今からずっと昔、まだパーシーがソドー鉄道に来て間もない頃の話だ。ナップフォード駅の構内で入れ替え作業の仕事をしているパーシーはナップフォード駅にやって来る本線の大きな機関車達にいつも馬鹿にされていた。と言うのも、この前パーシーは「戻れの信号」でゴードンとジェームスに騙され、それからずっとその事を話題にされていたのだ。
「ようチビのパーシー、信号の見方は分かったか?」と、ジェームス。
「腕木が上がった信号は『進め』って意味で、『戻れ』って意味じゃないんだぞ~。」
 ゴードンとジェームスからパーシーの失敗の話を聞いたヘンリーも彼を馬鹿にした。
「嫌になっちゃうなあ。前に信号の事で騙されてから皆して僕を馬鹿にするんだから。今に見てろ……!」
 そうは言ったが、パーシーはどうすれば良いのか分からなかった。おまけに最近は仕事が多くて、1日が終わる頃には彼は考え事をする力も残っていなかった。
「頑張れよパーシー。もう少ししたらトップハムハット卿が君の為に手伝いの大きな機関車を寄越すと言ってるらしいからさ。」機関士が彼のボディを優しく叩きながら労った。
 
 そんなある日の朝、ゴードンとジェームスはイライラしていた。客車を用意するはずのパーシーがいつまで経っても駅に現れないのだ。「おい、パーシーはまだか。アイツは客車を運んでくるはずなのに……。」
「きっとまだ暖かい機関庫と仲良くしてるのさ。寝坊助さんだからな。」と、ジェームス。
 そこへ、ようやくパーシーが姿を現した。
「大変だ、寝坊しちゃった。寝坊しちゃった。」せかせかとやって来るパーシーをゴードン達が急かした。
「ほら急げ。さっさと客車を用意しろ。」
「そんなに急かすなよ。僕の仕事はきついんだからさ。」
「馬鹿らしい、君程度の仕事程度なら誰にだってできるさ。」パーシーがゴードンに反論すると、ジェームスがゴードンの肩を持った。
「そんなに言うなら客車ぐらい自分で用意したらどうだい?」
 急行客車を押して用意しているパーシーは言い争いに夢中で自分の行き先の線路をよく見ていなかった。そのせいで彼は赤信号に気づかなかった。さらに悪い事が起きた。
「パーシー、前を見るんだ!赤信号だよ!」エドワードが叫んだ。
「えっ、何だって!?しまった!」
 パーシーは反対側からヘンリーが貨物列車を牽いてやって来ているのを見てギョッとした。パーシーは急いでブレーキをかけたので止まれたが、客車は突放されてそのままポイントに乗り上げ、次々とぶつかり合い、脱線してしまった。脱線した客車はヘンリーの線路を塞ぎ、信号は全て赤信号に切り替わった。
「パーシー!」ゴードンの怒鳴り声が駅に響き渡った。
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 間もなくエドワードがジュディとジェロームを連れてきて、ゴードンの客車を線路に戻し始めた。ゴードンが仕事をする事のできない間、ジェームスとヘンリーが彼の代わりに列車を牽く事になったので、ゴードンは不満だった。
「急行列車専用じゃないアイツらが俺の代わりに急行を牽くだなんて……。」
 騒ぎを聞きつけたトップハムハット卿が駆けつけたのを見ると、パーシーはすぐに謝った。
「ごめんなさい。こんな大変な事になっちゃって……。」
 パーシーが疲れていた事を知っていたトップハムハット卿は彼に優しく言った。
「不注意による事故はいかんが、原因は仕事の疲れでもある。これからはもっと周りに注意を払って走るように。ここの仕事は大変だろうから、君には暫くトーマスの支線を手伝いに行ってもらおうと思う。トーマス達がナップフォードに新しい港の建設に行っているからな。支線の仕事ならここより楽だろう。」
「はい、ありがとうございます……。」
「そんな!パーシーが支線に行ったら俺達の入れ替え作業はどうなるんです?」ゴードンが叫んだ。
「前に何度も言ったと思うが、もう1度言っておこう。大きな機関車でも入れ替え作業はするもんだ。それが嫌なら、また機関庫にいるかね?」ゴードンは何も言えなかった。
「まあ1週間後、新しい機関車が手伝いに来る。それまでの辛抱だ。」それだけ言い残し、トップハムハット卿は帰っていった。
 
 夜。機関庫ではゴードンとヘンリーとジェームスがいつもの様にパーシーを馬鹿にしていた。だが、いつもと違って「戻れの信号」が話題ではない。今日の事故についての事だった。
「『戻れの信号』の次は赤信号で問題を起こすとは。」と、ジェームス。
「君は『進めの信号』の意味を知らないだけじゃなくて、『止まれの信号』の意味も知らなかったんだな。」と、ヘンリー。
「まあ、明日から支線に行くんだ。信号の意味が分からない機関車がいなくなるおかげで俺達も安心して本線を走れるって訳だ。支線で問題を起こさなきゃ良いがな。問題を起こせばまたこっちに戻って来る事になったらまた俺達はチビの機関車に振り回されるぞ。」と、ゴードン。3台の大きな機関車は馬鹿笑いした。
「気にするなよ。大きな機関車達はいつもああなんだから。彼らは小さな僕らを見下してるけど、僕らがいなきゃ入れ替え作業もできないんだから明日が君がいなくなるときっと困るに決まってる。それより明日からアニーとクララベルの面倒を宜しくね。」落ち込むパーシーを見て、トーマスが励ました。
「ああ、ゴードン達の事なんか全然気にしてないよ。僕、全然気にしてないから……。アニーとクララベルの事は任せてよ……。」パーシーは努めて明るく言い、ゴードン達の言う事など気にしていない素振りを見せた。だが本当は度重なる失敗と、それを馬鹿にされる事で傷ついていた。
 
 翌日からパーシーはトーマスの支線を走る事になった。大きな機関車達に馬鹿にされる事も無くなり、パーシーの心は晴れ渡っていた。彼らは顔見知りだったし、アニーとクララベルは優しかったので、彼らは歌を歌いながら楽しく支線で働いていた。
 それでも走っている最中に信号に出くわすと、パーシーの頭に嫌な事が甦ってきた。だが優しいアニーとクララベルがすかさずパーシーに信号の見方を教える。
「落ち着いてパーシー。」
「腕木が横を向いているのは『止まれ』って意味の信号よ。」
 パーシーは彼女達にに感謝したが、内心何だか馬鹿にされているようにも感じた。
(『止まれ』の信号の見方ぐらい知ってるさ。)パーシーは心の中でコッソリ呟いた。
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 トーマスの支線の終点にあるファーカー駅に来るとパーシーはそこでナップフォード駅に引き返す準備をする為、向きを変えて列車の前に行こうとした。
 向きを変えて列車の先頭に行こうとした時、彼は側線である奇妙なものを見つけた。それは錆びついて蔦に覆われた古い小さな機関車だった。
「君は誰?」
「私が誰だって?私の話を聞いた事が無いのかい?」
「えーっと……ごめんね、聞いた事ないよ。」
「それならコーヒーポット機関車の事も?」
「コーヒーポット?」パーシーが自分の事を知らないと知って、その機関車は少しがっかりしたように言った。
「私はの名前はグリン。この支線でずっと昔から働いていたんだ。君やトーマスが来るずっと前からね。」
「初めましてグリン。僕は……。」
「パーシー。パーシーだろ?知ってるよ。」
「え?どうして知ってるの?僕達初めて会ったよね?透明になって僕の事見てたの?」
「ははは、私はトーマスがこの支線に来る前にこの支線の仕事を引退してね。それからずっとこの側線にいて、君達の事を見てたんだよ。」自分の名前を知っているのを聞いて驚くパーシーを見て、グリンは楽しそうに笑いながら答えた。
「君はトーマスの友達だろう?私も彼の友達なんだ。友達同士、仲良くやろう。」
「うん、宜しく……。」
「私は友達がいると言ってもここにずっと1人でいる事が多いんだ。少し私の話し相手になってくれないかな?」
「良いけど……それじゃあ、君はどうしてコーヒーポット機関車って呼ばれてるの?」パーシーの質問にグリンは少し笑った。
「私のボイラーが縦型になっていて、それがコーヒーを淹れるポットに似ているから皆、私をそう呼ぶらしいよ。あだ名と言うのは実に面白いものだね。」
「それじゃあ……どうして支線の仕事を引退したの?」
「小さな車体とブレーキの性能が良くないと言われてね。時々急勾配で暴走する事もあって、列車も満足に牽けなかったからトーマスのような新しい機関車が来て、彼に支線の仕事を全て任せるようになったんだ。それで私はお役御免。それからずっとここにいる。」
「何か失敗して、罰としてこの側線に捨てられたわけじゃないんだね。」パーシーはホッとして呟いたが、その言葉にグリンは素っ頓狂な声を上げた。
「失敗?罰?捨てられる?おいおいパーシー、君は何を言ってるんだ?トップハムハット卿がそんな事するはずないだろう。」それからパーシーを見てグリンは察した。
「パーシー、何か失敗したのかい?失敗したら私みたいになるって誰かに事を吹き込まれたのかい?」
「そんな事は言ってなかったけど……この前失敗してからずっとゴードン達に馬鹿にされてるんだ……。」それを聞いてグリンは鼻を鳴らした。
「あの生意気な若造共か!彼らは新入りにまだそんな事を言ってるんだな!」
「ゴードン達の事を知ってるの?」
「もちろん知ってるとも。彼らはトーマスが来る前からソドー島で働いていてね。その頃は私も働いていたから彼らと顔見知りだったんだが、彼らはその時から新入りに余計な事を言う生意気な若造だったんだよ。」ふと、グリンはある事を思いつき、パーシーにそれを話した。
「パーシー、失敗は誰でもするものなんだよ。ゴードン達だってそうさ。」
「ゴードン達も?」
「そうとも。良かったらその時の事を話してあげようか?」
「ぜひ聞きたいよ!」
「それならもっと近くに寄っておいで、これから話すのはずーっと昔の事だ。」パーシーにせがまれると、グリンは優しく微笑んで語り始めた。
「その昔、ジェームスが客車を引っ張っていた時の事。ジェームスはエドワードに客車をぶつけないように注意を受けていたのに、彼の言った事を忘れて客車をガチャンガチャンと乱暴にぶつけて走っていた。それが原因で、彼は客車のブレーキパイプに穴をあけてしまって、走れなくなってしまったんだ。」
「それでどうしたの?」パーシーに聞かれたグリンは必死に笑いを堪えながら答えた。
「新聞紙と乗客が持っていた革の靴紐でブレーキパイプを修理したんだよ!」グリンが堪えきれなくなり、遂に笑い出してしまうとパーシーも思わず吹き出して一緒に笑ってしまった。
「仲間達は彼の事を馬鹿にしてね。特にゴードンが彼の事を馬鹿にしてたなあ。そんな彼もある失敗をするんだがね。」
「どんな失敗なの?」
「ゴードンがジェームスを靴紐の事で馬鹿にしていたある日、ゴードンはいつもの様に急行を牽きに行った。」グリンが話し始めた。
「彼はジェームスの失敗の事があって、自分は失敗なんてしないと自惚れてたんだな。ところがその日、信号手が間違えてポイントを本線から環状線に切り替えたんだ。そのせいでゴードンは環状線をぐるーっと回って大きな駅に戻って来てね。皆大笑いさ。」それを聞いてパーシーも笑い声を上げた。
「あの2人がそんな失敗をしてたなんてね。」
「そうとも。だからパーシー、1つや2つぐらいの失敗、気にすることは無いよ。誰に何と言われようとね。また次に頑張れば良いんだ。」グリンが励ますと、パーシーは彼の言う事に黙って頷いた。
「それからもし今度あの2人が君の失敗をからかってきたら……。」グリンが耳打ちすると、パーシーはいたずらっ子っぽく、笑顔を浮かべた。
「分かったよグリン!」
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 翌朝もゴードン達は機関庫で出発の準備をしている間にパーシーに信号の事で馬鹿にしてきた。
「昨日は支線に行ってたようだが、信号を間違えなかったりしなかっただろうな?うん?」と、ゴードン。
「また信号の意味を理解しないで、失敗したんじゃないの?」と、ジェームス。
「それより、僕が昨日聞いた面白い失敗の話をしていいかな?」パーシーの言葉にその場にいた機関車達は皆キョトンとした。
「面白い失敗って?どんな話なの?」エドワードが尋ねると、パーシーはニヤリとした。
「ブレーキパイプを壊して靴紐に助けられた機関車のお話とそれを馬鹿にしてたら間違って環状線に入った機関車のお話さ。」パーシーがくすくす笑うと、ゴードンとジェームスは顔を真っ赤にさせた。
「お……っと。俺様、駅に行かないと。お客を待たせてるんだ。おいエドワード、さっさと客車の用意をしてくれよ。」
「い、いや、今日は僕が行くよゴードン。今すぐ用意するよ。すぐ行くよ!」
そう言うってそそくさと出て行くゴードンとジェームスを見てトーマスとエドワードとパーシーは顔を見合わせてお互いに楽しそうに笑いあった。その日からゴードンとジェームスはぱたりとパーシーの失敗の事を話さなくなった。
 
●あとがき
 グリンも結構好きなキャラクターなんですけど、そう言えば前シーズンでグリンの登場させてなかったっけなと思い、メインキャラとして登場させました。
 このお話は今から5年前、原作出版70周年を記念した長編作品「トーマスのはじめて物語(以下TAB)」を見た時から考案していました。当時グリンと今回名前だけ登場したクレーン車のジュディとジェロームはファンサービスとして登場、今後の登場予定は無いと聞き、ジュディとジェローム含めこんなキャラクターを一発屋で終わらせるのはもったいないなと思い、今後グリンが短編に進出するならトーマス達の先輩として、何かアドバイスを送るエピソードになるんじゃないか、またパーシーが今回の主役になっているのはTABが発売された当時「75周年記念で続編となる原作リメイク作品を制作するかもしれない」と言う噂があり、その作品で来島したてのパーシーが登場するなら鉄道の新入りとして不安や緊張を取り除く役割としてグリンがパーシーを励ましたり、彼に助言する役割で再登場するんじゃないか
と、妄想しまくって書き上げました(因みに今年は原作出版75周年ですが、今現在TABの続編制作・公開の情報は一切出ておりません)。
 しかしグリンがS20で再登場した事により、この話は公式とは矛盾する形となってしまいました(グリン好きなんで再登場は嬉しかったんですけどね笑)。お蔵入り、もしくは公式に合わせてS20のその後の時間軸でこの話を書きなおそうかなんて考えていたんですが、お気に入りのエピソードだし自分なりによく書けていると思うのでお蔵入りは勿体ない、S20のその後の時間軸にして書き換えるとなると自分としては何か納得がいかない。なので公式と多少矛盾する点はあるけど、パーシーが来島した時代まで遡った過去の話として書こうと決めました。その為今回のエピソードは公式で言うところのS1~S2辺りの話となっていて、当時登場していた1~6、アニーとクララベル+グリン、ジュディとジェロームのみを登場させています。
 また今回は過去ネタを多く取り入れており、パーシーが急行客車を脱線させるシーンは「探せ!!謎の海賊船と失われた宝物」が元ネタとなっており、またパーシーとゴードンとジェームスの過去の失敗はそれぞれS2「パーシーとしんごう」、S1「ジェームスのうれしいひ」「ジェームスのあやまち」の事を指しています。パーシー来島前のヘンリーの失敗も探したんですが、事故や体調不良は多くても偶然による事故ばかりで彼自身による失敗などは無かったのでヘンリーの失敗については触れませんでした。グリンはTABでエドワードやゴードン、ジェームスが彼の存在を認知していた事もあるので、ゴードンやジェームスの失敗についても知っているという設定にしてあります。
 今回は過去ネタも多いし、我ながら面白い話が書けたんじゃないかと思っています。と言う訳でここから次回予告。次回はビクターが主役。前シーズンでケビンがソドー整備工場を滅茶苦茶にした経緯から彼1人で留守番させることを不安に思ったビクターは・・・・・・。
 
では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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