大学病院の呼吸器外科医(准教授)にして、傾聴を超える「拝聴術」のプロフェッショナル、そして私も末席に名を連ねさせて頂いた東日本大震災のお茶っ子の会の仲間でもあり、音楽療法の造詣深く自らも楽器演奏に通じておられ、そして講義の達人……という一人で数多くの顔を持つスーパードクター(私の中ではまさしくそうです)儀賀理暁(ぎかまさとし)先生が、本を出されました。
「あのね、かなちゃんに聞いてほしいことがあるの」―緩和ケアが音楽を奏でるとき(日本医事新報社刊)です。
今日発売になります。
さっそく拝読してびっくり。
先生は優れた書き手でもあったのでした。
それぞれの分野でファンも非常に多い先生の、また新しい一面を知るに足る素晴らしい作品です。
それにしても先生はいくつの顔をお持ちなのでしょうか?
●医師
●音楽家
●講演者
●拝聴者
●作家
●忍者(珍しい名字は、忍者の末裔だからだそうです)
●番頭(本作での自称)
さらに、新刊にも触れられているように、児童向けの死や病気の教育でも活躍されています。学校に赴いてお子さんたちに易しくそれを伝える仕事もなさっているのです。
そしてそのいずれもで優れたお仕事をされており、世の中にはリアルドクターⅩがいるのだと、ドラマに出て来るような何でもできる漫画みたいなドクターがいるのだと声を大にして言いたいです。
さて本には、これまでの患者さんとのエピソードが語られ、そのベースラインを形作るのが音楽です。
本の帯に書いてある文言は、気づきに満ちています。
「そうか、音楽が奇跡をもたらしてくれるわけではないんだ。
そうか、僕たちが緩和ケアの中で音楽に期待しているものは、音楽の処方箋によって何かが治癒したり改善したりすることではなく、その唇の上に、その心の中にもともとある音楽を呼び覚ますこと、つまり己の中にある答えに自らの力で到達することの支えだったんだ」
この文言は、様々な発見がある本書の中においても、とりわけ心に響く言葉だと感じました。
また個人的には、震災直後の支援のための気仙沼行を描いたくだり(第4章)が、あの頃の雰囲気を呼び覚ますものであり、心を打たれました。
「空気と音」が文字から再現される作品です。
よかったら皆さんもぜひご覧になってみてください。