がんで現在療養している有名な方がいらっしゃいますので、そのような場合には比較的ネットでも話題になりやすい傾向があるようです。

 

 

数日前も骨の痛みについて触れましたが、書き終えたのちに小林麻央さんの骨痛の話が報じられており、タイムリーだと感じました。実はこの今日の原稿の後半部分も1週間ほど前に書き上げたのですが、その後に骨転移痛の話が所々で出たために、前半部分等を加筆しています。

 

 

骨の痛みは、ただ医療用麻薬を増やしてゆく、という方法では取れないこともしばしばですから、しっかりと主治医の先生と相談し、適切な症状緩和加療を受けることが重要でしょうね。

 

 

なお例のごとく、「小林麻央さんのような例を聞くと、医療”大麻”導入を真剣に考えますね」等という反応も見聞されますが、専門家として言えることは、「いいえ、それよりも医療用”麻薬”などの鎮痛薬の組み合わせや薬物以外の鎮痛加療(放射線治療や神経ブロック)などによる総合的な加療がよほど重要です」ということです。

 

 

実際、今年も重度の骨転移痛で身動きできなかった方を、何人緩和したかわかりません。普通に無痛化され何人も退院されました。

 

 

「抗がん剤治療」が効いて骨の病変を抑えられたため、顕著に痛みが緩和された方もいます(★抗がん剤治療がよく効くと痛みまで緩和されることを一般の方は知らないこともしばしばあると思います)。

 

 

体動時痛の完全緩和は難しくとも、「夜通しさすった」「激痛で苦しみ続けた」というのはもっとやりようがある場合も多いと感じます。大切なのは緩和医療の専門家の関与を受けることです。

 

 

 

さてインターネットを拝見していると、小林麻央さんの話を聞いて思い出したこととして数々の体験談が語られています。

 

 

「親が骨転移で苦しみ、背中を痛がるので、夜通しさすった。がんの患者の療養は壮絶である」

 

 

というような、骨転移痛に苦しんだご家族の事例や

 

 

「亡くなる数日前は、のたうち回っていた。モルヒネの影響もあるのかもしれない。痛みだったと思う。がんの最後は壮絶だ」

 

 

というような、がんの亡くなる数日前の「身の置き所のない様態」=せん妄にご本人やご家族が苦しんだという事例を見かけます。

 

 

ただ実は、各々に対しては、緩和医療に詳しい医師がいれば、ある程度は(少なくとも描写されているほどではなくなるように)緩和できるものです。

 

 

前者の骨転移痛は、モルヒネなどの医療用麻薬を「ただ増量すれば良い」というのはしばしば間違いのもとです(もちろんある程度は増やす必要があるので、担当医師の指示に従ってください)。

 

 

先述したように、非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンなどの他の鎮痛薬との組み合わせや、痛みの緩和のための放射線治療など非薬物療法をしっかりと組み合わせないと、痛みは取り難いのです。

 

正直な話、上記のような工夫を駆使すれば、「夜通し背中をさする」ほどの疼痛となることははまずありません。

 

 

従って、そのような話を散見するたびに、とても残念な気持ちになります。もう少し緩和できるだろうと予測されるからです。

 

 

また後者の余命数日の身の置き所のなさに関しては、最近の考え方では「せん妄」と捉えるようになってきています。

 

 

せん妄自体には、もちろん、医療用麻薬は効きません。

 

 

ただ余命数日で意識が混濁している方に、「痛いですか?」と尋ねると、しばしば「あーあー」などまるで肯定するかのような返事が返ってくることから、しばしば痛みとして加療されており、良くならない原因となり得ます。

 

 

余命数日の状況のせん妄に関しては、不良な全身状態を背景として起こってきているものなので、「意識を保持して苦痛緩和」という緩和医療の原則が難しくなります(例外的な状況です)。ゆえに苦痛緩和のために、必要なときにだけ(持続的ではなく、頓用で)眠れる薬剤(注;命はほとんどの例で縮めないし、命を縮めることは当然目的としていない)を使って、限られた時間が穏やかに過ごせるように支援します。

 

 

しばしば、身の置き所のなさに対しての十分な説明がないために、死後に「あの”痛み”でのたうち回っていた」という悲しみと苦しみが家族に訪れてしまいます。ゆえに、何年経っても、「末期で苦しんだ」という悲しみがネットを通して表現されるのです。

 

 

余命数日の、最後の身の置き所のなさは「せん妄だ」という評価と、その共有が必要です。

 

 

これも緩和医療のさらなる普及が重要だと感じさせる例だと思います。

 

 

 

今日はクリスマス・イブ。

 

 

苦しむ方にとっては、症状緩和は大きなギフトになることでしょう。

 

 

今年も残りわずかですが、来年も、その先も、がんで苦しむ方に標準的な水準の緩和医療が供与されることを望んでやみません。

 

 

ご病気があったり、ご家族がそうだったりすると、クリスマスからの年末年始シーズンといえども心底リラックスする感覚は持ち難いかもしれませんが、それでもどうか、ゆっくりとお過ごしください。

 

 

もちろん健康な方にとっても、リフレッシュする時間を持つことは大切です。身も、心も。

 

 

それではまた。失礼します。