50代の某がんの脊椎転移の患者さん。主訴は背部痛です。


フェントス12mg(=内服モルヒネ換算360mg/日)という高用量でも痛みが取れないと紹介されました。


まず1つ目の「そうだよなあ」として、これだけ使用していても、患者さんの眠気はほとんどありません。薬剤量と痛みがつりあっているのですね。だからこれだけ使用していても眠くならないわけです。


今現在痛みがない方や、私が、この量の貼付剤を使用すれば、ひねもす眠りこけてしまうでしょう。痛みとつりあっていれば、それに相応する痛みがあれば、眠気などは強くならないのです。


しかもその例では、鎮痛補助薬としてプレガバリン(リリカ)やデュロキセチン(サインバルタ)も併用投与されています。考えられる鎮痛薬はほぼ投与されています。


私の選択は……外来でNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬。読みは”エヌセイズ”)を追加しました。ジクロフェナクの徐放剤(ボルタレンSR)です。なおNSAIDsには有名な「ロキソニン」や「イブ」なども含まれます。


NSAIDsを定時投薬する場合はプロトンポンプ阻害薬などの併用が必要になるので処方しました。


痛みはその後良くなり、患者さんも私も喜んでいました。


しかしある時、事件が発生。出血性胃潰瘍の可能性が出たのです。


そこで内視鏡検査などを待つ間のみ、一時的にNSAIDsを中止しました。NSAIDsの禁忌(投与していけない場合)に「消化性潰瘍」があるためです。


すると、これもメカニズムを考えれば理解できることですが、患者さんの痛みは再増悪してしまいました。


患者さんは大変だったと思いますが、出血性胃潰瘍はなく、すぐにNSAIDsを再開できました。そして痛みも再軽減しました。


NSAIDsは、がんの患者さんの痛みに対して、アセトアミノフェンと並んで早い段階から考慮される薬剤です。


炎症が強い痛みには、「抗炎症作用」があることから(★なおアセトアミノフェンには抗炎症作用はありません)、医療用麻薬と併用することで上記のように効果を得られることがあります。


がんの痛みの中でも、骨転移痛や神経障害性疼痛という神経の痛みは、しばしば医療用麻薬単独投与ではうまくいきません。


それぞれの痛みや状況ごとに、何を併用したら良いのかの判断は異なりますが、それをよく知っているのが緩和医療に携わっている医師だと言えると存じます。


がんで「夜通し背中をさする痛み」は、しばしば骨転移痛からです。少し動くと痛む(★体動時痛が特徴な)ので、寝返りだけでも起きてしまって、不眠の原因となり、ご本人とご家族を苦しめます。

しかしそんな疼痛であっても、工夫次第で軽減することが可能です。


放射線治療も骨転移痛緩和には重要ですが、「鎮痛薬がゼロになる」ほどの効果は得られないことが多く、基本は内服薬などとの併用療法が重要です。