ファーカー採石場では脱出劇が繰り広げられていた。機関車達は崩れた岩を崩そうと体当たりをしていたが、いくら体当たりしても線路は開かれない。と、その時不安定になっていた岩が崩れてディーゼルめがけて落ちてきた。ディーゼルはそれに気づいていない!「危ない!」咄嗟にゴードンがディーゼルを突き飛ばした。ディーゼルは助かったが、その代わりゴードンに落ちてきた岩がぶつかって彼のボイラーは凹み、大きな穴も開いてしまった。
傷ついたゴードンを見てディーゼルは言葉を失った。「ゴードン……どうしてお前俺を助けたりしたんだ?自分の身を挺してまで……。」「俺はお前の事が別に好きってわけじゃないが。今はこの採石場から脱出して島を大ピンチから守る仲間じゃないか。仲間なら助けるのが当然だろ?お前は俺を助け、俺はお前を助ける。」
その言葉を聞いた他の蒸気機関車達とディーゼル機関車達は顔を見合わせて笑顔になった。普段はいがみ合っている蒸気機関車とディーゼル機関車だが、今は島を救うためにお互い手を組む事にしたのだ!蒸気機関車もディーゼル機関車も一丸となって崩れた岩に体当たりしていく。
そこへクラクションを鳴らしてジャック達が駆け付けた。「岩を退かす事なら僕らの専門だ。手伝うよ、僕らの助けも必要だろ?」こうしてジャック達も加わり採石場からの脱出劇が始まった。
ジャックとオリバーとアルフィーは懸命に石を掘り起こし、パーシー達は岩壁を破ろうと必死に体当たりをするがいくら経っても線路が開かれる気配はなかった。「このままだと日が暮れちゃうよ!」ジェームスが叫んだ。「僕たちだけじゃこの岩を退かすのは無理だよ!」ジャックも弱音を吐いた。「頑張るんだ皆、きっともうすぐ脱出できるはず……。」パーシーが言いかけたその時聞き覚えのある汽笛と警笛が聞こえてきた。
「トーマスだ!」「ディーゼル10も一緒だぞ!」パーシーとディーゼルが嬉しそうに言い、周りの仲間達は歓声を上げて汽笛や警笛、クラクションを鳴らした。「皆大丈夫かい?」「うん、何とかね……でも僕らだけじゃここから脱出するのは無理そうだ。」
「僕らもいるぞ!」汽笛を響かせてマリオンとグラップルを付けたハーヴィーがやって来た。「ここに来る途中で会ってね。応援に来てもらったんだよ。」トーマスが説明した。
「待ってて、こっちからも岩を退かすよ!」「下がってろよお前ら!」そう言ってトーマスとディーゼル10とハーヴィーとマリオンは岩を退かし始めた。トーマスは付けてきた雪かきで岩をかき分け、マリオンはバケットで岩を掬い、ハーヴィーは懸命にクレーンを動かした。ディーゼル10も今までにない程ピンチーを動かして岩を退かしていた。
「彼らに任せてるだけじゃダメだ!僕らも頑張ろう!」パーシーの声で閉じ込められている機関車たちも声を上げて、再び岩の山に立ち向かった。
両側から岩を退かしているので、さっきよりも岩の減る早さが早くなっていた。そして遂に……。「これで終わりだ!」ジャックが最後の岩を線路から退かし、遂に採石場の入り口が開いた。
脱出できた事に機関車たちは歓声を上げ、労いの声をかけ、トーマス達との再会を喜んだ。「ゴメンよトーマス。僕ら、君を勘違いしてたみたいだ……。君の言う事を聞いておけばこんな事にならなかったのに……。」ヘンリーが前に進み出て謝った。「僕らと友達でいたくないよね……。」ジェームスも項垂れた。
「そんな事ないよ、何言ってるんだ。僕らは今までもこれからもずっと友達だよ!」トーマスが明るく言った。「それじゃあトーマス、俺たちを……。」「許してくれるのですか?」ゴードンとダグラスが恐る恐る口を開いた。「もちろんじゃないか!友達なら誰でも誤解したり、喧嘩もするよ。だけどそれは友達だからこそできるんじゃないのかな?」笑顔で言うトーマスを見て、ゴードン達も笑顔を見せた。彼らもトーマスの言うとおりだと思った。
「君の事を疑って悪かったよトーマス。」ベンはすっかりしょぼくれていた。「僕は初めから君が僕らの悪口なんて言ってないと思ってたけどね。」「ビ、ビル!」「あはは、もう良いんだって。」
「俺たちも悪かったよディーゼル10。」「もう少しアンタを信用すべきだったよ。」ディーゼルとハリーがすまなさそうに言う。「あんたこそが俺たちの最高のリーダーだ!」バートが言うとディーゼル10は笑顔になった。
「良かったねディーゼル10、リーダーに戻れて。」トーマスが言うとディーゼル10は首を振った。「いいや、俺はリーダーに戻れた事じゃなくてこいつらの元に戻れたのが嬉しいのさ。」それを聞いてトーマスも笑顔になった。
「そうだ、それよりメインランドのディーゼル達を止めなきゃ!」パーシーが思い出して叫んだ。「あのスパム缶め、次に会ったら缶切りで開けてやる!」ゴードンが腹立ちまぎれに言った。「よし、それじゃあ手分けしてディーゼル達を捕まえていこう!」トーマスが言い、機関車たちは汽笛や警笛を鳴らした。
スプラッターとドッヂは隙を見てコッソリ採石場を抜け出そうとしていた。「何だか雲行きが怪しくなってきたな。」「今のうちに逃げ出そう。」だがディーゼル10を逃がすはずがなかった。ディーゼル10は逃げ出そうとする双子の行く手をピンチーで塞いだ。「おっと、待ちな。お前達にはたーっぷりお仕置きしてやる必要がありそうだなあ、スプロッヂ?」
ディーゼル10の恐ろしい笑顔を見たスプラッターとドッヂの悲鳴が空高く響き渡った。「ひ、ひ、ひえええええええええっ!」「お助けえええええええええっ!」
 
アンディは気持ちよさそうに急行を牽いて本線を走っていた。エンジンはゴロゴロ唸り、彼は快適な旅を楽しんでいた。と、後ろから低い汽笛と高い汽笛が聞こえてきてベンとダグラスが追いかけてきた。
「待てーっ!」「その急行を返すゴードンに返しなさーい!」アンディは振り返ってベンとダグラスが追いかけて来るのを見て鼻を鳴らした。「健気なもんだねぇ君たち。でもまあ支線で働く小さい機関車が僕みたいな本線の大きなディーゼルに敵うとは思わないけど。」そう言うとアンディはエンジンを唸らせ、さらに加速した。
「君たちのスピードが急行を牽く僕に敵うと思うのかい?」ぐんぐん引き離されて小さくなるベンとダグラスを見てアンディは嘲笑った。「ま、待ちなさい!」「このままだと逃げられちゃうよ!」息を切らすダグラスにベンが言った。
視線を前に戻したアンディは思わずギョッとした。前方でダグラスとベンが立ち塞がっているではないか!アンディは急ブレーキをかけた。「君たち、何で……?そんな、さっきまで後ろから僕の事を追いかけてきてたのに……こんな馬鹿な事が……。」
「我々は島で1番速い機関車なのです。」あまりの出来事に動揺するアンディにダグラスが涼しい顔で説明する。「さあ、大人しく僕らに捕まれよ。」ベンが言い、2台が詰め寄った。アンディは後ずさると後ろ向きで逃げ出した。ところが後ろからもダグラスとベンがやって来てアンディを挟み撃ちにした。
そこでアンディはようやく納得した。「そうか……君たち双子だったんだな!片方にわざと僕を追いかけさせて、もう片方が待ち伏せしておいたって事か!」「そういう事さ。」ビルが得意げに言う。アンディを待ち構えていたのは実はダグラスとベンではなく双子の兄弟であるドナルドとビルで、ダグラスとベンがアンディを追いかけてドナルドとビルの待ち構えている場所に追い込む計画だったのだ。
まんまと計画に嵌った哀れなアンディは2組の双子に捕まえられた。
 
ヴィンスとハンフリーは重連してナップフォード駅から急行列車を牽いて行くところだった。緑の旗が振られて笛の音が響き、2台のディーゼルは警笛を鳴らしてゆっくりと動き出した。「急行列車のお通りだー!」ゴードンの口真似をしながら2台のディーゼルは愉快そうに笑ったが、不意に列車事後ろに引っ張られた。
「おいヴィンス!後ろに引っ張るなよ!」「俺じゃねえよハンフリー!」「じゃあ、誰が……。」ディーゼル達が振り返ると列車の最後尾でヘンリーが彼らを後ろに引っ張っているのが見えた。「ここから1歩も動かないぞ!」
だが力はヴィンス達の方が遥かに上だった。「お前に敵うもんか!」「俺達にゃ敵いやしないさ!」ヴィンス達の力でヘンリーは徐々に前に引っ張られ始める。もう駄目かと思われたその時!「ヘンリー、助っ人に来たぜ!」ディーゼルがヘンリーの後ろに繋がった。
「へっ、チビのディーゼルが1台増えただけ何になるんだ?」「でもそのチビのディーゼルが2台増えればどうかな?」ヘンリーとディーゼルの後ろにさらにハリーとバートが繋がった。「1台のチビのディーゼルじゃ大きいディーゼルには敵わないが、3台のチビのディーゼルだと大きいディーゼルも敵わないのさ!」「蒸気機関車とディーゼル機関車が協力し合ってるってのあるけどね。」ハリーの言葉にヘンリーが付け足した。
「もっとパワーを出せヴィンス!」「やってるよ!お前こそもっと力いっぱい引っ張よ!」ヴィンスとハンフリーとヘンリー達は暫くその場で引っ張り合っていたが、遂にヴィンスとハンフリーのエンジンから大きな音がして黒煙が吹きあがって止まった。オーバーヒートしたのだ。
歓声を上げるディーゼルにヘンリーが声をかけた。「さあ、こいつらをティドマス機関庫まで連れて行こう!」
 
トラック3兄弟はジャックとアルフィーに追いかけられていた。「待て!」「そのトラック止まれ!」「誰が止まるもんか!」「止まれって言われて止まる奴なんていねえよ!」交差点に来た時デューイが他の兄弟に言った。「おい、分かれて逃げるぞ。」デューイの言葉にヒューイとルーイがせせら笑った。
こうしてトラックの3兄弟はそれぞれ別方向に逃げ出した。それを見たジャックとアルフィーは急停車した。「どうしよう、別方向に逃げたぞ!これじゃあ追いかけられない!」「大丈夫、すぐに捕まるさ。」焦るアルフィーにジャックが余裕たっぷりに答えた。
デューイは崖沿いの道路を走っていた。「へへ、上手く撒いたぞ。」デューイがほくそ笑んだその時、目の前からマックスとモンティが横に並んでけたたましくクラクションを鳴らして猛スピードで突進してきた。「うおおおおっ!?」マックスとモンティを避けようとハンドルを切ったデューイはそのまま道から外れて真っ逆さまに崖の下に落ちた。
ノランビーの漁村に来たルーイは貨物の陰に身を隠した。「ここなら誰にも見つからないだろう。」その時貨物が吊り上げられてルーイの姿は丸見えになってしまった。木箱を吊り上げたのはジャックの仲間であるクレーン車のケリーだった。「おやおや小さなトラックさん、ここで何してるんだい?」
「うわあっ!」ケリーに驚いたルーイはギアをバックに入れてしまいそのまま後ろ向きで船を陸に上げるための坂から海に滑り落ちてしまった。「助けてあげるよ。」そう言ってケリーはルーイを釣り上げて一緒に来ていたネルソンのトレーラーに彼を積み込んだ。
ヒューイはジャックとアルフィーに追いかけられていた。「しつこい奴らめ、俺に追いつけるもんか!」そう言ってヒューイはスピードを上げた。追いかけて来るジャック達に気を取られていたヒューイは前方不注意になっていた。
丁字路に差し掛かった時彼は目の前をパワーショベルのオリバーが横切って来るのを目にした。「ギャッ!」ヒューイは悲鳴を上げてブレーキをかけたがもう手遅れだった。そのまま彼はオリバーに突っ込んで、自分のエンジンを壊してしまった。
 
こうしてアンディ、ヴィンス、ハンフリーそして線路に戻されたスプラッターとドッヂはティドマス機関庫に集められた。彼らが逃げ出さないようにヘンリー達が見張っている。
トラック3兄弟が連れてこられると、トーマスは思わず笑い転げた。「君達は昔と変わらないね。ペチャンコにエンコにドンブラコだ!」
そこへトップハムハット卿の青いセダンが駆けこんできた。「会議から戻ってみれば、何の騒ぎだね!彼らは誰だ!」トップハムハット卿は見慣れないディーゼル達を見て眉をひそめた。
「彼らはトップハムハット卿がいない間にソドー鉄道を乗っ取ろうとしていたメインランドのディーゼル達です!」「何だって?」トップハムハット卿はアンディを見た。
「君は確か前にソドー島に来た事があるな……。」「はい、この鉄道から追い出された事を逆恨みして僕らをお払い箱にしてこの島に居座ろうと考えていたんです!」トーマスが説明するとトップハムハット卿の表情は見る見るうちに険しくなった。
「私の鉄道は本当に役に立つ機関車だけが働けるんだ!役に立たないうえに問題ばかり起こす機関車は必要ない!お前のような機関車はもうここに来なくていい!」「こんな鉄道、2度と来るか!」トップハムハット卿に雷を落とされたアンディは反省する様子も見せずに腹立たし気に呟いた。
トップハムハット卿はハンフリーとヴィンスを見た。「君たちは何だね?」「お、俺たちはただアンディからこの島を乗っ取る話を聞いて……。」「それに参加しただけです。」「つまり君たちもトラブルを起こしたんだな?君たちの持ち主にこの事を報告してやる!」
次にトップハムハット卿はスプラッターとドッヂの方を振り返った。「それから君達はここで何してるんだ?」スプラッターとドッヂはトップハムハット卿の剣幕に怯えている。「お、おお、オイラたちはそのぉ……。」「えっとぉ、何もしてませんです!」「ス、スタンに計画に協力させられて……。」
それを聞いたトップハムハット卿は双子に雷を落とした。「君たちも原因じゃないか!君らもメインランドに送り返してやる!」「そ、そんなぁ。」「何か問題があるのかね?」「い、いえ!何も!」「仰るとおりにします!」トップハムハット卿に睨まれた双子は震え上がった。
トップハムハット卿はトラック3兄弟も厳しく叱った。「君たちもメインランドに送り返すぞ。2度とこの島に戻って来るんじゃない!」トラック3兄弟は返す言葉もなく、悔しそうに唸り声を上げた。
その時トーマスがある事に気づいた。「ちょっと待って……スタンはどこ?」「スタンだって?」トップハムハット卿が尋ねた。「D199の名前ですよ。彼がこの計画の首謀者なんです。その彼がどこにも見当たらないんです!」「何だって?すぐにD199を探し出して捕まえるんだ!」
「見て!スタンが逃げ出してる!」パーシーが叫んだ方を見るとスタンがこそこそと逃げ出すのが目に飛び込んできた。逃げ出した事がバレた事に気づいたスタンは愉快そうに警笛を鳴らして叫んだ。「あばよソドー島のくず鉄ども!今度は必ず復讐してやる!その時を楽しみに待ってろよ!」
「スタン!?」アンディが叫んだ。「ちょ、ちょっと待ってよボス!助けてくれよ!」「オイラたちはどうなるんですかぃ?」「俺たちは置いてきぼりか!」メインランドのディーゼル達はスタンが逃げ出したのを見てショックを受けた。
「お前たちは勝手にしろ。作戦に失敗した奴に用は無いんだよ!」スタンはそう吐き捨てると加速した。
「待つんだ!止まれスタン!」トーマスは叫ぶと、汽笛を鳴らして全力で追いかけ始めた。それを見たスタンは嘲笑った。「お前に俺を捕まえられるかな?」
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スタンはティドマスからビカーズタウンを目指して本線をひた走った。「止まれ!止まるんだー!!」「嫌なこった!」
ナップフォード駅では沢山の列車や機関車が行きかっていた。「退け退けー!そこを退けー!」目の前を貨車を押して横切ろうとするフィリップを見たスタンは警笛を鳴らしながら叫んだ。
その声に驚いてフィリップは思わずポイントの真上で止まってしまった。スタンはスピードを緩めずにそのまま突き進み、フィリップの押していた貨車を体当たりで吹っ飛ばした。
スタンはそのまま旅客列車を牽いたハンクの前を通過した。飛び出してきたスタンにぶつかりそうになったハンクは急ブレーキをかけて怒鳴った。「危ないじゃないか!信号が赤だぞ!」だがスタンは謝りもせずにせせら笑いながら走り去っていった。
ハンクが再び走り出そうとしたところへスタンを追いかけるトーマスが横切ったのでハンクはまたもや急ブレーキをかけて怒鳴った。「トーマス!」「ゴメンよハンク!」トーマスはロージーの線路に割り込み、向こう側からやって来たエドワードを避け、ぶつかりそうになるたびに仲間たちに謝りながらナップフォード駅を通り抜けた。
 
逃げるスタンと追うトーマスが猛スピードで本線を疾走していくのを見てすれ違う機関車や駅にいる人々は驚いた。ナップフォード駅を抜けたトーマスはスタンのすぐ後ろに迫っていた。
「追いついたぞ!」トーマスが嬉しそうに叫んだ時、特急列車を牽いたコナーが汽笛を響かせながら向こう側からやって来るのが見えた。さらに彼らの前にジャンクションが近づいていた。このままでは衝突してしまう。
スタンがジャンクションを通過し、トーマスもその後を追おうとしたところでコナーの列車がトーマスの目の前を通過した。トーマスは列車にぶつかる寸前で止まった。「何してるんだいトーマス。」「あのディーゼルを捕まえる為に追いかけてるんだ!早く退いてよコナー!逃げられちゃうよ!」
トーマスに急かされたコナーは彼に道を開ける為に移動したが、コナーの列車は長く道が空くのには時間がかかった。その間にスタンはどんどん遠くへ逃げ、トーマスとの距離を開けていた。
トーマスを撒いたスタンは後ろを振り返りながら嬉しそうにほくそ笑んでいた。「撒いたな。あの青いタンポポ頭が俺に追いつこうなんて無理な話なんだよ。」ところがそれは甘い考えだった。
 
エドワードの支線のジャンクションに来た時、クロックス精錬所で働くトーマスの友達のクリフ、レイ、セーラ、セイヤが駆け付けてスタンを取り囲んだ。「ようデカブツ!」「どこに行くんだい?」「俺達と一緒に走ろうぜ~?」クリフ達がせせら笑った。
前も後ろも右も左も取り囲まれ、スタンは逃げるに逃げれなかった。おまけにクリフ達がスピードを落とすのでスタンもスピードが出せなかった。彼はイライラした。「そこを退けチビ共!聞いてるのか!線路を開けろ!」スタンが喚いたがクリフ達は聞く耳を持たなかった。
そこへトーマスの汽笛が聞こえてきた。「急げトーマス!逃亡者を取り押さえたぞ!」レイが叫んだ。「そう簡単につかまってたまるか!」スタンはそう叫ぶとクリフに体当たりした。突き飛ばされたクリフは線路を外れ、隣の線路を走るセイヤの行く手を塞いだ。
「何しやがる!」クリフが怒鳴ったがスタンは相手にせず逃げ出した。「ゴメンよトーマス!力になれなくて。」レイが済まなさそうに謝った。「良いんだよ気にしなくて。協力してくれてありがとう!」「応援してるよトーマス!幸運を!」セーラが言った。
 
逃走を続けるスタンの前にまた新たな障壁が立ちふさがった。本線にある踏切でパワーショベルのオリバーが彼を待ち構えていたのだ。オリバーは体を回転させるとショベルでスタンの線路を塞いだ。「うおおおおっ!そこを退けえええっ!」だがオリバーは頑として動こうとしない。
スタンもこんなところで止まるつもりはなかった。彼はそのままオリバーに突進し、彼のショベルのアームを押しのけて踏切を通過した。「僕に任せろ!」今度はクレーンのケリーがスタンめがけてフックを放り投げた。
ケリーのフックは上手くスタンに引っかかった。「行けケリー!」「負けるな頑張れ!」ジャックとアルフィーが応援する。ケリーはスタンを引き寄せようとケーブルを巻き、クレーンのアームを動かした。
「は、離せ!離せーっ!」スタンは喚くとフックを外そうと体を揺すり、唸り声を上げて懸命に前に進んだ。スタンとケリーの引っ張り合いは暫く続いたがスタンに勢いよく引っ張られたケリーはバランスを崩し、そのまま騒音を立てて横倒しになった。
「ケリー!」ジャック達がショックを受けて叫び、駆け寄った。「へへ、あばよ車共!」その隙にスタンは嘲笑いながら逃げ出した。「ケリー大丈夫?」追いかけてきたトーマスが心配して立ち止まった。「僕なら大丈夫だ。それより奴が逃げるぞ!急いで追いかけて捕まえろ!早く!」ケリーに言われ、トーマスは力強く頷くとスタンの後を追って走り出した。
 
スタンは尚も逃走していた。必死に追いかけて来るトーマスを見てスタンは喚いた。「しつこい奴め、いい加減諦めろ!」「絶対に諦めるもんか!」彼らの追走劇はビカーズタウンに入っても続いた。
遠くにビカーズタウン駅が見えてくる。それを見たスタンは嬉しそうに叫んだ。「もうすぐメインランドだぞ!俺の勝ちだ、残念だったなトーマス!」トーマスは悔しそうに顔を歪めた。
ビカーズタウン駅を通過した時トーマスのスピードが落ちた。大きなスタンは長距離の本線を走れる燃料を積んでいたが、小さなトーマスには本線を走り切る燃料は積まれていない。さらに悪い事に燃料を1回も補給せずにスタンを追いかけ続けたせいでトーマスの石炭と水はもうすぐ底を尽きそうだったのだ。
トーマスのスピードが徐々に落ち、スタンがどんどん遠ざかっていくのを見てトーマスは叫んだ。「そんな!」「さらばソドー島!さらばトーマス!」その時大きな警笛を鳴らして誰かが猛スピードで反対側の高架を走って来た。ディーゼル10だ!「諦めるのはまだ早いぞ、トーマス!」「ディーゼル10!」
「何?」スタンは目の前の線路がディーゼル10の線路と合流しているのに気づいてギョッとした。「そう焦らないでもっとゆっくりしていけよ。」ディーゼル10がにんまりしながら言った。スタンは急停車したが、間に合わず線路の合流する部分でディーゼル10と激突した!
ディーゼル10に体当たりされたスタンは線路から外れ、悲鳴を上げながらそのまま高架の壁を突き破って車体の半分が宙からはみ出した状態になって止まった。下には道路が見え、風が吹く度にスタンの車体はシーソーの様にゆらゆらと揺れた。「助けてくれえええっ!!」スタンの声が辺りに響き渡った。
 
夕方になってビカーズタウンの大惨事を片付ける為に救援隊がやって来た。ジュディとジェロームに救助されたディーゼル10はディーゼル整備工場に連れて行かれ、スタンはロッキーに平台の貨車に積まれた。
スタンが貨車に積み込まれるとトップハムハット卿がやって来た。「君がこの鉄道に混乱と遅れを引き起こした張本人だそうだな!」「え?えぇっと……ち、違いますよぉ。トーマスとディーゼル10が……。」
「言い訳するな!話はトーマスから全て聞いてるんだ!」トップハムハット卿が雷を落とし、トーマスが後ろからやって来た。
「君は私の鉄道の機関車の信頼を落としてお払い箱にしようとしたそうだが、私は彼らを役に立つと信じているんだ!そんな彼らをそう簡単にお払い箱にするつもりはない!最も、君のような機関車は私の鉄道で働かせる訳には行かん!分かったら大人しくメインランドに戻って、2度とこの鉄道に来るんじゃない!」
説教を終えたトップハムハット卿が立ち去ると、トーマスがスタンに近づいて耳打ちした。「ふふふ、僕らの信頼を落とすつもりが自分の信頼を落としちゃったね。」スタンは悔しそうに唸り声を上げた。
スタンはその日の夕方にドナルドの牽く貨物列車に繋がれてメインランドへと送り返され、スタンの仲間達もそれぞれメインランドに戻され、2度とソドー島に戻って来る事は無かった。
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スタン達の暴動から数日後。スタン達が引き起こした混乱と遅れは中々取り戻されなかったので、ソドー島の機関車たちはいつも以上に忙しく働く事になった。スタン達を追い払うのに力を合わせて戦ったソドー島の蒸気機関車達とディーゼル機関車達だったが数日も経ったのと仕事の忙しさのせいで前と変わらない関係に戻っていた。
戻ったと言えば、岩崩から身を挺してディーゼルを救ったゴードンも修理を済ませて急行列車の仕事に戻る事ができた。大好きな仕事に戻れたゴードンだが、ナップフォード駅のジャンクションでディーゼルと口論になってしまった。
理由はディーゼルが信号を無視してゴードンの前に飛び出してきたからだ。「気をつけろディーゼル!こっちは貨物を運んでるお前と違って乗客を乗せてるんだぞ!」「お前の方こそ気をつけろ!お前が気をつけてれば急ブレーキをかけずに済んだはずだ!」
だがその一方で変化も見れた。仲の悪かった蒸気機関車とディーゼル機関車の中に助け合う者も現れ始めたのだ。レッジのスクラップ置き場にスクラップを回収しに来ていたハリーとバートだったが、バートが故障したので双子はそこから動けなくなってしまっていた。
そこへレッジの燃料を届けに来たエミリーが声をかけた。「困ってるみたいね。良かったら何か手伝いましょうか?」「それじゃあスクラップは俺が引き受けるからお前はバートをディーゼル整備工場まで押して行ってやってくれないか。」「任せてちょうだい。」
列車から切り離されたバートをエミリーが押して行こうとするとハリーが照れ臭そうに声をかけた。「助かったぜエミリー。その……ありがとよ。」「恩に着るぜ。」バートも言った。「良いのよ、これくらい。仲間なんだから助け合うのは当然でしょ。」エミリーはそれだけ言うと走り去ったが、その顔には笑顔が浮かんでいた。
 
騒動が収まり、混乱と遅れも無くなり、ようやく落ち着いてきたある日の夕方。トップハムハット卿は機関車たちをナップフォードの操車場に集めた。「諸君の働きのおかげでようやく混乱と遅れを取り戻された。私の鉄道の機関車は大きくても小さくても蒸気機関車でもディーゼル機関車でも信頼できる、役に立つ機関車だと信じているぞ!」
そこへ警笛を鳴らして1台のディーゼル機関車が操車場にやって来てトーマスの目の前に止まった。そのディーゼル機関車を見てトーマスは笑顔になった。「ディーゼル10!修理されたんだね!」「ああ、だいぶ時間がかかっちまったがようやく戻って来れたんだ。」
「島を救った英雄になった気分はどうだい?」「まあ、悪い気はしないな。」ディーゼル10は素っ気なく答えたつもりだったが、それでもどことなく嬉しそうに見えたのは確かだった。
「どうだい、これからも困った時はお互い助け合うってのは。仲間として、友達ともしてね。」「何言ってんだ。この間も言ったろ?今回の事はこれっきりさ。じゃあな、もうこんな事に巻き込まないでくれよ?」ディーゼル10は照れ臭そうに言って操車場を後にした。
ディーゼル10を見送りながらパーシーがトーマスの隣にやって来て囁いた。「ディーゼル10って本当素直じゃないよね。どうしてあんなに捻くれてるんだろ?」「さあね?でも今度の事で彼自身がディーゼル機関車にも良いところがあるって証明してくれたんじゃない?あとは僕らがそれを理解しないとね。」
 

メインランドのゴミ集積場は忙しい1日を終えようとしていた。ゴミ集積場ではスプラッターとドッヂ、トラック3兄弟だけでなくスタンやアンディも働いていた。ソドー島での騒ぎはメインランドにも伝わり、彼らの持ち主がお灸を据えたのだ。
スプラッター達はゴミ集積場の仕事に慣れているし、アンディ達は臭いと汚れと戦うだけでで良かったが、スタンは特に酷かった。「おいスプラッター!そこのゴミの貨車を持っていけ!」「それはアンタの仕事でしょうが。ご自分でどーぞ。」「ドッヂ!」スタンはドッヂを呼び止めたが、ドッヂはそっぽを向いて素通りした。
「アンディ!」「もうアンタの言う事は聞かないよ。アンタのせいでこんな目になったんだ!」アンディもスタンとは目を合わせず恨めしそうにぶつぶつ言いながら通り過ぎた。スタンの人使いの粗さや彼に巻き込まれたせいでお灸を据えられたアンディ達はすっかり彼を恨み、愛想をつかしていた。おかげでアンディはメインランドどころかゴミ集積場でも独りぼっちになってしまっていた。
「くそっ、こうなったのも全部あの青いタンポポ頭のせいだ。おかげで俺は誰からも相手にされん!」スタンは腹立たし気に言うと目の前の貨車に体当たりした。「タダでは済まさんぞ、ソドー島の野郎ども。今に復讐してやるからな!」「良かったらその復讐に手を貸そうか?」聞き慣れない声を耳にしたスタンが振り返ると、そこには見慣れない1台のディーゼルが立っていた。
そのディーゼルの言葉にスタンは新たな復讐計画を思い付き、にんまりと邪悪な笑みを浮かべた。
 
●終わりの挨拶
4回にわたってお届けした「Battle of Sodor」も今回で終了です。長文なうえに読みづらい記事をここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。
今月中に公開予定だったのが、先延ばしにし過ぎて急いで投稿したのでドタバタ感はありますが、今月中に投稿できて良かったです。
長編のあとがきは長くなるので年末投稿予定の「Making of 〝Battle of Sodor"」にて書かせて頂きます。
次回は来月から投稿するカーズの長編のあらすじを紹介します。
では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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