行楽期がやって来た。この時期はどの機関車にとっても忙しい時期になる。
 メインランドから来たコナーとケイトリンが行楽客を乗せたビカーズタウン行きの急行やウルフステッド城行きの特急を牽いてメインランドとソドー島を行ったり来たりした。彼らに乗ってやって来たメインランドの行楽客はソドー島の機関車達の乗る列車に乗り換えて、ソドー島の行楽地、海や湖、山、観光施設を見に行くのだ。
 メインランドの行楽客に加えて、ソドー島の行楽客や通勤や通学に列車に乗る乗客もいるため、トップハムハット卿が列車の本数を増やすので列車を牽く機関車達は大わらわだった。
 列車を牽く機関車だけでなく、操車場の機関車達も大忙しだった。列車の数が増えるのでいつもよりさらに列車を用意したり、操車場に来た列車を入れ替えなければならないのだ。
 フィリップがエドワードの支線で働くようになったり、ロージーがビカーズタウン操車場へ手伝いに行くようになってからと言うものの、ナップフォード駅の構内やナップフォード操車場で働くスタンリー達はてんてこ舞いになっていた。
「貨物列車はどこへ持って行けば良いんだい?」と、スタフォード。
「5番線に頼むよ!この列車は誰に渡す列車なんだ?」と、スタンリー。
「ジェームスだよ!エミリーの次の列車は貨物列車だったっけ?それとも旅客列車だったっけ?」と、チャーリー。
「貨物列車よ!」ロージーが答えた。
「この列車は操車場に届いた列車かい?それとも駅に持って行く列車かい?」スタンリーが列車を押しながら仲間達に尋ねた。
 スタンリーの反対側から別の列車を押してきたチャーリーはスタンリーに気づかず彼の列車と自分の列車を衝突させてしまった。
騒音を聞いたロージーとスタフォードが駆け付けた。
「そろそろトップハムハット卿に助っ人を頼まないとね……。」ロージーはそう言ってクレーン車を取りに行った。
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 数日後、トーマスはソドー整備工場に壊れた機械を運んできた。
「ビクター、この壊れた機械を修理してほしいってトロッターさんが頼んでるんだけど……。」
「ああ、トーマス。ご苦労さん。そこに置いておいてくれ。それから君に会わせたい機関車がいるんだ。」
「会わせたい機関車?」
「紹介しよう。我々の新しい仲間だ。」
 ビクターが声高らかに言うと、転車台が回転して新しい機関車がトーマスに顔を見せた。
「君は誰?」
「オイラはスミス!ここを手伝いにやって来たんだ!」
 スミスの車体には黄色いで「N.W.R」との文字と車体番号の「15」の数字が書かれていた。
「手伝い?」
「フィリップやロージーがナップフォードから離れる事が多くなったから、その穴を埋める為に操車場での入れ替え作業を手伝ってもらう為に来てもらったんだ。」トップハムハット卿が整備工場の事務所から出てきて答えた。
「君にはスミスをウェルズワース駅まで連れて行ってもらいたい。暫く彼にそこで働いてもらって、役に立つ機関車としての知識を身につけてもらう。」
「さあさあ、早くオイラを仕事場に案内してくれよトーマス。早くオイラの働きぶりを見てもらいたいんだ!」
「分かったよ、そんなに急かさないでよ。」
 スミスに急かされ、トーマスは彼を連れてウェルズワース駅に向かった。
 
 ウェルズワース駅の構内ではエドワードとフィリップが入れ換え作業をしていた。
「ふう、どれだけ働いても全然仕事が終わらないよ。」「良いじゃない忙しい方が。僕は仕事が無くて退屈するよりマシだな。」エドワードがフィリップを諭した。
「でも僕ちゃん達だけじゃ手が足りないんじゃない?ナップフォード操車場の方も人手不足なんじゃないの?」
「それで思い出した、人手不足を解消する為にトップハムハット卿が新しい機関車を連れて来たらしいよ。もうすぐトーマスがここに連れてくると思うんだけど」
「その新しい機関車を連れてきたよ。」トーマスが汽笛を鳴らして構内にやって来た。
「やあ、オイラの名前はスミス!君がエドワードとフィリップだな?君達が力不足だって言うんでオイラが手伝いに来たよ!」スミスが生意気に言った。
「君って誰にでもそんな喋り方するんだねスミス。生意気な喋り方するなよ、彼らは君に仕事を教えてくれるんだからさ。」
 トーマスがスミスに注意するとフィリップも言った。「そうだそうだ!僕ちゃんの方が君よりここで長く働いてるんだぞ!もう少し敬意を持ってよね!」
「分かったよおチビさん、仕事を教えてくれるならさっさと教えてくれよ。じゃなきゃオイラが勝手に貨車を入れ替えちゃうぞ?そうだな、試しにあの貨車から入れ替えてみようか!」そう言ってスミスは目に着いた貨車に突進していった。
 
 スミスは生意気な機関車だったが、役に立つ機関車でもあった。それは彼の働きぶりですぐに証明された。
「さあさあ、きみの列車を持ってきたよタンク機関車さん。急がないと遅刻しちゃうよ。」スミスはそう言ってオリバーに乱暴に列車をぶつけた。
「何だいあの落ち着きのない機関車は?」「
彼は新しい仲間のスミスさんですよ。落ち着きのないのは張り切り過ぎてるからでしょう。新しい仕事場に慣れれば彼もそのうち落ち着きを身につけますよ。」怪訝そうな顔をするオリバーにトードが優しく言った。
 
 トーマスがアニーとクララベルを牽いてウェルズワース駅にやって来ると、スミスが構内から飛び出してトーマスの行く手を塞いだ。
「聞いてよトーマス、オイラこの駅の構内の入れ替え記録を塗り替えたんだ!オイラって入れ替えのプロだよね、そう思うでしょ?」
「お喋りしてないで速く仕事に戻りなよスミス、役に立つ機関車ってのは仕事に無駄話しないものだよ。」
「分かってるけどさフィリップ。オイラは君より入れ替え作業のスピードが早いんだから君と違ってお喋りする暇あるかもね~。」そう言ってスミスは逃げ去るように仕事に戻っていった。
「本当にスミスって生意気だよね。」
「うふふ、まるで君が島に来たての頃みたいだね。」トーマスに言われてフィリップが顔を赤くしていると、エドワードが口を挟んだ。
「僕はどこかの青い小さなタンク機関車の昔の事を思い出すよ。」そう言われて、今度はトーマスが顔を赤くした。
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 その日の午後、ゴードンがヴィカーズタウンに行く急行列車を牽いてウェルズワース駅に停車した。ゴードンが発車時刻を待っていると、構内から貨車が飛び出してきてゴードンにぶつかった。
「おい、危ないじゃないかフィリップ、気をつけろ!」怒鳴って貨車を突き飛ばしたゴードンは目の前にフィリップではない見慣れない機関車がいるのを見て戸惑った。
「お前は誰だ?」
「人に名前を聞く前にまず自分の名前を言いなよ!トップハムハット卿からそう言われなかったのかい?」
「く~っ、チビの癖に生意気な機関車め……俺様はゴードンだ!急行を牽いてる。」
「ゴードンか。見た目と同じでごつそうな名前だね!オイラはスミス!トップハムハット卿の新しい機関車だよ!」それを聞いてゴードンは呆れたように言った。
「やれやれ、トップハムハット卿は何台機関車を連れてくるんだ?」
「君って急行を牽いてるんだよね?」
「今そうだって言ったところだろう。」スミスに聞かれてゴードンは少しイライラしながら答えた。
「その割には大きくて重そうで、速そうには見えないけど。小柄なオイラの方が素早く動けそうに見えるでしょ?」
「生意気な奴め。お前が素早いのは操車場だけでだ。本線で俺様とスピードを比べたらお前なんかあっという間に引き離されるだろうよ。」
「でも僕ちゃんと競争して負けたよね。」フィリップが2台の会話に割り込んできた。
「お喋りはそこまでだ。さっさと仕事に戻れ、さもないとペシャンコにするぞ。」
「もっと優しくしてやりなよ。彼は新入りなんだよ。」ゴードンがスミスとフィリップと言い争っているのを聞いたエドワードが仲裁に入って来た。
「さあさあ、君達もお喋りして仕事に戻るんだ。」そう言ってエドワードはフィリップとスミスを仕事に連れ戻した。
生意気で小さな機関車達がいなくなってせいせいしたと鼻を鳴らして走り去るゴードンを見て、スミスはフィリップに囁きかけた。
「今に見ててよ、フィリップ。オイラがゴードンを出し抜いて見せるよ。」
「良いぞスミス。僕ちゃんだってゴードンを出し抜けたんだから、君にも出し抜けるはずさ。」
 
 次の日、スミスが駅の構内で入れ替え作業をしていると、トーマスがビカーズタウン行きの各駅停車を牽いてやって来た。スミスはトーマスが来ると、彼に近づいてひそひそ声で話しかけた。
「ねえねえトーマス。今日ゴードンが何時頃にこの駅に来るか知ってる?」
「うーん、次は3時半の急行列車を牽いてくるから多分3時50分にはこの駅に着いてると思うよ。」
 スミスが駅の壁にかかっている時計を見ると、針は3時45分を指していた。
「そろそろ来るな。」独り言を呟くと、スミスはトーマスに自分の考えを話した。
「それは面白いねスミス。小さな機関車にだって大きな事ができるって証明してやるんだ。応援してるよ。」スミスにエールを送ると、トーマスは出発した。
 スミスは駅の構内を見渡した。エドワードは丁度ブレンダムの港まで列車を牽いて行って構内にいないし、フィリップはスミスから離れたところで入れ替え作業に没頭していた。
(今がチャンスだ。)
 スミスは人目を盗んでこっそりと構内を抜け出して、本線に飛び出した。
 
 スミスは本線をひた走り、クロンク駅近くの信号所で止まると、信号手に伝言をした。スミスの伝言を聞いた信号手は頷くと、すぐさまある場所に電話をした。
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 ゴードンはビカーズタウン方面の急行を牽いて走っていた。定刻通りに走れているし、思う存分スピードを出して走れていたのでゴードンは満足していた。
 ところがバラッドライン橋の手前に差し掛かった時、ゴードンの機関士が線路に何かがあるのを見つけて、ゴードンのスピードを落とした。
「どうしたんだ機関士?」
「前を見てみろよ。線路に何かあるぞ。」
「何だありゃあ。牛か?それともトラウザーか?」そう言いながらゴードンは減速して、線路の上に見えるものに近づいた。それは……。
「お前は……スミスじゃないか!」ゴードンは本線にスミスがいるのを見て驚いた。
「ここで何してる。お前はエドワードの駅にいるはずじゃないのか?」ゴードンに聞かれ、スミスは咳をして苦しそうに答えた。
「ビカーズタウン操車場に貨車を取りに行く途中で石炭が切れたんだ。悪いけど押していってくれないかな?」
「何言ってるんだ、俺は急行列車担当だぞ。小さな機関車の世話係を担当してるんじゃない。さあ、良いから俺の線路から退けよ。時間に遅れちまう。」
「でも石炭が無くて動けないんだよ?」
 スミスに言い返され、ゴードンは黙り込んでしまった。後ろの客車から乗客の不満そうな声が聞こえてきた。
「仕方ない。俺達もビカーズタウンへ行くんだ。このままスミスを押して行こう。お前のパワーとスピードならこれくらいどうって事ないだろう。」ゴードンの機関士が言った。
「やれやれ、なんてこった。」
 ゴードンは呆れてため息をつくと、スミスの後ろに近づいて連結すると、彼を押して走り出した。
 
「ヒャッホー!速い速い!眺めも最高だし、こいつはいいや!ゴードン、もっとスピードを出してくれ!」
 ゴードンに押されるスミスは自分には出せないスピードを楽しんでいた。
「見てくれ、オイラは島で最速の機関車なんだぞ!」
 駅で通過待ちをしている機関車や本線で他の機関車とすれ違うたびにスミスは言った。
「君の実力はそんなもんか?もっと速く押してくれ!」
 スミスは楽しんでいたが、ゴードンは違った。スミスがいるせいで前がよく見えないし、スミスを押しているせいでスピードが出にくいし、スミスのお喋りがうるさくてゴードンは不機嫌だった。彼はそんなスミスにある悪戯を仕掛けようと考えていた。
「俺様のスピードがこんなものだと思うなよ?」そう言うや否やゴードンはスピードをさらに上げて走り始めた。
 徐々に徐々にスピードは上がり、やがて彼は自分が今までに出した最速記録を破る程のスピードを出していた。他の機関車達はゴードンがスミスを押して見た事もないスピードで走っているのを見て唖然とした。
「どうだスミス!俺様の実力を思い知ったか!」
 ゴードンはスミスがトーマスの様に降参すると考えていた。だがその考えとは裏腹にスミスはさらに楽しんでいた。
「速いぞ速いぞ!こんなスピードで走れるなんて最高だ!」
 
 間もなく、列車はビカーズタウン駅へ到着した。ゴードンに牽かれていた急行列車だけでなくゴードン自身も疲れていたが、スミスだけは元気なままだった。ホームに停車すると、父親に連れられた子供がスミスへ駆け寄って来た。
「君、故障したゴードンをここまで牽いてきたの?」
「そうだよ!オイラはゴードンより速いし、力も強いんだ!」スミスは胸を張って自信たっぷりに答えた。
「何だと!?」スミスの答えを聞いて、ゴードンは叫んだ。
「ふふ、ゴードンより小さいスミスがゴードンより速くて力も強いなんてね。明日からスミスに急行を牽いてもらった方が良いんじゃない?」「そうなるとお前も形無しだな、ゴードン?」トーマスに続いて駅に来ていたフライング・スコッツマンもゴードンをからかった。
 得意満面のスミスを見て、ゴードンはようやく自分がスミスに悪戯を仕掛けているのではなく、スミスが自分に悪戯を仕掛けていると理解した。可哀想なゴードンはその日スミスを押していたところを見た仲間達にゴードンがスミスに助けられていたと勘違いされ、機関庫でも暫く話題にされ、からかわれたのだった。
 一方のスミスも、勝手に仕事場から離れた事や本線でトラブルを起こした事でエドワードとトップハムハット卿にこってりと叱られ、暫くはウェルズワース駅の構内から外に出る事を禁止されたのだった。
 
●あとがき
新オリキャラ「スミス」の初登場回です。
「スミス」と言うキャラクターを思いついたのは今から5、6年前。「フィリップ」が発表されたのがきっかけだったと思います。
フィリップのやんちゃな性格を気に入ってこのキャラクターを創ったんでしょうね。同時期に見つけた「LNER Class Y1」のユニークな姿をを気に入り、Class Y1をモデルにした「スミス」が誕生しました。
この時期はTwitterもブログもやってなかったので、「スミス」の事を知っているのは自分以外誰もいなかったのですが、数多くのオリキャラの中から「スミス」だけは必ずブログに登場させようと決めていました。丁度のその時期頃に自分が尊敬するネットで先輩にあたる方が「スミス」と設定もモデルも丸被りのオリキャラを自分より先に発表した為、いろんな事情から「スミス」はお蔵入りの存在になるかと思っていましたが、その方に「スミス」の事を伝えると「別に登場させてもOK」と言っていただけたので、登場させることができました。
 
そんなスミスの華々しいデビューになるはずの今回でしたが、いつも通りグダグダなお話になったと思います(笑)
今回のお話は「トーマスとゴードン」「ほめられなかったジェームス」が基になってます。初期段階では「新しくやって来たスミスがゴードンといざこざを起こしたのちに彼に見下されたところ、その後丘で立ち往生をしたゴードンを助けて彼を見返す」と言う話にするつもりでしたが、それだけだと話が短いし、内容もいまいち盛り上がりに欠けるなと思ってスミスのやんちゃさやずる賢さを書き足しているうちにこんな風なお話になりました。
余談ですが、S21からエドワードはフィリップとウェルズワース機関庫に移行しますが、当ブログではそのあたりの設定はうやむやになっています。(エドワードがティドマスで寝泊まりする時もあればウェルズワースで寝泊まりする時もあったり、トーマスとパーシーがティドマスで寝泊まりする時もあれば、模型期に登場したファーカー機関庫で寝泊まりする時もある。またティドマスにはレギュラーキャラ以外にダックやドナルドとダグラスなどが泊まりに来る事もあるetc)
さらに余談ですが今回からブログを読みやすくする為に工夫しました。前まではTerapadの文章をコピペして、あとがきとかタグを足していただけなんですが、暇つぶしに読み返しているとかなり読みにくいなと思ったので、書き方を変えました。予定では次のシリーズから書き方を変えようと思っていたのですが、今年から私生活が忙しくなるため、今回からこの書き方に変えました。まだまだおかしな部分があると思いますが、気が付いたら指摘なんかしちゃってください(笑)
 
さて次回もスミスがメインのお話。車体番号「15」番の彼はメインランド出身で同じ車体番号「15」番のサムソンに出会い、どちらが最高の15番かをかけて勝負する事に……。
 
では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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