野球の世界では、大谷翔平選手の前例のない二刀流が、世界を駆け抜けています。

 

緩和ケアの世界にも二刀流の使い手がいます。

 

東京都台東区にある永寿総合病院の緩和ケア医・廣橋猛先生です。

 

先生は、緩和ケア病棟医と在宅医療医として緩和ケアを実践されており、日経メディカルオンラインで「二刀流の緩和ケア医」を連載されています。

 

先生が出された初の一般書が『素敵なご臨終』です。

 

 

 

 

 

緩和ケア」の今を知るのに、非常に良い本です。

 

緩和ケアはがんに限らず、末期に限りません。

 

廣橋先生の本でも、慢性心不全や慢性肺疾患などのがん以外の病気にも触れられているのが、素晴らしいと感じました。

 

また「緩和ケアは早めに受診しておいた方が良い」(p228)、「定期的に専門家の診察を受けられる緩和ケア外来を受診できると良いのですが、そのような緩和ケア外来を開設している施設はさらに少ない」(p230)とも記されています。

 

 

同書は、ばりばりに一般の方向けの緩和ケア情報を網羅している、「THE緩和ケア」の本と言え、最近の緩和ケアについて知りたい方はぜひ読んでいただくと良いでしょう。

 

ここは個人的な印象ですが、私自身も「緩和ケア」と書名にある一般書は出せない(読者さんが限られているので)と言われることが頻々とあり、そのような事情でこの書名に落ち着いたのだろうかと、思いが馳せられます。

 

緩和ケアを冠する書名が通りにくいところからも、緩和ケアと記せば、末期や相当進行した患者さんしか見ないだろう→もっと皆が読む書名に、という出版界ひいては世間の認識を感じます。

 

同書のような書籍が、認識の変化に寄与してくれることを願います。

 

 

「あとがき」が印象的です。

 

全編を通して落ち着いてかつ優しい語り口の本の中に、先生の亡きご尊父とのエピソードが語られます。

 

緩和ケア医は、冷静で理知的、平静の心を失わない知の部分と、苦悩する方々の心や魂に思いを沿わせ支える情の部分を、高くバランスすることが求められる仕事です。あるいは、折り合いをつける仕事です。

 

知ばかりならば、「先生は人のつらい姿や亡くなる姿を見過ぎてきて、それが当たり前になっているのではないですか? 麻痺しているのではないですか?」と見え、思われるでしょう。

 

情ばかりならば、人を長く支え続けることができません。残念ながら、比類なく煌めいて、のちドロップアウトしてしまう緩和ケアの担い手を何人も見て来ました。長く現場にあり続けることも、大切な世の中への貢献です。

 

緩和ケア病棟医と在宅医療医の二刀流である廣橋先生は、知と情を高く併せ持つ緩和ケア二刀流でもあるのだと、あとがきのご尊父とのお話を読んで改めて思った次第です。

 

緩和ケアについて全般的に知りたい方はご覧になってみると良い本だと思います。

 

 

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