タイガー・ウッズ選手が逮捕されましたが、インパクトのある写真と、映像が報じられていました。

 

 

タイガー・ウッズ選手はバイコディンを使用していたとのことです。

 

 

バイコディン・・・・・・日本ではなじみのない薬剤ですね。

 

 

度々世間でニュースになる大麻とは異なり、バイコディンはオピオイドです。

 

 

すなわち、私やがんの患者さんに関係する医師が処方する、モルヒネやオキシコドンといった薬剤と同じ系統の薬剤になります。

 

 

したがって、副作用も似通っており(というか同じ)、嘔気や便秘、眠気などが代表的な副作用です。

 

 

バイコディンは、合剤です。

 

 

成分はアセトアミノフェン、日本ではカロナールとして有名ですが、と、ヒドロコドンというコデインから生成したオピオイドの2つです。

 

 

バイコディン錠は3種類あり、1番含有量が少ないもののヒドロコドン量は5mgです。一方でアセトアミノフェンはどの薬剤でも300mgです<参考;

http://www.rxlist.com/vicodin-drug.htm#dosage>。

 

 

長時間作用型ではないので、4〜6時間毎に服用します(効果発現10〜30分、効果持続4〜8時間と言われています)。

 

 

そうすると、ヒドロコドン量としては20〜30mg/日ということになります。

 

 

オピオイドは、モルヒネに換算した量で、強度を判断します。

 

 

内服モルヒネ30mg=ヒドロコドン20mgです<参考;

https://palliative.stanford.edu/opioid-conversion/equivalency-table/>。

 

 

というわけで、初期開始量のヒドロコドン20〜30mg/日を服用するということは、内服モルヒネを30〜45mg/日服用することと同等だということになります。

 

 

普段オピオイドを処方している医師は、この開始量がどうかはすぐご理解頂けると思いますが、正直「多い」です。

 

 

日本ではがんの痛みに関しても、一般的には内服モルヒネ換算10〜20mg/日で開始することが多いからです。

 

<本邦のがん性疼痛に対しての標準的開始レジメ例>

●トラマドール100mg/日=実質内服モルヒネ換算10mg/日

 

●オキシコドン10mg/日=内服モルヒネ換算15mg/日

 

●商品名MSコンチン20mg/日=モルヒネ20mg/日

 

その倍量以上の量が、バイコディンの標準使用量ということになります。

 

 

基本的に、オピオイド薬は、その量が痛みとつりあっていれば、強い眠気にはなりません。

 

私自身も、親知らず抜歯の際のトラマドール(弱オピオイド薬)使用で、身をもって体感しています。

 

けれども、その痛みとつりあわない量であれば、眠気が出ます。

 

 

ぶっちゃけた話、そこらへんの腰痛や筋骨系の痛み程度で(がんの痛みではなくて)、内服モルヒネ換算30〜45mg/日も飲めば、相当眠くなるだろうと予測されます。

 

 

逆に、がんの強い痛みがある患者さんでは、30〜45mg/日程度では、まったく眠くならず、痛みもあまり取れない、というのはごく当たり前に見かけるものです。あくまで痛みの強さが重要です。

 

 

また痛みの種別もいろいろで、慢性的な侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛という種の痛みでは、依存(俗にいう、やめられない止まらない)にならないメカニズムが脳で働いていますが、心因性疼痛など、そのようなメカニズムが機能しない可能性がある痛みもあります。

 

さて、そのようにオピオイド薬を結構普通に、ちょっとした痛みにも出してしまうきらいのあるアメリカは、依存や過量使用が起こりやすくなってしまいます。

 

 

年間なんと10万4千490件の、ヒドロコドンがらみの救急受診があるそうです<参考;

https://www.drugabuse.gov/publications/drugfacts/drug-related-hospital-emergency-room-visits>。

 

 

まあ、そうなるでしょうね・・・・・・。

 

 

ミュージシャンのエミネムなど、ヒドロコドンから依存に発展した有名人のエピソードも報じられています。

 

 

当然がんの、はっきりした痛みがある人に用いれば、依存も出さず、恩恵を受けることができるでしょう。

 

 

しかしがんの痛み緩和では、より良い薬剤が複数あるため、緩和ケア関連の海外の本などにも記載されている量が多くない(→そこまで重要な薬剤ではない)です。

 

 

特に導入予定はないようなので、今後も日本にとってあまりなじみのない薬剤であることは変わりないと思いますが、このバイコディンの成分のヒドロコドンが、体内で代謝されて生成されるのが「ヒドロモルフォン」です。

 

 

このヒドロモルフォン(強オピオイド)が、「がんの痛み」に対して、本邦で、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、メサドン、タペンタドールに続く6番目の強オピオイドとして使用可能になります。

 

 

何はともあれ、がんで実際に痛みがある患者さんへのオピオイド治療の有効性は確立していますから、安心して治療を受けてもらいたいと思いますし、アメリカと日本の状況は、何度か当ブログでも触れているように全然違いますので、あくまで他国の状況で、ということで受け取られるのが良いだろうと考えます。

 

 

 

 

↓p25に少しだけヒドロモルフォンのことも脚注で説明しました。