ソドー島には沢山の蒸気機関車がいるが、それと同じ数ほどディーゼル機関車もいる。ディーゼル機関車も蒸気機関車と同じように長距離や長い列車を牽くのが得意な大きなディーゼル機関車もいるが、入れ替えが得意な小さなディーゼル機関車の方が多かった。
ディーゼルやパクストン、シドニーやハリーとバートがそれに当てはまる。彼らは小さくてもゴードンやヘンリーに負けない程力持ちで、時々重い列車や長い貨物列車を牽いて本線を走る事もあったが、主な仕事は入れ替え作業だった。
入れ替え作業が彼らの得意分野でもあったが……。ディーゼルとハリーとバートはお世辞にも入れ替え作業が上手とは言えなかった。
「おらおら、退きやがれ!ほら、次はそっちの番だ!」「流石だなディーゼル!やるじゃねえか。」「俺たちも真似させてもらうぜ!」ディーゼルが次々と貨車に体当たりして入れ替えるのを見てハリーとバートも真似して貨車に体当たりした。
ディーゼルは貨車も客車も関係なく乱暴に入れ替え作業をした。「おいディーゼル!客車は丁寧に扱ってくれ!」客車を受け取りに来たジェームスがディーゼルにぶつけられて文句を言ったが、ディーゼルはお構いなしだ。
そんな乱暴なディーゼルは島の機関車や貨車や客車から嫌われていた。だがディーゼルは意地悪で、嘘つきで、乱暴者の自分が大好きだったので嫌われても気にならなかった。
ディーゼルと同じ形をしたパクストンは彼らとは違い、誰にでも優しくて親切だった。貨車や客車の扱いも丁寧で、蒸気機関車とも仲が良く友達が多かった。乱暴で意地悪なディーゼルとは大違いだった。
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ある日。パクストンはディーゼルと一緒に仕事をする事になっていた。パクストンはディーゼルの事を友達だと思っていたし、彼とよく仕事をするので嫌ではなかったが、ディーゼルは自分と正反対の性格をしたパクストンと苦手なので一緒に働くのが嫌だった。
「おはようございますディーゼルさん、今日1日一緒に頑張りましょうね!」「ケッ。」パクストンが挨拶したのにも関わらず、ディーゼルは鼻を鳴らしてさっさと貨車を取りに行った。だがディーゼルに慣れているパクストンは気にせずに笑顔でついていった。
 
その日最初の仕事は貨物列車をビカーズタウンまで運ぶ仕事だった。パクストンが列車を牽き、ディーゼルが後ろから押している。ヘンリーのトンネルに近づいた時、トンネルからジェームスが出てきた。
「おはようございますジェームスさん。」「やあパクストン。」「ヘンッ!」パクストンはすれ違いざまにジェームスと挨拶したが、ディーゼルは挨拶せずに排煙を浴びせかけた。
「おい、ちょっと!何てことするんだディーゼル!僕の赤い塗装が真っ黒になったじゃないか!」「何したんですディーゼルさん?」「ちょっと排煙を浴びせただけさ。挨拶代わりだよ。」「そんな事しちゃダメですって!」「お前こそなんで蒸気機関車なんかに挨拶するんだ?」「友達だからですよ。」だがディーゼルは呆れた様子で返事すらしなかった。
 
ビカーズタウンに列車を届け終えたディーゼルとパクストンはナップフォード操車場に行って入れ替え作業の仕事を始めた。パクストンが駅まで列車を持って行ってる間、トーマスとパーシーが燃料を補給しに操車場にやって来た。
パーシーが水を補給している後ろでトーマスが待っているのを見かけたディーゼルは悪戯を思いつくと、貨車の陰から飛び出して「ばあっ!」トーマスに体当たりした。体当たりされたトーマスはそのままパーシーにぶつかって脱線させてしまった。トーマスは頭から水を被ってしまい、びしょ濡れになってしまった。「もう、ディーゼル!」トーマスが怒った時にはディーゼルはとっくに逃げ出した後だった。
パクストンが列車の準備を済ませて操車場に戻って来た時、クレーン機関車のハーヴィーが脱線したパーシーを救助していた。「あれ、どうしたんですトーマス。」「ディーゼルだよ。ディーゼルが僕に体当たりしたせいでパーシーにぶつかって脱線させちゃったんだ。」トーマスが不機嫌そうに説明した。「ディーゼルって本当に意地悪で。」まずパーシーが言い「乱暴で。」と、トーマスが言い、そして最後に2台で声を合わせてこう言った。「臭くて汚い嫌な奴だよね!」それを聞いてパクストンは少し悲しそうな顔をした。いくらディーゼルが悪いとは言え、友達の悪口を聞くのは嫌だったのだ。
 
その後もパクストンとディーゼルはナップフォードの操車場で貨車の入れ替え作業をしていた。ディーゼルの仕事ぶりは相変わらず酷いものだった。彼がドスンと貨車にぶつかったので貨車はホッパーの下を通り過ぎ、ホッパーは貨車に積むはずの石炭を線路にまき散らかしてしまった。「貨車を扱う時にはもっと丁寧にやれよ。」「偉そうに指図しやがって、蒸気機関車がディーゼル機関車のやる事にいちいち口出しするな!」ディーゼルの乱暴な言い方にエドワードは思わずあっけに取られてしまった。
ディーゼルがいなくなるのと入れ替えにパクストンがエドワードに貨物列車を持ってきた。彼の貨車の扱い方はディーゼルと違ってそれはそれは丁寧だった。列車を繋げてもらうとエドワードはパクストンに言った。「君は貨車の扱いがとても丁寧だね。ディーゼルも君と同じくらい丁寧に扱ってくれれば良いのに。」エドワードが汽笛を鳴らして出発すると、取り残されたパクストンは寂しそうに呟いた。「そうですね。ディーゼルさんはどうしてあんなに乱暴なんでしょう?」
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パクストンが操車場での入れ替え作業の仕事を終えてディーゼル整備工場に戻って来ると、工場の敷地内に双子のハリーとバート、それから友達のシドニーが喋っているのが見えた。
「はい、エンジンを持ってきたよバート。」「違う。俺はハリーだ。こっちがバート。それに俺に必要なのはオイルだ。」ハリーが呆れ顔で答えた。「あ、そっか……ゴメンよ。それじゃあこのエンジンは君のかいハリー?」「俺はバートだって!今さっきハリーに教えてもらったところだろ!後俺に必要なのはエンジンじゃなくてロッドだよ!」バートが怒鳴った。「おっと、また間違えたみたいだ。ゴメンね。」
それを見てパクストンは笑い出した。「はははは、忘れっぽいシドニーにあなた達の区別を付けさせるなんて無理ですよ!僕だって見間違えてしまうのに、ねえバート?」「だから俺はハリーだって!あぁ、もう良いよバートで。」
ふとパクストンはある考えを思いついた。「そうだ!」
 
パクストンは工場でデンとダートに自分のアイデアを披露した。パクストンのアイデアを聞いたデンとダートは困惑した。「それってつまり……。」「こう言いたいんでやんしょ?本気でやるのか、正気の沙汰じゃないって。」「やってください!これは僕のアイデアだし、やるのは僕なんです。それにこれは皆の事になるんですから。」パクストンの決意が固いと知ると、デンとダートは顔を見合わせて言った。「おたくがそこまで言うなら……。」「やるか?」
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トーマスが貨物列車を牽いてナップフォードの操車場にやって来ると、そこにはいつもいるはずのチャーリーたちの姿はなかった。その代わりに貨車を入れ替えているディーゼルの後姿があった。
「うわあ、ディーゼルだ。」トーマスは顔をしかめた。気づかれないように通り過ぎようとしたが、車輪の回転する音で気づかれてしまった。「こんにち……よ、ようトーマスぅ。貨物列車を牽いてきたのか?僕が……じゃなかった俺が片付けといてあげ……やるよ。」
そう言ってディーゼルは貨物列車の後ろに回り込むと作業員はトーマスと列車の連結を切り離し、ディーゼルは列車を片付けに行った。「ディーゼル?」「俺に任せろ。これぐらい友達なら当然だよなー!」「あ、ありがとう……。」
逃げるように走り去るディーゼルを見てトーマスは顔をしかめた。「何だかディーゼルの様子が違うぞ……いつもと違うみたいだ。」
 
暫くして、エドワードがブレンダムの港に届ける貨車を受け取りにナップフォード操車場にやって来た。エドワードの牽く貨車にはソドー島で作られた食べ物が積まれていた。「やあスタンリー。港に運ぶ貨車を受け取りに来たよ。」「待っててエドワード、今持っていくから。」
ところがスタンリーが貨車を取りに行く前にディーゼルがその仕事を引き受けたのだ。「大丈夫だスタンリー。お、俺がエドワードに渡すからな!」「ええっ!」「ディーゼルが?」驚くエドワードとスタンリーを他所にディーゼルが言うが早いがエドワードに渡す貨車を取りに行った。ディーゼルが貨車を押して突進してくるのでエドワードは衝撃に備えたが……エドワードにぶつかる寸前でディーゼルがスピードを落としたので、貨車はとても丁寧に繋がれたのでエドワードはとてもびっくりした。
「な、何してるんだエドワード。貨車を繋いだぞ?早く出発しないと遅刻しちゃうぞ?」「あ、ありがとう……ディーゼル。」エドワードは少し戸惑いながら操車場を出発した。
 
その後ディーゼルは本線を走っていた。反対側から重連して石の積んだ貨車をカーク・ローナンの港に運んでいる最中のトーマスとエミリーがやって来たのでディーゼルは愛想よく声をかけた。「やあトーマス。やあエミリー。今日も君は立派だねえ。その大きな動輪も金色のドームも長い煙突も立派だよ。」愛想の良いディーゼルにエミリーは言葉を失ってしまった。「ディーゼルどうなってるの?あんなに愛想が良いだなんて……。」「そうだろ?おかしいよね。さっき操車場で会った時からあんな感じなんだ。」「あなた何かしたんじゃないの?ディーゼルの秘密を知って脅かしたりとか、幽霊のふりをして脅かしたりとか。」「するもんか!今は彼の秘密なんて知らないよ!まさかアイツ、何か悪だくみしてるんじゃないよね?」「そうじゃないと良いんだけれど……。」

ディーゼルが暫く走っていると今度は向こうから貨物列車を牽いたジェームスが向かってきた。ジェームスはディーゼルの姿を見つけると、また車体を汚されると思い、顔をしかめたがディーゼルは排煙を浴びせかけるどころか逆にジェームスのボディを褒めた。
「どうもジェームス!今日も君のボディは綺麗だね!」ディーゼルの言葉にジェームスはびっくりしてショックを受けた。いつも彼から酷い言葉を受けているのに急に性格が変わっていたからだ。
 
ディーゼルが本線を走り続けていると、彼の目にパーシーが事故を起こして側線の石炭の山に突っ込んでいるのが飛び込んできた。「パーシー!一体どうしたんで……どうしたんだ?」「何だディーゼルか。見ての通りだよ、いたずら貨車に後ろから押されて脱線しちゃったんだ。」後ろでは貨車達が折り重なっていて、事故に遭ったにも関わらず笑っていた。「待っててくだ……待ってろパーシー。すぐにジュディとジェロームを連れて来るからな!」そう言って驚くパーシーをその場に残してディーゼルは走り出した。
間もなくディーゼルはジュディとジェロームを連れてきたが、ジュディとジェロームもいつもと様子の違うディーゼルに困惑している様子だった。「まさかディーゼルが人助けするとはね。」「本当だよ、しかも大嫌いな蒸気機関車をね。」ジェロームとパーシーが囁き合った。
「もしかしたらディーゼルって案外良い奴なのかも知れないわよ。」囁き合うジェロームとパーシーにジュディが言った。
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次の日の朝。トーマス達は始発列車を牽くためにナップフォード駅に来ていた。出発の時間を待っている間、トーマス達は囁き合った。「ねえ、ディーゼルやっぱり変だよ。」と、トーマス。「そうだよねえ。昨日僕の事を後押ししてくれたし。」「俺は走る芸術品だなんて言われたぞ。」「僕なんかボディの色を褒められたよ!」ヘンリーとゴードンとジェームスも口を揃えた。「僕らが知らないだけで実はディーゼルって良い奴なのかも知れないね。前に僕を水たまりから助け出そうとしてくれた事もあるし。ジュディもそう言ってたもん。」パーシーが言った。
そこにナップフォード操車場に行く途中のディーゼルが通りかかった。「やあディーゼル、昨日は後押ししてくれてありがとう。助かったよ。」「パーシーの事も助けてくれたんだってね?」ヘンリーとトーマスがお礼を言ったが、ディーゼルは顔をしかめた。
「何訳の分からない事言ってるんだ。俺は昨日修理で1日ディーゼル整備工場にいたんだ。とうとう頭がおかしくなったんじゃないか?間抜けな蒸気機関車め。」そう吐き捨ててディーゼルは駅を通り過ぎて行った。
「どうなってるんだ?」今度はトーマスが顔をしかめる番だった。「でも昨日見たのは……。」「間違いなく彼だったよね?」ジェームスとヘンリーが顔を見合わせた。「昨日のは気まぐれだったんじゃないのか?」ゴードンが面白くな下げに口を挟む。
そこへ今度は操車場からパクストンが石の貨車を港に届ける為に通りかかったのでトーマスが尋ねた。「ねえパクストン。君はディーゼルが変だと思わないかい?」「変ってどういう風にですか?」「昨日は優しかったのに、今日はいつも通り意地悪なんだよ。」「さあ?僕は何も知りませんよ。でも別に良いんじゃないです?ディーゼルにも良いところがあるって分かったんですし。」そう言って幸せそうに微笑みながらパクストンは出発した。
不思議そうな顔をするトーマス達を他所に、走り出したパクストンの顔には何だか満足そうな表情が浮かんでいた。
 
●あとがき
如何でしたでしょうか。このブログ3度目くらいの塗装塗り替え回です。ディーゼルとパクストンの塗装を入れ替える設定は今期のジェームスとエドワード回で披露するつもりでしたが、同型機のディーゼルとパクストンの方が塗装を入れ替えても周りから違和感を感じられる事もほぼないと思いこの回に使いました。
ただ塗装入れ替えネタなんて誰でも思いつくし、べただから少し面白みを持たせようとあえてパクストンがディーゼルに成りすましたという事を文章中に入れず、トーマス達にも気づかれないようにしました。喋り方からして読者の方にはすぐ分かるようにしていますが。
あと言っておきますが別にこの回でトーマス達のディーゼルに対する見方や考えは改まりません。最後にパクストンが満足しているのはこれを機にトーマス達がディーゼルへの偏見を失くしてくれるかもしれないという期待をしているだけです。
本当ならディーゼル(のふりをしたパクストン)が初登場回の様にゴードン、ジェームス、ヘンリーにお世辞(パクストンの場合本音)を言う場面を入れたかったんですが入れるスペースが見当たらず、妥協して最後のナップフォード駅のシーンでディーゼル(のふりをしたパクストン)に彼らも会っていた事を台詞にして登場させました。
 
次回は公式でも長らく登場していない機関車を再登場させようかと思います。ヒントは実在の機関車。
S2の告知記事見ていただければ分かる事ですが。では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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