このような記事を見つけました。
母の不安、無関心な父・・・「家庭環境のストレスが影響した」 HPVワクチン後の体調不良を振り返る
興味深い内容です。
その中にワクチン接種後、
”今、体調不良から治っていない子も、治療のためとして別の強い薬を使っています。モルヒネを使っている子もいたし、背中に電極を入れている子もいて、そういう子はそういう治療から離れた方がいいのではないかと思います。そうした「治療」の副作用も調べた方がいいのではないでしょうか”
という一節があります。
ワクチン接種後の症状にモルヒネが使用されている、というのです。
話者のさくらさん(仮名)は”「治療」の副作用も調べた方がいいのではないでしょうか”と仰っています。
その通りだと思います。
私の専門である事柄に関して述べてみます。
医療用のモルヒネ使用で依存などが起こらない前提とは
当ブログでも度々言及しているように、医療用のモルヒネなど医療用麻薬は、有用な良い薬剤です。
ただしそれは、対象患者さんに適正な量で使用すれば、です。
痛みは必ずしも一つの成り立ちで発生しているとは限りません。
侵害性の痛み、あるいは神経障害性疼痛といった、がんを患う方にしばしば起こる種類の痛みがある際には、依存が起こりにくくなるメカニズムが体内で働くことが、動物モデルなどで知られています。
ただし、心因性の痛みなど、それとは異なった成因の痛みに関しては、依存を回避するメカニズムが働くかは不明確です。
それらの痛みはしばしば混在しますが、痛みを発生するのに相応する病変が画像上確認できたり、病歴があったりなどすることによって、上記の痛みの種別をある程度判断することができます。
ワクチン接種後の痛みが、純粋な侵害性の痛みや神経障害性疼痛である保証はどこにもありません。
もし心因性の要素が一定以上ある場合には、依存の問題が生じてくることも否定できません。
がんの患者さんには起こりえない、「薬がないといられなくなる」状態を惹起してしまうかもしれないのです。
子宮頸がんワクチンを受ける人が若年女性であることに注意が必要 ~年齢による脳の反応性の違い~
脳の成長には時間がかかることが知られています。
思春期においては、人の脳はまだ成長期です。
医療用麻薬の一種類であるオキシコドンも、動物モデルでは、若年と成年では脳内での変化が異なることが知られています(参考, 英語)。
一般に、依存性の懸念などが指摘されています(『10代の脳』フランシス・ジェンセン, 文藝春秋)。
脳に対して不可逆的な影響を及ぼさないとも限りません(前掲書)。
このように、年齢の問題も無視しえないことです。
成長や発達に障害を起こしてしまうことはできるだけ避けるべきでしょう。
過剰な使用は免疫系や性ホルモンなどへの懸念も
モルヒネの使用は、免疫系への影響も考えられます(参考, 英語)。
ただし痛みそのものも免疫系に悪影響を及ぼすため、むしろ免疫系を改善する可能性も指摘されている(同上)など、容易に結論は出ません。
もちろん、みだりに使用する乱用者においては免疫機能低下が起こると言われています。
非がんの痛みに対してオピオイド鎮痛薬を使用している男性における、性ホルモンの異常低下も指摘されています(参考, 英語)。
がんの患者さんに対しては、利益が不利益を上回ることがわかっているため、医療用麻薬治療が正当な治療たりえます。
成り立ちが明らかになっておらず、心因性の関与もある痛みに関しては、上記のような不利益が利益を上回る可能性や、長期使用での脳や身体の変化が無視しえない問題となってたち現れる可能性があり、安易な医療用麻薬導入・継続は回避すべきです。
難しい疼痛発生を来す疾病である線維筋痛症においても、ガイドライン(pdf, p79)では(モルヒネなどの)強オピオイド治療は推奨されていません。
がんの痛みとは同じではない くれぐれも慎重に
がんの痛みに関しては、医療用麻薬は不可逆的な問題を起こさずに、良い点を多く享受できることは知られている通りです。
心因性の関与もあるケースが混在している(がんではない)慢性痛に関しては、必ずしもそうとは限りません。
医療用麻薬を非常に慎重に使用する医療者もいる一方で、そうではない人もいます。
子宮頸がんワクチン接種後のような痛みの成り立ちがよくわかっていないケースに対して、モルヒネを使用するのはまず論外と言って差し支えないと思います。
良い薬剤も適応を誤れば、一転することだってあります。
改めて警鐘を鳴らす次第です。
※ 本稿では、一般に呼称されている名に準じ、子宮頸がんワクチンとしましたが、正確にはHPVワクチンです。