機関車達は皆それぞれ自分の好きな仕事がある。トーマスはアニーとクララベルを牽いて支線を走る事が。パーシーは郵便列車を牽く事が。そしてゴードンは急行列車を牽く事が好きだった。
でもいつも自分の好きな仕事をするわけにはいかない。機関車達は仕事を選ばれない。仕事を機関車達に与えるのはトップハムハット卿なのだ。彼から与えられた仕事を断る事はできない。
エドワードとドナルドとダグラスがナップフォード駅の構内で休んでいると、トップハムハット卿が彼らを呼び寄せた。「誰か今日の午後の間貨物列車を頼みたいんだが……。」
「でも僕はこの後旅客列車の仕事があるし……。」「我々はアールズバーグまで建築資材を運ばなければならないのです。」エドワードとドナルドとダグラスが答えた。「困ったなあ。他に手の空いている機関車もいないし……。」
トップハムハット卿が書類を見ながら頭を掻いていると聞き覚えのある汽笛が聞こえてきた。その汽笛を聞いたダグラスは誰の汽笛かすぐに分かりニンマリした。彼はその機関車に悪戯を仕掛けようと思ったのだ。
「トップハムハット卿、その仕事は大事な仕事なんでしょうか?」「もちろん大事だとも。君たちの仕事はどれも大事な仕事だ。」「ではその仕事私が……。」「大事な仕事!?それじゃあ僕が引き受けます!」
ダグラスが言い終わる前にジェームスが駆けこんできた。「君がかジェームス?この後仕事はないのかね?」「はい、今日は仕事がスムーズに終わったのでこの後は特に仕事もありません!」
「ふむ。では君に仕事を任せよう。それじゃあ操車場に貨物列車を取りに行きなさい。」「貨物列車~!?」ジェームスはびっくりして叫んだ。「くぅ~っ、騙したな!」ジェームスはダグラスを睨んだが、ダグラスはドナルドと一緒にとっくの昔に逃げ出していた。
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ジェームスが貨物を受け取りにナップフォード操車場にやって来るとチャーリーが貨物列車を渡しに来た。「はい、どうぞ。君の貨車だよジェームス。」「貨物列車?僕は貨物列車なんか牽かないよ?それはヘンリーの貨車だ。僕が牽くのは客車。勘違いしてるんじゃない?」
「誤魔化してもダメだ、ジェームス。」そう言って機関士はジェームスと貨車を近づける為にバックさせた。「大事な仕事ができて良かったんじゃない?」「生意気な!」チャーリーにからかわれ、ジェームスは自分のボディ以上に顔を真っ赤にさせた。
ジェームスの出発の用意が整い、貨物列車を牽きに行こうとした時、エドワードが操車場にやって来た。「やあエドワード、これからどこに行くんだい?」「子供たちを遠足に連れて行って、次にブラスバンドを海辺の村に、それから花をマロン駅に届けに行くよ。」
「良いなあ、君はそんな大事な仕事を任されて。僕も大事な仕事を任されたいよ。」「君のだって大事な仕事じゃないかなジェームス?貨物が届くのを待っている人がいるんだから。」ぼやくジェームスをエドワードが宥めた。
その時ジェームスにある考えが思い浮かんだ。「僕の仕事も君と同じ大事な仕事なら僕と仕事を代わっておくれよ。」「ええ?」「君からすれば貨物を運ぶ仕事も大事なら客車を牽くのと変わらないだろ?だから交換しようよ。ね、良いだろ?じゃ、決まりだ。」
困惑するエドワードを他所にジェームスは勝手に話を決めると、スタンリーとスタフォードに頼んでジェームスとエドワードの列車を入れ替えてもらった。「こんなのズルいよ!」旅客列車を牽いて颯爽と出ていくジェームスに向かってエドワードが叫んだ。
「ズルくなんかないさ。大体君と僕は同じ中型テンダー機関車なんだ。仕事を交換したって何の問題もないだろ?」そう言ってジェームスはエドワードを置き去りにしていった。
ティドマス駅では子供達がエドワードの事を待っていた。ところが客車を牽いてきたのがジェームスだったので子供たちは驚いた。「あれ?エドワードじゃないの?」男の子が尋ねた。「私、エドワードの列車に乗りたかったのに。」と、女の子。
「エドワードは別の仕事で来れなくなっちゃったから僕が代わりに君たちを遠足に連れて行くよ!君たちだってエドワードより僕みたいに真っ赤で速くてカッコイイ機関車に乗りたいだろ?」「確かにエドワードよりジェームスの方が良いかも!」別の男の子が言った。
こうして子供たちはジェームスの牽いてきた列車に乗り込み、ジェームスは意気揚々と出発した。
その頃エドワードはジェームスに代って貨物列車を牽いていた。エドワードは貨物列車を牽くのも貨車を扱うのにも慣れていたが、建設現場で使われる重たい木材を運ぶのには一苦労した。
子供たちがエドワードではなくジェームスが来たのに驚いたのと同じで、建築資材を待っていたジャック達もジェームスではなくエドワードが木材を運んできたのを見て驚いていた。
「どうして君が建築資材を運んできたんだい?」「ジェームスは何してるんだ?彼が建築資材を運んでくるんじゃなかったのか?」ジャックとアルフィーが尋ねるとエドワードはゼエゼエ言いながら答えた。「彼に……頼まれて……仕事を……代って……あげたんだ……!」
ジャックとアルフィーはキョトンとして顔を見合わせた。「とにかく重たい木材を運んできてくれてありがとう。これで工事を進められるよ。」クレーンのケリーが木材を降ろしながら言った。
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ジェームスは子供たちを遠足の行き先に送り届けて操車場に戻って来ていた。「ああジェームス、戻って来たんだね。次はビカーズタウンまでの石炭の貨車を運んでもらうよ。」スタフォードに教えられた方を見ると、石炭ホッパーから貨車に石炭が積み込まれていた。
「汚い石炭の貨車だって!?それのどこが大事な仕事だって言うんだい?」「君たちが走るのに必要になるし、機械を動かすのにも必要になるんだ。それを届けるだなんて大事な仕事じゃないか。」スタフォードが言った。
そこへロージーが2台の水色の特別仕立ての客車を押してきた。「その客車は何だいロージー?」「エドワードがブラスバンドを乗せていく客車よ。」それを聞いたジェームスはずる賢い笑みを浮かべた。
「実はエドワードが僕にその仕事を譲ってくれてね。僕がその客車を牽くから石炭の貨車はエドワードに渡しておいてくれるかな?」スタフォードとロージーは困って顔を見合わせたが、列車の用意が遅れれば列車にも支障をきたすので仕方なく言われた通りにした。
客車を繋がれたジェームスは上機嫌で操車場を出て行った。「大事な仕事のお通りだー!」
ジェームスがいなくなってすぐにエドワードが木材を届け終えて戻って来た。「ふうふう、ただいま~。」「お帰りエドワード。帰ってくるのを待ってたんだ。はい、次の列車だよ。」スタフォードが石炭の貨車を繋げた。
「ちょっと待ってよ、僕はこの後ブラスバンドを乗せるはずなんだけど?」「でも君がジェームスにブラスバンドの仕事を譲ったんじゃないのかい?」エドワードに聞かれてスタフォードが言った。「誰がそんな事を言ったんだい?」「ジェームスだよ。」
「あぁ、ジェームス……。」「とにかくこの石炭の貨車を牽いて行くしかない。この石炭が無いと困る人もいるし、ジェームスが放り出した仕事をこのまま放っておくわけには行かないからな。」エドワードの機関士に言われ、エドワードは仕方なく石炭の貨車を連結した。
こうしてエドワードは必要な場所に石炭を届けた。石炭を受け取った人たちはジェームスではなく、エドワードが石炭の貨車を牽いて来たのを見て困惑した。「どうして君が石炭の貨車を運んでるんだ?今日はジェームスが石炭を運んでくると聞いていたんだが。」
「ジェームスが僕の仕事を代わりにやってるから僕が彼の代わりに彼の仕事をしてるんです。」「よく分からないが、とにかく石炭を持ってきてくれて助かったよ。ありがとう。」
エドワードは石炭置き場に石炭を届けると、通過待ちの間に近くの給水塔で水を補給する事にした。疲れ切っていた彼は休憩できて嬉しかった。彼が休んでいるとどこからか微かに音楽が聞こえてきた。するとブラスバンドが乗せたジェームスが隣の線路を通過した。
「見てよエドワード!僕は今音楽を運んでるんだ~!」ジェームスは音楽に合わせて陽気にハミングした。「僕の仕事を返してよ!」「音楽のせいで聞こえませ~ん!」エドワードは怒鳴ったがジェームスは相手にしなかった。
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ジェームスが海辺の村にブラスバンドを送り届けてから再びナップフォード操車場に戻って来ると、スタンリーが次の仕事を用意していた。「次はこの臭いチーズを運んでもらうよ。」スタンリーがチーズが積まれた3台の貨車を押してきた。
その貨車から漂うチーズの悪臭にジェームスは顔をしかめた。まるで臭気が目に見えるようだ。「うえ~っ!そんな臭いチーズを僕が運ばなきゃならないだなんてゴメンだね。」その時彼は傍に花が積まれた貨車が置かれていた。貨車からは花の良い香りが漂っている。それ見てジェームスはにんまりした。
エドワードがクタクタに疲れて戻って来ると、スタンリーがチーズの貨車を押してきた。スタンリーが口を開く前にエドワードは呆れて溜息をついた。「言わなくても分かってる。今度はその貨車を運んで行けば良いんだよね?」「ビカーズタウンまでね。」スタンリーが言った。
「これくらいの貨車ならすぐにビカーズタウンまで届けられるだろう。」エドワードはそう思っていたが、そうは行かなかった。ナップフォード駅に来ると駅員が赤旗を振って彼を止めた。「ビカーズタウンに行くならこの貨車も持って行ってくれ。」駅員が言うとフィリップがタールを積んだタンク車を運んできた。
「各駅停車の貨物列車か……。」エドワードはウンザリした様に言った。
最初はたった3台の貨車だったが、ビカーズタウンに行く道中エドワードは各駅で他の貨車を繋げられるので、貨車の台数はどんどん増え、列車は長くなっていった。クロスビー駅ではパイプの貨車、ウェルズワース駅で小麦粉の貨車を受け取った。
気がつくとエドワードの列車は15台もの貨車が繋がる長い列車になっていた。
マロン駅ではトップハムハット卿がウィンストンに乗ってナップフォード駅にあるオフィスに帰ろうとしていたところだった。そこへエドワードが長い貨物列車を牽いてやって来た。
「よし、貨車を繋げてくれ。」すっかり疲れ切った様子のエドワードを見てトップハムハット卿はエドワードに話しかけた。「やあエドワード。どうしたんだね、その貨物列車は?君の今日の仕事は貨物列車ではないだろう?」
「はい、そうなんですが実はジェームスが仕事を放り出して僕の仕事を持っていったんです。だから代わりに僕がジェームスの仕事をしているんです……。」エドワードから事の次第を聞いたトップハムハット卿は顔をしかめた。
話を聞き終えるとトップハムハット卿は厳しい口調で言った。「話は分かった。とりあえず君はその列車をビカーズタウンまで届けたまえ。私はここに残ってジェームスに話をする。」
ジェームスはとても良い気分で田舎を走っていた。彼はとても楽しい時間を過ごしていた。「良い気持ちだなあ~!」ところが楽しいひと時はすぐに終わりを迎えた。マロン駅に来るとトップハムハット卿がホームに立っているのが見えたのでジェームスは焦った。「しまった。」
「君は本当に悪戯のすぎる機関車だなジェームス!ゴードンの列車を奪った次はエドワードの仕事を奪ったのかね!」トップハムハット卿が雷を落とした。「この鉄道の仕事はどれも大事な仕事だ!仕事の選り好みをするのは許せん!しかも君自身が貨物列車の仕事をすると言ったのに放り出すとはますますけしからん!」
「反省してます……。」「君には明日市長を乗せる仕事を頼もうと思っていたんだが……今の君に必要なのは特別な仕事ではなくお仕置きのようだ、覚悟しておくんだな!」「そ、そんな~。」トップハムハット卿に睨まれジェームスは口を噤んだ。
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次の日お仕置きが決行された。ジェームスは市長ではなく、ゴミを乗せた貨車を1日中引っ張る事になった。「やあジェームス、特別な仕事を任されたんだってね?」トーマスがからかってきた。
「こんな仕事やりたくないよ~!」「仕事の選り好みはやめたんじゃなかったのかい?」パーシーにからかわれてジェームスは黙り込んでしまった。
 
●あとがき
令和初の投稿です。2回目の今回は前々から考えていたストーリー。当初は原作の「はんにんはどちら?」を意識して嫌な仕事を引き受けたドナルド(かダグラス)がダグラス(かドナルド)と車体番号を入れ替えて誤魔化すが、車体番号を返し忘れて混乱を引き起こす話だったんですが、ジェームスとエドワードの方が話が成立しやすいかと思い、ジェームスとエドワードを主役にしました。見た目も似てるし、よく絡む2台ですしね。
主役をジェームスとエドワードに変更後は車体番号を入れ替える前は2台の塗装を入れ替える予定でしたが、去年ジェームスが青くなる話はやったし、公式でも実現されちゃったのでジェームスがエドワードをうまく出し抜いてエドワードの仕事を奪う形にしました。(塗装を入れ替える経緯が思いつかなかったのもありますが)。
この話では塗装を入れ替える展開は実現できませんでしたが、近々別の話で取り入れるつもりです(そう思って今回披露しなかったりもします)。お話の展開が今回と被らなければ良いんですが。
 
次回はエミリーの主役回。現在執筆中ですがどうも思うように進みませんね。オリジナル設定ちょびっと盛り込んでるせいもあるでしょうが。では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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