前回までの物語

Part1→https://ameblo.jp/seto-akagami/entry-12400282385.html

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真夜中。精錬所ではトーマスたちが静かに眠っていた。町から離れた森に囲まれ、人や他の機関車の気配もないので夜の精錬所はとても静かだった。機関庫には機関車たちの寝息しか聞こえていない。静かな分だけ、不審な物音がすればすぐに気がつく。
「君のせいだぞセイヤ。」「僕のせいじゃないよセーラ。」寝言でもセイヤとセーラは言い争っていた。セイヤとセーラの寝言が収まった時、何かがスクラップの山にぶつかって、スクラップが崩れ落ちる音が聞こえた。
その音で機関庫で眠っていたレイが目を覚ました。トーマスも他の仲間たちも隣でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。つまり誰かが真夜中の精錬所の中を動き回ってスクラップの山を崩す事などないのだ。
「ちょっと様子を見に行こう。」レイは小さく呟き、ランプを点けると仲間を起こさないように静かに機関庫を出た。
「物音は精錬所の裏から聞こえたな……。」レイは物音を立てた犯人に気づかれないようにゆっくりと工場の中を抜けて、精錬所の裏にある操車場に向かった。
精錬所の裏にある操車場は長い間使われておらず、ほぼスクラップ置き場化とし、辺りには無造作にスクラップの山が積み上げられていた。
レイはそのスクラップの山の間をそろそろと慎重に走り抜けた。と、操車場を走るレイの車輪に何かがぶつかった。「これは……。」レイの車輪にぶつかったものの正体はスクラップだった。
レイがランプで辺りを照らすと近くのスクラップの山が崩れているのが見えた。「このスクラップはあのスクラップの山から落ちたって事か……。と言う事は物音の正体はこのスクラップの山って事か。」
不意に唸り声が聞こえ、レイはハッと息を飲んで停車した。「あそこのスクラップの山から聞こえる……。」レイが機関士に言って恐る恐るランプの向きを変えて照らしてみると……。古くて錆びついた使われていない貨車が鼾をかいて眠っていた。
「何だ……。」レイが安堵の息を漏らすとまた別の音が聞こえた。「今度は何だ?」レイが聞いた別の音。それは機関車の走る音だった。だが周りには他の機関車は見当たらない。
もちろんこの時間帯にこんな場所にいるのはレイだけだ。ましてや精錬所の裏にある使われていない操車場に近づく機関車なんかいるはずもない。「誰かいるの……?」レイが恐る恐る声を上げると、機関車の影が彼を掠めた。
その瞬間レイは遂に恐怖に耐えきれずに悲鳴を上げた。「ゆ、ゆ、幽霊だああああああああっっっっ!!」
精錬所の機関庫では機関車たちがまだ夢の中にいた。だが絶叫しながら機関庫に駆け込んできたレイによって機関車たちは現実に引き戻された。「何だこんな時間に大騒ぎしやがって!」気持ちよく寝ていたところを叩き起こされ、クリフが怒りを露わにした。
「一体何の騒ぎなの?」「せっかく気持ち良く寝てたのに。」セーラとセイヤが寝ぼけ眼で文句を言った。
「落ち着いてよレイ。一体何があったの?」トーマスが落ち着いて尋ねた。「さっき精錬所の裏の操車場から物音がしたから怪しく思って見に行ったんだ。そしたらで、出たんだよ。精錬所の幽霊機関車が!」頭から機関庫に突っ込んだレイが事情を説明した。
「きっと幽霊機関車だ!」「またその話か!」怯えるレイにクリフが呆れたように言った。「幽霊機関車って?」「トーマス知らないの?」とセーラ。「知らなくて当然さ。この話は僕らだけが知ってるんだから。」セイヤが言った。
「その昔ね、僕らの仲間にディーンって言う機関車がいたんだよ。」レイが幽霊機関車に纏わるある昔話を語り始めた。
「ディーンは僕らと一緒にこの精錬所にやって来たんだけど、ある時奇妙な事が起きたんだよ。」固唾を飲んで話に聞き入るトーマスにレイは続けた。「奇妙な事って?」「ある朝姿を消したんだ。」レイが静かに答えた。
「消えた!?それってどう言う事!?」「突然いなくなったんだよ。煙みたいに見えなくなったんだ。ドロンってね!」「まるで忍者かステルス機関車みたいにさ。」セーラとセイヤが口を挟んだ。
「あちこち探したけどディーンは見つからなかった。お払い箱にされたからどこか別の鉄道に逃げ出したか、居場所を探しに行ったのか……それか僕らが寝ている間に誰かに精錬所に連れていかれてスクラップになったか。」
「ディーンが消えてからも奇妙な事が続いた。夜中に精錬所の操車場の方から機関車の走る音が聞こえてきたんだ。僕らはすぐに思ったね。お払い箱にされた事を恨んだディーンが幽霊機関車になって、また誰かに必要にされようと彷徨ってるってね。」
「誰も操車場の様子を見に行かなかったの?」トーマスが尋ねた。「そんな、怖くて見に行けやしないよ!それに操車場には入れないんだ。」レイがすかさず答える。「なんで?」「あの操車場は崩れたスクラップの山が線路を塞いでいて中に入れないんだ。」
「ハッ、幽霊機関車なんている訳ないだろ。」皆が黙ってレイの話を聞いてる中クリフが鼻で笑った。「そんな事言っておきながらクリフが本当は1番怖がってるんじゃない?」セーラがからかった。「そんな訳ないだろ!」
「じゃあ今から操車場に行って見て来てよ。謎の機関車の正体をさ。」セイヤが口を挟んだ。「ああ行ってやる!なんなら全員で行こうぜ!誰が勇敢な機関車か証明してやるんだ!」「何で僕らが!?」セーラが叫んだ。
「何だよセーラ、怖いのか?」「怖い訳あるもんか!」クリフにからかわれ、セーラはついつい言い返した。「なら文句はないよな?トーマス、レイ、お前らも来い!」
「ええ!?僕も?僕は遠慮しておくよ。」「頼むよトーマス、僕と一緒に来てくれ。僕一人じゃあの操車場には行けない!君の力が必要なんだ!」レイが今にも泣きだしそうな顔で頼み込んだ。
「そうさトーマス。今こそお前が必要だ。誰かに必要にされる機関車になれるんじゃないか?……違うか?そうだろ?」クリフが何か良からぬ事を企んでいるような顔つきで、ニヤニヤしながら付け足した。
「わ、分かったよ。それじゃあ僕も行くよ……。」こうして渋るトーマスも半ば無理やり参加させられ、機関車たちは肝試しへと出発した。
操車場に来るとトーマスたちは操車場の前で停車した。操車場に繋がる線路はレイの言う通り崩れたスクラップの山に埋もれて塞がれていて、通れなくなっていた。「ほら言っただろ?操車場には入れないんだよ。諦めて機関庫に戻ろ……。」
レイが言い切る前にクリフが体当たりでスクラップの山をかき分け、通り道を作った。「ほらよ、これで入れるだろ。」クリフに続き、セイヤとセーラ、トーマスそして最後に泣きそうな顔をしたレイが入っていった。
「よしチームに分かれて探索するぞ。トーマスとレイ、お前らがコンビを組め。セーラはセイヤと組むんだ。俺は1人で行く。ビビらずにこの操車場に最後まで残ってた奴の勝ちだ。それじゃあ行くぞ。」
夜空に肝試し開始の合図となるクリフの汽笛が響き、機関車たちは走り出した。
「ねえレイ、ディーンってどんな機関車だったの?」「ディーンは役に立つ機関車だったよ。僕らのリーダーで皆から必要とされていたよ。今でも彼を必要に感じる時があるよ。彼がいれば僕らも役に立つ機関車にい続けられたのかなとかさ。」
「でも彼みたいな機関車がスクラップにされる事なんかあるかな?」トーマスに言われて、レイも何か引っかかるような表情を顔に浮かべた。
一方のセイヤとセーラコンビもトーマスたちとは別の方を探索していた。「クリフにあんな事言ったけど、まさか僕らも巻き込まれるとはね。こんな事になるとは思わなかったよ。」セーラがオドオドと辺りを見渡しながら言った。
そんなセーラの様子を見てセイヤはついつい彼女をからかいたくなった。「まさかセーラ、君、幽霊機関車が怖いのかい?」「僕が!?そんな訳ないだろ!」セーラは強がって否定したが、本当はとても怖かった。
セイヤはセーラを怖がらせるタイミングを伺った。そして寂れた照明が壁に自分の影を映した時に声を上げた。「あ、幽霊だ。」「きゃあああああっ!」「冗談だよ、僕の影さ!」影を見つけて悲鳴を上げたセーラを見てセイヤが笑った。
「もうセイヤ!」「ははは、ちょっとからかっただけじゃないか。そうだ、これからクリフを怖がらせに行こうぜ!アイツ今1人だからとっても怖がってるはずだ。日頃の仕返しをしてやろうぜ!」「賛成!僕らの力を見せつけてやろう!」
セイヤの提案で悪戯好きなタンク機関車のコンビは幽霊機関車なんかそっちのけでクリフを探しに行った。
クリフは1人で操車場を走っていた。「ふん、幽霊機関車だなんて……。そんなもんいるわけないじゃないか!」そう自分に言い聞かせていたが、本当はとても怖かった。と、不意に近くを機関車が走る音が聞こえた。
「誰だ!?そこにいるのか!」クリフが大声で尋ねたが、もちろん返事はない。機関車の走る音はだんだんとクリフに近づいてくる。「ばあっ!」と、スクラップの山の陰からセイヤとセーラが飛び出してきた。
「うわっ!」クリフは驚いて思わず後ずさりした。「あはは見てよセーラ!クリフの奴怖がってるよ!」セイヤが笑いながら言った。「んな訳あるかっつうの!!」クリフが否定した。
「あれ?でもそう言いながら車軸が震えてるよ?怖いんじゃないの?」セーラがからかった。
と、不意に聞きなれない汽笛が聞こえてきた。まるで誰かの悲鳴のような汽笛だ。「今の汽笛は誰のだ?セーラ、お前のか?」クリフが睨んだ。「ぼ、僕じゃないよ!セイヤ、君じゃないの?」セーラが声を震わせながら言った。
「僕でもないよ!トーマスたちじゃない?」セイヤも顔を真っ青にさせて言った。
汽笛の音は大きくなり、機関車はクリフたちの周りをぐるぐる回って囲んでいるように感じられた。知らず知らずのうちにお互いが身を寄せ合っていたと知らなかったクリフたちはお互いのバッファーがぶつかり合った途端悲鳴を上げた。
驚いたセーラが飛び上がった衝撃でスクラップの山が崩れ、古びた機関車のボイラーが落ちてきた。それは何てことのないスクラップだったのだが、すっかり怯えたクリフたちにはそれが幽霊機関車の様に見えた。
「うわああああああっっっっ!!」「幽霊機関車が僕らを捕まえに来た~~~~っっ!!」そのまま絶叫しながらクリフたちは逃げ出した。
「幽霊なんかに会いたくないよトーマス。」「僕も会いたくないけど、幽霊はいないと思うよ?」トーマスとレイはスクラップの間を通り抜けながら話した。「え?なんでそんな事が言いきれるのさ?」
「僕は今までこうやって幽霊騒動に巻き込まれたけど、何かと見間違えてたってだけだったから今回君が見た幽霊も何かの見間違いじゃないかな。」「そうだと祈るよ。」レイが怯えながら言った。
と、そこへクリフたちが物凄い勢いでこちらに突っ込んでくるのを見て驚いた。クリフたちは全力で急ブレーキをかけると、ゼエゼエ息を切りながら話し出した。「み、みみみ、見たんだよ!」
「落ち着いてよクリフ。何を見たんだい?」トーマスがクリフを落ち着かせながら尋ねた。「見たんだよ幽霊機関車を!」「やや、やっぱり幽霊機関車はいたんだ!」レイが怯えて叫んだ。
「聞き覚えのない幽霊機関車の汽笛が聞こえたかと思ったら突然現れたんだ!」と、セイヤ。
「早く皆で逃げようよ!」セーラだけでなくその場にいた精錬所の機関車全員が同じ気持ちだったが、トーマスは違った。彼に逃げる気持ちなどなかった。「その場所まで案内してよ。」
「行くつもりなのトーマス!?」「本気!?」セイヤとセーラが仰天した。「俺はごめんだね、行くならお前らだけで行って来いよ!」クリフが慌てて言った。
「じゃあ僕だけで見てくるよ。」そう言って走り去るトーマスを見て、取り残された精錬所の機関車たちは顔を見合わせた。「僕も行くよ。トーマスにばかり任せてばかりいられないよ。」「トーマスと一緒なら大丈夫なはずだよね。」
「着いてくるのが嫌なら君はそこにいれば?」レイに続き、セーラとセイヤもトーマスの後を追いかけて行き、クリフだけがその場に残った。彼は薄気味悪い操車場を見て身震いして、彼らを追いかけて行った。「待てよ!俺を置いていくな!」
機関車たちはトーマスを先頭にクリフたちが幽霊機関車を目撃したと言う場所の付近までやって来た。「この辺りだよ。そのスクラップの山。」セーラが怯えながら教えた。と、突然ガタンと大きな音がして何かの影が動いた。
精錬所の機関車たちは後ずさり、最後尾にいたクリフに衝突した。「おい!」クリフが思わず文句を言ったが、誰も構わなかった。トーマスは音のした方に勇気を出してライトを向けた。ライトの明かりが照らしたのは……。
クリフたちが幽霊機関車と見間違えた古い機関車のボイラーだった。「正体はこれだよ、古い機関車のボイラーのスクラップだ。これが不安定な場所に乗せられてて、たまたま崩れ落ちたんだろうね。幽霊でも何でもなかったんだよ。」
トーマスが言うのを聞いてクリフたちは顔を赤らめた。と、レイが思い出したように口を開いた。「でもちょっと待ってよ、幽霊機関車の正体が単なるスクラップだとしてセーラたちの言っていた彼らが聞いた汽笛ってのは何だ?」
謎を解決したと思っていたが、また新たな謎が浮かび上がりトーマスたちは黙り込んだ。だが皆騒動で疲れ切っていて答えを見つけ出す気力も湧かなかった。「とにかく今夜はもう寝よう。朝日が昇り始めてるけど、まだ朝になるまでには時間がある。」
レイの言葉で機関車たちは機関庫へ戻っていった。その様子を何者かがスクラップの陰から見ているとも、気づかずに。
 
日が徐々にソドー島を優しく照らし出す中トーマスはティッドマス機関庫を目指して誰もいない本線を走っていた。自分の支線がどうなっているのか気になったのだ。ティッドマス駅を通過した時、彼は郵便貨車が置かれているのに気がついた。
「おかしいな。この時間だと郵便貨車は郵便を配り終えてビカーズタウン駅にいるはずなのに……。」トーマスは不思議に思って呟いた。「もしかしてパーシー、仕事でトラブルに遭ってるんじゃ……!」
トーマスが機関庫に戻って来る頃には日は完全に昇り切り、朝になっていた。トーマスが機関庫に戻って来ると、そこにはエドワードとパーシーしかいなかった。
「やあトーマス、丁度良かった。パーシーを起こしてやってくれないか?僕はもうじき始発列車を牽きに行かなきゃならないんだ。」エドワードが切羽詰まりながら言った。
「分かったよエドワード。君は仕事に行ってきて。」「ありがとうトーマス!」エドワードが汽笛を鳴らして、列車を牽きに行ってしまうと、丁度パーシーが目を覚ました。「んあ?」「おはようパーシー。」
「やあトーマス。昨日は一晩中どこに行ってたんだい?僕はてっきりまたミスティアイランドで迷子にでもなってるのかと思ったよ。それか魔法の線路にでも行ってるか。」「そんな訳ないじゃないか。僕を必要としてくれてる場所さ。僕の支線の方は順調?」
「もちろん、君無しでも上手くやっていけてるよ!」トーマスに聞かれ、パーシーはムッとしながら言い返した。「それよりこんなところで僕と話してる場合じゃないんじゃない?」
「はっ、そうだった!今朝はブルーマウンテンの採石場からスレートを受け取らないといけないんだった!その前に旅客列車も牽かないと!」「手伝おうか?」
「君の手伝いなんて必要ないよ!君がいなくてもあの支線は僕だけでやっていけるって事をトップハムハット卿に証明して見せるんだ!」
「ああそうかい!せっかく人が親切で言ってやってるのに!そんなに僕が必要ないなら一生あの支線に戻るもんか!」トーマスはターンテーブルで向きを変えると、精錬所へと引き返して行った。
トーマスや他の皆の前では強がりを言っているパーシーだったが、本当はくたくたに疲れ切っていた。「スレート、旅客列車、郵便配達……。スレート、旅客列車、郵便配達……。」
疲れて眠たいパーシーは呪文のように繰り返していた。「働きすぎなのよパーシー。」「オーバーワークは体に良くないわ。少し休まないと。」旅客列車の仕事で、支線で客車のアニーとクララベルを牽いている時に彼女たちが心配して言った。
「ダメだよ!この支線は僕だけでやっていけるんだ!」「だがとてもやっていけてるとは思えないぞ。」トップハムハット卿が新しい機関車のトルネードに乗って反対側からやって来た。
「今日はすでに混乱と遅れが生じているんだ。聞いた話だと昨日は郵便配達の仕事もできていないそうじゃないか。君には助けが必要だ。そこでこのトルネードを連れてきた。トーマスがいない間、彼に手伝ってもらいなさい。」
「宜しくなパーシー!」トルネードが親し気に挨拶した。「トップハムハット卿!僕に手伝いはいりません!」
「いや、大いに必要だ。それに彼が来る以前に君はすでに石切り場の貨車を用意するのをメイビスに手伝ってもらっているだろう。自分だけで何でもできると思うのは自信過剰だぞ。自分1人で抱え込むのはやめなさい。」
トップハムハット卿は厳しくも優しくそう言った。「ではトルネード、パーシーの代わりにまずアニーとクララベルを牽いてあげなさい。それから私を次の駅まで送り届けてくれたまえ。パーシーは先にブルーマウンテンの採石場に行ってるんだ。」
「はい、分かりました!それじゃあ行こうか、お嬢さん方。」「うふふ、お嬢さんですって。」「トルネードって格好良いだけじゃなくて紳士的なのね。」アニーとクララベルは声を揃えて感激した。
「それじゃあまた後でねパーシー!僕もすぐに行くからブルーマウンテンの採石場で待っててくれ!」トルネードが行ってしまうと、パーシーは支線の途中に1人だけになってしまった。
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パーシーがブルーマウンテンの採石場にやって来ると、レニアスとサー・ハンデルとピーター・サムがターンテーブルの傍にいた。「おやパーシーじゃないか?君がこんなところに来るなんて珍しいね。」
「トーマスの代わりに石を運びに来たんだ。」「君が?1人でか?ははははっ、チビの君には無理だよ!」パーシーをからかうサー・ハンデルにピーター・サムが口を挟んだ。
「君の方が彼よりチビじゃないかファルコン。」「煩いぞ、黙れスチュアート!」
「でもサー・ハンデルの言うとおりだ。その貨車の量は君には運べないよ。」レニアスが忠告した。「大丈夫だよ。トーマスに運べるなら僕にでもこれくらい運べるはずさ。」そこへトルネードがやって来た。
「お待たせパーシー。手伝いに来たよ!」「君は誰だい?」レニアスに聞かれ、トルネードが名乗った。「えっと、初めましてだね。俺はトルネードだよ。小さな機関車さんたち。」
「わーお、彼とても大きいね!彼なら力も強そうだ。彼に手伝ってもらったらどうだい?」ピーター・サムが提案したが、パーシーは首を横に振った。「いいや、これくらい僕1人で運べるよ。」
「無理するなよパーシー。ほら、列車を半分にして。俺が半分を牽くから。協力してやった方が絶対良いって!」「良いってば!君の助けは借りない!」2台の言い争いする声を聞いてルークやデュークなど他の高山鉄道の機関車たちもやって来た。
パーシーは仲間たちの言葉を跳ね除けて、トルネードの手伝いを断ると石が積まれた大量の貨車を連結した。「本当で1人でやるのかい?」ルークが心配して口を開いた。「そうだよ!」パーシーはそう言って汽笛を鳴らして列車を引っ張り始めた。
ところがパーシーが列車をどれだけ引っ張ってもびくともしなかった。彼は顔を赤くして力の限り引っ張った。「ほら、手伝ってもらった方が良いんじゃないか?力を貸すよ。」「良いってば!君は黙ってそこで見ててよ!」
トルネードが救いのを手を指し伸ばしたが、パーシーはその手を突っぱねり、頑なに断った。「ならそうするよ。」遂にトルネードもパーシーの説得を諦めた。パーシーが力いっぱい貨車を引っ張っているうちに徐々に列車が動き始めた。
「やった!動き始めたぞ!」列車が動き始めると、少しずつスピードも出始めた。「どうだ見たか!僕1人でもやれるんだ!」パーシーが上機嫌で交差点に差し掛かった時、ラスティーがスレートの積まれた貨車の列を押してやって来た。
「パーシー、止まれ!」「危なーい!」ラスティーが叫んだが、重たい列車を牽いたパーシーは急には止まれずラスティーの貨車に突っ込んだ!パーシーに突っ込まれたラスティーの貨車たちは騒音を立てて横倒しになってしまった!
「ふがっ!何の騒動だ!?」騒音を聞いて丘の上で眠っていたクレーンのメリックが飛び起きた。
砂埃が舞いパーシーは咳き込んだ。砂埃が収まるとデュークが指示を出した。「ファルコン!スチュアート!クレーン車と作業員を呼んで来い!」「分かったよ爺さん!」「えー。何でオイラが……。」「早く行けファルコン!」「へいへい。」
「俺もクレーン車を取りに行くよ。」トルネードが言った。間もなくピーター・サムがクレーン車を押してきて、作業員たちが後片付けを始めた。この一件でパーシーの仕事はすっかり遅れてしまい、パーシーはかなり落ち込んだ。
 
後片付けが済むと、パーシーとトルネードは列車を半分にして、それをブレンダムの港まで運んだ。ブレンダムの港に向かう最中トルネードはパーシーに尋ねた。「ねえパーシー、君はどうして1人で何でも抱え込もうとするんだい?いつもそうなのかい?」
「いつもじゃないよ……ただ……。」「何かあったのかい?」「トーマスが自分がトップハムハット卿に1番必要されてる機関車だって言うから、僕はトーマスに僕が彼より必要だって事を証明しようとして……。」そう語るパーシーをトルネードが遮った。
「でもそれだと君もトーマスと同じだよ。」「えっ?どう言う事?」「君は自分が必要とされる事だけを考えてる。それじゃあトーマスの考え方と変わらない。俺は君もトーマスも両方必要とされてると思うよ。不必要な奴なんてどこにもいないさ。」
「そうかな?」「そうだよ。だって俺たちはお客や荷物を運ぶ事ができるけど、それを乗せるのは客車や貨車だ。彼らがいなきゃ乗客は運べないし、客車や貨車も俺たち機関車がいないと動けないから乗客を運べない。両方必要になって来るだろ?」
「そう言われれば……そうだね。」「トーマスの支線には君やトーマスや他の仲間たちの存在も必要になのさ。お互いがお互いを必要にして、助け合わないと支線を動かすチームは成り立たないぞ。」トルネードの言葉を事を考えながらパーシーもゆっくりと彼の後について行った。
 
精錬所に戻ったトーマスは精錬所の機関車たちに仕事の指導をしていた。「良いぞ良いぞ、皆最初より大分上手に仕事ができるようになったね!」
そんなトーマスをクリフは面白くなさそうに見ていた。「揃いも揃ってトーマス、トーマスばっかり言いやがって……。」クリフはイライラしながら言った。彼の周りではトーマスの名前が飛び交っていた。
「トーマスこっちに来てよ!」「トーマスちょっと来てくれ!」「こんな感じで良いかいトーマス?」「もういい、もううんざりだ!」遂にクリフが溜まりかねて怒鳴った。クリフが急に大声を上げたので周りにいた機関車たちはびっくりして静まり返った。
「どうしたんだいクリフ、トーマスを連れてこようか?」駆けよって来たレイが尋ねた。「うるさい!」クリフはレイに蒸気を浴びせかけると、不満そうにその場を離れた。「何怒ってるんだろ?」取り残されたレイは訳が分からずキョトンとして首を傾げた。
「チッ、どいつもこいつもアイツばっかり必要にしやがって。」イライラしながら精錬所の倉庫の裏を当てもなく走っていたクリフは目の前に止まっていた貨車の列を乱暴に突き飛ばして脱線させた。
「でもその調子だとトーマスの方がここに必要に思えるね。」向こう側からセーラと一緒にやって来たセイヤが言った。「はあっ?何言ってる。俺だって皆から必要とされる役に立つ機関車さ。」
「さあどうかな?トラブルばかり起こす君より役に立つ機関車になれる方法を知っているトーマスの方がよっぽどここに必要だよ。」「そのうち不必要になってこの精錬所から追い払われるんじゃなーい?」コンビは嘲ながら立ち去った。
「追い払われる……か。」そう呟くとクリフはある考えを巡らせた。そしてクリフは何やら良からぬ事を思いついた表情を浮かべた。
その日の午後。トーマスが給水塔で水を補給しているところへクリフがあたふたとやって来た。「大変だ、来てくれトーマス!」「なんだい?どうしたんだ?」「セーラが精錬所の裏の操車場で脱線したんだ!」
「何だって!?……精錬所の裏?ちょっと待ってよ、どうして彼女が精錬所の裏の操車場なんかに?」「え?あ、あーっと。スクラップの処分を頼んだんだよ。あそこはスクラップ置き場にもなってるからな。」トーマスに怪しまれたクリフはとっさに誤魔化した。
「ふうん。とにかく彼女が事故に遭ったんだね?」「そうだ、頼むよトーマス。君は役に立つ機関車だろ?君の助けが【必要】なんだよ。」クリフはそう言ってトーマスに見えないようにほくそ笑んだ。
「分かったよクリフ。そこまで案内してくれ。」「分かったよトーマス。案内するよ……。」クリフが何か企んでいるとも知らずに走り去るトーマスに続いてクリフも走り出した。
その様子を遠くからクレーンのジャンクが見ていた。「おや?クリフの奴、トーマスとどこに行くんだろ?」「ジャンク、貨車を持ってきたわよ。スクラップを積んで!」「あ、ああ分かったよセーラ。」
ジャンクはクリフがトーマスとどこかに行くのを見て疑問に思ったが、セーラに呼ばれて仕事に戻ったので、すぐにその事も頭から消え去ってしまった。
精錬所の裏は相変わらず不気味だった。「セーラ、どこだーい?」トーマスの声が響き渡る。「クリフ本当にいるのかい?」「も、もちろんさ。」トーマスはクリフをまだ怪しんでいた。
「セーラはどこら辺にいるんだい?」「あのスクラップの山の向こう側だよ。」クリフに言われてトーマスはうず高く積まれたスクラップの山の向こう側に近づいた。「セーラ、そこにいるのかい?」
その背後に使われていない貨車の列を押したクリフの影が忍び寄っていたが、トーマスはそれに気づいていなかった。クリフはトーマスがスクラップの山の向こう側に行ったのを確認するとニヤリと笑みを浮かべ、貨車の列を思い切り突き飛ばした。
突き飛ばされた貨車は勢いよく線路の上を走り、スクラップの山から落ちた古い機械に乗り上げて脱線し、スクラップの山に突っ込んだ。たちまちスクラップの山が崩れ落ち、トーマスのいる線路を塞いだ。
「今のは何の音だい?」その音は精錬所で働いていたレイたちにも聞こえていた。レイに聞かれてホイールローダーのアニタは耳を澄ましたが、何も聞こえなかった。「何も聞こえないわよ?気のせいじゃない?」「まさか。物凄い音がしたよ?」
「なら……ジャンクがスクラップを処理機に入れた音じゃない?」アニタに言われ、レイがジャンクの方を見ると、ジャンクが自慢のグラップルでスクラップを掴んで、スクラップを粉砕する機械に落として騒音を立てているところだった。
「気のせいかな?」レイも首をかしげて仕事に戻った。
操車場の裏では砂埃が収まり、視界も晴れてきたところだった。トーマスは咳き込んだ。「一体何があったんだ?」トーマスがバックすると、崩れたスクラップの山にぶつかった。「まずいぞ、スクラップの雪崩に閉じ込められた!クリフ助けを呼んできてくれ!」
「嫌だね。」「何だって!?」「嫌だね。お前は一生そこで朽ち果てるまで閉じ込められてるんだよ。他のスクラップと見分けがつかなくなるまでな。」「どう言う事だい?」「言ったとおりだけど?」「違うよ!どうしてこんな事するんだって意味だよ!」
「お前が来てから精錬所の奴らはお前ばかり必要にするようになった。俺だって誰かに必要にされたいのに……。このままじゃ役立たずの俺はすぐにお払い箱にされちまう!だから俺が追い払われる前に先にお前を追い払ってやろうと思ったのさ。」
クリフは自分の悪だくみを披露した。
「クリフ、君は役に立つ機関車になれるよ。必ずね!」「誰にでもそう言ってるんだろ?もう俺にチャンスはないんだ!じゃあなトーマス、操車場を楽しんでくれ!あとディーンによろしくな!」そう言ってクリフは走り去った。
「待てクリフ!戻って来ーい!」トーマスが必死に叫んだが、クリフの走り去る音はどんどん遠ざかっていった。雷がゴロゴロと鳴る雷雲の下、トーマスは1人操車場に取り残された。
「やあクリフ。今までどこに行ってたんだ?」「ああ、ちょっとスクラップを捨てに行ってたんだ。」「ふうん。ところでトーマスはどこだい?」「さあ?さっき幽霊機関車の正体を突き止めに行くとか言って操車場に行くって言ってたな。」
レイに聞かれてクリフは誤魔化した。「トーマスにちょっと聞きたい事があるんだけど……。」「アイツはもうここに必要じゃないだろ。さっさと来い!」クリフはレイを乱暴に押していった。
「助けてえええっっっ!」トーマスは精錬所の裏の寂れた操車場で、声の出る限り助けを求めて叫び続けたが、その声は精錬所にいる誰にも届く事はなかった……。
◎あとがき
お待たせしました。Legend of the Eerie Engineの第3部更新しました!(笑)
今回はどのような展開にするかかなり悩みました💦
例えば今回新たに出てきたオリキャラ、ディーンにどのような伏線を持たせるか。どのようにして今後の展開に繋げられるように物語に絡めていくか、自分を必要としてもらおうとする考えを持つパーシーをどう改めさせるか・・・とかね(笑)
さて次回辺りでLegend of the Eerie Engineは最終回を迎えると思います(順調にいけばの話ですが)
あまり告知すると次回のネタバレになってしまうので今週はこの辺で(@^^)/~~~
 
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