エドワードの支線にあるクロックス精錬所には5台の機関車が働いていて、名前はそれぞれクリフ、レイ、ディーン、セーラとセイヤと言った。機関車以外にもスクラップをかき集めるホイールローダーのアニタやクレーンのジャンクもいた。
彼らの中でリーダー格がレイなのだが、どこか頼りないレイはいつも仲間たちに振り回されていた。
「まだそこで油を売ってたのかいセーラ。もうとっくにそのスクラップを移動させていたと思っていたよ。」燃料補給に通りかかったレイがスクラップの貨車を押しているセーラを見て言った。
「だ、だって……この貨車……重すぎるんだ……もん!はあ、そんなに言うなら僕の代わりに移動させてよ。」辛そうなセーラをレイは見ていられなかった。「しょうがないな、分かったよ。僕が移動させておく。」「本当?ありがとう!」
「それじゃあ僕の貨車もついでに押して行ってよ!」レイがセーラの代わりに貨車を押し始めると今度はセイヤがやって来てレイの押している貨車の列に自分の貨車を繋げて、貨車の量を増やした。「何だって!君たち僕に仕事を押し付けたんだな!」
騙されたと気づいて怒るレイにセイヤは笑いながら言った。「セーラの貨車を移動させるんだろ?そのついでだよ、ついで。」そう言って2台は逃げ出して行った。「やれやれ、全くもう。」仕事を投げ出すわけにもいかずレイは渋々重たいスクラップを積んだ長い貨車を押し始めた。
 
その後。レイは精錬所の監督に頼まれてクリフに仕事を伝えに行った。「クリフ、監督が操車場の貨車を移動させてほしいって。」「ああん!?俺に偉そうに命令するな!リーダーぶりやがって!そんなもん他の奴にやらせておけばいいんだよ!」そう言ってクリフは走り出した。
「でもクリフ、操車場が混雑してたら大変な事に……。」レイが言い終わる前にクリフの去って行った方から騒音がした。よそ見をしていたせいで目の前に止まっている貨車に気づかずにクリフがぶつかって脱線したのだ。「ほらね、やっぱりこうなるんと思ったんだ。」レイが呆れて言った。
 
その日の夜。レイは機関庫でぼやいた。「あーあ、皆のリーダーを務めるのは大変だなあ。」「確かに。皆を纏めるってのは大変だからな。」ディーンは同情したが、他の機関車は違った。
「何言ってやがる!誰もお前をリーダーなんて認めてないぞ!」クリフが叫ぶとセーラとセイヤも大きく頷いた。「そうだそうだ!」「君が自分で勝手にリーダーだって言ってるだけじゃないか!」
「でも僕がいないとこの精錬所は機能しないだろ?」「ハッ、お前がいなくたってやってけるさ。なんたって俺がいるんだからな!俺の方がお前よりリーダーに向いてるんだからな。」クリフが得意げに言った。
「本当?それなら僕がいなくても君たちはやってけるんだね?」「もちろんさ!」クリフが胸を張ると、レイは苦笑いしてディーンと目を合わせた。
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次の日の朝の事だった。朝早くからトップハムハット卿がウィンストンに乗ってやって来た。ウィンストンのホーンで精錬所の機関車達が目を覚ました。「ムニャ、おはようございますトップハムハット卿……。」
「おはよう諸君!今日は君たちに大事な報告があって来た。実はフィリップが故障してしまってね。代わりにエドワードの駅で働く機関車を1台探してるんだが、誰か志願者はいるかね。」
誰も名乗りを上げないでいると、ディーンはある事を思いついて口を開いた。「レイなんてどうでしょうか?」「何だって?」ディーン以外の機関車達が一斉に叫んだ。「レイは普段からとても良く頑張ってくれてます。ご褒美にたまには違うところで働かせてみるのはどうでしょう?」
「ふむ、それは確かにそうだな。それに入れ替え作業にも向いているし。レイ、君はどうだね?」「トップハムハット卿が良いとおっしゃるなら、僕はそれでもかまいませんが……。」
「ふむ、他の皆はどうだね?」トップハムハット卿がクリフ達の顔を見て尋ねた。「俺も別に構いませんよ。別にレイがいなくてもやっていけますし。」「そうか、それでは決まりだな。ではレイは出発の準備ができ次第、エドワードの駅に向かってくれ。」「承知しました。」
「行くぞウィンストン。」トップハムハット卿はウィンストンに乗りこんで彼をバックさせようとしたが、間違えて前に進めてしまい、ウィンストンはクリフにぶつかってしまった。ぶつかられて不機嫌そうに唸るクリフを見ると、ウィンストンは震え上がって精錬所を飛び出して行った。
ディーンの考えが分からないと言った表情のレイにディーンは目くばせしてみせた。
 
こうしてレイは暫くの間エドワードの駅で働く事になった。貨車を入れ替えているところへレイがやって来たのでエドワードは少し驚いたようだった。「おやレイ。手伝いに機関車が来るとは聞いてたけどまさか君が来るとは思わなかったよ。てっきりトーマスかダックが来るもんだと思ってたから。」
「まあたまには気分転換も良いものかと思ってね。ディーンに勧められて手伝いに来たんだ。」「でも君がいないと精錬所は大変なんじゃない?」「それがクリフ達が僕無しでもやってけるって言いだしてね。それなら信頼して彼らに任せてみようかと思ったのさ。」
「おやおや、それは大変な事になりそうだね。」目くばせするレイにエドワードはクスクス笑った。
 
一方その頃クロックス精錬所では……。「はあ、口うるさいレイがいなくて静かで助かるよ。」クリフはレイがいなくてせいせいしていた。「その分私がうるさくするぞ?レイがいなくても仕事はあるんだ。」隣に来たディーンが言った。
「分かってるさ。さあ今日は俺がリーダーだ!レイより俺がリーダーに相応しいってところを見せつけてやるぜ!」クリフはそう息巻いて走り出した。「やれやれ、どうなる事やら。」ディーンはため息をついた。
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「おいお前ら、あの貨車をさっさと片付けてこい!」セーラとセイヤを見るなりクリフは偉そうに喚いた。「自分でやれよ、偉そうに!」「大体何で君に命令されなくちゃいけないんだい?」セーラとセイヤも負けずに言い返す。
「何で?そんな理由簡単さ。俺がリーダーだからだ。」「なんで君がリーダーなんだよ!」セーラが不服そうに言った。「それは俺がお前らより偉いからだよ。お前らじゃリーダーなんて務まらないだろ?ぐちゃぐちゃ言ってないでさっさと言われた通りにしろ!」クリフはそう言って立ち去った。
ディーンは空いている貨車を片付けているところだった。この貨車は集めに行ったスクラップや、集められたスクラップを溶鉱炉に運ぶためのもので、必要のない時は邪魔にならないように精錬所の敷地の隅に集められているのだ。
ディーンが貨車を片付けているところへクリフが近寄った。「さっさと貨車を片付けろディーン!貨車が線路を塞いでるぞ!」「私1人で貨車の片づけをやってるんだぞ!偉そうに命令するだけなら君もちょっとは手伝ってくれても良いんじゃないか?」
「それは俺の仕事じゃないだろ?自分でやるんだな。俺はリーダーの仕事で忙しいんだ。俺が戻って来るまでにちゃーんと片付けておけよ!」クリフはそう言うと得意げに行ってしまった。「偉そうな若造め。」ディーンはそう呟くと、クリフの事など気にも留めないで仕事に戻っていった。
 
レイはエドワードの駅で楽しいひと時を過ごしていた。貨車の入れ替え作業には慣れていたし、普段会う事の出来ない本線の機関車に会えたし、クリフ達もいないので苦労する事もなかった。彼は普段とは違う仕事場で働く事が出来て、良い気分転換になっていた。
だが精錬所の事が頭の中に残っていた。精錬所がどうなっているのか、クリフ達だけで大丈夫か、そればかりが気になってしまう。鳥の事や空の事を考えようとしたが、ダメだった。
「ああ、ダメだエドワード。精錬所の事を忘れたいのにどうしても忘れられないんだ。ちょっと様子を見て来るよ!」
レイが精錬所に戻ると、リーダーになったクリフは得意満面になって精錬所の中を走り回っていた。彼は精錬所の入り口にレイがいるのを見かけると近づいた。「何しに来たんだだレイ?ここに何の用だ?自分の仕事は良いのか?」「ああ、いや。ちょっと気になってね。僕がいなくても大丈夫かなって。」
「心配ご無用!まったくもって何の問題もない!ノープロブレム!心配する事ないさ。お前は自分の仕事場に戻れば良いんだよ!」「そうかい?そんなに言うなら……そうさせてもらうよ。」
精錬所を出て行くレイの後姿を見てクリフはほくそ笑んだ。「レイはリーダーが大変だとか言ってたけど、俺にしてみれば簡単な仕事だね。これでレイより俺の方がリーダーに相応しいって分かっただろ。」ところがそう簡単にクリフの思う通りにはならなかった。
 
クリフに言われたセーラが貨車を片付けていると、反対側から貨車を押してきたセイヤがセーラの線路に入り込んできた。お互いに気づいた2台は急いで急ブレーキをかけたが、間に合わずに押していた貨車をぶつけてしまった。
「おい、そこ退けよセーラ!」「ここは僕の線路だぞ!そっちこそ退けよ!」「嫌だね!」「何だって!」2台の言い争いが激しくなったところにクリフが通りかかった。「煩いぞお前ら!何やってるんだ!」
「セーラが僕の線路を塞いじゃったんだ!」「違うよ、セイヤが僕の線路に入り込んできたんだ!」「何だって?嘘つくなよ!」「嘘じゃないよ!ここは僕の線路だぞ!」「僕が先にいたんだ!」「どっちでも良いからその貨車を邪魔にならないところに持っていけ!」
尚も言い争う2台にクリフが怒鳴ると、セーラとセイヤは顔を見合わせた。「この貨車は僕のじゃないよ。」「僕のでもない!」「君のだろ!」「僕じゃなくて君のよだよ!」「誰でも良いからその貨車をとっとと持っていけって言ってるんだ!」
それを聞いてセーラとセイヤはニヤリとずる賢い笑みを浮かべた。「誰でも良いんだ。」「そう言うなら……。」「君が持っていけば良いよ!」そう言うと2台の機関車は貨車を置き去りにして逃げ出した。「戻ってこいお前ら!」クリフが叫んだが、セーラとセイヤはとっくに逃げ出した後だった。
暫くして、別の問題が起き始めた。クレーンのジャンクとホイールローダーのアニタはスクラップを積み込む作業をしていた。ところが「あー、クリフ?」「何だジャンク。」「あのぉ……スクラップを積む貨車がもう無いんだけど……。」確かにどの貨車もスクラップが満杯に積まれている。
「空の貨車は無いのかな?もうここら辺にある貨車は全部満杯なんだけど。」「操車場の奥にならあるけど……。」通りかかったディーンが言ったが、空の貨車を取りに行くには他の貨車を退かさなければならなかった。だが、仕事が遅れているせいで他の貨車が邪魔で貨車を動かす事ができなかった。
「その貨車ならまだ積めるだろ。崩れるまで積め!」スクラップで満杯の貨車を見てクリフが言った。「そんな無茶な!」「スクラップを積み過ぎたら大変な事になるわよ!」ジャンクとアニタが言ったが、クリフは聞く耳を持たずに行ってしまった。
工事現場に運ぶ鉄骨を受け取りに来たトルネードは精錬所が散らかっているのを見てびっくりした。「何だいこりゃ!一体どうなってるんだ?」「レイがエドワードの駅を手伝いに行っているからその間クリフがリーダーになったんだけど、このざまなんだよ。」ディーンが説明した。
「レイを呼んできた方が良いんじゃないのか?」トルネードが心配して言ったが、クリフは断った。「いいや、レイがいなくても大丈夫だ!ディーン、トルネードに渡す貨車を持ってこい!」「はいはい、分かったよリーダーさん。」ディーンは渋々貨車を取りに行った。
すぐにディーンがトルネードに渡す貨車を押してきた。クリフはディーンに線路を開ける為に場所を譲ろうとした時、彼は目の前の貨車にぶつかってしまった。そのはずみにうず高く積まれたスクラップが崩れ落ち、隣の線路を塞いでしまった。
さらに悪い事にそのスクラップにディーンの押してきた貨車が乗り上げてしまったのだ。「何やってるんだ、この!」「君が前をよく見てなかったせいじゃないか!」クリフとディーンが言い争い、ジャンクが叫んだ。「だから言ったのに。スクラップを積み上げ過ぎたら大変な事になるって!」
その様子を見ていたトルネードは呟いた。「すぐに助けを呼びに行かなきゃ。」
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レイがエドワードの駅で貨車を入れ替えていると、トルネードが駆けこんできた。「レイ!大変だ!精錬所が滅茶苦茶になってるんだよ!君が戻らないとどうにもならないよ!急いで戻って来てくれ!」「分かった!エドワード、悪いけど後は頼んだよ!」
レイが戻って来ると、精錬所では貨車が重なり合い、スクラップが散らばり、クリフ達が脱線していた。「うわ、思ってたより酷いな……。」精錬所のありさまを見てレイは言葉を失った。
トルネードがロッキーを連れてきて、脱線した貨車を片付け始めた。レイは脱線しているクリフを見て言った。「僕がいなくてもやっていけるんじゃなかったのかい、クリフ?少なくとも僕は君がそう言ってた記憶があるんだけどなあ?」クリフは面白くなさそうにそっぽを向いた。
「まあ良いよ、これで君もリーダーを務めるのがどれだけ大変か分かっただろう?」レイは仕事に取り掛かった。レイは脱線した貨車を線路に戻し、線路を塞いだ貨車を邪魔にならない場所に移動させ、溢れたスクラップを溶鉱炉へ運び、トルネードに貨車を渡した。
レイのおかげで1日が終わる頃には精錬所はすっかり元通りになっていた。
 
その日の夜。トップハムハット卿が精錬所を訪れてクリフを叱りつけた。「君はレイがいなくてもやっていけると言っていたたそうだが、チームの誰か1人でもかければ支障をきたして、チームが機能しなくなるんだ。これからはもっと仲間の事を大切にしたまえ。」
「そのチームを引っ張って行くからリーダーになれるんだよね。」「その通りだレイ。」トップハムハット卿がレイの方を振り向いて頷いた。「君はこのチームの要だ。これからも精錬所のリーダーとして頑張ってくれ。」トップハムハット卿に褒められてレイは顔を輝かせた。
「クリフもレイを見習うんだな!」「はーい、分かりましたー。」クリフは面目丸つぶれだ。

 

●あとがき

とくにあとがきも反省点もないオリキャラ回でした。本来ならちんまり組回になる予定でしたが、執筆する前にオリキャラ組を主役に変更。

クリフ以外にも華を持たせようと「レイ」を活躍させてみました。あとホイールローダーの「アニタ」が「クリフ」に貨車を押す無茶ぶりを言われて、脱線させてしまうシーンがありましたが没にしました。

あとがきに特に書く事も無いんで余談を一つ。特に触れてませんが設定上クリフ達は元「ウェルズワース&サドリー鉄道」の機関車と言う設定(ウェルズワース&サドリー鉄道は公式の裏設定)なんですが、モデル機を適当に選ぶんじゃなくて、ウェルズワース&サドリー鉄道にどんな機関車がいたかを調べてからモデル機を選べばよかったかな~と言うのが反省点。いずれ「Legend of the Eerlie Engine」のリメイクをする際にクリフ達のデザインをまるっと変えようかと考えてます(あとルーシーも)。

 

もう何回目か分かりませんが次回はようやくオリキャラのクリンクが登場します。でも実質主役はルーシーでクリンクはちょい役なんですが。今回はこの辺で(@^^)/~~~

 

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