妊婦加算が話題になっていますね。

 

とうとう凍結になったそうです。

 

妊婦加算については下記のサイトがよくまとまっていますね。

 

妊婦加算が算定 【平成30年4月1日より】 負担金額・内容は?

 

自己負担3割の場合、初診で約230円、再診で約110円増えます

 

3割負担の場合、850円だった初診料が1070円になります。

 

同じく、216円だった再診料が330円になります。

 

1円でも安く、という気持ちは十分理解できますが、個々人の負担がとても増える加算ではありません。

 

識者には加算に意義を見出す意見が多かったように思います。

 

産婦人科医から見た「妊婦加算」議論 宋美玄さんに聞く:朝日新聞デジタル

 

妊婦の外来受診 なぜ負担増?

 

 

確かに、加算には良い点があります。

 

例えば、私の専門分野である緩和ケアに関してだと外来加算の条件が厳しくてなかなか取れないため、外来は安価です。

 

緩和ケアのチームがあって、しかも医療用麻薬を処方しているという場合等に限り、固有の加算が取れます(月1回だけ、自己負担3割で870円増えます)。

 

安価なので患者さんにとっては良いのですが、病院も生きていかねばなりません。

 

もちろん現場の医師や看護師は利益度外視で動いてはいるものの、より診療報酬が取れる活動があれば、そちらを優先する内的・外的要因が働きます。

 

経済的に余裕がない医療機関はさらにそうでしょう。

 

 

早期からの緩和ケア定期受診外来がなかなか普及しないのも、マンパワーだけではなく、診療報酬が外来で薄いことと無縁ではありません(安いので患者さん視点だと定期的に受けたい、となるが、安いがゆえに医療機関側はボランティア的な意味合いが強くなるので、経済的に余裕がある医療機関でなければ患者さんを選別しないと回らない、となります)。

 

こちらでも詳しく解説しています。

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緩和ケア外来

 

善悪はともかく、そこに対価が発生することで、普及や動機が生じるのです。また質の向上も発生しえます。

 

最近の医療機関の経営はどこも厳しいので、ボランティアというわけにはいかないのです。

 

慢性心不全の緩和ケアが今年からとても話題になっているのも、まさしくそこに診療報酬が発生したからです。

 

相対的に安価に過ぎれば、その医療は普及せず、受益者たる我々に跳ね返ってきます。

 

個々人の支払い者の観点で考えれば、一円でも安いのが良いでしょう。

 

しかし全体を考えた時に、「とにかく安く(医療費も削減できるし)」という診療報酬の設定だと、病院は潰れ、待ち時間は増え、病院の労働環境は(薄利多売がゆえに)忙しいためサービスが良くなく、ほとぼりが冷めた頃にまた労働力として望ましい性質の医師を受験で優遇し、何より必要な医療が普及しにくい……と様々なデメリットもあるのです。

 

何をもって正当かというのは難しいですが、良い医療機関がなくならない程度の診療報酬や加算を取ってゆくことは、日本全体のために重要なことでしょう。

 

 

さて、今回はツッコミどころが数々ありました。

 

◯ その数や、普遍性等を考えれば、もう少し行政も上記のような情報を提供し、理解を求める必要はあったろう

 

確かに、慢性心不全の緩和ケア加算等に関してなどもそうですが、行政が新設の診療報酬に対して一般の方にまで大々的に周知し、理解を求めることはないのが通例です。

 

けれども数や普遍性、不公平に感じうることなどを鑑みれば、周知や意図の説明が足りなかったような印象もあります。

 

 

◯ 現場が悪者になるので、医療者は困る。なんとかならないのか?

 

今回の件でも、「医者がまた儲けるつもりか」などの書き込みを多数認めました。

 

行政が意図を大々的にはっきりと周知しないので、医者の企みのように誤解されてしまいます。

 

上述のように、その医療を普及させる目的でも加算は有効です。それがあまりにも知られていない印象があります。

 

ホスピス・緩和ケア病棟も長く入院すると診療報酬が下がるようになっているので、入院前の面談で「長く入院するのが難しい」由を患者さんやご家族が伝えられるのですが、それも国の診療報酬から生じていることだというよりも、医療機関の都合だと思われてしまう、などの問題があります。このように、行政が規定している事柄が現場の医療者等の一存だと思われてしまうことが相変わらずあります。

 

国が価格を決め、それで政策的に医療の方向性を誘導するという保険医療のシステムが一般にはよく理解されていないという点がありますね。

 

 

 

◯ 声が上がると、すぐ止める。国家百年の計はどこに?

 

すでに指摘されているように、「そんなすぐやめるくらいだったら、最初からやるな」という声が複数ありますが、政治家等から言われるとすぐに腰砕けになってしまうのでしょうか? そんな安易な気持ちで導入したのでしょうか?

 

妊娠されている方の負担が少しでも減ったことは良かったとは思う一方で、はたして必要と判断したものを、こうすぐに止めてしまってもよいのか、そして確かに、言われたらさっさと止めるとは、そんな安易な気持ちで開始したのか、無責任な印象が強いです。

 

 

◯ 感情が煽られ燃え上がった。ポジショントークも目立った

 

妊婦税」というような表現も出てくるなど、少々煽るような言葉も出ました。生き方は多様化していますが、一方で自身の立場が不公平であると感じることは誰しもあろうと思います。ただそこに「日本死ね」のように燃料が投下されると、立場A vs 立場B のようなそれぞれの立場性からの発言が燃え上がり、相互理解よりも亀裂を深めているように見えなくもありません。

 

日本全体でどうしていくのかは、手を携えて考える必要がある問題だと思います。

 

 

 

いずれにせよ、加算=悪ではないのです。

 

見合った診療報酬であることが、もっとも全体にも個々人にも巡り巡って利益になります。

 

一方で、財政的観点からは診療報酬を抑えねばならない……という大変難しい状況に現在の日本はあります。何十年か過ぎれば、若年者から高齢者までの人口が逆ピラミッドから均一になると言われていますが、それまでこの問題は後を引くでしょう。

 

今回の件も、軽減税率の話も、世の中のことをいろいろと考えさせられます。

 

50年先、100年先を見据えたまつりごとは現状難しいと言わざるを得ないのかもしれませんね。

 

「少子化の日本をわかっているのか」「妊婦のことを考えているのか」だから「こんな加算は言語道断」と、人気取りを行うのは容易です(あるいはこのような国家財政全般では相対的に安めの件では譲り、もっと通したいことや負担大なことに協力を求めるという政治的判断があるのかもしれませんね)。丁寧に説明して、理解を得ようとすることは、難しい行動ですが本質的な解決に近づく道です。

 

皆さんは今回の妊婦加算と、一連の事柄、どのように思われましたか?

 

 

 

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