ルーシーがトーマスの支線で働く事になり、エミリーがエドワードの支線に移されてから月日が経った。エミリーは今ではすっかりエドワードの支線に馴染んでいる。エドワードの支線もトーマスの支線と変わらないし、夜になれば機関庫でトーマス達とも会えると分かったからだ。
エドワードの支線ではエミリーだけではなくもちろん他の機関車も働いている。エドワードやデリック、ブレンダムの港の機関車やソドー陶土の機関車、それからクロックス精錬所の機関車。そしてフィリップだ。
主に支線を走るのはエドワード、デリック、フィリップ、エミリーの4台だがその中でフィリップは特に若くて未熟だった。
 
その日もフィリップはウェルズワース駅の構内で貨車を入れ替えていた。彼は目の前に貨車が止まっているのを目にすると勢いよく突進していった。「えーい!」体当たりされた貨車は前に止まっていた貨車を巻き添えにして車止めを突き破って脱線した。
「おっと……しまった、またやっちゃった!」フィリップが焦っていると駅長と話に来ていたトップハムハット卿が騒音を聞いて駆け付けた。事故現場を目にしてトップハムハット卿はすぐにフィリップが原因だと悟った。
「フィリップ、いつも言ってるじゃないか。貨車を乱暴に扱ってはいけないと。」「そう言われているのを思い出してゆっくり丁寧に扱ったつもりなんですけど……。」「乱暴だった!乱暴だった!」貨車たちが繰り返すとトップハムハット卿はフィリップを睨み、フィリップはバツの悪そうな笑みを浮かべた。
「君にはもっと貨車の扱い方を勉強してもらう必要があるな。エドワードが適任なんだが……その彼は今メインランドに出かけていて暫く帰ってこれないからなあ……。」トップハムハット卿が悩んでいるところへエミリーが貨物列車を牽いてきた。「うん、そうだ。エミリーに頼もう!」トップハムハット卿に言われてエミリーは何の事か分からずキョトンとした。
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30分後、エミリーとフィリップの姿はナップフォード操車場にあった。「君が僕のコーチになってくれて嬉しいよ。」フィリップは嬉しそうだったが、エミリーは憂鬱そうな表情だった。
と言うのも彼女がフィリップに貨車の扱い方を教える事になったのだ。「君は貨車の扱いにも慣れてるし、フィリップより先にこの島にいたんだから良いコーチになれるだろう。」トップハムハット卿にそう言われ、エミリーは渋々引き受けたのだった。
「私だって誰かに教えられる程貨車の扱いが上手いってわけじゃないのに……。」エミリーはぶつぶつ言ったが、ここで文句を言ったってしょうがない。彼女は早速フィリップの指導を始めた。
「それじゃあまずは普段のあなたの仕事ぶりを見せてちょうだいフィリップ。」エミリーに言われたフィリップは早速目の前の貨車の列を移動させようとした。だが貨車たちは踏ん張って抵抗した。「うんとこしょ、どっこいしょ。そ~れいけ、や~れいけ、どっこいしょ~。」
フィリップは車輪を空回りさせ、レールを軋ませながら貨車を押したがビクともしなかった。「えんやこら、えんやこら、いーくら頑張っても動かねえ~♪」貨車たちが歌って冷やかした。
それを見たエミリーはフィリップに手を貸しに行ったが、どうすればフィリップの良いお手本になれるのか分からなかった。その時エミリーは前にサムソンのブレーキ車のブラッドフォードが怒鳴って貨車たちに言う事を聞かせていたのを思い出した。
エミリーは静かにフィリップの隣にやって来て囁いた。「良い?貨車を言うとおりにさせるには……。」そう言ってエミリーは息を吸い込むと思い切り怒鳴った。「あなた達いい加減にしなさい!あなた達がふざけているせいでフィリップだけじゃなくて鉄道にも迷惑が掛かっているのよ!」
エミリーに怒鳴られた貨車たちはびっくりした。普段は優しいエミリーが怒鳴るところを見た事なかったからだ。驚いた貨車たちはブレーキを外し、フィリップはすんなりと貨車を動かせるようになった。「こうするのが1番なのよ。」エミリーはフィリップに微笑んだ。
「今度貨車が言う事を聞かなかったらあなたがこうするのよフィリップ。」「うん、分かったよエミリー。僕ちゃん頑張るね。」エミリーは自分の指導が上手く行けたと思い、ホッとした。
 
その後でフィリップは別の貨車を移動させる事になった。フィリップはまた貨車を押し始めたが、貨車は案の定びくともしなかった。「お前みたいなチビに俺たちが動かせるわけがねえよ。」貨車が意地悪く言った。
そこで、フィリップはさっきエミリーがやったように貨車に近づくと彼らに向かって怒鳴った。「さあ君たち、今から僕ちゃんが入れ替えるから言う事を聞いて大人しく動くんだ!」フィリップが怒鳴ると貨車たちは驚いた。
それを見たフィリップは自分もエミリーの様に上手く貨車を扱えるようになったと思い込んだ。
間もなくエミリーとフィリップの列車の準備が整った。「それじゃあ、行くわよ。」エミリーは汽笛を鳴らすとブレンダムの港を目指して走り出し、フィリップもそれに続いて走り始めた。
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エミリーとフィリップはブレンダムの港に向かう為に本線を走っていた。それぞれの列車では貨車たちが揺られている。エミリーに問題はなかったが、フィリップの方は問題大有りだった。貨車たちはフィリップなんかに牽かれたくなかったのだ。
「生意気な奴だ。俺たちに指図するだけじゃなくて俺たちを引っ張って行こうだなんて。」「フィリップみたいな奴に俺たちが上手く扱得られないって事を思い知らせてやろうぜ?」貨車たちはそんな事を囁き合っていた。

踏切のゲートが閉まり、エミリーが止まったので後ろを走っていたフィリップも止まろうとした。ところがブレーキをかけた時に貨車たちがいきなりフィリップに体当たりをしてきたのでフィリップはギクシャクしながら走り出してしまい、そのままエミリーに激突した。
エミリーは踏ん張り、何とか踏切のゲートにぶつかる寸前でフィリップを食い止める事ができた。バーティーが通り過ぎるとエミリーは怒った。「ちょっと何やってるのよフィリップ!ふざけないでくれる?」「僕ちゃんのせいじゃないよ!貨車達が押してきたんだよ!」
再び走り出したフィリップとエミリーだったが、フィリップが貨車に押されてエミリーと衝突されないように2台は隣に並んで走るようにしていた。ところが走り出して暫くして急にフィリップのスピードが落ちた。
それに気づいたエミリーは慌てて止まって、後ろにいるフィリップに声をかけた。「今度はどうしたの?」「貨車が……後ろに……引っ張ってるんだ……!」見ると貨車達がせせら笑ってフィリップを後ろに引っ張っていた。フィリップの小さな車輪は懸命に前に進もうとしていたが、空回りするだけだった。
エミリーはどうするべきか考え、答えを出した。「そうね……貨車が動かないなら……体当たりして言う事を聞かせてみたらどうかしら?」「分かった、やってみるね。」そこでフィリップは貨車に体当たりしてみせた。
すると、貨車のブレーキが外れてフィリップの列車はすんなり動き始めた。「やった、やったぞ!僕ちゃんも貨車を扱えるようになったんだ!」はしゃぎながら走り出すフィリップを見てエミリーもホッとした。
ところが貨車に体当たりをするのはとても良い考えとは言えなかった。これが貨車達の機嫌を損ねる大きな原因となってしまったのだ。「偉そうなチビ助め。俺たちを怒らせたらどうなるか思い知らせてやる!」
 
やがて彼らはジャンクションにやって来た。エミリー達の信号は他の列車を通す為に赤になっていたのでエミリー達はそこで止まった。フィリップも止まったが、ブレーキをかけたはずみに貨車とぶつかってしまった。
それを合図に貨車達はフィリップに体当たりし始めた。次にフィリップがぶつかったらぶつけ返してやろう、そう考えていたのだ。もちろんフィリップがぶつかったのはわざとではないが、貨車達にそんなの関係なかった。
赤信号にも関わらず動き始めたフィリップを見てエミリーはギョッとした。「ちょっと!何してるの!」その先の支線からレベッカが貨物列車を牽いて出てきた。「止まってレベッカ!」エミリーが叫び、レベッカは突っ込んでくるフィリップを見て咄嗟にブレーキをかけた。
「危ないですフィリップ!」「貨車が僕ちゃんの事押して止まれないんだあ~!」フィリップは叫びながらレベッカの前を通り過ぎていく。レベッカが走り出す前に信号が青に切り替わり、エミリーはフィリップを追いかけ始めた。
「助けてエミリー!止めて、止めてぇ~!」「ブレーキをかけて!」「やってるよぉ~!」フィリップは必死に踏ん張っていたが、貨車に体当たりされてブレーキが上手くかからずにいた。エミリーは何とかフィリップを止めようと追いかけたが、牽いている貨車が邪魔をして追いつけなかった。
悪い事にその先の線路が工事中だった。線路の上ではスピードを落とすように書いてある標識と工事中の作業員がいた。作業員たちはフィリップを見て慌てて赤旗を振って危険を知らせた。「止まれフィリップ!止まるんだー!」「この先は危険だぞー!」
だがフィリップがスピードを落とさないのを見て彼らは慌てて線路脇に逃げた。フィリップは叫びながら線路から外れた。「フィリップーー!!」それを見たエミリーが叫んだ。脱線したフィリップは横滑りして線路脇の原っぱで止まった。
幸いにも近くに人はいなかったので怪我人はいなかったが、すぐにクレーン車を連れてくる必要があった。
エミリーがロッキーを連れてきて、すぐにフィリップは救助された。線路に戻すため吊り上げられるフィリップにエミリーは項垂れながら言った。「ごめんなさいフィリップ。」「君が誤る必要はないよエミリー。事故が起きたのは僕ちゃんが貨車を上手く扱えなかったからだよ。」
「あなたが事故に遭ったのはあたしのせいよ。あたしがちゃんと貨車の扱い方を教えられなかったから……。」エミリーはトボトボとその場を後にした。「やっぱりあたしには貨車の扱い方を教えるだなんて無理なのよ。」
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エミリーは静かにウェルズワース駅に戻って来ると、駅の側線に止まって項垂れていた。そこへフランキー達の製鉄所から鉄骨やパイプを受け取ってブレンダムの港へ運ぶ途中のエドワードが通りかかった。
「やあエミリー。ここで何してるの?」「あらエドワード、戻って来たのね。」「僕が留守の間にフィリップに貨車の扱い方を教えてくれてたんじゃなかったのかい?」
「教えたけど上手く行かなかったのよ。あたしの教え方が悪かったせいでフィリップは事故に遭うし。お願いよエドワード、あなたなら貨車の扱い方も教え方も上手なんだからフィリップに上手な貨車の扱い方を教えてあげてよ!」
エミリーに頼まれたエドワードは顔をしかめた。「うーん、そうしてあげたいんだけど僕はこの後クレイピッツに行かないといけないんだ。僕は君は貨車の扱い方が上手いと思うけどなあ。教え方に問題があったんじゃない?」
「教え方?」「そうだよ。上手く教えようとして上手く行かなかったんだから違う方法を考えればいいんだ。そうだ、普段君が貨車を牽いているところを見せれば良いんだよ。」エドワードはそう言いながら港に向けて走り出した。
 
2日後、フィリップの修理が終わったのでエミリーはもう1度フィリップに貨車の牽き方を教える事になった。操車場で貨車を受け取るとエミリーはフィリップに言った。「良いフィリップ?あたしの貨車の牽き方をよく見て、真似してね。」「分かったよエミリー!」
エミリーはブレンダムの港に向かう道中フィリップに貨車の扱い方を教えていた。「貨車と上手くやるコツは貨車の機嫌を損ねないようにする事よ。」「分かった。でもどうすれば良いの?」「見てて。」
すぐに貨車たちはエミリー達をからかい始めた。「エミリーは鈍間♪エミリーは鈍間♪また遅刻♪」貨車達が囃し立てたがエミリーは気にしなかった。「あなた達の歌って本当に素晴らしいわよね。あたしの為にもう1曲歌ってくれないかしら?」
すると今度はフィリップの牽いている貨車達が歌を歌い始めた。「チビのフィリップ♪チビのフィリップ♪貨車の牽き方分からなくて泣きだした♪」フィリップはムッとしたがそれを聞いたエミリーが笑うので見てみるとエミリーは貨車達に気づかれないようにコッソリ目配せしてきた。エミリーの言いたい事に気がついたフィリップはニヤリとするとさっきのエミリーを真似した。「君たちの歌って本当に陽気で楽しくなるよね。港に着くまでにもう1曲歌ってほしいよ。」いつも歌を歌うとうるさがれる貨車達は少し驚いたが彼らのご希望どうりに歌う事にした。
貨車達はすぐにエミリー達がぶつけてくると思っていたが、彼らはぶつけるどころか歌を楽しんでいた。
 
暫く走っていると、赤信号が見えてきた。ブレーキをかける前にエミリーがアドバイスする。「貨車の機嫌を損ねないようにするのはぶつけないようにするのも大事なの。彼らはぶつけられるのが嫌いだからね。」
エミリーはそう言って優しくブレーキをかけて信号の手前で止まった。フィリップもそれを真似してゆっくりと止まる。すると貨車はぶつからずに静かに止まった。「やったわねフィリップ。」嬉しそうなフィリップを見てエミリーが褒めた。
 
やがて列車はブレンダムの港に到着した。「やったぞ!僕ちゃんちゃんとここまで貨車を牽いてこれたんだ!」「そうよ、よくやったわ!」フィリップははしゃぎ、エミリーは歓声を上げた。クランキーやカーリー、ソルティーやポーターも歓声を上げる。
「君も良くやったねエミリー。フィリップにちゃんと貨車の牽き方を教えられたんだ。」貨物列車を牽いてきたエドワードが言うと、エミリーは嬉しそうに微笑んだ。
「ご苦労だったなフィリップ。それじゃあその貨車は操車場に置いてきてくれ。」港の責任者が指示した。「分かりました!直ちに!」そう言ってフィリップは駆け出したが、姿が見えなくなったと同時にフィリップの消え去った方向から騒音がした。「おっと。ごめんよ、またぶつかっちゃった。」それを聞いてエミリーとエドワードは苦笑いした。「何事もゆっくり覚えて行けば良いんだよ。」「ええ、そのうち彼も立派に貨車を扱えるようになるわ。」
 
●あとがき
何故にエミリーをエドワードの支線に移してしまったのか後悔しながら書きました。何でこんな訳の分からん設定造ったんでしょうか。
おかげで去年と今年のエミリー回両方とも俺の作品の中で特に酷い回だと思ってます。エドワードとヘンリーの移行に触発されたんでしょうか。
 
エミリーが貨車の扱いが上手いか下手かって明確に分かってませんよね。貨車と言い争うところとか仕返しされたり悪戯されて事故を起こすとかそんなシーンもあまりありませんし、そもそも貨車と絡むのも少ないような。記憶にあるのは「エミリーとあたらしいろせん」「ブラッドフォードってきびしい?」のワンシーンぐらいです。2つの話を参考にするとエミリーは貨車の扱いが上手くない、仲は良くないってのが分かりますが個人的にはその回限りの設定みたいなものと思ってます。今回書いたエミリーが他の機関車に貨車を扱い方を教えられるくらい扱い方が上手いって設定も今回限り、俺のブログのオリジナル設定ですが。
 
フィリップと貨車の関係もあまり分かってませんよね。デビューして間もないのもありませんが会話だろうが悪戯だろうが絡んだところを見た記憶がありません。S22でいたずら貨車牽いてるシーンがあるんですが特に絡みもありませんでした。まあ貨車の牽き方を教えられたのはフィリップが未熟だからって思っておいてください(適当)。
 
こんなグダグダな回だからあとがきも特に書く事が無いので次回予告させてもらいます。次回は見た目は同じでも性格は真逆のディーゼルとパクストンのお話。島の機関車達からディーゼルの評判があまりにも悪いのを気の毒に思ったパクストンはディーゼルの評判を上げようとある作戦を考えます。
 
では今回はこの辺で(@^^)/~~~
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