「前回に引き続きフラッシュ・マッケンジーの勢いは止まりません!今回のレースもマッケンジーは上位に食い込んでいます!」「チャンピオン、カーティス・ルーカスと同じルーキーにして強敵トロイ・ファースターと渡り合えるなんて彼はただ者じゃありませんよ!」6戦目を迎えたピストン・カップが開催されたミシガン・インターナショナル・スピードウェイでもマッケンジーの勢いは止まらなかった。
マッケンジーは周回遅れのレーサー達の間を縫うようにして走っていた。周回遅れの車の群れの向こう側に同じようにレーサー達の間を縫うようにして走るトロイの姿が見える。彼らは周回遅れの車を抜き去りながらトップを目指していた。「トップを巡ってマッケンジーとトロイが熾烈なポジション争い!」ボブが叫んだ。「忘れちゃいけない。トップには現チャンピオン、カーティス・ルーカスがいるぞ!」ダレルが付け足した。
カーティスを先頭にレースはファイナルラップを迎えた。トップを激走していたカーティスは満足げに呟いた。「見ろ、やっぱりこの間のレースはまぐれだったんだ。あのルーキー共はこの周回で追いつけないさ!今回は俺の勝ちだぜ!」「悪いけど、追いつかせてもらったよ!」不意に声がしたかと思うと後ろからマッケンジーが現れ、インサイドから追い抜いて行った。そのすぐ後にトロイも反対側から現れて抜き去った。カーティスは腹立たし気に唸って、彼らの後を追走した。
「トロイとマッケンジーがまたしてもカーティスからトップを奪った!」「このファイナルラップで勝者が決まります!勝つのはマッケンジーか、それともトロイか!」ボブとダレルが興奮して叫ぶ。
「マッケンジーとトロイがツーワイドで最終ターンを抜けていく!両者、紙一重の差です!」「勝つのはどっちだ!?」アナウンサー達が実況席から身を乗り出した。マッケンジーとトロイが僅かな差でフィニッシュした。どっちが先にフィニッシュラインを超えたか分からないゴールシーンに実況席だけでなく観客席も湧きだった。
「勝者はフラッシュ・マッケンジー!」「衝撃のデビューから6戦目にして遂に優勝しました!」ボブとダレルの大声が響く中、黒と白のチェッカーフラッグが大きくはためき、観客から歓声が沸き起こった。
すぐにマッケンジーは表彰台で金に輝くピストン・カップを手に入れ、マスコミに囲まれて写真を撮られ、質問を浴びせかけられた。
「ここ最近、新人のフラッシュ・マッケンジーがみるみる実力を上げていますが、その事についてどう思われますか?」「俺はアイツに手加減してやってるんだ。そろそろ俺の実力を見せつけて、アイツを叩き潰してやる!」マスコミに質問されたカーティスは飲んでいたオイル缶を踏み潰して、腹立たし気にオイル缶を蹴ってトレーラーに向かった。

チーム・ラジエーター・スプリングスの面々はラジエーター・スプリングスに戻って来ると、ホイール・ウェル・モーテルでクルーズが現役だった頃と同じようにマッケンジーの祝勝会を開いてやった。
無名の新人としてピストン・カップの王者カーティスと凄腕ルーキーのトロイと渡り合っているマッケンジーはすぐにメディアの話題となった。レース番組やピストン・カップを特集した雑誌ではマッケンジーを紹介し、街角の映像広告ではマッケンジーのレースシーンが使われた。動画サイト「カーチューブ」もマッケンジーの動画で溢れかえっている。マッケンジーの動画を見て、マッケンジーだけでなくスマホを囲んでいたマックイーンをはじめとしたクルーの顔にも笑顔が浮かんだ。
 
カーティスは次のレースでマッケンジーに対する勝利宣言をしていたが、その言葉通りにはならなかった。続く7戦目もマッケンジーはトップをかっさらった。「フラッシュ・マッケンジーまたもや優勝!これで2連続優勝です!」大スクリーンでマッケンジーのゴールシーンが何度もリプレイされる中、ボブが叫び、観客の歓声が巻き起こった。マッケンジーはコースから外れると、芝生の上で煙を上げながらドーナツターンをして喜びを表した。

マッケンジー達が次のレースに備えて町に戻って来ると、思いがけない光景が広がっていた。以前の様に町に沢山の観光客が来ていたのだ。町の住民たちは接客に追われて大忙しだった。「あんた達がいない間にお客がこんなにも来たのよ!」「塗料が足りなくなる日なんていつぶりだろうなあ?」マックのトレーラーから出てきたマッケンジー達にフローとラモーンが嬉しそうに言った。
「急げグイド、店を開く準備だ!お客さんすぐにタイヤ持ってきますんで!」ルイジとグイドに店を開く準備をするように言うと、一緒に客の待つ店へすっ飛んで行った。
フローのV8カフェに来たマックイーンにサリーが近づいて来て言った。「アルビンって言うマッケンジーのファンが彼の友達を連れてきたのよ。」「まるで昔に戻ったみたいだな。」マックイーンは町の姿に目を見張っていた。
「いたぞ!フラッシュ・マッケンジーだ!」「マッケンジー、一緒に写真撮ってもらっても良いですか?」「サインください!」マッケンジーの姿を目にしたファンが一斉にマッケンジーを取り囲んだ。
アルヴィンがファンの群れから姿を見せた。「マッケンジー!また会えて嬉しいです!この間のレース見ましたよ、凄い走りだった!2連勝おめでとうございます!」「ありがとうアルヴィン、君が応援してくれたおかげで次のレースでも勝てそうだよ。」マッケンジーは笑顔で答えた。
 
だが、その次のレースで、予想外の事が起こった。最終ターンを抜けたマッケンジーはフィニッシュラインに向けてエンジン全開で飛ばしていた。「よし、今度も優勝は俺のものだ!」その隣に追いついたカーティスが並んだ。「そう簡単に勝たせっぱなしにさせてたまるか、ルーキー!」そう吐き捨てると、カーティスはマッケンジーの前に躍り出ると、一気に加速してフィニッシュラインを超えた。
「カーティス・ルーカスが2戦目ぶりの勝利!流石はピストン・カップ王者だ!」「王座はそう易々と明け渡さないという警告でしょうか?」ダレルとボブの声に熱が籠った。「気を落とすな坊や、レースはまだある。」悔しそうなマッケンジーにマックイーンが言葉をかけた。
ラジエーター・スプリングスに戻って来ると、マックイーンはマッケンジーにクルーズの過去のレース映像を見せた。「レースで勝つには相手の車を利用するのも大切だ。相手の動きを利用して、相手を翻弄してやるんだ。」「そうそう、私の初めてのレースの時もそうだった。ストームに追い詰められた時にアイツの上で宙返りしてやったのよね。」クルーズが楽しそうに言った。
「凄い、どうやって?」マッケンジーが尋ねると、マックイーンが答えた。「俺の師匠のドックの技を真似したんだ。あの技をそう簡単に真似できる車は他にいないよ。」スクリーンに映されたクルーズの走りをマッケンジーは黙って見つめていた。
クルーズの映像から学んだことをマッケンジーは次のレースで活かした。ラストベルト・レースウェイのレースのファイナルラップでマッケンジーは2番手に控えていた。ターンを曲がっていると、インサイドからカーティスが迫って来るのが見えた。「いいか、俺の教えたとおりに他の車を利用するんだ。」マックイーンの声が無線から届いた。「了解。」マッケンジーは短く答えて加速した。
マッケンジーはストレートに入ると、周回遅れのレーサーを内側に追い込んだ。不意に周回遅れのレーサーが行く手を遮ったのでカーティスは怯んで減速した。「おい!邪魔だろ、退けよ!」カーティスが喚いている隙にマッケンジーはそのままカーティスを引き離してフィニッシュラインを超えた。
ピストン・カップの王座をかけた争いは激しさを増した。激しいレース展開にボブもダレルも大声を上げて実況する。「9戦目ではフラッシュ・マッケンジーが1位でフィニッシュ!」「カーティス・ルーカスも忘れないでください!10戦目、11戦目ではカーティス・ルーカスが優勝!凄い走りだ!」「トロイ・ファースターも負けてませんよ。12戦目ではトロイが巻き返し、マッケンジーのポイントを抜き返しています!」「この3台のトップ争い、目が離せませんよ!これは見ものだ!」

そんなある日のレースの後でマッケンジー達はピットで帰り支度をしていた。「よくやったなマッケンジー。今日のレースの成果も良かったぞ。」「ありがとう。」取材を済ませて戻って来たマッケンジーとマックイーンが会話していると、メーターが口を挟んだ。「出発の用意ができたよマックイーン。」「メーター、サーキットでは俺の事はチェスター・ウィップルフィルターって呼ぶように言ってるだろう。」「ああ、そうだったな相棒。悪かったよ、ウィップルフィルター。」メーターはクスクス笑った。
マックイーン達が帰り支度を済ませて待っている仲間達のところに向かうのをガレージの陰から見ている者がいた。カーティスだった。「やっぱり、あのルーキーのクルーチーフをしている田舎者はライトニング・マックイーンだったのか。これは面白い事になったぞ。」カーティスの顔にずる賢い笑みが広がった。
 
シーズンも折り返し地点に入った18戦目はアリゾナ・ステイツ・インターナショナル・スピードウェイで開催された。「カーレースファンの皆さんこんにちは!アリゾナ・ステイツ・インターナショナルスピードウェイへようこそ!このアリゾナのサーキットで、ピストン・カップ18戦目が開催されます。」ボブの声が実況席から響いた。
「今シーズンで注目の3台が今回のレースでどんな展開を繰り広げるのかが見ものですね。現在の総合順位は2980ポイントでフラッシュ・マッケンジーが1位。2位がカーティス・ルーカスが2960ポイント。その次にトロイ・ファースターがカーティスと5ポイント差と続いています。」ダレルが言った。
「今回の勝者は果たして長年チャンピオンの座を手にしているカーティスか、旋風を巻き起こしているトロイかそれともマッケンジーか。」「それを確かめようじゃないか。」ボブの言葉にダレルが答えた。
カーティスはピットでクルーにタイヤのボルトを締めてもらっているところだった。「トロイとマッケンジーのポイントの方がお前よりリードしている。今回のレースで巻き返さないとまずいぞ。」「心配するな。今日の俺には秘策がある。」クルーチーフの言葉をカーティスは涼しい顔で受け流すと、ピットレーンからコースに出てフォーメーションラップに加わった。

「グリーンフラッグがふられた!ブルンブルンブルン!レースの始まりだ!」予選でポールポジションを獲得したマッケンジーを先頭にレーサー達はスタートした。隊列を組んだままレースは2周目に入った。第3ターンに入ると、トロイがマッケンジーを内側から抜き、そのままカーティスも抜き去ろうとした。それに気づいたカーティスが行く手を塞ごうとした隙にトロイはがら空きになった内側から追い上げてトップに立った。
それを利用しようとマッケンジーはカーティスの内側から攻めたが、すかさずカーティスが行く手を阻んだ。不意を突かれたマッケンジーは一瞬バランスを崩し、カーティスに差をつけられた。「気をつけろ、今日のカーティスは手強そうだぞ。」「分かってる。」マックイーンに言われてマッケンジーはそう答えると、注意深くカーティスの後ろに張り付いた。
白熱したトップ争いはマッケンジー、トロイ、カーティスの間で繰り広げられていた。トロイはトップを死守し、マッケンジーは上位に食いつき、カーティスは他のレーサー達を追い上げながら走った。
 
レースはトロイがトップのまま終盤に入った。「トロイがトップのままレースは終盤に入りました。カーティス・ルーカスとフラッシュ・マッケンジーが最後のピットに入っていきます。」アナウンサーのボブが実況した。
ピットインしたマッケンジーにグイドがタイヤを交換し、フィルモアはガソリンを補給させた。「終わったぞ!」クルーチーフが叫ぶと、カーティスはマッケンジーより先にピットを飛び出した。それを見たマックイーンは叫んだ。「急げ皆、早くマッケンジーをコースに戻すんだ!」タイヤ交換と燃料補給が終わるとマッケンジーは急いでコースに戻った。
「フラッシュ・マッケンジーと同時にピットインしていたカーティス・ルーカスが先にコースに戻り、トロイ・ファースターを追走しています。カーティスの後からコースに戻ったフラッシュ・マッケンジーは現在7位を走っています!」ボブが解説した。「かなり厳しい状況ではあるが、フラッシュ・マッケンジー逆転なるか!残り2周でトップ3に入るにはかなり頑張らなければなりませんよ!」と、ダレル。
ファイナルラップに入り、マッケンジーは前を行く2台のレーサーを抜かして、5位に繰り上がった。「マッケンジーが5位になったぞ!」クルーチーフの声を聞き、カーティスはちらりと後ろを振り返った。第3ターンをターンしてくるマッケンジーの姿を目にしたカーティスは隣に並んだ3位のレーサーに忍び寄り、そして次の瞬間わざと接触した!
カーティスにぶつかられたレーサーはバランスを崩して後ろに吹っ飛び、そのまま4位のレーサーを巻き添えにしてクラッシュした。「ああっと、3位のエミット・シュミッツが4位のカーク・ノーマンと接触!」ボブが叫び、観客は息を呑んだ。
3位と4位のレーサーは縺れ合って後ろを走っているマッケンジーに突っ込んできた。「うわっ!」「避けろマッケンジー!」目の前で起きたクラッシュを目にしたマッケンジーはマックイーンの指示を受けて、マッケンジーはクラッシュを避けたが、ランオフエリアまで横滑りしていった。
コースアウトしたマッケンジーを見てカーティスは喚いた。「俺が゛タイフーン″って呼ばれるのは他のレーサーを吹っ飛ばすからさ!」結局、トロイとカーティスの順でフィニッシュし、マッケンジーはコースに戻るまでに2台のレーサーに抜かされ、7位でフィニッシュとなった。
「フラッシュ・マッケンジー、久々にトップ3から外れてフィニッシュ。トロイとカーティスとの成績に大きく差がつけられる事となりました。」「マッケンジーは面白くないだろうね。」ボブとダレルが言った。
 
続く
 
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