有名人がこういう治療をしている……

 

 

それを報じる記事。

 

 

千代の富士、樹木希林らが選択した「がんを切らない選択」

 

 

しかしそれが、やや特殊で高価であり、また万人には勧め難いものであった時

 

 

問題は起きてしまうのではないでしょうか。

 

 

樹木希林さんが鹿児島にある某クリニックで治療を受けているのは有名な話です。

 

 

放射線治療のクリニック。自費診療で高額なお金がかかります。

 

 

ただ、がんはそれぞれです。

 

 

例えば発育が遅いがん。

 

 

そのようながんの場合は局所療法である放射線治療で、がんを抑え込めば、ある程度の期間の生存を期待しうるかもしれません。

 

 

実際に私も、悪性性索間質性腫瘍で、もう治療法がないとされていた患者さんに、もっぱら症状緩和のために施行した放射線治療で、腫瘍の成長が著しく抑えられ、初診時から5年4カ月生存された例を経験しています。

 

 

手の尽くしようがない、と診断されて私のところに紹介されました。

 

 

ところが放射線治療は非常に奏効し、その間患者さんは20代から30代になられ、たくさんの甥子さんや姪子さんにとって良いお姉さんであり続けました。

 

 

ただし、それはあくまで、がんが比較的ゆっくり発育し、転移傾向が強くないからこそ、可能となることです。局所制御に向いていたために、長期生存が可能になったのです。

 

 

 

実際に、樹木希林さんと同じクリニックに受診されたという千代の富士さんはお亡くなりになってしまいました。

 

 

また渡瀬恒彦さんも、前掲の記事によると、病期が相当進んだ状況で受診されたと書いてあります。

 

 

千代の富士さんは膵臓癌でした。

 

 

膵臓癌は、早い段階から転移巣が見つかることが言われています。

 

 

また渡瀬さんも、病期が進んでいるということは、全身に病巣が広がっていたことが考えられます。

 

 

これらのケースのように、がんが広範に分布していることが予測されるケースでは、

 

 

局所療法での効果は(あくまで放射線などを当てた場所しか効きませんから)全身には大きく期待できないということになります。全身に作用する抗がん剤等の治療のほうが、相対的には長期の生存を期待しやすいでしょう(全身状態が良い場合は)。

 

 

仮説としては、樹木さんのがんは発育が遅いため、一つの病巣を局所療法で制御すれば、①その場所もよく制御される、②次の病巣自体が出て来るのにも時間がかかる、③次の病巣が出てきても発育が遅いので、また放射線治療で叩ける、というような「固有の条件」が揃っているから、長期生存が図られているのではないかと考えることができると思います。

 

 

ただこのような条件に当てはまるがんは必ずしも多数派ではありません。

 

 

そして、上述の記事だと、先日亡くなられたことがニュースになった、芸能事務所「エー・チーム」の社長である小笠原明男さんも大腸がんで同クリニックにかかっていたというのです。

 

 

選択を批判するつもりは毛頭ありません。

 

 

そして時間をさかのぼることはできないので、たらればはありません。

 

 

ただあくまで個人的な考えですが、大腸がんもしばしば血行性に転移して広がる病気ですから、全身に作用し、微小な転移巣を制御できる化学療法等の全身的治療のほうが、もしかするとより長く……ということがあったかもしれません。

 

 

実際に診察したわけではありませんので、何とも言えませんし、どの治療をどれだけ受けていたかもわかりません。ただ一般的に、局所療法が向いているがん種なのかというと必ずしもそうは言えないと思います。

 

 

 

もちろん自分がかかって良かったら人に勧めるのが当たり前です。

 

 

ただ前提として、がんは人の数だけ違う、ということ。

 

 

それが知られていないと、本来向いていない治療に、多くの影響力がある方が集まり(強い宣伝力となり)、他によりよい効果を得られやすいものがあるのに、不利益を被る人が増えてしまうのではないか、という点が気がかりです。

 

 

また数百万円もする自費診療という点も、痛手です。

 

 

 

そしてまた、無批判に「有名人がかかっていますよ」と報じる記事。

 

 

これもまた不利益を拡大することにつながります。

 

 

このブログをご覧になっていらっしゃるような皆さんは大丈夫だとは思いますが、「有名人がかかっているから」「樹木さんが長期生存しているから」と影響を受けてしまう人もいるでしょう。

 

 

実際、何人もの有名人のお名前が挙がっているわけですから……。

 

 

たくさんの立場の記事がありますし、右から左へ流しただけのようなものもありますから、読む側も十分用心が必要です。

 

当たり前ですが、有名な方が勧めるから良いわけではなく、治療とがん種の相性が悪いタイプのがんを患っている有名人まで、その体験談を契機として時間とお金を捧げてしまっているように見える(また、特殊な治療の宣伝となってしまっている)ことは否めません。

 

注意、注意ですね。