実際に医療用麻薬を使用された方から貴重な体験談を頂戴しました。

 

ありがとうございます。

 

(以下メッセージです)

 

いつも更新を楽しみに。そして勉強させて頂いています。


私は血液がんなので、固形がんの患者さんとは抗がん剤の使用目的にも違う部分が有るのですが。


昨日も、同じ患者仲間との交流会が有り、参加者のタイプは違いますが乳がんと闘う芸能人の方々のブログのフォロワーしている人は、「更新が有るとホッ」とし、「更新が止まると心配になる」という意見が出ました。

私自身は、以前も先生にメッセージを送らせていただいたリンパ腫のサバイバーです。


医療モルヒネを治療前に受けました。


一般的にリンパ腫は「痛く無い」と言われる事が多いのですが、私の場合は「色々な内臓に出来た」という事も有り。


また、胸水や腹水も溜まり、「立つ事はもちろん、座る事も寝る事も出来ない位に痛く苦しい状態」でした。

食欲も無く、睡眠も取れず。


「色々なパターンの痛みとの戦い」でした。


幸いな事に、最初は腫瘍外科のDrが主治医でしたが、熱さましやロキソニンでは対応できないと判断した段階で、院内の血液内科への転科の前の数日は、「痛みが酷いのでモルヒネを使用しましょう」と言われました。

当時は、「モルヒネを使う時は死が目前だから」と思い、「拒否」しました。


身内がモルヒネを使っても苦しんで死んだ事も理由でした。


しかし、私の反応を見て主治医が言った事は「モルヒネを誰か使いましたか?それは10年以上前では無いですか?」と言われました。

「その通り」だったので、「そうです」と伝えると。


「今は、痛みがとても強いよね。自分達の指示通りに使えば『絶対に中毒になる事は有りません!』


痛みで食事も出来ないし、睡眠も出来ないよね。これからリンパ腫の治療をする前に体力が低下して。


あなたに凄く良い薬(抗がん剤)が有るけど、今のままでは治療まで体力が持たないから。


僕達を信じて!今は、まず「痛みを取りましょう!」と言われました。

本当に筆舌する事も出来ない位の痛みだったので、「この痛みが取れるので有れば!」その思いが強かったので(それに、どうせ、このまま死ぬんだから、中毒になろうがなるまいが! 今は、とにかくこの傷みを取って欲しい!)、二種類の医療モルヒネを使いました。

すると、あら、不思議。


30分もしないうちに「身の置き所も無かった痛み」が消えていたのです。


そして、「気付かない内に寝ていた」


起きたのは、「モルヒネが切れて、痛みが復活した」4時間後でした。

月単位で進行するタイプだったので、入院までの一ヶ月は自宅にいても熟睡は出来ない一ヶ月でした。


モルヒネで痛みを取って貰う事で、初めて寝る事が出来たのでした。

これは、健康な人が頭で考えてもニュアンスは伝わりにくいのかも知れませんね。


私は、当事者だし。


今は、こうして生きているので、家族も「あの時のあのモルヒネのおかげだよね!」と今でも言います。


友人・知人も当時の私の状態を知っているので「自分や身内も、もし、将来、がんになって医療モルヒネの事を言われたら使って貰うわ!」と言います。

「痛みが無くなるから、痛みで寝られなかった体が、やっと楽になり一挙に睡眠を貪る。」


側で私を見ていた家族はそう感じています。


抗がん剤が奏効し、半年間の治療の間は医療モルヒネは手放せませんでした。


がんが見える状態の時は、モルヒネが切れると痛みが出ました。

でも、がんが消えた時。中毒にもならずモルヒネからも簡単に縁が切れました。

知らないから拒否する。拒否するから体力も睡眠も低下する。食事も取れないから体力は益々低下する。


便秘する人もいるけれど、私は水様便でしたが、それには主治医がきちんと対応してくれます。


便の事より「全身の痛みを取る」事の方が私には優先順位は大きかったですね。

緩和ケア…まだまだ医療者の中にも誤解が多い事が患者会などで報告が有ります。


「取れる痛みは取る」


それだけで、予後も違って来る!


今も、「誤解や無知から取れる痛みを取らずに苦しんでい人」は全国に居られると思います。


一人でも多くの患者さんの痛みが少しでも改善される時代に成ります様に!

モルヒネを使用した身だからこそ、そう感じます。

 

(以上メッセージです)

 

たくさんの示唆を与えて下さるメッセージですが、重要なこととして

 

「痛みが緩和されたから、病気と対峙する心身の力を持ちえた」(治療の成功にもつながっていった)

 

そして、抗がん剤が効いて痛みの原因となる病巣が消えれば

 

「モルヒネは必要なくなり、何の問題もなく止められた」

 

ということが挙げられると思います。

 

実は病気の治療に臨むためにも(それを通して治ったり、長生きしたりするためにも)、医療用麻薬による痛みの治療は重要なのです。

 

医療用麻薬を嫌がる方は、「命が縮む」「衰弱する」と捉えておられます。

 

とんでもありません。

 

治りたい、長生きしたいならば、心身を傷つける痛みは緩和したほうが良いですし、それを望むならば医療用麻薬を厭う必要はなく、むしろそのための手段なのです。

 

そして、「いつまでも止められない」「止めてもほしくなる」という誤解も広くあります。

 

痛みの原因の病巣が、治療で減ったりなくなれば、何の問題もなく医療用麻薬は中止できます。

 

始めたらずーっと死ぬまで止められない、というのは誤解です。くせにもなりません。

 

もちろん、病気に対する治療が乏しい場合は、基本的には痛みが減ることは少ないので、継続的に使用することになるでしょう。

 

ただそれは、くせになるから使い続けざるをえなかったり、漫然と使っているのではなく、痛みの原因病巣が厳然としてある、あるいは増加しているから、中止しないほうが良い、という判断なのです。

 

 

以前ブログに記したこともありますが、私自身がオピオイド治療を受けた経験があります。

 

痛みと医療用麻薬の量がつりあえば、眠気もそれほど出ません。

 

 

私の場合も、拍子抜けするくらいに痛みだけ消えました。少し思考に薄皮が張ったように感じましたが、生活に支障がないレベルであり、痛みの緩和における恩恵がはるかに上回っていました(なお、もちろん中止できましたし、くせにもなりませんでした)。

 

 

それにメッセージを下さった方が記しておられるように、がんの高度の痛みは休息も取れない状況を招き、痛みが緩和された時に、初めて休息を取れ、眠れるようになり、それまで休めなかった分だけ休めるようになる(一時的にぐっすり寝てしまう)ということは珍しくありません。

 

ただこの眠気は休息ですから、自然なものであり、身体には良いものです。

 

量が多いための眠気とは別で、そこは専門家がしっかり評価して、治療を行っています。

 

増やして眠くさせて痛みを取っている、というような単純なものではなく、患者さんの痛みや状態を総合的に判断しながら、痛みが取れる量に微調整してゆくのが医療用麻薬治療です。

 

そのエッセンスは新刊『誰でもわかる医療用麻薬』でも詳述しました。

 

 

 

 

 

私の病院の血液内科の先生は、緩和ケアに造詣が深く、よくご相談くださっています。

 

そのおかげもあり、私も各種の白血病、骨髄異形性症候群、各種のリンパ腫、多発性骨髄腫など、多様な血液腫瘍性疾患の症状緩和の経験を得ています。

 

一般に、血液腫瘍は痛みが(固形腫瘍よりは)少ないですが、浸潤する臓器によっては、メッセージで頂戴したように、固形腫瘍顔負けに痛い病態もあります。

 

しかしそれらに関しても、固形腫瘍と同じように、医療用麻薬などの鎮痛薬を駆使することで、緩和することが可能です。

 

大切なことは、血液内科系の腫瘍だって痛いので、実際にそれを感じているならば、症状緩和を求めることです。

 

我慢していては医療者はわかりません。

 

いずれにせよ、医療用麻薬は眠らせて痛みを取る薬剤ではなく、痛みを伝達する経路の多様な部分に作用することで、「直接的に」痛みを緩和する薬剤です。

 

そして終末期は、残念ですが、最後まで意識清明な方は少ないです。

 

医療用麻薬ではなく、身体の状態が、私たちの意識レベルを下げるのです。

 

少しでも正しい情報や、現場の真実が伝わってもらいたいと願います。

 

 

 

 

 

 

 

 

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