高樹沙耶被告でケチがついた「医療用大麻」解禁はあるのか

 

という記事を読みました。

 

 

「大麻を用いた緩和ケアに一縷の望みを託しただけで罪に問われるのである」と書いてあります。また「(苦痛から逃れるために)大麻を使う人たちが罪にならない法整備を急ぐべきなのである」ともあります。

 

 

もちろん海外では医療大麻の研究が為されており、有効性と副作用の評価が進み、有益性が高いことが明らかになれば導入の機運は生じるでしょう。

 

 

しかし、いつも気になるのは、がんの症状緩和にはほかにも良い薬剤が様々にある、ということです。

 

 

特に医療大麻に賛成のポジションを取る論者の中に、医療用麻薬を無視しているか、誤解があるようなケースが散見されることが気になります。

 

 

医療用麻薬は、しばしば誤解されているような、眠くさせて痛みを取る薬剤ではありませんし、がんの痛みの患者さんは依存にもなりませんし、当然のごとく命を縮めません。

 

 

食欲低下に関しても、大麻に頼らずとも、様々な薬剤があります。

 

 

抗腫瘍効果に関しては、緒論あり、確立した知見ではありません。

 

 

アメリカの医師が参照する科学的根拠に基づいた医学教科書のような存在のUpToDateを見ても、現在の医療大麻製剤においては、AIDSの食欲不振を除いて、確立された有効性を示している領域は必ずしも多くなく、まだまだこれから、というところだということがわかります。海外でも手放しで評価しているわけではないのです。

 

 

一方で症状緩和に使える薬剤は、他にもいろいろとあるわけです。

 

 

常に、「それって医療大麻じゃなくても、取れる症状なんじゃないの?」

 

 

という疑問があります。

 

 

医療用麻薬の専門家が医療大麻を推すならばわかりますが、日本ですでに合法的に使用できる医療用麻薬で痛みが取れることがわかっているのに、なにゆえ医療大麻ばかり強調されるのか、というように思います。

 

 

そして医療用麻薬で良くならない、と紹介されてくる患者さんも、緩和ケアの専門家が調節したり他の手段を組み合わせることで改善することが多くあり、もっと医療用麻薬に精通して頂くことのほうが「今すぐ」できることであり、なにゆえ法整備など時間がかかる「今すぐ患者さんを救えない」道を叫ぶのか謎です。

 

 

推進したい方は推進したい方で、過度に医療大麻を理想化し、また既存の緩和ケアで使用できる薬剤を過不足なく評価していないような気がするのです。

 

 

本邦において医療大麻の導入を訴えている医師も、医療用麻薬の知識はそれほど有していなかったという話を、医療大麻賛成派・反対派を広く取材した方から聞いたことがあります。

 

 

医療用麻薬に精通すれば、副作用を極小化したうえで、結構な痛みまで取れるようになるわけですから、「患者を救うには医療大麻しかない」とまでの極論には至らないと思うのですが・・・・・・。

 

 

苦痛緩和の選択肢があることは悪いことではないですから、研究の進展とともに、既存の薬をしのぐ有益性が(種々の科学的根拠の強いレベルの比較試験で)明らかとなれば、医師の厳しい管理の元に解禁されることは良いことでしょうが、まだまだ「モルヒネで眠らせる」「モルヒネだと死が近づく」などの誤解が世間で広く認められる日本において、手っ取り早くがんの患者さんを苦痛から救うのは、新薬の導入よりも、医療用麻薬を含めた合法的に使用できる既存の症状緩和薬の技術のブラッシュアップと、世間での正しい理解であることを強調したく存じます。

 

 

そしてライターさんや記者さんなど、医療大麻、医療用麻薬、緩和ケアについて発信する立場の方は、すでに日本で使用可能である医療用麻薬についてしっかり勉強して頂ければありがたいです。

 

 

がんの患者さんの苦痛を早く取ってあげたい、と真に願うならば、医療用麻薬の使用推進と使用技術向上をもっと主張しても良いと思います。なぜ医療用麻薬で痛みは改善するのにまず(時間がかかる)医療大麻の合法化なのか、どうにもそれが解せないのです。