機関車達にはそれぞれの仕事に合った特徴がある。急行を牽く仕事をしているゴードンは速いスピードが出るように造られているし、貨物用のテンダー機関車のマードックは沢山の貨車を運べるように造られている。
 クロバンズゲートにある小さな修理工場で働くウェンデルは力自慢のディーゼルだった。彼は元々メインランドで働いていて、その時には客車も貨車も牽いて走っていたのだが、今の彼の仕事は修理工場の構内で入れ替え作業をしたり、故障した機関車を修理工場まで連れてくる事だった。力自慢の彼はそれが不満だった。
「僕は客車も貨車も牽く事ができる力持ちのディーゼルだ。それなのに小さな機関車でもできるような入れ替え作業や車両輸送ばかりさせられるなんて宝の持ち腐れじゃないか。」
「あまり力自慢ばかりしていると僕みたいに故障するぞ。」修理に来ていたサムソンがくすくす笑いながら言った。
 彼は前にスミスと力比べをして長くて重たい貨物列車を無理して牽いたため故障してしまい、ここにいるのだ。周りの機関車達はウェンデルの悩みを笑いの種にしていたので、それもウェンデルにとっての悩みの1つだった。
 
 ウェンデルは時々ソドー整備工場に行って、修理に必要な部品を受け取ってそれを修理工場に運ぶ事があった。その為ソドー整備工場で働く工場用機関車のビクターとは顔見知りだった。
「やあビクター、部品を取りに来たんだけど。」
「ああウェンデル。今準備させてるんだ。ケビン、何してるんだ。早くウェンデルの貨車に部品を積み終えるんだ。」
「了解ですボス!うわあ!」
「ケッビ~ン!」
「ねえビクター。ビクターは工場の仕事に飽きたりしないのかい?工場の外の景色を見たいとは思わないの?」
「うーん、思わないなあ。ここが俺の仕事場だし、工場には恩もある。それに工場の人は俺がいないと困るだろうし、ケビンの面倒も俺が見なきゃいけないだろう?」
「君はこの工場に思い入れがあるからそう思うけど、僕はメインランドにいた時の様にいろんな列車を牽いてまた本線をすっ飛ばしてみたいなあ。」
「だがお前さんの工場の整備員もお前さんがいなきゃ困るだろうに。」そう言われてもウェンデルの気持ちは晴れなかった。
________________________________________________________
 
 ある日、ウェンデルが修理工場に修理に来ていたジェームスの為に部品を積んだ貨車を牽いて帰って来ると、エドワードがスタンリーに連れられて修理工場に来たところだった。工場にはウィンストンに乗ったトップハムハット卿もいて、エドワードが故障した事で頭を悩ませていたようだった。
「うーむ、困ったな。エドワードには今日の午後にメインランドに運ぶ大事な貨物列車を牽かせる予定だったんだが……。本線の機関車達は自分の仕事があって、手が空いてないし……。」「ネビルやビリーはどうですか?」エドワードが提案すると、トップハムハット卿は首を横に振った。
「彼らはメインランドから借りてきた機関車でね。今はもう貸出期間が終わってメインランドに帰っているんだよ。」それを聞いたウェンデルはすかさず名乗りを上げようとしたが、その前にトップハムハット卿が口を開いた。
「こうなったらジェームス、君に行ってもらうしか他無いな。」
「その仕事お任せください!僕なら修理も終わって準備万端ですよ!」ジェームスはメインランドに行けるとなって大喜びだった。
「宜しい。それからウェンデル、君にもエドワードの代わりの仕事を頼みたい。」
 修理工場の仕事以外の仕事を任せてもらえると知ったウェンデルは有頂天になった。
「はい、どんな仕事でしょうか?」
「君にはエドワードがいない間、彼の駅の構内でフィリップを手伝って入れ替え作業をしてくれたまえ。君は入れ替えのプロだからな。」
「しょ、承知しました……。」
 ウェンデルの返事を聞いたトップハムハット卿はウィンストンに乗って帰っていった。
 任せられた仕事の内容を聞いてウェンデルは落ち込んでしまった。そんな彼をジェームスは馬鹿にした。
「薄汚いディーゼルは、薄汚い駅の構内で、薄汚い貨車の入れ替え作業をしてればいいのさ!」
 そう吐き捨てて、ジェームスは意気揚々と工場を出て行った。可哀想なウェンデルは何も言い返す事が出来なかった。
 
 ウェルズワース駅の構内で1人せっせと入れ替え作業をしていたフィリップはウェンデルが構内にやって来たのを見ると、大喜びで彼の傍に駆け寄った。
「手伝いに来てくれてありがとう。僕ちゃん1人じゃ手が足りないからね。僕ちゃんに手が無いけど。」フィリップが笑いながら言った。
「僕も手が無いから手は貸せないけど、バッファーなら貸せるよ。」ウェンデルも笑って答えた。
 いつもとは違う場所でディーゼル機関車の仲間と働けるし、明るいフィリップと一緒にいるおかげでウェンデルもだんだんと気分が晴れてきた。
 だが、メインランドに向かう途中のジェームスがやって来て、またウェンデルを馬鹿にした。
「おやおや、何で本線を走るような大きな機関車が入れ換え作業をしてるんだ?よく見れば修理工場にいるはずのウェンデルじゃないか。工場に戻らなくて良いのかい?」
 ウェンデルが言い返せずに黙り込んでいるとフィリップが庇った。
「確かに可笑しな話だよね。本線を走るはずのウェンデルが構内で入れ替え作業して、入れ替え作業をするような中型機関車の君が本線を走ってるんだもん。役割を入れ替えた方が良いんじゃないの?」フィリップに言われ、ジェームスは顔を真っ赤にした。
「僕は入れ替え作業だけじゃなくて、列車を牽く事だってできる力持ちの機関車なんだ。ウェンデルみたいな入れ換えしかできないディーゼルと違ってね!それに仕事の指示を出すのはトップハムハット卿だ。君じゃなくてね。僕はメインランドに行くように言われてるんだ!」 
 ジェームスは鼻息荒く駅を出て行った。ジェームスが行ってしまうとフィリップが励ました。
「気にしないでウェンデル。ジェームスはいつもあんな事ばっかり言ってるんだ。それに彼は入れ替えも列車を牽く事もできるって言ってたけど、それは本線を走る事も入れ替え作業もできる君だって同じじゃないか。」
「ああフィリップ。でも僕はソドー島に来てから何年も列車を牽く仕事を任されてないんだ。また列車を牽いて本線を走ってみたいよ。」「もしそう思うんなら、自分の夢が叶うように強く祈るんだ。そうすればいつか叶うよ。きっとね。」フィリップはそう言って仕事に戻った。
________________________________________________________
 
 ジェームスはビカーズタウン橋を渡って、意気揚々とメインランドを走っていた。
「あ~、今日はなんて最高な日なんだろう!トーマスに仕事を横取りされる事も無かったし。そうだ、帰りにあの工場のディーゼルに僕がメインランドから貨物列車を牽いてきたところを見せつけてやろう!」ジェームスは楽しそうに言った。
 ジェームスがブリドリントン貨物操車場にやって来ると、作業員が出迎えた。
「君がソドー島の機関車だな?君の貨物列車の用意はできてるよ。」作業員の合図で操車場のディーゼル機関車が貨物列車を繋げたが、彼は不安そうな顔をした。
「君みたいな小さなテンダー機関車にこの長さの貨物列車は牽けないんじゃないか?もっと大きな機関車に頼んだ方が良いだろ。」「失礼な。僕は入れ替え作業だけじゃなくて列車も牽けるんだ。それに小さいけどヘンリーと同じテンダー機関車に変わりは無いんだ。だからこれぐらい牽く力ぐらいありますよ~だ。」
 
 貨物列車を牽きながらジェームスは再びビカーズタウン橋を渡って、ソドー島に戻って来た。
「これぐらいの貨物列車、なんてことないさ。馬鹿なディーゼル機関車どもめ。」ジェームスは呟いた。
 後ろではいたずら貨車達が悪戯を仕掛けようと企んでいるとは知らずに。
 
 マロン駅を通り過ぎ、ゴードンの丘を目前が迫った時、ジェームスは段々列車が重たくなってきているように感じた。
「やあジェームス、君の貨車達ブレーキをかけてるみたいだぞ。」すれ違いざまにコナーが教えた。
「何だって?おい、ちょっと真面目に走ってくれよ!」
「俺達は充分真面目に走ってるぜ~。」貨車達はせせら笑うだけだった。
 ジェームスはゴードンの丘を登り始めたが、貨車達がブレーキをかけているせいで丘を登り切るのに充分なスピードが出ていなかった。「このまま……じゃ……丘を……越えられ……ない……!」
 そしてとうとうジェームスは丘の中腹で立ち往生してしまった。
「ダメだ、完全に止まっちまった。後押しの機関車を呼ばなきゃ。」ジェームスの機関士が言うと、ジェームスは叫んだ。
「そんなあ~!」
 ジェームスの助手が電話で助けを呼びに行っている間、ジェームスはむっつりして待っているしかなかった。
 
 ウェンデルとフィリップがウェルズワース駅の構内で入れ替え作業をしていると、駅長がやって来た。
「ジェームスの奴が丘の向こうで立ち往生したらしい。助けに行ってくれ。」
「行って来なよウェンデル。君の実力をジェームスや皆に見せつけるチャンスだ!」フィリップが言った。
「それもそうだね。君がそう言ってくれるなら行ってくるよ。」ウェンデルは意気込むと警笛を鳴らして、ジェームスを助けに向かった。
 
 ジェームスが助けが来るのを待っていると、反対側から助けに来た機関車の姿が見えた。
「あーあ、よりによってウェンデルか。」
 ジェームスは自分の醜態を今1番見てもらいたくない機関車が助けに来た事で顔を曇らせた。
ウェンデルはジェームスの前で止まると、彼を引っ張り上げる為に連結した。
「この前サムソンが言ってた通りだね。力自慢ばかりしてると彼みたいに故障するって。」
 ジェームスはどんな顔をしてウェンデルの目を見れば良いのか、分からなかった。
出発の準備が整うとウェンデルはエンジンをゴロゴロ唸らせ、後ろ向きのままジェームスを引っ張って、楽々と丘を登り始めた。この丘を登る事は機関車達にとって重労働な事だが、ウェンデルにとっては簡単だった。
 彼はあっという間に頂上へ上りつめ、丘を下り、ウェルズワース駅まで戻って来た。
「さあ、ここからは自分で行けるだろう?」ウェンデルに聞かれても、ジェームスは彼は顔を真っ赤にさせて、俯いたまま何も言わなかった。
「君って入れ替え作業しかできないと思ってたけど、列車も牽けるんだね。」フィリップがわざとらしく大きな声で言うと、ウェンデルもクスクス笑って答えた。
「まあね。僕はメインランドじゃ力自慢の機関車だったから。」ジェームスは恥ずかしくて、逃げるようにその場を立ち去った。
________________________________________________________
 
 夕方。ウェンデルとフィリップが駅の構内で休んでいると、修理を終えたエドワードがトップハムハット卿を乗せて戻って来た。トップハムハット卿はエドワードの機関室から顔を覗かせ、笑顔でウェンデルに話しかけた。
「聞いたぞウェンデル。今日は大活躍だったそうじゃないか。」
「あれぐらいどうって事ないですよ。」トップハムハット卿に褒められ、ウェンデルは謙遜した。
「そこで私と修理工場の工場長の考えで君にご褒美を与える事にした。これから人手不足の時には君にも本線の仕事を手伝ってもらおうと思う!」
「本当ですか!それは願ったり叶ったりです!」ウェンデルは満面の笑みを浮かべた。
 
 それから数日の間、ウェンデルは人手不足の本線の仕事を手伝う事になった。旅客列車も貨物列車も軽々と牽く彼を見て、もう誰も彼を入れ替え作業しかできないディーゼル機関車とは馬鹿にしなくなった。
ところで、ウェンデルが本線の仕事を手伝っている間、修理工場の仕事をする機関車がいなくなった事で、ジェームスがウェンデルの代わりを務める事になった。ウェンデルの事を馬鹿にした事がトップハムハット卿の耳に届き、罰を受けたのだ。
「君って列車を牽くだけじゃなくて、入れ替え作業もできたんだね。てっきり列車を牽く事しかできないと思ってたよ!」通りすがるたびにフィリップが言う皮肉を聞きながら、ジェームスはウェンデルの事を少し見直していった。
 
●あとがき
 予定していたノーマン回を没にしてウェンデル回を執筆しました。「ウェンデル」は日本未出版の原作28巻と『Thomas and the Missing Christmas Tree」と言う絵本に登場するディーゼル機関車(モデル機はイギリス国鉄クラス47ディーゼル機関車『ブラッシュ』)で、原作28巻でジェームスを助けた事で彼のディーゼル機関車に対する考えを改めるきっかけとなるキャラクターになっています。テレビシリーズ未登場もあり、ウェンデルは日本ではかなりマイナーなキャラクターになっていると思います。因みにウェンデルはファンが考えたニックネームで正式名称は無く「工場のディーゼル(The Works Diesel)」と呼ばれています。
 今回「ウェンデル」を主役にしたのは新たな大型ディーゼルキャラを物語に取り入れたいと思ったのと、ウェンデルの仕事内容に対して違和感を覚えた事からです。
 ウェンデルの仕事内容に対して違和感を覚えたというのは「故障車を工場へ輸送・入れ替え作業」などの小型の機関車でもできそうな仕事を大型のディーゼル機関車が担当している事で、ウェンデルのモデル機がこう言う仕事を実際に行っていたのかは不明ですが、実機がイギリス国内の無煙化に大きく貢献し、貨客両様の主力機として長きに渡って使用されるイギリスを代表する機関車で、512両も製造されたハイスペックなディーゼルが本線で活躍しないのはおかしいんじゃないかと言う事です。説明下手ですみません、言ってる意味分かりますかね?トーマスファンが「ボコが操車場で入れ替え作業してる事に違和感がある」って言っているのと同じような理由なんですが伝わりますかね?
 じゃあ何でボコ出さないんだよって言われると、ファンからの人気が高くCG進出を望まれてるボコを出すよりマイナーなキャラクターを出した方が面白いかな、他の人と発想が被らないかなって思ったからです。(あとウェンデルが主力機として造られたなら、入れ替え作業に不満を覚えているかもしれないと思ったのもあります)
 ジェームスに暴言を吐かれて落ち込んだり、本線の仕事を懐かしがるウェンデルを慰めたり励ます役はトーマスかビクターを予定していましたが、トーマスがそう言う役割を与えられるのはありきたりなので没。ビクターが冒頭にちょこっと登場しているのは没案から来ています。
 フィリップにウェンデルを慰める役割を与えたのは最近のフィリップは初登場時より本編でジェームスに正論をぶちかます程に成長しているので、ジェームスに反論しつつもウェンデルを慰める事もできるだろうし、彼の成長を書けると思ったので採用しました。
 
珍しくあとがきが長くなったのでここら辺で次回予告を。次回はグリンとパーシーが主役。少しオリジナル設定が登場するかも。
今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
Twitterはこちらから