ティドマス機関庫を離れたトーマスは行く当てもなく彷徨っていた。ふとトーマスは森に続く忘れられた古い廃線がを見つけた。「仕方ない、今夜はここで過ごそう。ここなら誰とも会わなくて済むし。」
トーマスは森の中で休める場所を探して、木々をかき分けて奥へ奥へとずんずん進んでいった。やがてトーマスは森の開けた部分に出た。その時トーマスは何かにぶつかった。「何だコレ?」トーマスがランプで照らそうとする前に誰かの声がした。
「おい誰だ、俺様にぶつかったのは。」その声の主は巨体を動かした。「そ、そこにいるのは……まさか……。」トーマスの前に姿を現したのはピンチーを持ち上げたディーゼル10だった。「おやあ?俺が寝ぼけてなけりゃここに居るのは青いタンポポ頭じゃねえかあ?」ディーゼル10がピンチーをガチャガチャ鳴らしながら言った。
「こんな夜にこんな森でたった1人で何してるんだあ?友達は良いのかあ?」「べ、別に君には関係ないだろ!」「仲間割れでもして追い出されたか?」それを聞いた途端トーマスはある事に気づいた。「そうか……。君がライアンの事故の原因を僕のせいにしたのは僕らが仲間割れさせるための罠だったんだな!ダックとオリバーの字も君たちの仕業だったのか!」
ディーゼル10が高笑いするとピンチーを振りかざしたのでトーマスは後ずさった。ディーゼル10は笑い終えるとピンチーで涙をぬぐうフリをして答えた。「ご名答だタンポポ頭。だが計画したのは俺じゃない……。」「騙されないぞ!君の言う事なんか信じられるもんか!」「本当さ、この計画を考えたのはスタンとかいうディーゼルだ。奴はこの島の奴らに復讐してやりたいとかなんとか言ってたなあ。」
「嘘だ!この島にスタンなんてディーゼル来た事も無いよ!」「ディーゼル10の言ってる事は正しいよ!」トーマスがディーゼル10の言う事を否定した途端声がしてトーマスの隣に1台の機関車が止まった。「フィリップ!?」「おやおやおチビさん。夜の森は怖くないのかい?」ディーゼル10がからかったがフィリップは無視した。
「どうしてディーゼル10の肩を持つんだいフィリップ。彼は前に1度君と僕を陥れようとしたんだぞ!」「確かにそうだけど、僕ちゃん見たんだ、知らないディーゼル機関車が島を乗っ取ろうと計画してるところやディーゼル10に君が事故を起こしたように仕向けようとしてるところもね!」
「分かったよ……ディーゼル10の言う事は信じられないけど、君がそう言うなら彼の言う事を信じてみるよ。ところでディーゼル10はどうしてここにいるんだい?」「スタンがディーゼル10をディーゼル整備工場から追い出してディーゼル達の新しいリーダーになったんだ!」
「そんな事よりチビ助、どうしてここに俺たちがいる事が分かったんだ?」ディーゼル10が尋ねた。「君を探してる時にトーマスが森に入っていくとこを見てついてきたんだ。そうだ!君たちに伝える事があるんだよ!さっきスタンが怪しい行動をしてたんだよ。」「怪しいって何が怪しいんだ?」ディーゼル10は興味なさげに聞いた。
「見慣れないディーゼル2台と一緒に夜中に工場の外へ抜け出したんだ。」「見慣れないディーゼル?それで彼らはどこに行ったの?」トーマスが食いついた。「分からないけど……多分古い操車場じゃないかな?それで君たちに様子を探ってもらおうと思ってきたんだ。」
「どうして僕らが?君がいけば良かったじゃないか。」トーマスがムッとして言った。「だって君たちなら頼りになるから……。トーマスは勇気があるし、ディーゼル10は強いだろ……?」「しょうがない。行こうディーゼル10。」「お断りだね!何で俺がお前なんかと一緒に……!」
「彼らが何をしてるか暴いたらディーゼル整備工場に戻れて、リーダーにも戻れるかもしれないよ?」トーマスが説得すると、ディーゼル10は目の色を変えた。彼はため息をつくと答えた。「いいだろう。分かったよ。協力してやろう。」「やったね!君たちはこれでフレネミーだ!」フィリップが嬉しそうに叫んだ。
「なんだその……フレネミーって。」ディーゼル10が尋ねた。「敵同士が手を組んで仲間になる事だよ。」「なんだそりゃ。俺にとったらそんな事どうでも良いね。」ディーゼル10は鼻を鳴らして走り出した。
 
トーマスとディーゼル10はフィリップに教えられた古い操車場にやって来た。古い操車場には人気は無く、機関車も1台もいなかった。代わりに壊れた貨車や使わわれていない貨車が放置され、線路も壊れているところがあった。
「フィリップに教えられた操車場はここなんだけど……。」「誰もいないじゃないか。奴らは本当にここにいるのか?」「しっ、何か話声がする。」トーマスはディーゼル10を黙らせると、彼と一緒に話声のする方に行き、近くの建物の陰に隠れて、そこから様子を伺った。
そこには2台のディーゼルと3台のトラックがいた。「彼らは……トラック3兄弟に……。」「スプロッヂじゃねえか。アイツらこんなところで何してるんだ……?」ディーゼル10は元部下を見て眉をひそめた。
そこへ警笛を鳴らしてスタンが3台の大きなディーゼルを引き連れてやって来た。「よう、お前ら。お客さんを連れてきたぜ。」スタンが言った。「おう、遅かったじゃねえか!」「待ちくたびれたぞ!」トラック兄弟のデューイとルーイが喚いた。
「こんなに集めて何を始めるんですかいボス?」スプラッターが尋ねた。「あ、もしかしてパーティーでも始めるつもり?」「おお!やったぁパーティーだ!」「パーティー大好き!」「風船も飾る?」「ごちそうは何かなあ~?」
はしゃぐ双子のディーゼルを周りの機関車たちは冷たい目で見ていた。スタンが警笛を鳴らして怒鳴った。「この間抜け!パーティーじゃなくて作戦会議を始めるんだ!」「ええ~。」「そんなぁ。」
「こんな頼りない連中が仲間なのかいスタン?」1台のディーゼル機関車が見下したようにスプラッターとドッヂを見た。「おたくはどちら様で?」ドッヂが尋ねた。「自己紹介が遅れたね。僕の名前はアンディ。スタンがこの島の連中に復讐をするって言うんで彼の計画に参加したのさ。」
「アイツは……前にソドー鉄道に来て山高帽を通気口に吸い込んで故障したディーゼルじゃないか!」アンディを見てトーマスは驚いた。アンディはあのディーゼル261だったのだ。
「俺はヴィンスだ!」「俺はハンフリー!」他のディーゼルが自己紹介した。「俺たちはアンディの紹介でスタンに知り合ったんだ。」「俺たちも蒸気機関車がうじゃうじゃいるこの島が気に入らなくて、革命を起こしに来たのさ!」
「新メンバーも加わったところで作戦会議を始めよう。」「計画はどこまで進んだんだスタン?」ヒューイが尋ねた。「順調だ。この島のディーゼル共は本当に間抜けだ。俺が復讐の話をしたら簡単に協力してくれたよ。」
「へへへ、間抜けなディーゼル共だ。そんなんだからいつまで経ってもこの小さな島に革命を起こせないんだ。」「ここがメインランドの優秀なディーゼルとの違いだな。」「こんな島にいるから頭に蒸気がこびりついてるんじゃないか?」ヴィンスとアンディとハンフリーが嘲笑った。
「ディーゼル共のリーダーのディーゼル10を追い払った今、島のディーゼルは俺の支配下だ。あとは奴らを蒸気機関車と一緒に始末して、この島にメインランドのディーゼルを走らせるように仕向ければ俺の復讐作戦は成功だ!どうよ、これこそ最高の計画だ!」
「良いぞボス!」「やれやれー!」スプラッターとドッヂがおだて、トラック兄弟がクラクションを鳴らしたり、歓声を上げた。「スプラッター!ドッヂ!お前らは明日島の蒸気機関車とディーゼル機関車共を何台かファーカー採石場に呼び寄せるんだ。」
「何でオイラたちがそんな事を……。」「口答えするな!島の奴らに復讐したいって言うから仲間にしてやったのにお前らときたらお喋りばかりで何の役にも立たないじゃないか!いい加減ちょっとは役に立つ仕事をしろ。」反論したドッヂに向かってスタンが喚いた。
「オイラたち本当にボスに恵まれないよな。」「なんでこんな奴ばっかりボスになるんだろ?」「さあ?」スプラッターとドッヂが囁き合った。
「なるほどなあ。表向きじゃ俺たちに協力して島の蒸気機関車共をお払い箱にする風に見せかけて、裏じゃ俺たちもお払い箱にしようとしてたわけか。」様子を伺っていたディーゼル10が呟いた。「ソドー島の大ピンチじゃないか!ディーゼル10、早く皆に知らせよう!」
「なんでそんな事しなきゃならないんだ?」「だって島のピンチは僕らや仲間のピンチでもあるじゃないか!」「俺には関係ないね。俺を裏切った奴や邪険に扱う奴らの事なんて。」「そんな事ないよ!ディーゼル達は君の仲間じゃないか!」
「どうだろうな?お前だってそうじゃないか。仲間に無実の罪を信じてもらえずに裏切られたんだろう。」「それは……。」トーマスは言葉を失った。確かにディーゼル10の言っている事は正しかったが、その時彼はパーシーの事を思い出した。パーシーはトップハムハット卿や仲間たちに疑われている時に唯一自分の無実を信じ、心配してくれた仲間だ。そんな彼を裏切ってスタン達の脅威に晒すわけには行かないとトーマスは思った。
「仲間でも友達でもすれ違う事ぐらいあるよ。でも彼らが仲間にある事に変わりはない!僕は仲間を助けるんだ!」「泣かせるねえ。まあ俺にはお前らの友達ごっこなんて関係ない話だ。」そう言ってディーゼル10が引き返し始めた時、彼の重みで古い線路が軋んだ。
スタンはその音を聞き逃さなかった。「誰だ!」トーマスとディーゼル10はギョッとして息をひそめ、身じろぎ1つしなかった。「そこにいるのは分かってるんだぞ?」スタンが怒鳴った。「スプラッター、ドッヂ。様子を見てこい。」「人使いが荒いんだから……。」スプラッターがぼやき、双子は物音の出所に近づいた。
「どうするんだタンポポ頭。」「こうなったら……。」スプラッターとドッヂがどんどん近づいてくる。「逃げるんだ!」トーマスは叫ぶや否やディーゼル10を押して後ろ向きのまま逃げ出した。「蒸気機関車だ!逃がすな!」建物の向こう側から登る煙を見てスタンが喚いた。
トーマスとディーゼル10は向きを変えて追っ手を振り切ろうとした。「蒸気パワー全開だディーゼル10!」「俺は蒸気なんて使わないぞ!」「じゃあディーゼルパワー全開で!」彼らは力の限り走り続けた。
ところが走り続けているうちにスピードが落ちてきた。「どうしたタンポポ頭!」「じょ、蒸気が無くなったみたいなんだ……。」「ちぃっ!これだから蒸気機関車ってのは……。」スプラッターとドッヂが彼らの左右に並んだ。「おや誰かと思えばボスじゃねえですかい?」「正確には元ボスじゃねえかい?タンポポ頭と一緒だなんていつから蒸気機関車と仲良しこよしになったんです元ボス?」
目の前に分岐点が迫って来た。スプラッターとドッヂは彼らの道を塞ごうとスピードを上げた。不意にトーマスが叫んだ。「ディーゼル10!こうなったら君を信じるよ!」それを聞いたディーゼル10は少し間を置いてから答えた。「見てろよタンポポ頭!俺様の底力を見せつけてやる!」
ディーゼル10はエンジンを大きく唸らせ、トーマスを押して猛スピードで走った。分岐点が迫って来る。トーマスとディーゼル10のスピードはスプラッターとドッヂとほぼ同じだった。スプラッターとドッヂが分岐点に着くのも時間の問題だ。
分岐点を目の前にした時、ディーゼル10がトーマスを押し出した。「行けタンポポ頭!」トーマスが分岐点を超え、ディーゼル10が分岐点に差し掛かったと同時にスプラッターとドッヂも分岐点に差し掛かり、3台のディーゼルは接触した。
だがディーゼル10のパワーの方がスプラッターとドッヂよりも遥かに上だった。彼はスピードの勢いに任せてぶつかって来たスプラッターとドッヂを吹き飛ばし、そのままトーマスを押して一目散に操車場を飛び出した。
「何やってるんだこの間抜けが!」追いついたスタンが脱線したスプラッターとドッヂを見て怒鳴った。「なあスプラッター、オイラたち本当に役立たずだね。」「そうみたいだな。」スプラッターとドッヂが線路を塞いだのでスタンはトーマスとディーゼル10を追いかける事はできなかった。
スタン達を振り切り、操車場から離れたトーマスとディーゼル10は自分たちが隠れていた森に戻って来た。「ふう、助かったよ。ありがとうディーゼル10。」「おいタンポポ頭。お前はさっき『俺を信じる』と言ったな?どうしてそんな事を言ったんだ?俺はお前たちの敵なのに。」
「だって昨日の敵は今日の友って言うじゃないか。フィリップも言ってたじゃないか、フレネミーだってね。今は同じピンチに立ち向かう仲間だろ?仲間だったら信じあわないと。」「俺はお前を仲間とは思ってないぞ!他の奴らの事もな!この島の奴らは皆敵だ!お前らがどうなると俺の知った事じゃない。」ディーゼル10はそう言うと森を出て行こうとした。
「フィリップはどうなの?」フィリップの名前を聞いてディーゼル10は車輪を止めた。「彼は他のディーゼルと違って君の味方をしてくれたじゃないか。彼の事も見捨てるの?」その言葉にディーゼル10は揺らいだ。もしフィリップを裏切れば、彼は本当に1人ぼっちになってしまう事になる。そうなるのはディーゼル10も嫌だった。
彼は暫く考えてからやがて答えを出した。「……分かった。協力してやろう。ただし今回だけだからな!」
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翌日、トーマスは目を覚ますと急いで森を出て、トップハムハット卿を探しに向かった。自分よりトーマスが昨日の事を伝えた方がトップハムハット卿に信じてもらえるはずだとディーゼル10が提案したからだ。
トーマスがナップフォード駅にやって来ると、丁度トップハムハット卿がオフィスからホームに出てきて、書類に目を通して今日のスケジュールを確認しているところだった。
「トップハムハット卿!トップハムハット卿大変です!D199がローリーたちを連れて島に戻って来てます!」「何を馬鹿げた事を言ってるんだねトーマス。彼らはメインランドに送り返したじゃないか。」
「でも……。」「くだらんスパイごっこなんかしてないで、役に立つ仕事をしてくれたまえ。メイビスが故障してしまってね。今日はゴミの集積場は良いから、彼女の代わりにファーカー採石場で働きなさい。トビーがそこで待ってる。いいか、くれぐれも問題を起こさないでくれたまえよ。」
トップハムハット卿はそう言ってトーマスの話もロクに聞かずにオフィスに引き返して行った。
一方でスタンは新たな計画をディーゼル達に披露していた。「よーしよし。良いかお前ら、注意してよーく聞け。今日は本格的に蒸気機関車共に復讐する!シドニー!ノーマン!デニス!お前らは操車場に行って蒸気機関車共を追い払ってこい!奴らが仕事をサボって、代わりにお前たちが仕事をしてるとかなんとか言ってな。」
「えっと、洗車場に行くんだっけ?」「操車場だよ。」「あーあ、めんどくさいな~。」中々行こうとしないシドニーとノーマンとデニスにスタンが雷を落とした。「早く行け!」「はいよボス、今行くよ。まったく何で俺が忘れん坊と怠け者なんかと……。」スタンに怒鳴られ、ノーマンは渋々仲間を引き連れて出発した。
「他の奴らも故障した蒸気機関車共の仕事を奪ってこい。これで蒸気機関車の信頼はがた落ちだ!」スタンは愉快そうに笑うと、他のディーゼル達も見送った。工場から誰もいなくなると、暫くしてから入れ替わりにメインランドのディーゼル達やローリー3兄弟がやって来た。
「どうだボス、作戦は上手く行ったか?」「もちろん。よしスプロッヂ。お前らは島の蒸気機関車とディーゼル機関車の何台かをファーカー採石場に誘き寄せろ。」「あー、何でそんな事するんですボス?」ドッヂが尋ねた。「始末するからに決まってるだろがこのアホ!分かったらさっさと行け間抜けが!」スタンに怒鳴られ、スプラッターとドッヂはディーゼル整備工場を飛び出して行った。
 
トーマスはトップハムハット卿の命令で、ファーカー採石場で働いていた。「ねえトビー。」トーマスはスタン達の悪だくみの事を話そうとトビーに話しかけたが、彼もライアンの事でトーマスに腹を立てていたので、そっぽを向いてつんとしていた。
そこへジェームスが石の貨車を受け取りに来た。「あ、ジェームス。」「何だよ裏切り者め!話しかけるなよ、ふん!」ジェームスはトーマスと目も合わせずに採石場を後にした。
採石場にはジャック達も手伝いに来ていてオリバーとアルフィーとネッドがトーマスに石の貨車を積んでいた。積み込みが終わるまでの間トーマスが待っていると、ジャックとオリバーの話声が聞こえてきた。「この辺り何だか岩が脆くなってるみたいだね。凄く崩れやすいんだ。」「慎重に掘り起こせば何も問題ないよ。さあ、作業に戻ろう。」
ふとトーマスは建物の陰でスプラッターとドッヂが怪しげな行動をとっているのを見つけた。「アイツらここで何してるんだ?」「積み込み完了!行っていいよトーマス!」ジャックが出発の合図を出したので、トーマスはスプラッターとドッヂの事を気にしながらも出発した。
 
ゴードン達はナップフォード駅でトーマスについて不満を言っていた。「トーマスったら僕たちに客車を用意させて。これはアイツの仕事なのに。」と、ヘンリー。「アイツめ、俺達が機関庫から追い出したから自分の仕事を押し付けたな?」と、ゴードン。
トーマスがトップハムハット卿に石切り場の仕事を頼まれているとも知らないゴードン達はトーマスが自分達の客車をわざと用意していないと思い込み、彼に腹を立てていた。そこへスプラッターとドッヂがやって来た。「あー、ちょっと良いですかい?」スプラッターがおずおずと声をかけた。
「何だお前達は?」「ああ、思い出したぞ。君らは確かディーゼル10の手下の……。」「へへ、スプラッターと。」「ドッヂでさぁ。ちょっとお伝えしたい事がありましてね。」「伝えたい事?」ゴードンとヘンリーは怪訝そうに眉をひそめると、顔を見合わせた。
 
トーマスは石の貨車をブレンダムの港に持っていく最中だった。そこへヘンリーがトーマスの支線の方に走っていくところに出会った。「あれヘンリー、どこ行くの?」「ファーカー採石場だよ。」トーマスはなんだか嫌な予感がした。あそこでスプラッターとドッヂが怪しい行動をしていたからだ。
「ファーカー採石場に何しに行くんだい?」「トップハムハット卿にファーカー採石場で大事な話があるから集まるように言われてるんだよ。スプラッターから聞いたんだ。」「スプラッターだって!?」トーマスはギョッとした。「今あそこには行かない方が良いよ!スプラッター達が何か罠を仕掛けてるんだ!君たちは彼に騙されてるんだよ!」
「何馬鹿な事言ってるんだい。遅れちゃうから僕はもう行くよ。馬鹿らしい。」ヘンリーはトーマスの言葉に耳も貸さずに行ってしまった。「待ってよヘンリー!話を聞いてよ!」
 
トビーがトーマスの為に次の列車を用意していると、採石場が何だか騒がしくなってきた。トビーが様子を見に行くとゴードン、ジェームス、ヘンリー、パーシー、ドナルドとダグラス、ビルとベン、ディーゼル、ハリーとバート、デンとダートが集まっていた。
トビーが尋ねた。「ずいぶん騒がしいと思ったら君たちこんなところで集まって何やってるんだい?」「トップハムハット卿から大事な話があるって聞いて来たんだよ。」と、ヘンリー。「こんな埃っぽいところに来たくなかったってのにな。」と、ゴードン。「しかもよりによってディーゼル達と一緒だなんて。」と、ジェームス。
「俺たちだって蒸気機関車なんかとこんなところに集まりたくなかったさ!」ジェームスの言葉を聞いてディーゼルが言い返した。「俺たちもこんなところにいる訳にはいかないんだ。」デンが言うとダートがフォローした。「こう言いたいんでやんしょ?早いとこディーゼル整備工場に戻らなきゃいけないって。」「そんな事よりトップハムハット卿はどこだ?」「俺たちはまだ仕事が残ってるんだ!」ハリーとバートが腹立たし気に言った。
「その心配ならいらないぞ。ここからは俺たちが引き受ける。」声がした方を振り返るとそこにはスタンと彼の仲間がいて、石切り場の線路を塞いでソドー島の機関車たちが採石場から出られないようにしていた。
「D199!?」「D261にローリーもいるぞ!」ゴードンとヘンリーが叫んだ。「やあ、お久しぶりソドー島の汚い蒸気機関車諸君。僕を覚えててくれたのかい?」アンディが嫌味たらしい笑顔を浮かべて言った。「ボス?」「ここで何してるんだ?」ハリーとバートが尋ねた。「お前たち、俺の為にここまでよく働いてくれたな。だがお前らはもう用済みだ。」そう言うとスタンは大きく警笛を鳴らした。その音が反響して、採石場中に響き渡り機関車たちは顔をしかめた。
警笛の音が収まって、すぐに地響きが起き岩崩が起きた。「危ない!下がるんだ!」ソドー島の機関車たちは岩崩を避けようと安全なところまで下がった。岩崩と埃が収まるとファーカー採石場の入り口が塞がれているのが見えた。
「しまった。閉じ込められたぞ!」ゴードンが叫んだ。岩崩の向こう側からスタンが言った。「よく聞け愚かなソドー鉄道の機関車共!この鉄道は俺たちメインランドのディーゼル機関車が乗っ取った!」「何だって!?」「どういう事だボス?」「あんたは島の蒸気機関車に復讐しに来たんじゃ……。」スタンの発言にゴードン達のみならず、スタンの仲間だったディーゼル達も唖然とした。
「誰が蒸気機関車に復讐するって言った?俺は『島の連中』に復讐しに来たって言ったんだ。つまりはお前たちも復讐する相手の一員だったのさ。あの哀れなトーマスとディーゼル10を利用して君たちを仲間割れさせて、バラバラになったところを始末する作戦だったのさ。どうだ、完璧な作戦だろう?」ここでようやくディーゼル達は自分たちがスタンに騙されている事に気がついた。
「僕たちが君たちを止めてみせる!」パーシーが叫んだ。「へっ、もう手遅れだね。今頃ソドー島各地で混乱と遅れが生じてる。そこで俺たちが島の人たちに信頼されるようにすればお前らは皆お払い箱さ。」スタンが得々と言う。「行くぞお前ら。計画は最終段階に移った。後始末に取り掛かるとしよう。」スタンの言葉に仲間のディーゼルやローリーが歓声を上げた。
「あのぉ、ボス。」「オイラたちこっち側にいるんですけど出してもらえませんかね?」岩崩の時に逃げそびれたスプラッターとドッヂが言った。「お前らはそっち側でソドー島の奴らといろ。どうせ何の役にも立たないんだからお前たちも用済みだ。」「そ、そんなあ。」スタンはスプラッターとドッヂを放置すると仲間を引き連れて採石場を後にした。
「トーマスの言ってる事を信用すれば良かったよ……。」ヘンリーが呟いた。「彼に謝らないと。」と、ジェームス。「俺達もだ。ディーゼル10がいれば今頃こんな事なってなかったのに……。」ディーゼルも後悔した。
 
トーマスはディーゼル10のいる森に戻ると、ディーゼル10に状況報告をした。「つまりスタンは採石場で島の奴らを罠に仕掛けようとしてるって訳か。そう言う事だなタンポポ頭?」「うん、そうだよディーゼル10!」
「だが奴は一体どんな罠を仕掛けてるんだ……?」その時トーマスはある事を思い出した。「そう言えば……ファーカー採石場の岩が脆くなって崩れやすくなってるってジャックが言ってたな……。」
「それなら俺だったら奴らを採石場に集めて岩崩を起こして採石場に閉じ込めるがな。」ディーゼル10が呟くとトーマスはハッとした。「それだ!それだよディーゼル10!スタンは僕らをお払い箱にしてメインランドのディーゼルに島を乗っ取らせようとしてる。それだったらヘンリー達を採石場に閉じ込めて彼らの仕事を奪うはずだ!」
「そうか!」ディーゼル10も納得した。「多分今頃ヘンリー達はファーカー採石場に閉じ込められて、助けを求めてるはずだ!僕たちが助けに行かないと!」「どうやら俺のピンチーの出番の様だな。」そう得意げに言ってディーゼル10は自慢のピンチーを持ち上げてガチャガチャと音を立てた。
 
トーマス達がファーカー採石場に助けに向かっている間にスタン達は島を乗っ取り始めていた。操車場では入れ替え機関車のロージーとチャーリーを追い出そうとシドニーとデニスが操車場を追い回していた。
ゴードン達がいないで旅客列車はアンディとヴィンスとハンフリーが彼の代わりに牽いていた。ゴードン達の代わりに旅客列車を牽いているのを見て駅員は首を傾げた。「どうしていつもと違う機関車が旅客列車を牽いてるんだ?ゴードン達はどこだ?それに君たちは誰だ?」
「ゴードン達が役立たずだから僕たちが列車を引っ張ってるんですよ。」アンディが得意げに答えた。「今日からは俺達が旅客列車を引っ張る事になったのさ。」と、ヴィンス。「ゴードン達はお払い箱さ。」と、ハンフリー。駅員は困惑したが、列車を止める訳にはいかないので渋々出発の合図の笛を鳴らした。「役に立つディーゼルのお通りだー!」アンディ達が声を揃えて言った。
 
トラック3兄弟のヒューイ、デューイ、ルーイは島の機関車達から貨物の仕事を奪っていた。セメント工場でファーガスがセメントの貨車を入れ替えていると、デューイがやって来た。デューイはファーガスを見るなり初対面の彼にいきなり暴言を吐いた。
「なんてボロなんだ!ここがボロなのも当然だな。ここで働いてないで博物館にでも行っちまいな!」「確かに僕は旧式だけど今まで『セメント工場の自慢の種』として大切にされてきたんだ!」「それも今日でおしまいさ。今日からは俺がここで働く事になったんだ!『セメント工場の自慢の種』はこの俺さ。」
漁村で働くアーサーのところにはヒューイがやって来た。「蒸気を吐くくず鉄がここで何やってるんだ。さっさと退かんかい!」ヒューイに怒鳴られて、アーサーは渋々漁村を出ていった。
エミリーとエドワードが小麦粉を受け取りにエドワードの支線にある製粉所にやって来ると、そこにはすでにルーイがいて小麦粉を積み込んでた。「ここで何してるんだい?」「代わりに仕事をやってるんだよ、お前たちは鈍間だからな!」「何ですって!?」「行こうエミリー、彼の事は放っておくんだ。」エドワードはエミリーを宥めて製粉所を後にした。
 
乗っ取ったティドマス機関庫にアンディ達が戻って来るとスタンは嬉しそうに労った。「よくやったぞお前たち。本当に役に立つ仕事をしてくれた。これからもその調子で役に立ってくれ。」スタンがトップハムハット卿の口癖を真似すると仲間達は歓声を上げたり、ターンテーブルで高速回転して作戦の成功を祝った。その様子を見てスタンは世にも恐ろしい邪悪な笑みを浮かべた。