いつものことですが、Yahoo!にある記事が掲載されていました。

 

 

がん細胞を兵糧攻め! 「究極糖質制限」の威力

 

という記事です。

 

 

著者の医師は最近新刊を出されているようなのですが、その帯に

 

 

◎末期がん患者さんの病態コントロール率83%

 

 

と題してあります。

 

 

なお、糖質制限にはとても熱心な方がおられるため、まず私はこの先生や糖質制限のことに対して何かを言いたいというわけではないことを確認しておきます。個人攻撃のつもりはありません。

 

 

さてこのリンク先の記事、皆さん良かったら読んでみてください。

 

 

(一部引用)

 

 私が、世界初となる臨床研究(「ステージⅣの進行再発大腸癌、乳癌に対し蛋白質とEPAを強化した糖質制限によるQOL改善に関する臨床研究」)をもとに体系付けた、「がん免疫栄養ケトン食療法」とは、このケトン体を治療のベースに据えた、がん細胞を弱らせて正常細胞を元気にするための、食によるがんの兵糧攻め戦法に他なりません。

 この食療法の基本となるのは、主食である炭水化物の極端なカットです。その代わりに、免疫機能の指標となるたんぱく質(魚介類、大豆類、肉などから摂取)と、がんの進行と炎症を抑えるオメガ3脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸。魚の刺身やアマニ油などに含まれる)の摂取を強化し、さらに、その燃焼性の高さからケトン体の産生を強力に促してくれる中鎖脂肪酸(MCTオイルを主に活用)を、1日数回に分けて摂取するようにしています。

 食事メニューの詳細、栄養の組み合わせなどは『ケトン食ががんを消す』に譲りますが、こうした高脂肪、高たんぱく、低糖質のケトン食に、抗がん剤や放射線などの化学治療を併用すると、患者のがん細胞が縮小、消滅する確率である「奏功率」がアップすることも、私の臨床研究で明らかになりました。

 この食事療法は、3カ月の継続をベースに、実施の安全性が確認されている1年までを目処に行われます。参加者の臨床開始から3カ月後時点での病勢の中間報告によれば、PR(部分奏効)が6例、SD(進行抑制)が1例、PD(増悪)が2例となっています。血中の最高ケトン体数が1000μM/ℓを超えると、がんは縮小する傾向にあることが見て取れます。

 

 さて、この9例の1年後の評価はどうなったのでしょうか。3例がCR(完全寛解)、3例がPR(部分奏功)、1例がSD(進行抑制)、2例がPD(増悪) による死亡と、奏効率が67%、病勢コントロール率が78%という結果になりました。臨床対象者以外の免疫栄養ケトン食実施者も含めると(総勢18人が3 カ月以上実施)、その病勢コントロール率は83%にものぼり、免疫栄養ケトン食と化学療法の併用の有意性が、さらに明確に示されています。

 

 

(以上引用)

 

 

さて、この記事には、もちろん疑問点があります。

 

 

皆さんはおわかりになったでしょうか?

 

 

一般の方で見抜けた皆さんは、鋭いです。

 

 

逆にもし一般の方で見抜けない方が多いとなると、「またメディアがやってしまった」ということになります。

 

 

記事は一見「科学的」に見えます。臨床試験やCR、PDなどそれらしい言葉が並んでいるからです。

 

 

しかしこれ、本当にこの食事療法の効果と、ここに出ているだけの文章で言えますか?

 

 

それが私が皆さんにお伝えしたいことです。

 

 

よくご覧になってみてください。

 

 

『高脂肪、高たんぱく、低糖質のケトン食に、抗がん剤や放射線などの化学治療を併用すると、患者のがん細胞が縮小、消滅する確率である「奏功率」がアップすることも、私の臨床研究で明らかになりました』

 

 

とあります。

 

 

”抗がん剤や放射線などの化学治療を併用する”と書いてあります。

 

 

すなわち、これらの患者さんは標準的な治療を併用している患者さんです。

 

 

とすれば、普通に考えれば効いた理由として、著者が挙げている食事療法ではなく、ただ単にがんの治療が効いた可能性があるわけです。

 

 

ゆえに、本当に効果を言うためには、「治療+この著者の食事療法群」と「治療単独群」にわけてそこに差が出ないといけないわけです。

 

 

医学や理科系のことに少し詳しい方はすぐにわかると思いますが、意外に「それらしく」書いてあると一般の方には気づきにくいものです。

 

 

他にも、この”研究”が対象にしているのは、「大腸癌、乳癌」という比較的抗がん剤が効きやすいがんであることも、私としては、あくまで個人的な印象ですが、「”よく”選んでいるな」と感じます。

 

 

つまり抗がん剤が効きやすいがんに、抗がん剤治療を行い、それに食事療法を足して、病気の経過から「食事療法の効果がある」と言っているということです。

 

 

ただそのような「治療をしている」患者さんなのだということは記事中には少々触れられているだけです。

 

 

さらに帯の、下の文言。

 

 

◎末期がん患者さんの病態コントロール率83%

 

 

記事をみると

 

 

「臨床対象者(ブログ著者注;ステージⅣの進行再発大腸癌、乳癌の患者さんということでしょう)以外の免疫栄養ケトン食実施者も含めると(総勢18人が3カ月以上実施)、その病勢コントロール率は83%にものぼり」

 

 

とあります。

 

そもそもステージⅣ=末期ではありません。ステージⅣ≠末期です。

 

さらに未だ治療を受けている大腸がんや乳がんのステージⅣの患者さんは、到底末期がんとは言えません。

 

しかし帯では「末期がん患者さん」とまとめてしまっています。

 

”臨床試験”等と科学的な外貌を与えているのに、良いのでしょうか。

 

 

特に困っていない方からすると、「へー」と読み流すかもしれませんが、藁をも掴む心理だと、このような記事を鵜呑みにして、がん悪液質の消耗下に極端な制限食に手を出して衰弱を早めてしまうということもないとは言えません。

 

 

というわけで、メディアはこのような主張を、無批判に、あるいは知っていてもプロモーションのために、横流しすることがあるといういつもの事象です。

 

 

本当はこのようなことを皆が見抜ければ良いのですが、しかし先方もなかなか巧妙です。

 

 

この記事の新しいところは、臨床試験や術語を用いて、科学的な印象を出しているところです。

 

 

しかし比較する群を設けなくては、強い主張はできません。

 

 

また本例も、例えこのような試験に詳しくはなくても、「あれ、治療しているじゃない?」と気がつけば、その結論に対して正しい疑念を持つことができるでしょう。

 

 

ただ”抗がん剤治療を併用していること”を隠している場合も多い中で、それを付したことは、良心だと評価したいです。おかげさまで正しく疑うことができるのです。

 

 

一般の皆さんには、「とにかく気をつけて」としか言えません。

 

 

一部メディアはそのようなもの、あるいは素晴らしいメディアでも、関わる人によっては様々なことが起こり得るということを知り、情報を吟味することが大切です。

 

 

それでは皆さん、また。