ゴードンに悪戯を仕掛けてお仕置きを受けてからスミスはエドワードの駅で一生懸命働き、役に立つ機関車としての知識を身につけた。スミスが島に来てから2週間が経った頃、ようやくスミスは本来の仕事場であるナップフォードへと移されたのだった。
 スミスはすぐにスタンリー達と打ち解けた。彼は熱心に仕事をしたが、生意気な性格は相変わらずで新しい友達に自分がゴードンに悪戯を仕掛けた時の事を得意げに話した。
「それでオイラはトーマスの言う通り小さな機関車にでも大きな事ができるって事を証明したんだ!」
「それってすごい事だね!」
「君は僕達小さな機関車の英雄だよ!」スミスの話を聞いたスタフォードとチャーリーが目を輝かせて言った。
「そうだろ?オイラはこの島で1番凄いタンク機関車だ!」
「でも車体番号は『15』だよ?」誇らしげに言うスミスに操車場に戻って来たスタンリーが口を挟んだ。
「それじゃあ……。オイラがこの島で最高の15番のタンク機関車だ!」そう言ってスミスは仕事に戻った。
 
それから数日後。スミスがナップフォード操車場で入れ替え作業をしているところへ、汽笛が聞こえてきた。
「あの汽笛は誰の汽笛?ここら辺じゃ聞いた事が無いね。」スミスには聞きなれない汽笛だったが、ナップフォード操車場の機関車達には聞きなれた汽笛だった。
「ああ、あの汽笛はサムソンの汽笛だよ。」スタンリーが答えると、サムソンが貨物列車を牽いて操車場に入って来た。
「ご機嫌ようナップフォード操車場の機関車達。サムソンが荷物をお届けに上がりました!」
「君は初めて会うかもね。サムソンはメインランドで働く機関車で時々荷物をここへ運びに来るんだ。」
 少し離れた場所でサムソンがロージーに貨物列車を渡して、代わりにメインランドへ運ぶ石炭の貨車を受け取っているところを見ながらスタンリーがスミスに説明した。
「ふうん。」
 サムソンを興味深そうに見ていたスミスはふとサムソンの車体番号を見てある事に気がついた。
「ねえねえ、あの機関車オイラと同じ車体番号15番だね。」
「そりゃあ鉄道が違うんだから車体番号が被る事だってあるさ。」スタンリーが言った。
 スタンリーが仕事に戻った後もスミスはサムソンを見ていた。
「オイラが最初に15番の車体番号をもらったのに……。オイラが最高の15番のタンク機関車なんだ。」
 1人になったスミスは石炭の貨車を牽いて走り去るサムソンを見て不服そうに呟いた。
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 それからまた数日が経った。スミスがいつもの様に入れ換え作業をしていると、またサムソンが操車場にやって来た。サムソンがメインランドに届ける貨物列車を受け取って出発したのを見たスミスはコッソリと操車場を抜け出した。
 
 スミスは本線の信号所で信号が青に切り替わるのを待っていたサムソンを見つけた。
「ねえ、君はサムソンだろ?」
「そうだが。君は誰だい小さな機関車君。」
「オイラは小さな機関車って言う名前じゃなくてスミスって言うんだ。大体君もオイラと同じで小さいタンク機関車じゃない。」
「何だって?僕は君と違って大きいぞ!」
「そうかな、オイラと同じじゃない?車体番号だってオイラと同じだし。」スミスはニヤリとした。
「そんな事ない!僕の方が力もあるし、君よりスピードも出るぞ!」
「そんなに言うならどっちが最高の15番の機関車か決めようじゃないか。」
「そいつは良い!それじゃあその仕事が終わったら勝負しよう!」
「宜しい!その勝負受けて立とう!」
 サムソンはツンとした表情で走り出した。それを見届けたスミスはサムソンが自分の挑発に乗った事にほくそ笑んだ。
 
 サムソンはメインランドに貨物列車を届けると、すぐにナップフォード操車場に戻って来た。
「どうだ、見たか僕のスピード!メインランドからあっという間に戻って来ただろう?君より僕の方がスピードは速いんだ!」
「それはどうかな?勝負はまだ始まってないんだから。」スミスがいたずらっぽく言った。
 スミスはサムソンを案内した場所には沢山の貨車が用意されていた。
「今から貨物列車を牽いて島を横断するんだ。1度により多くの貨車を運んで、先に島の反対側に着いた方が勝ちだよ!」
「それぐらいたやすい事だ。それじゃあ貨車を取らせてもらうとしよう!」そう言って貨車に近づくサムソンをスミスが慌てて引き留めた。
「ちょちょ、ちょっと待ってよ!君の貨車はそっち。オイラは自分の線路から貨車を取るから。」
 サムソンは少し怪しんだが、スミスの言うとおりにした。
「分かった。良いだろう。」
 こうしてサムソンは自分の列車の用意を始めた。鉄骨の貨車、パイプの貨車、石が積まれた貨車、鉄くずが積まれた貨車、そしてオイルを積んだタンク貨車、サムソンはそれを5台ずつ繋いで20台の長い長い列車を用意した。
 スミスはと言うと防水シートがかかった石炭を運ぶ貨車を30台繋げていた。重たい列車を引っ張ってうんうん言いながらスタート位置に移動するサムソンを見てスミスがからかった。
「たったそれだけの量にてこずってるの?オイラなんか君の倍の数の貨車を用意したけどこれくらい何てことないね。」
「ふん、僕より力が弱い君にそんなに沢山の貨車を牽けるわけがない!どうせすぐに根を上げるに決まってる!」
「本当にそうなるかどうか今から確かめてみようじゃないか。」スミスはスタートの合図の汽笛を高らかに鳴らした。
 重たい貨車が20台も繋がった貨車を牽いてゆっくりゆっくり走り始めたのに対し、スミスがいとも簡単に30台の貨車を牽いて軽々と走り出したのを見てサムソンは唖然とした。そんなサムソンにスミスは陽気に声をかけた。
「島の反対側で待ってるからね。お先に~。」
 
 パーシーがナップフォード駅に来た時、30台の貨車を牽いたスミスとすれ違った。
「わあ、君って僕より小さいけど沢山貨車を引っ張れるんだね。でもそんなに貨車を牽いてどうするの?」
「サムソンと力比べしてるんだ。彼より多い貨車を早く島の反対側に届ければオイラの方が最高の15番って証明されるんだ!」
 その数分後、パーシーが旅客列車の準備を済ませてホームで待っていると、サムソンが通りかかった。サムソンが重たい積み荷を積んだ貨車をあまりにも沢山牽いているのを見てパーシーはびっくり仰天だ。
「サムソン!君、スミスと力比べしてるのは知ってるけど……その数の貨車はちょっと多すぎじゃないかな……?」
「何言ってるんだ、こんなのどうって事ない!スミスに勝つためにはこれぐらいの貨車をあっという間に島の反対側へ運ぶんだ!」
 のろのろと駅から遠ざかるサムソンを見てパーシーは呟いた。
「でもスミスはもっと沢山の貨車を軽々牽いてたけど……。」
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 スミスとサムソンの力比べの話はすぐに島中の機関車に知れ渡った。重く長い貨物列車を牽きながら必死にスミスに勝とうとするサムソンを見た機関車達はその姿が何だか滑稽に見えた。
 エドワードの支線と本線が合流するジャンクションでビルとベンはこちらに向かってくるサムソンを見つけた。
「見なよベン、サムソンが来るぞ。」
 顔を真っ赤にして貨物列車を引きずって来るサムソンを見てビルとベンは彼をからかった。
「凄いじゃないかサムソン。」
「物凄く力持ちだね!スミスに負けないように頑張りなよ!」
 双子はサムソンをからかったのだが、サムソンはそれを応援だと思い込んでいた。
「ありがとうビルとベン!よし、頑張るぞ!」
 サムソンが通過すると、ビルとベンはクスクス笑って囁き合った。
「見たかいビル。」
「あれじゃあスミスに勝てっこないよな。」
 ビルとベンの言うとおりだった。口では強がりを言うサムソンだったが、重く長い貨物列車を牽いているせいで彼のスピードは全く出ていなかった。そのスピードはあのスティーブンにでさえ、抜かされるほどだった。
「アフタヌーンティー急行のお通りだ~。おやおやサムソン、そのスピードだと島の反対側に着く頃には明後日になってそうだねえ。」そう言ってスティーブンは笑いながら軽々とサムソンを抜き去った。
 
 スミスはサムソンと違って余裕の表情で30台の貨車を牽いて島の反対側を目指していた。機関車達は小さなスミスが30台もの貨車を引っ張っているのを見て、目を丸くした。
「凄いじゃないかスミス、サムソンとの力比べ頑張れよ!」
 本線で貨物列車を牽いていたマードックが声援を送り、スミスもそれに汽笛で答えた。
 スミスを応援する仲間もいたが、同時に彼の事を怪しむ機関車もいた。カーク・ローナン線に繋がるジャンクションで、重連して貨物列車を牽いていたダックとオリバーがスミスの通過待ちをしていた。
「スミスってあんなに力持ちだっけ?」と、オリバー。
「まさか。彼は小型の入れ替え機関車だ。きっと何か仕組んでるんだよ。」と、ダックが疑わし気な目をしながら言った。
 
 一方のサムソンはと言うと、まだ本線の半分も走れていなかった。彼がのろのろと長くて重たい貨物列車を牽いて走るせいで、本線と支線のジャンクションで他の機関車の行く手を塞ぐ事もあった。
「ねえちょっと通してくれない。君がのろのろ走ってるせいで僕まで遅れるじゃないか。」
「おいおい何やってるんだサムソン。生意気なチビの入れ替え機関車との馬鹿げた力比べなんかしてないでさっさとそこを退け。俺様の線路を塞いでるぞ。」ジェームスとゴードンが急かした。
「これでも僕は全速力を出してるつもりなんだが?」サムソンは顔を真っ赤にして、力みながら言った。
「とてもそうとは思えないね。」のろのろと走る貨物列車を見ながらジェームスがうんざりした顔で呟いた。
 
 その日のお昼過ぎ、スミスはビカーズタウン操車場へ到着した。
「あらスミス、あなたの方が先に着いたわね。サムソンとの力比べはあなたの勝ちよ。おめでとう。」操車場で入れ替え作業をしていたロージーが彼に近寄ってきて労いの言葉をかけた。
「やったあ!オイラの勝ちなんだ!」
 そこへ操車場長がやって来て、スミスに気づいた。
「おや、この時間帯は列車が来る予定は無かったはずなんだが……。」そう言って操車場長はスミスの牽いてきた貨車の防水シートを外して、貨車の中を確認した。
「おい、これは空の貨車じゃないか。誰も空の貨車を運んで来いとは頼んでないぞ!」
「空の貨車?スミス、あなたサムソンとの力比べでズルしたのね?」
「どうもおかしいと思ったんだよ。」声のした方を見ると、ダックがいた。
「君がこんなに貨車を引っ張れるはずないと思ったんだ。君はサムソンより貨車を多く牽けたけど、それは何も積まれていない軽い貨車を牽いてたからだ!」
「でも……より多い貨車を運べとは言ったけど、重たい貨車を運べとは言ってないよね?」ダックやロージーに睨まれながらスミスは何とか誤魔化そうとしていた。
 そこへパーシーが切羽詰まった様子でやって来た。
「大変だよ、サムソンが本線で故障したって!」
 それを聞いて流石のスミスもバツの悪さに黙り込んでしまった。
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 サムソンはしょげた顔をして貨物列車と一緒に本線で立ち往生していた。故障してしまった以上、スミスに勝つことどころか、ここから動く事すらできないのだ。
「あーあ、ゴードンの言う通り馬鹿げた力比べなんかしなければ良かった。」
「まあまあ。さっき近くの電話で助けを呼んだんだ。もうすぐトーマスとアーサーが助けに来るよ。」
 機関士はそう言って彼のランボードに腰を掛けて呑気にハーモニカを演奏し始めた。
 サムソンがため息をついたところへ、汽笛が聞こえてきた。
「トーマスとアーサーか?」サムソンは顔を上げて、パッと輝かせた。
 だがやって来たのはトーマスでもアーサーでも無く、スミスだった。
「ああ、何だ君か。力比べに勝ったんだな。君が最高の15番だ。」
「それより故障して困ってるんじゃない?」
「そうだな。君なら僕ごとビカーズタウンまで連れて行けるだろう。さあ、牽いて行ってくれ。」
「それはできないんだ……。」
「どうしてだ?君は僕より力があるじゃないか。」
「いや、オイラは君より力持ちでも最高の15番の機関車でもない。オイラは君を騙したんだ。」
「何だと?それはどういう意味だ?」スミスは正直に白状した。
「オイラは防水シートをかけた空の貨車を牽いて重たい貨車を君より沢山牽いているように見せてたんだ。でも君はオイラと違って本当に重たくて長い貨物列車を牽いてた。だから君の方がオイラより力持ちだし、最高の15番の機関車に相応しいよ。騙したりしてゴメン。こんな事になるなんて思わなかったんだよ。」
「いや、僕も最高の15番に相応しい機関車とは思えないよ。こんな事になったのは負けん気を起こした僕の自業自得で、君のせいではないであります。」
「ねえ、オイラ達友達になれないかな?お互い最高の15番の機関車にはなれなかったけど、最高の友達にはなれると思うんだ。」
「それは良い考えでありますな!」
「それに最高の番号は15番じゃなくて車体番号1番の機関車の称号に相応しいと思うしね。」
助けに駆け付けたトーマスが笑いながら言った。サムソンの列車はトーマスとアーサーが持って行く事になった。
「オイラが君を修理工場まで運ぶよ。なんたってオイラ達は同じ車体番号15番で、最高の友達なんだからね!」
 スミスはそう言ってサムソンを連結し、彼らは楽しそうに笑いながら修理工場を目指して行った。
 
●あとがき
 当ブログは邦題でタイトルを書いているため伝わりにくいと思いますが、今回のお話のタイトル「最高の15番の機関車」は「15番なのに最高(Best=1番)」と言う英語の言葉遊び風のタイトルにしてみました。
オチでトーマスを登場させて「最高の番号は15番じゃなくて車体番号1番の機関車の称号に相応しい」と言う台詞を言わせたのも言葉遊びのつもりですが、ちょっと何言ってるのか分かりませんね( 
 トーマスシリーズでは度々車体番号が話題になる事がありますが、今現在同じ車体番号の機関車同士(車体番号1番で言えばトーマス、スカーロイ、ゴッドレッド、グリン、ホンメイが存在)の話が無い為執筆しました。と、このあとがきを書きながらそう言えば本家S22で「いちばんのきかんしゃ」と言う車体番号が被った事で競い合う類似の物語が既に存在していた事を今更ながらに思い出しました(
 
 相変わらず短いあとがきになってしまいましたが、あとがきはこのぐらいにして次回予告を。
次回はノーマン回の予定でしたがSetoPotでもお知らせしたとおり、変更して未発表のエピソードを投稿させて頂きます。
かなりマイナーなキャラクターを主役にしたエピソードになっています。お楽しみに(笑)
 では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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