ソドー島の隣にあるメインランドのゴミ集積場では曇り空の下で2台の小型入れ換えディーゼル機関車が働いていた。彼らの名前はスプラッターとドッヂ。あの極悪非道なディーゼル10の手下でソドー島で騒ぎを引き起こしていたのだが、彼があまりにも乱暴だったため愛想をつかして彼を裏切り、ソドー島から逃げ出して行方を晦ましていた。
メインランドで居場所を探して彷徨い続けた双子は、ゴミ集積場に辿り着いた。臭くて汚い場所ではあるがディーゼル10やソドー島にいるよりマシだと思った双子は仕方なくこの集積場に身を置く事にしたのだ。
「おいドッヂ、さっさとこのゴミの貨車を片付けろよ。」「オイラじゃなくてお前だ!」「じゃなくてアンタ!」「お前の仕事だぞ!」「そんじゃ一緒に……。」
そこへけたたましくクラクションを鳴らしながら3台のトラックが駆けこんできた。「何だ何だお前ら、まだゴミの貨車を片付けてなかったのか?」1台目のトラックが文句を言った。「今からやろうと思ってたところだよ。」「アンタらだって2時間前に出かけていって今まで戻って来なかったじゃないか。ちょっと遅すぎるでしょ。人の事言えないんじゃないのヒューイさ~ん。」
「俺はデューイだ!」スプラッターとドッヂに文句を言ったトラックが言った。「俺がヒューイだ!」と、顎髭の濃いトラック。そして最後に小鼻のトラックが言った。「それから俺がルーイだ。いい加減覚えろよ。」
「えへへ、お三方顔が似すぎて見分けがつかないもんで……。」ドッヂが愛想笑いして言った。「それよりさっさと貨車を退けろ!この貨車が邪魔で向こうに行けないんだよ!」デューイが怒鳴った。「そんな事よりさっさとあの臭いゴミの貨車を移動させろ!お前らときたら減らず口ばっかりでちっとも働かない。ちょっとは役に立て!」「へいへい、今やりますよ。」
ぶつぶつ言いながらゴミの貨車を押して行くドッヂに向かってトラック3兄弟のヒューイが言った。「それはこっちの台詞さ。大体ソドー島の奴らが俺達をソドー島から追い出したりしなきゃこんな臭いゴミの集積場で汚いディーゼルと働かなくても済んだのに。」
「そのソドー島に復讐したくはないかい?」「復讐だって?」荷台からゴミを捨てていたデューイが驚いて聞き返した。声の正体の方に振り向くと、いつの間にか大きな1台のディーゼルがそこにいた。
ディーゼル機関車の意見を聞いてスプラッターとドッヂがはしゃいだ。「そいつは名案だ!」「どうしてもっと早く思い浮かばなかったんだ?」ところでおたくはどちらさんで?」「俺の名前か?スタンだ。俺もソドー島に恨みがあってね。復讐の機会を伺っていたのさ。君たちの力があればソドー島の奴らに復讐もできるぞ?」双子と3兄弟は顔を見合わせた。
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メインランドで不穏な動きがあった次の日。メインランドの隣のソドー島は空が晴れ渡っていた。天気は良かったがトーマスの機嫌は良くなかった。と言うのも彼がスタンリーと一緒に入れ換え作業をしているところへディーゼルがやって来たからだ。知っての通り、島の蒸気機関車とディーゼル機関車のほとんどは仲が悪い。蒸気機関車はディーゼル機関車が意地悪でずる賢い奴だと思っていたし、ディーゼル機関車は蒸気機関車が古臭い時代遅れの役立たずな奴だと思っていた。
それはトーマスとディーゼルも同じ事だった。「ここに何しに来たんだよ。」「ハット卿の命令さ。お前ら蒸気機関車が役に立たないから俺に手伝いに来てやったのさ。」「何でも良いけど、くれぐれもトラブルだけは起こさないでくれよ。」スタンリーがじとっと睨みながら言った。
だがディーゼルは案の定トラブルを起こした。彼が貨車を突放すると、貨車はそのまま貨車の列にぶつかった。突放された貨車は文句を言った。「なんて乱暴な入れ替え方だ。こんな乱暴な入れ替え作業初めてだ!これならトーマスかスタンリーに入れ替えてもらった方がまだマシだ!」
それを聞いたディーゼルはカチンと来た。「何言ってる!俺はアイツらより入れ替えが上手いんだ!」そう言ってディーゼルはまず猛スピードで入れ替える貨車を押し始めた。「俺はトーマスより速くお前たちを入れ替える事ができる!」それからディーゼルは10台の貨車を纏めて引っ張りながら言った。「俺はスタンリーより沢山の貨車をいっぺんに入れ替える事もできる!」
すると貨車の1台がこう言った。「へえ、なら俺たちの事をトーマスより速く、スタンリーより沢山の貨車をいっぺんに入れ替える事もできるのか?」「もちろんさ!お前たちにそれを証明してやる!今に見てろ!」
そう言ってディーゼルは何と15台もの貨車を纏めて押し始めた。最初は動かすのに苦労したが、走り出せばあとは楽勝だった。「どうだ、これで俺がアイツらより入れ替え作業が上手いって事が分かったろ!」ディーゼルが喚いた。
「スピードを落とせディーゼル!ちゃんと前を見るんだ!」すれ違いざまにトーマスが叫んだ。そう言われたディーゼルはスタンリーが向こうから自分の線路に入って来るのに気づいてギョッとした。彼は慌ててブレーキをかけたが、重い貨車を押しているうえにスピードも出ているので簡単には止まれない。そのまま彼はスタンリーに突っ込んでいった。
やがてハーヴィーとロッキーが事故の後片付けにやって来た。ハーヴィーたちが事故現場を片付けている間にトップハムハット卿はディーゼルを厳しく叱った。「あれほど問題を起こさないようにと言ったのに!君の注意不足のせいで仕事に混乱と遅れが招かれたうえにスタンリーを整備工場に出さなくてはならなくなってしまったぞ!」「すみません……。」ディーゼルはすっかり縮こまっている。
しょげたディーゼルをトーマスとスタンリーの代わりに手伝いに来たパーシーが腹立たし気に睨んでいる。彼らはスタンリーを気の毒に思い、彼が整備工場に行く羽目になった原因のディーゼルに腹を立てていた。
「やはり君はここに連れて来るべきではなかったな。今すぐディーゼル整備工場に戻りなさい!」トップハムハット卿に言われ、ディーゼルはゴロゴロ唸りながら構内を後にした。
「よし、準備できたぞ。」スタンリーを貨車に乗せたロッキーが言い、トーマスがスタンリーの乗った貨車を繋いだ。「大丈夫だからねスタンリー。すぐに君を整備工場に連れて行くよ。」「ありがとうトーマス、悪いね。」「気にしないでよ、悪いのは全部あのディーゼルなんだから。早く修理が終わると良いね。」
出発しようとするトーマスにトップハムハット卿が声をかけた。「ああ、トーマス。悪いがスタンリーを整備工場まで連れて行ったら彼の代わりにメインランドのスクラップ置き場までスクラップを積んだ貨車を運んでくれ。」「分かりました。行くよスタンリー。」
 
スタンリーを整備工場に送り届けた後、トーマスはトップハムハット卿に言われた通りにスクラップを届けにメインランドのスクラップ置き場へ出かけていった。メインランドのスクラップ置き場は昼間でも不気味な静けさに包まれていた。「うう……、こんな不気味なところ嫌だな。貨車を置いてすぐに引き返そう。」
トーマスが空いている線路に貨車を置いて帰ろうとした時、何か物音がした。「だ、誰!?誰かいるの!?」だが返事は何もない。「気のせいかな……。」トーマスがそう思った途端小さな声が微かに聞こえてきた。「助けてくれないかな……。」トーマスが声の聞こえた方に近づいてみると、スクラップの山の陰に小さな機関車が隠れて、寒さと怖さに震えていた。
「君は?ここで何してるの?」「僕はロジャー。メインランドの機関車なんだけどスクラップを届けに来たら石炭と水が無くなって動けなくなっちゃって、そこを悪いディーゼルに見つかってスクラップにされそうなんだ。お願い、僕を外に連れ出して!」
ロジャーの言う事を聞いたトーマスは腹を立てた。「それは酷いな!蒸気機関車はディーゼル機関車より役に立つのにスクラップにしようとするだなんて!待ってて、必ず僕が助け出して見せるよ。」「急いで、早くしないとディーゼル機関車達が戻ってきちゃうよ!」
トーマスはロジャーのいる線路に行くと、彼と向かい合わせで連結した。「よし、それじゃあここから脱出するよ!」と、その時遠くから2つの警笛が聞こえてきた。「大変だ!奴らが戻って来た!」「おい!そいつをどこに連れて行くつもりだ!」「来てくれボス!蒸気機関車が逃げ出すぞ!」トーマスとロジャーが脱走しようとしているのを見つけた2台のディーゼルが叫んだ。
「ボスだって?」トーマスが顔をしかめると、彼らの後から見覚えのあるディーゼル機関車が姿を現した。「退いてろお前ら、お前らじゃ捕まえられないから俺が捕まえてやる!」「ディーゼル10!?」なんとディーゼル機関車のボスと言うのはディーゼル10だったのだ。「タンポポ頭!?まあ良い、ついでにお前もバラバラのスクラップの山にしてやる!」
ディーゼル10が頭の上についたグラップルのピンチーを振りかざす姿を見るや否やトーマスは慌てて、それも後ろ向きのまま逃げ出した。それを見たディーゼル10は頭の上にあるピンチーを振り回しながら追いかけ始めた。「待ちやがれタンポポ頭!」「誰が待つもんか!ロジャー、僕の代わりにしっかり前を見ててくれよ!」「うん。でも君の顔しか見えなくて前が見えないよ。」
トーマスはロジャーを連れてスクラップ置き場から脱出し、メインランドの本線へ飛び出した。「もう少しだ!捕まえてやる!」ディーゼル10がピンチーを前にグイーッと突き出してトーマスの車体を掴もうと狙ってくる。「やーい、僕を捕まえてごらんよ!ここまでピンチーが伸びればの話だけどね~!」トーマスにからかわれ、ディーゼル10は腹立たし気に唸った。
彼らはメインランドの本線を走るスペンサーを追い抜いて行った。トーマスとディーゼル10がチェイスを繰り広げながら自分を追い抜いて行くのを見てスペンサーはショックを受けた。「どうなっちゃってんの!?」
「助太刀するぜボス!」そう言って精錬所の2台のディーゼルが側線に置かれていた貨物列車を押してトーマスめがけて突っ込んできた。貨物列車をぶつけてトーマスを脱線させるつもりなのだ。
「大変だ!僕らを脱線させるつもりだ!」「そうはさせないさ!」そう言ってトーマスは全速力でポイントを通過した。そのおかげでトーマスは貨物列車にぶつからずに済んだがディーゼル10はそうはいかなかった。
目の前に飛び出してきた貨物列車を見てディーゼル10はギョッとし、慌てて急ブレーキをかけた。「引っ張るなピンチー!引っ張るな!」興奮して暴れるピンチーをディーゼル10は必死に宥めたが、彼はそのままピンチーに引きずられ貨物列車に突っ込んだ。
大破した貨物列車から積まれていた積み荷が飛び散り、ディーゼル10は粉塗れになってしまった。「何やってるんだこの馬鹿ども!」ディーゼル10は精錬所のディーゼルに怒鳴った。
それからディーゼル10は口に入った粉を吐き出して叫んだ。「砂糖!?俺に砂糖は必要ねえ!誰か助けてくれ、俺はエンジンに砂糖が入ったら故障しちまうんだ~!」ディーゼル10が喚いた。「畜生!覚えておけよ青いタンポポ頭め!この恨みは必ず晴らしてやる!」
ディーゼル10が砂糖塗れになっている間にトーマスはロジャーを連れてメインランドの大きな駅まで連れてきた。「ここまでくれば大丈夫。僕はもう帰るから、君も石炭と水を補給したら気をつけて帰るんだよ。」「ありがとう!本当になんてお礼を言えばいいのか。」「そんなの気にするなよ、困った時はお互い様じゃないか。それじゃあ。」
 
夕方、トーマスはようやくティッドマス機関庫に帰って来た。「ふふ、お疲れだねトーマス。」先に機関庫に帰っていたパーシーが言った。「本当だよ。ディーゼルが起こした騒ぎの後片付けはしなきゃいけないし、ディーゼル10には追いかけられるし……。」
「ディーゼルが問題しか起こさないのは今に始まった事じゃないじゃないか。」ジェームスが鼻を鳴らして言った。「ディーゼルって奴は問題ばかり起こして俺たちの邪魔しかしない。」ゴードンが口を挟んだ。
「この間もハリーとバートが僕の貨車を隠したせいで、貨車を見つけるのに時間がかかって仕事に遅れたから僕が怒られたんだ。悪いのはあのディーゼルなのに。」と、ジェームス。「俺もデニスの怠け癖のせいで遅れたぞ。アイツのせいで列車が遅れたのに乗客に文句を言われたり、トップハムハット卿に怒られるのは俺なんだ。」と、ゴードン。
「僕はシドニーが間違った貨物列車を繋げたせいで積み荷を間違った場所に届けちゃったんだ。面目丸つぶれだよ。」ヘンリーも言った。「スタンリーはディーゼルのせいで整備工場に送られるし。」エミリーが付け足した。「全くディーゼル達ときたら悩みの種だよ。何とかならないかなあ。」トーマスが大声で言うと、皆ウンザリした様にため息をついた。
 
その夜遅く。ディーゼル10はメインランドにある修理工場に連れてこられていた。「こうなったのもあの青いタンポポ頭……いや、この島の蒸気機関車共のせいだ!こうなったら何としてでもこの島の蒸気機関車共に復讐してやる!」
「もし良かったら手伝おうか?」声のした方を見てみると1台の大きなディーゼル機関車がいた。「あん?何だテメェは。よそ者の力を借りるつもりはないぞ!」ディーゼル10が喚いた。「まあまあそう言うなよ、俺もあの島の連中に復讐してやりたいのさ。」「ほう、お前もここの連中に恨みがあるのか?」
「あるとも!大ありさ!」ディーゼル機関車が大声を上げた。「俺がこの島にやって来た時に故障してしまったせいで『スパム缶』だなんて不名誉なあだ名を付けられて散々馬鹿にされたんだ!」
ディーゼル機関車は深呼吸すると落ち着きを取り戻してから静かに切り出した。「俺はあの島に戻って、復讐を成し遂げる。俺たちが力を合わせればこの島の奴らにも復讐できる。どうだ?協力してくれないか?」
「それは面白そうだな。乗った!お前に協力してやろう。俺はディーゼル10って言うんだ。」「俺はD199。そうだな……『スタン』とでも呼んでくれれば良い。お前が俺の言う通りに動けば復讐は必ず成功する。」
スタンの言葉を聞いてディーゼル10は顔をしかめた。「待て待て待て。今『俺の言うとおりに動けば』って言ったか?お前が命令するなんて冗談じゃない、ボスはこの俺だ!」ディーゼル10はピンチーを鳴らした。「復讐を成功させたいだろ?そのためさ。それに言っちゃ悪いけどお前の作戦はいつも失敗してるそうじゃないか。今回は俺の作戦を聞いてくれよ。」
ディーゼル10は面白くなかったが、スタンの言い分も一理あるので何も言わずに振り上げたピンチーを降ろした。それを見たスタンはにんまりと悪そうな笑みを浮かべて口を開いた。
 
丁度その頃。ヒロはメインランドから貨物列車を牽いてソドー島に戻って来るところだった。ビカーズタウン橋に来ると、ヒロを島に入れる為に上がっていたビカーズタウン橋が降ろされ、ヒロはゆっくりビカーズタウン橋を渡っていった。
この時ヒロは気づいていなかったのだが、貨物列車の陰に紛れて怪しい機関車が何台か島に忍び込んでいた。
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次の日。ディーゼル整備工場では仕事のないディーゼル達が休んでいた。する事もないので彼らは暇つぶしに文句を言っていた。「トップハムハット卿ときたら蒸気機関車ばかりに仕事を与える。」「俺達の方が蒸気機関車より優秀だってのに。」「あいつらばかり優遇するんだ。」
「お前らのその気持ち、よ~く分かるぞ。」ディーゼル達が猫なで声がした方を振り返るとそこにはディーゼル10がいた。「ディーゼル10!?」「戻ったのか!?」「俺は蒸気機関車に仕事を奪われてメインランドから追い出されて戻って来たんだ。お前らが俺と同じ思いをしてるんだったら助けてやろう。」
ディーゼル10が合図をすると、突然音楽が流れ始めた。「歌うのかディーゼル10?」「おいおい、やめてくれ音楽は。」バートはキョトンとし、ディーゼルはウンザリした様子で言った。
彼らに構う事なくディーゼル10は歌いだした。蒸気機関車より役に立つうえ、さらに役に立てるようにピンチーを取り付けてもらって、役に立てるところを見せつけようとしたが、この奇妙な姿を恐れたり、馬鹿にされたりして爪はじきにされた。だからこそ自分が役に立つところを見せて蒸気機関車を見返してやりたいと。
それに続いてハリーとバートも自分たちも蒸気機関車がディーゼル機関車に偏見を持つうえに仕事の殆どを蒸気機関車にとられ、精錬所に追いやられた不遇さを歌った。
ディーゼルも歌おうとした時ディーゼル10が口を挟んだ。「歌ってる場合じゃないディーゼル。そんな事よりどうだ、俺達で蒸気機関車に復讐してみないか?」「復讐?」「そうだ。よし、それじゃあ俺の周りに集まって作戦を聞け。まず……。」
 
その頃、貨車置き場ではスクラフィーが貨車達と合唱していた。そこへ貨車を取りに来たオリバーがスクラフィーに近づいて囁いた。「早く黙らないとまたバラバラにするぞ。」「へへ、わ、分かったよオリバー……。」オリバーに脅かされたスクラフィーはすっかり震え上がって貨車達に歌うのを辞めさせた。
それを見ていた1台のブレーキ車がスクラフィーに言った。「落ちぶれたもんだなスクラフィー。それでも昔は貨車のリーダーだったって言えるかい。」「だからお前にこうやって助けに来てもらったんじゃないかクリンク。」
それからスクラフィーは言った。「それで、遂に計画を実行に移す時が来たんだなスタン。」「やっとか。お前さんがスクラフィーとワシをソドー島に連れてきてからどれだけ待たされたと思ってるんだ!」「事は慎重に進めないとな。それじゃあクリンク、文字通り役に立ってもらおうか。」意地悪な貨車とブレーキ車の目の前にはスタンがいた。