モンタギューはグレートウェスタン鉄道出身の機関車だ。パーシーと同じように緑色の車体をしているが、パーシーより大きい大型タンク機関車だ。ソドー鉄道を手伝うためにトップハムハット卿に買われたモンタギューは皆から「ダック」と呼ばれた。
この呼び名はグレートウェスタン鉄道にいた時からアヒルのようなよちよちした走り方をするためそう呼ばれていた。ゴードンたちは彼をからかうためにそう呼んでいたが、本人は本名よりダックと言う名前の方が気に入っていたので特に気ならなかった。
トップハムハット卿はダックを信頼して彼に海辺の支線を一本任せていた。その支線ではダック以外に同じグレートウェスタン鉄道出身のオリバーやスコットランド出身のドナルドとダグラス、そしてダグラスとオリバーのブレーキ車であるトードが働いていた。
ダックの支線の傍には廃線跡に新しく線路を敷きなおした鉄道、アールズデール鉄道が存在する。そこで働く機関車たちはレックス、バート、マイク、ジョック、そしてディーゼル機関車のフランクでスカーロイのような高山鉄道の機関車たちよりも小さかった。
隣同士の線路を走るのでダックの支線の機関車たちとアールズデール鉄道の機関車たちはとても仲が良かった。人々はそんな支線を「小西部鉄道」と呼び、ダックもその支線が故郷、グレートウェスタン鉄道のいるような気がして気に入っていた。
そんなダックにはある困った問題が1つだけあった。それは「グレートウェスタン流」だった。ソドー鉄道に来る前、グレートウェスタン鉄道にいたダックはそれを誇りにして誰に対してもグレートウェスタン流を押し付けようとしていた。
双子の機関車ビルとベンは今日も悪ふざけしていた。「貨車がそっちに行くよビル!」「やったなベン!」貨車を入れ替えながらビルとベンは貨車をわざと突き飛ばしてキャッチボールの様に遊んでいた。
ビルが貨車を押し返すとポイントが切り替わり、別の線路を走っていたダックにぶつかった。「こら君たち、仕事しながら悪ふざけしちゃダメじゃないか!そもそもグレートウェスタン流では仕事をしながら遊ぶだなんてもってのほかで……。」
「あーあ。」「やれやれまた始まったぞ。」双子はダックが引き留めるのを気にも留めないで逃げていった。
グレートウェスタン流を誇りにするダックはもちろん自分もグレートウェスタン流に従っていた。ホールトラフ駅に着いたダックは駅の時計を見ると満足げに頷きながら呟いた。「時間ぴったり。さすがグレートウェスタン流だ。絶対時間に遅れない。」
それからダックはぶつぶつ呟いた。「皆ももっとグレートウェスタン流を尊敬すれば良いのに。」「また始まったわよイザベル。」「ええ分かってるわよダルシー、ダックさんのグレートウェスタン流でしょ?」ダックの客車たちが呆れて言った。
彼女たちはダックを尊敬してはいるが、1日中彼に牽かれながらグレートウェスタン流の素晴らしさについて語られるのはいい加減うんざりしていた。今日も彼女たちはうんざりした表情でダックの話に付き合わされながら走っていた。
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ある日。オリバーはアールズバーグ・ウェストに来ていた。ちんまり鉄道の機関車から砂利を受け取るためだ。オリバーにとってその日最初の仕事だったが、出発の準備に手間取っていたため少し遅れていた。
「早く早く。急いでくれバート。このままじゃ遅刻しちゃうよ。」砂利落としの上に用意されたちんまり鉄道の貨車から砂利がドサーッと吐き出され、オリバーの貨車に積み込まれた。「はいよ。積み込み完了だ。」
砂利を積み込んでもらうとオリバーは大慌てで走り出した。その様子を見たちんまり鉄道のレックスがすれ違いざまに大声で呼びかけた。「そんなに急いで走ると事故を起こすよオリバー!」
「レックスさんの言う通りですオリバーさん、このままだと事故を……。」ガシャーン!ブレーキ車のトードが言い切る前に騒音を立ててオリバーは目の前から貨車を押してきたパクストンと激突した。
「大丈夫かいオリバー?」採石場から戻って来たマイクが心配して声をかけた。「本当にすみませんオリバーさん。貨車を押してたから前がよく見えなかったんです。」パクストンも慌てて謝った。
「良いんだよパクストン、僕も慌てて周りを確認してなかったから。でもこれだと工場入りは免れないな。」タンク機関車のライアンがクレーン車のジュディとジェロームが連れてきて、オリバーは残骸の中から救出された。
その日の夜。ダックとドナルドとダグラスが仕事を終えてアールズバーグ機関庫に戻って来ると、トップハムハット卿が機関庫にやって来た。「オリバーを修理に出したから助っ人にヒロを呼ぶことにした。」それを聞いてダックたちは喜んだ。
ヒロは日本出身で「鉄道の英雄」、「鉄道の達人」とも言われるほどだ。ダックたちはとてもヒロを尊敬していた。「君たちは明日、ヒロが役に立つ仕事をできるように仕事の内容を教えるんだ。」「分かりました!」
「あの、ヒロさんが来たらオリバーさんはどうなるんですか?まさかスクラップに……。」トードが恐る恐る口を開いた。「心配するなトード。ヒロはオリバーがいない間だけこの支線を手伝う事になっているから修理が済めばオリバーは戻って来るぞ。」
トップハムハット卿がそういうのを聞いてトードはホッとした。
翌朝。ダックとドナルドが貨車を整理しているとダグラスの汽笛が響いてきた。「そうら、ヒロさんがやって来るですよ~!」ドナルドがスコットランド訛りで言った。ダグラスの案内でダックの支線にやって来たヒロはダックたちの前で停車した。
「僕らの支線にようこそヒロ。」ダックが歓迎すると、ヒロが挨拶した。「こんにちはグレートウェスタンの皆。君は確か……ダックだったね?」「はい、そうです!僕の名前を知ってたんですか!」ダックはヒロが自分の名前を知っている事に感激した。
ヒロは低い声で笑うと言った。「前にヘンリーから聞いてね。君の名前があまりにも面白いから覚えていたんだよ。君はどうしてダックと呼ばれているんだい?」
「本当はモンタギューって言うんです。でもアヒルみたいな走りをするから皆にダックって呼ばれているんです。」ダックが説明するとヒロは笑って言った。「わたしもデゴイチというあだ名をつけてもらったよ。わたしの車輪の数から取ったみたいだよ。」
その時、ヒロはトンネルのような鉄の枠組みに気がついた。下には貨車たちがセットされ、上には変わった形の貨車が何台かセットされている。「あれは何だい?」ヒロが尋ねた。
「ああ、あれは砂利落としですよ。」小さな機関車たちが上に彼らの貨車をセットし、下にある我々の貨車に砂利を積み込むんです。」ダグラスが説明したところへレックスがやって来た。
「その通り!僕らの貨車は『底開き貨車』と言ってまるで客車の様に走るんです。」「君は誰だい?」「申し遅れました。僕の名前はレックス。青い彼はバートでこっちにいるのがマイクです。」
「君らみたいな小さな機関車はわたしのいた鉄道で見た事が無いよ。」ヒロが目を丸くして言った。「僕らは小さいけど力は大きな機関車には負けないんですよ。」バートが誇らしげに言った。
「そう、だから僕らはいつも言ってるんです!小さくても役に立つってね!」マイクが言った。それを聞いてヒロはすっかり感心してしまった。
「やれやれ、俺だけ仲間外れにして蒸気機関車たちだけでお喋りか。」陰からぼそぼそと声がしたのでヒロは驚いた。「おかしいな、声はするが姿が見えない。もしかして君たちより小さな機関車がいるのかな?」
「ああ、彼はディーゼル機関車のフランクですよ。」そう言いながらレックスが貨車を退かすとそこに白いディーゼルが立っていた。「全く皆俺が補機だからって誰も目もくれやしない。酷いよ。」
「そんな事ないさ。補機だって鉄道を支える重要な存在だ。」「そんなに卑屈になるなよ。ヒロの言う通りさ。」マイクたちと同じ大きさの黄色い機関車がバックで操車場に入って来た。
「ごめんなさいヒロさん。彼本当は良い奴なんですよ。挨拶が遅れましたね、僕はジョックです。どうぞよろしく。」「これで僕たちの鉄道の機関車が勢ぞろいしましたよ。」レックスがにっこり笑って言った。
「さあ、お喋りはそこまでにして早速仕事を始めよう。ヒロ、分からない事があれば何でも僕らに聞いてくださいね!」「よろしく頼むよ。」ダックの号令でヒロとダックの支線の機関車たちとちんまり鉄道の機関車たちはいっせいに仕事に取り掛かった。
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今日のダックたちの仕事は砂利の運搬だった。ダックが砂利落としの下に貨車を用意して、バートが砂利落としの上に用意した底開き貨車から砂利が積み込まれ、それをヒロとドナルドとダグラスが運んでいく。
ダックがドナルドとダグラスとヒロに貨車を繋ぐ。「それじゃあ、港までご案内しますぞ~。」ダグラスが言い、ドナルドが先頭を切って走り出そうとしたのをヒロが引き留めた。
「待ってくれドナルドとダグラス。1度に運ぶ貨車の数が7台だけじゃ時間がかかってしまう。ダック、もう少し貨車の数を増やしてくれ。」「待ってくだされヒロ!我々はそれほど力が無いのでそんなに大量の貨車は1度に運べませんよ。」と、ダグラス。
「ダグラスの言う通りです。それにここら辺の貨車は他の貨車と違って悪戯も特に酷いのです。だから暴走しないように貨車の数は少ない方が良いのです。」ダグラスが言うのを聞いてドナルドも頷いた。
「わたしなら平気だ。私の貨車の数だけでも増やしてくれ。」ヒロが言うのでダックは戸惑いつつも貨車の数を増やす為に追加の貨車を用意した。こうしてヒロの列車に貨車が追加され、ヒロは15台の貨車を1度に運ぶ事となった。
3台の機関車たちは順番に汽笛を鳴らしながら1列に並んで走り出した。
貨車たちは初めて見るヒロに悪戯を仕掛けようとうずうずしていた。「へへ、このでかい老いぼれに悪戯してやろうぜ!」貨車の1台が囁いた。他の貨車たちもクスクスせせら笑って賛成した。
貨車たちにはヒロに聞こえていないと思っていたが、ヒロにはしっかりそれが聞こえていた。普段から貨車に対して注意を払っているからだ。ただ聞こえていないふりをしていたのだ。
丘に差し掛かった時先頭の貨車が合図を出した。「そーれ、引っ張れぇ!」貨車たちは意地悪く笑いながらヒロを後ろに引っ張ったが、力の強いヒロは貨車たちをいとも簡単に引っ張って丘のてっぺんに到着した。
すると貨車たちは今度は下り坂でヒロを押し出す悪戯を始めた。ところがヒロは貨車に押されてもびくともしなかった。ヒロに敵わないとなると流石の貨車たちも大人しくついて行った。
ヒロとドナルドとダグラスは砂利の貨車を牽いて何度も何度も往復した。途中でドナルドが貨車の悪戯にあって丘の中腹で立ち往生してしまった。「全く……あなたたちと一緒に働いていると……ロクな目に遭いませんです!」
ドナルドは列車が逆走しないように何とか持ちこたえていたが、力尽きるのも時間の問題だった。そこへヒロが駆け付け、後ろからドナルドの列車を一気に押し上げ始めた。ヒロのおかげで仕事は問題なく順調に進んだ。
お昼頃の休憩中、ヒロはトードのお喋りに付き合った。「そしてわたしとオリバーさんがメインランドからソドー島に逃げ出そうとしているところへダグラスに出会って、ディーゼル達の駅から助けてくれたんです。」
「ほう、ダグラスは本当に勇敢なんだな!」
午後にはヒロはダックと一緒に海辺の旅客列車を牽く仕事を与えられた。ダックが自分の支線の海辺の景色をヒロに見せてあげたいと思ってトップハムハット卿にお願いしたのだ。
ダックの支線の乗客はヒロを初めて見るので彼の黒く光る塗装や大きなボイラー、堂々とした姿、そして紳士的な振る舞いに感心した。ヒロがホームに入って来るのをを沢山の鉄道ファンが写真に収めようとした。
ヒロと重連しながらダックは自分の支線を案内した。「ほほう、君の支線の景色は何とも素敵だな!故郷の景色にとても似ているよ。まるで里帰りしているみたいで本当に心が落ち着く。」
「気に入っていたただけて僕も嬉しいです!」ダックが誇らしげに答えた。ヒロはその後ろで目を瞑って気持ちよさそうに海風や潮の香りを感じていた。
ダックの客車のイザベルとダルシーも感激していた。「ヒロさんって本当に紳士的よね~。」「ええ。レディーの扱いに長けてらっしゃるわ。いかにも鉄道の達人と言った感じよねぇ。」
終点に着くと乗客たちは客車から降りてヒロとお喋りしたり、お礼の言葉を述べてから立ち去った。そしてヒロたちは向きを変えると今度はダックに後押ししてもらいながら家路についた。
夜になってダックとドナルドとダグラスはヒロを自分たちの機関庫に招き入れ、ヒロは彼らの機関庫で休ませてもらう事になった。「ああ、今日は実に楽しかった。君たちには本当に良くしてもらってるよ。」
彼らはお休みを言い合ったが、それぞれの出身の鉄道の話で夜更けまで大いに盛り上がった。だがダックの大西部鉄道の話になる頃には皆眠たくなってきて、彼の話を聞きながらいつの間にか眠りに落ちていた。
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翌朝もヒロはダックの支線を手伝う事になっていた。今日はダックとヒロが砂利の運搬を任せられ、ドナルドとダグラスが旅客列車を担当する事になっていた。
観光客が多かったので、その日は旅客の仕事が忙しく、貨物の仕事はそれほど忙しくなかった。そのためちんまり鉄道の方でもバートとレックスが旅客を担当し、マイクがダックたちに砂利を積み込んでいた。
「こんなの不公平だよ。僕だけここでお留守番だなんてさ。」「でもマイクは旅客の仕事が嫌なんでしょ?」側線で休んでいたトードが口を挟んだ。「そうだけど僕も遠くに行きたいのは行きたいさ。」マイクが口を尖らせた。
マイクとトードの話を聞きながらダックはこっくりこっくりと居眠りしていた。昨日の夜中までお喋りに夢中になっていたからだ。お喋りに夢中になって気がついた頃には仲間たちは皆眠っていて、辺りは薄明るくなり始めていた。
マイクが砂利を積み込み終えるのを待っているとそこへあの意地悪なディーゼルがやって来て、陰から飛び出すや否や思い切り警笛を鳴らした。ダックは飛び起きて、びっくりしたあまり貨車を置き去りにして前に飛び出した。
マイクも驚いて貨車にぶつかり、衝撃で零れた砂利が下にいたダックに降りかかった。「おはよう小西部鉄道の諸君!気持ちの良い朝だな!」ディーゼルがわざとらしく言った。「たった今君のせいで最悪の朝になったよ。」ダックが睨みながら言った。
「急に汽笛を鳴らすなよ黒鼬。」「ただの挨拶さ。これくらいでビックリするなよ、おもちゃの機関車。」そこでディーゼルはもう1度警笛を鳴らした。マイクは飛び上がり、作業員も驚いてよろめき、砂利落としから落ちそうになったところを仲間に助けられた。
「僕はおもちゃの機関車なんかじゃないぞ!ここに何の用だよ。」ディーゼルに驚かされ、マイクは砂利降ろしから降りると不満げに尋ねた。
「何しに来たって、メインランドに砂利を運ぶ仕事をトップハムハット卿に任せられたんだ。お前ら蒸気機関車はメインランドに行くまでに迷子になるからな、頼りにならないんだろ。」
「それだったら早く列車の用意をした方が良いんじゃないんですかねディーゼル。」トードがむっつりした顔でディーゼルに言った。「言われなくても分かってるさ、生意気なヒキガエルめ。」
ディーゼルはそう言うとダックを突き飛ばして砂利落としの下に自分の貨車をセットした。「そう言えば、今この支線にヒロが来てるんだってなあ?ヒロは鉄道の達人で英雄だ。厳しい性格なんだろうなあ?」
「何が言いたいんだい?」マイクが砂利の貨車を押しながらディーゼルに尋ねた。「この支線でもし何かトラブルがあればヒロは信頼を失って帰るんじゃないかって思ったのさ。そうすればこの支線に泥を塗る事になって蒸気機関車はお払い箱にされるかもな。」
「何を馬鹿な。」ダックは呆れて目をぐるりと回した。「まあこの支線の奴らは蒸気機関車の中でも特に阿保けた蒸気機関車がいるからきっと失敗するだろうよ。」そうディーゼルは嘲るとメインランドに向けて出発した。
「奴の言う事は気にしないでくださいダックさん。」「そうだよダック、ディーゼルの言う事は全部でたらめなんだし。」トードとマイクはそう言ったが、ダックはディーゼルの言う事が気になっていた。
午後からはヒロとダグラスが砂利の貨車を運ぶ事になっていた。列車の用意を担当するのがダックの役割だ。ダックは砂利の貨車を2台バックで運んでいた。「とにかく失敗しないようにしなくちゃ。」
ダックはディーゼルに言われた事を気にしていて、神経質になっていた。だが神経質になるとかえって失敗しやすいものだ。ダックは後ろ向きで走っていたため気づかなかったが、レールに貨車から零れた砂利が積もっていた。
それに乗り上げた瞬間、貨車が脱線し、隣の線路を塞いでしまった。「大変だ!すぐにクレーン車を持ってこなきゃ!」ところがそこへトードを押したダグラスがやって来た。「わわ、危ないですよ!ダグラスさん、ブレーキ!ブレーキ!」トードが言った。
がっしゃーん!トードも線路を塞いだ貨車にぶつかって脱線してしまった。「あわわ、ごめんよトード!怪我はないかい?すぐにクレーン車を連れてくるね。」ダックが慌てた。
「慌てないでダックさん、僕は平気ですから……。」トードが気を使って強がってみせた。
1回目の砂利の配達を済ませて戻って来たヒロが駆けつけた。「大丈夫かいダック?何か手伝おうか。」ダックはクレーン車を運んできてもらおうと思ったが、ディーゼルの言葉を思い出した。『ミスを起こしたら信頼を失って本線に戻っちまうかもなあ。』
「いや、大丈夫ですよヒロ。ありがとう。とにかくまずクレーン車を呼んできます。」ダックはクレーン車を取りに向かった。そんなダックをヒロは心配そうに見届けた。
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ダックがクレーン車を連れてきて復旧作業が始まった。トードがクレーン車に吊り上げられる。「大丈夫。このくらいの高さ……。下を見なければ何ともないさ……。」クレーン車に吊り上げられている間トードはぶつぶつ呟いた。
ダックは先に線路に戻された貨車を移動させていた。神経質になっていたダックはディーゼルの言葉しか頭になかった。そのせいでダックはトードを救助中のクレーン車に気がつかなかった。
「ダック、危なーい!」近くにいたレックスが叫んだがもう手遅れだった。ダックの押していた貨車がクレーン車に衝突して、その衝撃でクレーンが揺れたせいでトードが地面に落ちてしまった。
「何やってるんだ!」「気をつけろ!」作業員たちがダックに向かって怒った。「ゴメンよトード、大丈夫かい?」「ええ、大丈夫ですよダックさん。車輪が少し壊れちゃいましたが気にしないでください。」トードが苦笑いをしながら気遣った返事をした。
ダックに追突されたせいで地面に落ちたトードは、線路に戻されるためにもう1度吊り上げ始められた。
そこへダックがトードを修理工場に連れて行くための平台の貨車を運んできた。その時またしても問題が起きた。クレーン車の傍を通りかかったダックの蒸気で作業員の視界が奪われたのだ。「クソッ、前が見えないぞ!」
煙を振り払おうとした作業員の手がレバーに当たり、クレーンのアームが回転したはずみでトードはまたしても地面に落ちた。さらにクレーンも急に動いたせいでバランスを崩して横転して線路を塞いでしまった。
「本当にごめんトード!また僕のせいで……。」ダックは謝ったが、流石のトードも今度は何も言わずに呆れ顔をしていた。
側線で様子を見ていた客車のイザベルとダルシーは囁きあった。「ダックさん、今日はミスを連発しているね。」「本人が気にしているかもしれないから今は静かにしておきましょう。」
「どうしよう。大変な事になったぞ……。」流石にダックが途方に暮れているところへ2回目の砂利の配達を終わらせてヒロが戻って来た。彼は倒れたクレーン車が線路を塞いでいるのを見て驚いた。
「大丈夫かダック!怪我はないかい?」「ええ、怪我はありませんがこんな事になってしまって……。さっきあなたの助けを断ったのが間違いでした。」落ち込むダックを見てヒロは口を開いた。「そうだな。その通りだ。どうして私の助けを断ったんだい?」
「ディーゼルに言われたんです。もしこの支線で何かトラブルがあればあなたが僕たちへの信頼を失って本線に帰ってしまうと思ったんです。そうなればこの支線に泥を塗ってしまう事になるから……。」
「ディーゼルの言う事なんか気にするな。私がそんな事で君たちへの信頼を失う訳がないじゃないか。誰だってミスをするんだ。私やディーゼルだってするぞ?でもミスをしたなら次からは同じミスをしないようにしなきゃならない。」
「そうか……そうですよね。」ヒロの言葉を聞いてダックは納得して頷いた。「分かってもらえて嬉しいよ。それよりこのままだとトップハムハット卿やお客さんからのこの支線の信頼を失ってしまう。今すぐ後片付けしよう。」
ヒロの機関士がヒロのバッファーに長いチェーンを繋げ、チェーンのもう一方をクレーン車にひっかけると、それをヒロが引っ張ってクレーン車を引き起こした。それからダックが貨車をクレーン車の隣に止めて、2台のクレーン車が慎重にトードを乗せた。
そしてトードが乗った貨車をダックがソドー整備工場まで運んでいった。
事故の後片付けが終わった後もダックたちは救援作業で滞っていた仕事を片付けるために大忙しだった。砂利の貨車を港に運ぶため支線を何往復もした。ダックはヒロにこの支線の素晴らしさを見せようと一生懸命に働いた。
ちんまり鉄道の機関車マイクも山から砂利を降ろしては操車場でダックたちの貨車に砂利を積み込むために懸命に働いた。ドナルドとダグラスも手伝ってくれたので仕事は捗り、夕方には片付いた。
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数日後。オリバーがダックの支線に戻って来た。修理が早めに終わったトードも一緒に連れて帰って来た。「やっぱりここが1番落ち着きますねオリバーさん。」「そうだねトード。ありがとうヒロ、僕が留守の間に支線を手伝ってくれて。」
「良いんだよオリバー。私の方こそこの支線で数日過ごせてとても楽しかったよ。機会があれば君ともじっくり話したいな。」ヒロが穏やかに言いながら微笑んだ。」「ああ、もちろんだとも。」
ダックとドナルドとダグラス、そしてちんまり鉄道の機関車たちがずらりと整列してヒロの事を見送りに来ていた。「あなたと仕事ができて楽しかったですぞ。」「またいつでも来てくださいな。」ドナルドとダグラスが口々に言った。
「君たちにはとてもお世話になったよ。どうもありがとう。」ダックがヒロに名残惜しそうに近づいた。「とうとう本線に帰るんですね。」「ああ、私のいるべき場所だからな。」「またこの支線に来てくれますか?」
「もちろんだとも。この支線で君たちと過ごす事が出来てとても素晴らしい経験をできたよ。また来る事にしよう。」そう言ってヒロは汽笛を高らかに鳴らしながらダックの支線の機関車たちに見送られて本線へ帰っていった。
そのヒロの後姿を見てダックは笑顔で彼を見送った。彼は自分の支線に泥を塗るような事が無くて本当に良かったと思った。そして彼がまた支線に来て一緒に過ごせる日が来るのを心から楽しみにしていた。
 
●あとがき
はいどうも。本日二回目の投稿です(笑)今回もまた内容のないあとがきさせていただきますm(__)m
ダックとディーゼルを絡めたのは原作の因縁をモチーフにしてみたからです。最近はめっきり絡んでませんが切っても切れない縁と言ったところでしょうか(^^;
ダックとヒロを絡ませたのは本家S17でダックとヒロが共演したのを見てから鉄道の英雄と呼ばれるヒロとセレブリティー(シティ・オブ・トルーロー)みたいな名機をリスペクトするダック。この2台を絡ませてみたらどうなるかと思ったからです。セレブリティーを登場させても良かったのですがそれだとなんかべたかなと思いヒロにしました(この話自体よくありそうな感じですが)。
ダックがヒロに対して敬語を使うのはこちらのゲームを参考にしています↓
 
 
非公式ではありますが真面目なダックなら目上の者には敬語を使うかなと思いこの設定を採用しました。今回以降はどうなるか分かりませんが。残念ながら(?)このお話を公開する前に日本でS17が公開されてしまったため、ダックがヒロに対して敬語を使うという事はありません。
 
ヒロみたいに重たい機関車が支線を走って崩れないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、支線の線路もかつてより頑丈になったという設定にしています。テレビ版後期ではそんな設定無くなりつつなっているのでまあそこは目を閉じて頂きたいところ(苦笑)
 
次回はエミリー回を投稿予定だったのですが、順序を好感して「見た目と中身」を先に投稿させて頂きます。
これに伴い予定していた順番が大幅に変わる事になりました。ご了承ください。
 
話が脱線してしまいましたがタイトル未定になっていたエミリー回とデリック回がそれぞれ「臨機応変」(エミリー回)「底力」(デリック回)に決定した事もお知らせいたします。
 
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