カーティスがリタイアした事で優勝争いはマッケンジーとトロイの2台で繰り広げられる事となった。2番手からトロイを追うマッケンジーはレーサーの群れの中にトロイを見つけて、追いついた。
レーサーの群れの中をすり抜けたマッケンジーはトロイの横に並んだ。「やあ、どうも。」「何!?」驚くトロイを尻目にマッケンジーはインサイドからトロイの前に躍り出た。「マッケンジーがトップを奪いました!」と、ボブが叫ぶ。ところがトロイは易々とマッケンジーの隣に並び「お前じゃ俺に勝てないさ。」そう言い去って再びトップを奪った。「流石はトロイ!そう簡単にトップを明け渡すつもりはありませーん!」今度はダレルが叫んだ。
トロイはマッケンジーを振り切ろうとスピードを上げた。トロイに振り切られまいとマッケンジーは必死に追いかけたが、差は引き離される一方で、やがて息が荒くなり、視界もぼやけてきた。トロイの後姿からどんどん引き離され、マッケンジーは悔しそうな表情を浮かべるマッケンジーにマックイーンの声が聞こえてきた。「ピットに戻ってこいマッケンジー。」「でもこのままだとトロイに……。」「心配するな、俺に考えがある。このままだとトロイに勝てないぞ。」
マックイーンの言うとおりにしたマッケンジーがマッケンジーがピットに入ると、すぐにクルーであるラジエーター・スプリングスの住民達がマッケンジーを囲んでピット作業を始めた。その間にマックイーンが指示を出す。「トレーニングを思い出すんだ。体力を温存しろ。ファイナルラップまで残り1周のところで勝負に出ろ。」マッケンジーは頷くと、ピットを飛び出して行った。
 
「ファイナルラップまで残り1周。依然トップはトロイが死守していますが、ここでマッケンジーが驚異の追い上げに入りました!トロイはマッケンジーが迫っている事に気づいていません!」「いやあ、面白い実況になりましたよ!残り3周ですが、マッケンジーとトロイ、果たしてどちらがピストン・カップの王者になるのか未だ想像ができません!」ボブとダレルの実況に観客席は沸き立った。誰もがマッケンジーとトロイの抜きつ抜かれつの攻防に興奮していた。
第4ターンに入ったトロイはちらりと後ろを振り返り、マッケンジーが自分に迫っている事に気づくと鼻を鳴らした。「まだ諦めてなかったか。」トロイが加速した瞬間、トロイはマーブルを踏んでバランスを崩した。
マックイーンはそれを見逃さなかった。「今だ行け!」その声とほぼ同時にマッケンジーはエンジンを全開にした。
「トロイがリードしたまま、いよいよファイナルラップへ!」「これまでの36戦がどうであろうと、この1周で全てが決まります!」ボブとダレルがマイクに向かって叫んだ。
「優勝は俺のものだ!」「まだ分からないさ。」勝ち誇った笑みを浮かべるトロイだったが、真後ろからマッケンジーの声がした。「お前はこのレースに勝てない!」トロイがマッケンジーの前に立った。「いいや、まだ勝負はついてない!」そう言ってすかさずマッケンジーがトロイの前に立った。
抜きつ抜かれつを繰り返しているうちにマッケンジーとトロイは第3ターンに入った。「勝たせてたまるか!」トロイはそう喚くや否やマッケンジーをコンクリートウォールへと追い詰めた。このままではコンクリートウォールに押し付けられまいとマッケンジーは減速して、トロイの後ろに張り付いた。
そのまま2台は最終ストレートに入った。フィニッシュラインが目前に迫る。「凄まじい接戦!フィニッシュラインは目とバンパーの先だ!」ボブが叫んだ。マッケンジーはトロイとウォールの間に僅かな隙間を見つけた。
マッケンジーのテクニックはその場にいた全員の目にスローモーションのように映った。コンクリートウォールに片輪を乗せてトロイとコンクリートウォールの隙間に入り込んだのだ。驚くトロイの目がマッケンジーと合う。
次の瞬間、2台は爆音を立ててほぼ同時にフィニッシュラインを通過した。「ピストン・カップの歴史に残るゴールシーンです!勝ったのはマッケンジーかトロイか?」ボブが叫んだ。マッケンジーとトロイはコースを外れ、そこでスクリーンを見つめた。誰もがマッケンジーとトロイのどちらが勝ったのか固唾をのんで待っていた。
「大接戦の末、紙一重の差で優勝したのはフラッシュ・マッケンジー!」ダレルが叫んだ。「素晴らしい!大波乱の今シーズン、ピストン・カップの王座に輝いたのは無名のルーキー、フラッシュ・マッケンジーでした!」ボブの声がサーキットに響き、夜空に花火が打ちあがった。
「やったああああっ!」「勝ったんだ、マッケンジーが勝ったぞ!」マッケンジーのピットではメーターをはじめとしたラジエーター・スプリングスの面々が大喜びしていた。マッケンジーがピットの方を振り返ると、マックイーンが誇らしそうな顔で頷いていた。
「おめでとうマッケンジー。まさかお前にここまでの実力があったとは思わなかったよ。」傍で勝敗の結果を待っていたトロイが近寄って来て言った。「実力ならお前の方が上だよ。俺はマックイーンがいたから勝てたんだ。」
「それは違う。俺はお前の眠っていた実力を引き出す手伝いをしただけだ。」マッケンジーとトロイが振り返ると、マックイーンが立っていた。「お前はピストン・カップを制する実力を持ってるよ。」マックイーンの言葉にマッケンジーは微笑み返した。
 

フラッシュ・マッケンジーがピストン・カップを制してから2週間後、今シーズンのレースを終えたマッケンジーはチームと共にホームタウンであるラジエーター・スプリングスに戻って来ていた。
町の入口の看板も新しく変えられ「フラッシュ・マッケンジーとピストン・カップの伝説のレーサーたちの町、ラジエーター・スプリングス」と描かれていた。寂れていた町がマッケンジーが来た事で賑やかさを取り戻していたが、彼の勝利でさらに賑やかになっていた。
来訪者たちはラジエーター・スプリングス・レーシング博物館でハドソン・ホーネットやライトニング・マックイーン、クルーズ・ラミレスの栄光の展示物やマッケンジーがレースで勝って手に入れたトロフィーを見たり、町の店でお土産を買っていく。
マックイーンの友人の元レーサー達も町に再び訪れるようになり、かつて開催されていたラジエーター・スプリングス・カップも復活するようになった。
 
ある時、ラジエーター・スプリングス・レーシング博物館のツアーガイドのメーターが観光客を館内でツアーしている時の事だった。メーターが観光客たちに館内の案内やラジエーター・スプリングスのスターレーサーたちの説明をしていると、1台の車が声をかけてきた。
「ガイドさん、今フラッシュ・マッケンジーとライトニング・マックイーンはいるかい?」「あー、すみませんお客様、今マッケンジーはマックイーンと練習中で……ジェフ?」メーターが驚いて唖然とする先には黄色いボディのレーシングカーが立っていた。「久しぶりだね、メーター。」そのレーシングカーは微笑んだ。
 
その頃、マッケンジーはクルーズとウイリー・ヴュートでレースの練習をしていた。「ピストン・カップを制したチャンピオンの実力はそんなものじゃないはずだぞ!全力を出せ!」コーチをしているマックイーンが怒鳴ると、マッケンジーが言い返した。「俺を見くびるなよ、俺は秘められた実力を持ってるんだ。その実力を自力で引き出してやるよ!」
「私の事も見くびってほしくないわねマッケンジー。私もピストン・カップのチャンピオンよ。」「昔の話だろ?今の俺には勝てないさ!」クルーズとマッケンジーは楽しそうに言いながらウイリー・ヴュートを爆走した。
そんな様子を微笑ましそうに見守るマックイーンの傍にサリーがやって来た。「それで、ステッカー君。これからどうするの?」サリーに尋ねられたマックイーンはマッケンジーを見ながら答えた。「決まってるよ。俺は彼のクルーチーフとして指導していくよ。彼がサーキットに復帰できるように与えてくれたチャンスだからね。」
マッケンジーが声をかけてきた。「マックイーン、俺と1戦しないか?俺の実力を試させてくれよ!」「お前の実力じゃ俺には敵わないさ。」「どうかな?俺はアンタのテクニックを習得してるんだぞ?あんたと同じ走りができるんだ。」「そんなに言うなら試してみよう。クルーズ、スターターを頼む!」「オッケー、マックイーンさん。それじゃあ位置について……。ゴー!」
クルーズの掛け声で2台のレーサーは勢いよくスタートしていった。
2度とサーキットには戻るまい、そう思っていたが突如現れたマッケンジーを指導する事によって再びサーキットに戻るチャンスを与えてもらえた。そのチャンスを手放さないためにも俺はマッケンジーの指導を続けよう。マッケンジーはそう胸に誓った。
 
Fin.
 
◎あとがき
何とか年内に書き上げる事ができました。細かい設定などは次々回に投稿します。
次回は「Pixarのひみつ展」のレポートを投稿します。最後までお読みいただきありがとうございました。
 
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