パーシーはソドー島に沢山の友達がいるが、特に仲良しなのは同じタンク機関車のトーマスだ。車輪の数や車体の色は合わなかったが、パーシーが島に来た時から気の合う友達で同じ支線で働いていた。
一緒の支線で働く彼らはお互いに困った時に助け合う大親友だったが、それでも時々喧嘩をする事はあった。
ある日の事、トーマスとパーシーは一緒にファーカー採石場から石を大量に積んだ沢山の貨車をビカーズタウンの操車場に運ぶ途中だった。彼らは一緒に働けるのが嬉しかった。
「ねえトーマス、もうすぐゴードンの丘だから強く押してくれるかい?」「もちろんだとも。」ゴードンの丘は本線最大の難所だ。トーマスとパーシーは力を合わせて、勢いよく丘を登っていった。
「頑張ってトーマス!もっと強く押して!」「押し……てる……よ!よいしょ!よいしょ!」急勾配を登る時は貨車の重さが堪える。トーマスは懸命に押し、パーシーは必死に引っ張った。
「下りになれば……楽になるはずさ!」パーシーは独り言を呟いた。やがて列車は頂上に辿り着いた。列車はここで一旦停車しなければならない。「良いよトーマス、ブレーキをかけて!」パーシーが後ろにいるトーマスに向かって叫んだ。
ところがどういう訳か、トーマスが後ろからどんどん押してくる。「ちょ、ちょっとトーマス!もう頂上なんだよ、もう押さなくていいんだよ!止まって!止まってよぉぉ~!」パーシーは叫びながら下り坂に差し掛かった。
勢いがついた重たい列車を下り坂で止めるのは簡単な事ではない。下り坂に差し掛かったパーシーはブレーキをかけて必死に線路にしがみついたが、後ろからぐいぐい押されるのでスピードは落ちなかった。
やがて丘の麓の急カーブが目に飛び込んできた。「お願い、止まってよ~~!」パーシーは祈りを込めて叫んだ。急カーブに突入したパーシーは悲鳴を上げながら脱線するかしないかの勢いで急カーブを曲がった。
だが貨車たちはそうはいかなかった。3台目の貨車がカーブを曲がり切れずに脱線すると、後ろの貨車がぶつかり次々と線路から外れたり、横転したり、脱線した前の貨車に乗り上げたりしてようやく止まった。
すぐにレスキューセンターからエドワードがロッキーを押してきて、脱線していない貨車たちをビカーズタウン操車場へ運んで行った。トーマスとパーシーも事故現場の復旧作業を手伝う事になった。
「なんで僕が丘の頂上で押さなくて良いって言ったのにぐいぐい押してきたんだよ!」貨車の残骸を片付けているトーマスと鉢合わせするとパーシーが口を開いた。
「僕は押してないよ!君こそ下り坂で僕をぐいぐい引っ張って来たんじゃないか!」「引っ張ってないよ!君こそ下り坂でブレーキをかけてなかったろ!」「かけたよ!」「かけてないよ!」「かけてたってば!」「かけてなかいって!」
言い争いするトーマスとパーシーをロッキーがオロオロと見ていた。言い争いの果てに遂にトーマスとパーシーはそっぽを向いてしまった。「君がそんな風に言うならもう僕は二度と君と仕事しないよ!」「そっちがその気ならこっちだって!」
後片付けが済むとトーマスはロッキーをレスキューセンターに連れて行き、パーシーは壊れた貨車の残骸を運んで行った。
その日の夜、トーマスが機関庫に帰って来ると、丁度パーシーが別方向から帰って来た。彼らは顔を見合わせてハッとしたが、お互いまだ機嫌が悪かったので2台とも口を利かなかった。
パーシーはターンテーブルに乗って機関庫に入ろうとしたが、先にトーマスが割り込んできた。「ちょっと!僕が先に乗ろうと思ってたんだぞ!」パーシーが叫んだ。「早い者勝ちだよ!」作業員がターンテーブルを回転させようとした瞬間、パーシーが無理やりターンテーブルに乗り込んできた。
ターンテーブルが止まると先にパーシーが下りて機関庫へ入っていった。「僕が先にその機関庫に入るつもりだったんだぞ!」「早い者勝ちさ!」パーシーが言い返した。トーマスはそれには何も答えず、パーシーから離れた機関庫に入った。
その様子を見ていたエドワードは左右にいるトーマスとパーシーを交互に見ながら口を開いた。「君たちいつも隣同士の機関庫で眠るのに。何かあったのかい?」「別に!」2台はそう叫ぶと機関庫へ潜り込んだ。
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次の日の朝もトーマスとパーシーは機嫌が悪いままだった。目も合わせないし、一言も交わさないので他の機関車たちも気まずそうに彼らを見ていた。「2人ともおかしいわ。昨日の晩から一言も話さないなんて!」エミリーが言ったが、トーマスもパーシーも黙ったままだった。
そこへトップハムハット卿の青いセダンがやって来たので、機関車たちはふうっと息を吐いた。トップハムハット卿は他の機関車たちに仕事を与えて見送るとトーマスとパーシーに言った。
「オリバーが故障してしまってね。君たちのどちらか1台をダックの支線を手伝いに行かせようと思うんだがどちらが行きたいかね。」「僕でお願いします!丁度トーマスの支線から離れたかったんですよ!海を見て気分転換にもなるし、ダックとは昔から気が合いますから。」パーシーが名乗り上げた。
「そうか。パーシーはそう言ってるがトーマスはどうかね?」トップハムハット卿がトーマスの方を振り返った。「ぜひそうしてください!彼の顔を見なくてせいせいしますよ!」「僕だって!」
トップハムハット卿は少し驚いたようだったが、ダックの支線に手伝いは必要だったのでパーシーを手伝いに行かせた。
パーシーはすぐにダックの支線にやって来た。「やあパーシー、君がオリバーの代わりに手伝いに来てくれたんだね。」「また君と働けるようになって嬉しいよ。」そこへスコットランド出身の双子の機関車ドナルドとダグラスが貨物列車を牽いて通りかかった。
「おやパーシー、あなたが手伝いに来てくれたのですね。」と、ドナルド。「トーマスの支線から離れて良いんですかな?」と、ダグラス。「別にいいんじゃない?トーマスの事なんて知らないよ。行こうダック。」
「パーシーさんどうしたんですかねえ?」貨物列車に繋がっていたブレーキ車のトードが心配そうにダグラスに言った。「さあね。双子のドナルドの事はよく知ってても私は彼らの事まで分かりませんよ。でもこれからひと騒動起こるのは確かでしょうな。」
一方のトーマスはと言うと1人で支線を走っていた。「ねえトーマス、本当にパーシーと一緒にいなくて良いの?」「あたしはアニーが一緒にいないと嫌だし、困る事もあるんだけれど。」アニーとクララベルが不安そうに言った。
「別にいいさ。パーシーがいなくても僕は平気だし、彼が来る前は僕1人でこの支線を動かしていたんだからどうって事ないよ。」トーマスは素っ気なく答えた。
パーシーとダックは楽しく働いていた。パーシーは大好きな海辺の傍で働けたのが嬉しかった。「海の近くで嬉しいな~、海が見えると嬉しい~。」パーシーはご機嫌で歌を口ずさんだが、ダックは違った。「グレートウェスタンじゃ仕事中に歌うだなんてあり得ないんだよパーシー。」
「ゴメンよダック、ついつい嬉しくてさ。いつもとは違う景色が見れて良い気分転換になってるからね。」「分かった、分かったよ。けどね、仕事の時は無暗にぺちゃくちゃお喋りするより静かに仕事に集中する方が良いんじゃないか?」
パーシーは何だかダックと働くのが嬉しくなくなってきた。トーマスなら仕事の時歌おうがお喋りしようが、そんな事言わなかったからだ。
貨物列車を届けた後で、パーシーは駅の給水塔で水を補給していた。彼が給水しているところへ貨車を牽いたドナルドが通りかかった。「おや、ごきげんようパーシー。我々の支線はどうですかな?お気に召しましたかな?」「うん、気に入ったよ。」
パーシーがドナルドとお喋りを楽しんでいると、ダックが戻って来た。彼はパーシーとドナルドが話をしているのを見て言った。「仕事の仕方には二通りある。グレートウェスタン流とダメダメ流。ダメダメ流ってのは仕事中にぺちゃくちゃ無駄話をする事さ。グレートウェスタン流の僕からすれば……。」
「わ、分かった。分かったよダック。……ちぇっ、ちょっとお喋りしてただけじゃないか。」パーシーはぶつぶつ呟いて、ダックの後に続いた。それを見たドナルドは思わず苦笑いした。
そのトーマスは1人で支線の仕事をしていた。彼はパーシーの顔を見なくてせいせいしていたが、支線が静かすぎて少し寂しく感じていた。エルスブリッジ駅にやって来ると、丁度ダグラスが接続列車を引っ張って到着したところだった。
「こんにちはトーマス。支線の方は順調ですかな?」「やあダグラス。おかげで順調だよ、ありがとう。」「でも1人で働いていて寂しくはないですかな?パーシーが恋しいとか……。」「そんな事あるもんか!」
「そういつまでも意地張ってないでちょっと話してきたらどうです?もしかしたら事故の原因はあなたたち以外にあるかもしれませんぞ?」そう言ってダグラスが行ってしまった後、トーマスは彼の言う事が妙に引っかかっていた。
その日の夜。トーマスはナップフォード駅の構内にある小さな貨物小屋で休んでいるパーシーのところに訪れた。トーマスに気づいたパーシーがぶっきらぼうに尋ねた。「何だいトーマス、僕に何か用?」「ここに貨車を運ぶ仕事を頼まれてね。そのついでに君の顔を見に来たんだ。」トーマスは愛想笑いしながら言った。
だがパーシーの返事は冷たいものだった。「僕、今の君と話したくない気分なんだけど。さっさと帰ってくれない?」それを聞いたトーマスはカチンときた。「ああ、帰るさ!僕だって君の顔なんて見たくもないね!もう絶交だ!」そう叫んでトーマスは飛び出して行った。
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翌日もパーシーはイライラしていた。昨日の夜はトーマスと言い争った怒りがまだ収まらない。おまけに貨車たちが言う事を聞かないのだ。その日のパーシーの仕事は砂利を港まで運ぶ事。
パーシーが砂利を積んだ貨車を入れ替えようとしているところへダックが通りかかった。「ほら急ぐんだパーシー。そんなスピードじゃグレートウェスタン流に相応しくない。それじゃあダメダメ流だよ。グレートウェスタン流なら……。」
「分かったよもう!」ご機嫌斜めのパーシーを前にして貨車たちは嬉しそうだ。「ほーら、さっさとしないとまたダックに急かされるぞ~?」「お前たちがちゃんと動かないからだろ!」パーシーは怒鳴りつけると貨車を突き飛ばした。貨車を揃えるとパーシーは港に砂利を届けに行った。
イライラが募っていたパーシーの走り方は酷かった。彼は貨車がふざけて笑ったり、歌うたびにわざと彼らをぶつけあった。「おいぶつかるなよ!バッファーが痛むだろ!」「俺じゃねえよ!」「じゃあ誰がぶつけたんだ?」
すぐに貨車たちはパーシーがわざとやったのだと気がついた。それなら仕返しせずにはいられない。「パーシーがぶつけたんだ!パーシーがぶつけたんだ!」「パーシーに仕返ししよう!パーシーに仕返ししよう!」
パーシーは貨車たちが仕返しを企んでいるとも知らずにゴードンの丘を登り始めた。「へへへ、後ろに引っ張ってやれ。」先頭の貨車が他の貨車に囁くと、他の貨車たちが順番に後ろへ伝えていく。
パーシーは顔を真っ赤にし、力を込めて丘を登っていく。「ち、ちゃんと走ってよ……!」息を切らすパーシーを見て貨車たちは楽しそうに笑った。「もっともっと困らせてやれ!」
やがてパーシーは丘の頂上に辿り着いた。本来ならこの丘の頂上で止まらなくてはならないのだが、この時パーシーは疲れていたのとイライラでその事をすっかり忘れてしまっていた。
「ああっ!止まれパーシー!」機関士に言われた時にはもう遅かった!気がついた時にはパーシーはもう丘を下り始めていたのだ。「今だ!それ押せ!」先頭の貨車の合図で貨車たちはパーシーを押して丘を下り始めた!
「行け行けー!」「止まってよ!止まってよ!止まってよぉぉぉ~~!!」「止まるな止まるな!ノンストップだ!」パーシーは叫んだが貨車たちはお構いなしだ。彼らはガタガタ激しく揺れ、飛んだり跳ねたりしながら丘を下っていく。
丘の麓に着いたパーシーは急カーブに差し掛かった。「うわ、脱線する!」パーシーは片輪を浮かせながら急カーブを曲がっていく。次の瞬間パーシーはバランスを崩して線路から外れて脱線した!
「間抜けなパーシーが事故を起こしたぞ~。」「君たちが押してくるからだろ!」貨車に言い返したパーシーはある事に気づいてハッとした。「そうか、この間の事故もトーマスのせいじゃなくて貨車のせいだったのか……。」
脱線したパーシーが横倒しになっているところへ貨物列車を牽いたダグラスが通りかかった。「大丈夫ですかパーシー!すぐに助けを呼んできますぞ!」ダグラスは急いで操車場に向かった。
操車場では丁度トーマスが貨車を入れ替えているところだった。そこへダグラスが駆けこんできた。「パーシーが事故を起こしましたぞ!」ダグラスが伝えたが、昨夜の事でまだ腹を立てていたトーマスはそっぽを向いて答えた。「僕には関係ない事だよ。」
それを聞いてダグラスは怒った。「パーシーはあなたの親友でしょう!彼を見捨てるのですか!困っている友達を助けるのが本当の友達と言うのではないのですかな?」その言葉にトーマスはハッとした。
「君の言うとおりだダグラス。僕間違ってたよ。すぐにパーシーを助けに行くね!」そう言って駆け出したトーマスを見てダグラスは微笑んだ。
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パーシーは脱線して横倒しになったまま丘の麓にいた。減速して通りかかる機関車たちは皆気の毒そうな顔をして通り過ぎていった。間もなくトーマスが救援列車のジュディとジェロームを牽いてきた。
パーシーはトーマスに謝りたかったが、なかなか素直になれずにぶっきらぼうに言った。「何しに来たんだい?」「君を助けに来たんだよ。」トーマスはそれだけ答えた。「心配しなくて良いわよパーシー。」「僕らがすぐに助けてやるからな。」ジュディとジェロームが言った。
パーシーは貨車に積まれ、ソドー整備工場まで連れて行かれる事になった。トーマスは後の片づけをジュディとジェロームに任せ、パーシーをソドー整備工場へ連れて行った。
ソドー整備工場に向かう道中パーシーはトーマスに尋ねた。「どうして僕の事を助けてくれたんだい?僕ら喧嘩してるのに……。」「親友だからさ。友達ならどんな時でも助け合うものだろ?それに親友だって喧嘩するさ。」
それを聞いたパーシーは自分が恥ずかしくなった。「ゴメンよトーマス、君と2度と仕事したくないなんて言って。今は速く修理を済ませて君の支線で一緒に働きたいよ。」「僕も悪かったよ。君の顔を見ずに済んでせいせいるだなんて言って。早く君が支線に戻って来るのを待ってるよ。また一緒に仕事しよう!」
 
●あとがき
ご無沙汰の更新です。ようやくセト/赤髪オリジナル機関車トーマスの第2シリーズを投稿する事ができました。
まあ長編の準備をしたり、Pixivで活動したり、話が中々纏まらなかったり色々ありまして……。
 
実はこのお話大規模変更しましてもともと「トーマスがパーシーの郵便貨車を壊してしまったのを誤魔化し、それが発端で大喧嘩になる」と言う展開。本来なら今回のお話を来年に投稿する予定がこのお話を作成中に本家S6「ふたごのけんか」の裏話的なの書いてみたいなーとか思ったのと、意識してないけどどことなく似てるなと思ってこのお話にその案を入れてみたところこんな感じになっちゃいました。だからところどころ本家と似てるところもあります。その後にあまりにも本家に似すぎたらまずいと思い、元のアイデアもぶち込もうとしたらおかしな感じになると思い、結局変更せずに完成させました。元のアイデアは今後実現するかもしれません。多分。まあ今回がどうなってようとこのお話は投稿してたと思いますが(ドナルドとダグラスが仲裁に入るのも『ふたごのけんか』のオマージュ。トーマスと双子のポジを入れ替えました)。
 
オリキャラ「クリンク」も登場させようと思ってましたがルーシー回まで未登場にしとこうと思い没にしました。
 
オチでパーシーがトーマスに最初の事故の経緯を語らせる予定でしたが、何か仲直りしたのにその話を蒸し返すのもどうかと思ってあえて口にさせませんでした。
 
今回色々変更しましたがタイトルも変更しました。もともと7話のタイトルにするつもりでしたがこのお話の内容の方がふさわしいかと思って変更。元ネタはディズニー映画「モンスターズ・インク」の曲名から。
 
次回はジェームスとエドワードが主役。大事な仕事を任されたエドワードにジェームスは嫉妬してある悪だくみを企みます。
 
では今回はこの辺で(@^^)/~~~
 
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