は笑って言った。
 再び走り出したダンカンはすぐに冷や汗をかきはじめた。
「や、やっぱり誰かオイラ達以外にもいるぞ!」ダンカンはそう叫ぶや否や全速力で逃げ出した。
 機関士と助手はそれがダンカンの走る音が谷に反響しているだけだと分かっていたが、ダンカンはそれに気がついていなかった。
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 いつもの倍のスピードを出して走ったせいで息を切らしながらも、ダンカンは何とか廃鉱に辿り着いた。
「や、やっと着いたぜ……。」ダンカンは息を整えて、辺りを見渡した。
 廃鉱は昼間でも不気味に見えたが、それに比べて夜の廃鉱はさらに不気味さが増していた。不気味な廃鉱にいると、風に揺れる木の枝も、フクロウの鳴き声や羽ばたきも、風で軋む機械の音も、何もかもが恐ろしく感じれた。
「お、おい機関士。もう帰ろうぜ。」
「朝まで戻らないんじゃなかったのかい。まだ炭鉱に着いたばかりだぞ?」機関士はそう言って相手にしなかった。
 機関士がランタンを照らした瞬間、ダンカンが叫んだ。
「ゆ、幽霊機関車だ!」
 振り返った機関士と助手は振り返ると呆れて言った。
「何言ってるんだ。ただランタンの明かりでお前の影が建物に映ってるだけじゃないか。」
「怖がりだなあ。」
 ダンカンはむっとして言い返した。
「驚かそうと思っただけさ。」
 次の瞬間、ダンカンはハッとした。
「な、なあ。今何か聞こえなかったか?」
 ダンカンにそう言われ機関士と助手は耳を澄ました。
「またお前の走ってる音が辺りに響いてるだけなんじゃないか?」
 助手が言うと、ダンカンがすかさず反論した。
「馬鹿言え、オイラは今走ってないじゃないか!」
「それどころか俺には何も聞こえないぞ?お前の気のせいじゃないか?」機関士が言った。
「いやいや、本当に聞こえるんだ!アレは機関車の走る音だ……間違いねえ!」ふと、ダンカンはあるものを見つけた。
 それは霧の中に見える小さな機関車の影だった。それだけなら何も怖い事は無かったが、恐ろしい事にその機関車には車輪が無かったのだ。
「ありゃあ……ありゃあ……ありゃスマージャの幽霊だ!お、お願いだ機関士!早くここから出してくれ~!」機関士が乗り込むや否や、ダンカンは猛スピードで廃鉱から走りだした。
 
「幽霊だああああっ!幽霊だああああっ!スマージャの幽霊が出たんだああああっっっ!」
 ダンカンはそう叫びながら機関庫目指して全速力で突っ走った。後ろを振り返ると、スマージャの幽霊がダンカンを追いかけてきていた!
「く、来るな!あっち行けえええっっ!」ダンカンは悲鳴を上げた。
 前方の踏切ではテレンスが小麦粉を積んだ荷車を牽いて踏切を横断していたが、スマージャの幽霊から逃げるのに必死だったダンカンはそれに気づくのが遅れてしまい、荷車を吹っ飛ばしてしまった。ひっくり返った荷車から小麦粉が煙の様に立ち上る。
 
 機関庫ではまだ機関車達が怖い話を披露しあって楽しんでいた。スカーロイの怖い話が丁度終わった時、彼は何か悲鳴のようなものを耳にした。
「誰か悲鳴を上げなかったか?そんなに怖かったかい?」
「誰も悲鳴なんか上げなかったよ?」と、ルーク。
 機関車達が静まり返ると、今度ははっきりと悲鳴が聞こえた。
「あの悲鳴は……。」
「ダンカンじゃないか?」
 ラスティーとピーター・サムが顔を見合わせた。
「もう戻って来たのか。」サー・ハンデルがくすくす笑った。
 霧の中、猛スピードで突っ込んでくるダンカンを見てデュークが叫んだ。
「スピードを落とせダンカン!給水タンクに突っ込むぞ!」
 ダンカンは霧の中から目の前に現れた給水タンクを見てギョッとしたが、次の瞬間車止めを突き破って給水タンクに突っ込んでいた。
「一体どうしたんだ。スマージャの幽霊でも見たような顔をして。」デュークが聞くと、ダンカンは震えながら答えた。
「そ、そうなんだよ!オイラ、廃鉱でスマージャの幽霊に見つかってここまで逃げてきたんだ!奴は機関庫に向かってきてる!きっとオイラの車輪を奪うつもりなんだ!誰かオイラを線路に戻してくれ!」
「み、見て!霧の向こうから誰か来るよ!やっぱりダンカンの言う通りスマージャの幽霊が来たんじゃ……。」ルークは震える声で言うと、機関庫に潜り込んだ。
「追いつかれた!もうダメだ!おしまいだあああっ!」ダンカンは叫んで目をギューッと閉じた。
 霧の中から現れた真っ白な機関車を見て機関車達はハッとした。だが次の瞬間、ダンカンがぶつかった衝撃で不安定になっていた給水タンクが倒れ、その機関車にタンクの水が降り注ぎ、正体が分かって機関車達は笑い転げた。
「ダンカン、ルーク。怖がることないよ。スマージャの幽霊の正体は君達も良く知ってる奴だよ。」スカーロイが笑いながら言った。
 彼に言われ、恐る恐る機関庫から出てきたルークと目を開けたダンカンは幽霊機関車の正体を目にした。ダンカンの隣にはずぶ濡れになったレニアスが不満そうな顔をして立っていた。
「え?でも?は?そんな……どういう事だよ?」スマージャの幽霊の正体がレニアスと分かってホッとしたが、ダンカンは混乱していた。
「オイラはスマージャの幽霊に追いかけられてたんじゃ……。」
「スマージャ?何を訳の分からない事言ってるんだい。僕は整備工場で修理が終わったから機関庫に戻ってるところだったんだ。その途中で君が悲鳴を上げながら心配して追いかけてたんだよ。でも君が荷車を吹っ飛ばしたせいで辺りに散らばった小麦粉が僕にも降りかかったんだ。おまけに水も被ってベトベトだよ。」
「でも……車輪が見えなかったのは?」
「それは多分、この霧で車輪が見えなかったんだろう。」納得のいかないダンカンにデュークが説明した。
「なんだ。スマージャの幽霊じゃなかったんだね。」ルークが安心すると、機関車達はまた笑いだした。
 スマージャの幽霊に怯えるところを見られたダンカンを除いて。
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 次の朝からダンカンはからかわれっぱなしだった。
「スマージャの幽霊には気をつけろよ。」
「車輪を取られちゃうぞ。」
 ピーター・サムとサー・ハンデルが冷やかした。
「ふん、幽霊なんている訳ないだろ。」ダンカンが鼻を鳴らすと、今度はラスティーがからかった。
「でも君は幽霊を見たんだろ?スマージャの幽霊をさ。」
 ダンカンは返す言葉が無かった。自分が怖がりだと知られてしまっては、ルークをからかう事も出来なかった。
 仲間達にからかわれているダンカンをスカーロイと洗車を終えて戻って来たレニアスが見ていた。
「君のおかげでダンカンにお灸をすえる事が出来たよ。でもレニアス、昨日は修理を終えてから夜遅くに廃鉱へ何しに行ってたんだい?君はダンカンが廃鉱に行く事を知らなかっただろう?」
「廃鉱?僕は廃鉱なんて行ってないぞ?僕は修理を終えてまっすぐ機関庫に向かってたけど?」
「え……でもダンカンは廃鉱でスマージャの幽霊を見たって……。」怪訝そうな顔をしてレニアスが答えると、スカーロイの顔は青ざめた。
 その様子を見慣れない小さな緑色のタンク機関車が物陰から、じっと眺めていた事にはそこにいた誰1人として、気がつかなかった。
 
●あとがき
 今回は「ハロウィン」がテーマなので去年のハロウィンに投稿を予定していたのですが、予定がだいぶ遅れて投稿がハロウィンに間に合わず季節外れな時期に投稿する形となりました。今日が3月31日なので丁度4ヵ月遅れですね(笑)
 ホラーな話にする為にハロウィンをテーマにしていますが、何気に高山鉄道でハロウィンがテーマの話って無いような気がしますよね。ホラーな話はあるけど。公式がハロウィンな高山鉄道のエピソードを公開する前に投稿出来て良かったと思います(笑)
 台詞は一切ありませんが、トーマスの中で特にお気に入りのキャラ「スマージャ」を登場させました。スマージャは死亡したキャラクターなので本編に出す事は難しいけど、幽霊として出す事なら可能じゃないかと思いこの話を書きました。20シーズン以上あるトーマスシリーズの中でたったの1話、台詞も笑い声込みで2つほど、登場シーンもちょっとしかないけど俺は見た目や声や性格からこのキャラがとにかく昔から好きでした(笑)
 当初はルークの役割をピーター・サムに、ダンカンの役割をサー・ハンデルにしても良いかななんて考えていましたが、ピーター・サムはS9「まほうのランプ」でスカーロイの昔話を信じないという非現実的な話は信じていないような一面を見せていたので、幽霊の話では怖がらないんじゃないかと思い(S5「まんげつのよるのできごと」でダンカンに脅かされるシーンがありますが、特に怖がっている素振りもなかったし)、サー・ハンデルは過去にピーター・サムと一緒にデュークからスマージャの話を聞かされてるので、聞かされる話の内容は違えどそんなに怖がらないんじゃないかなと言う理由で没に。代わりにスマージャの話を知っている彼らを「ダンカンを怖がらせる計画を思いつく」役割に回しました(因みに海外のマガジンストーリーだとダンカンもデュークからスマージャの話を聞かされています)。
 ルークは高山鉄道の仲間の中でも若いし、メンタルも弱そうなので幽霊の存在も信じて怖がりそうだから今回の役割を与えました。
 今回は少し不思議なお話になっていると思いますので、疑問点なんかがあれば答えられる限りコメントで回答させていただきます。
 
 さて次回はS2最終回三部作となっています。告知でも紹介していないストーリーとなっていますので、どんなストーリーになるのか楽しみにして待っててください(笑)
 投稿がだいぶ遅れるかも知れませんのでご了承ください。では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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