いっぺん世の中でイメージがついてしまうと、それを覆すのは容易なことではありません。

 

 

モルヒネしかり、緩和しかり。

 

 

未だに、「緩和ケア」は末期だと思うから受けたくない、とおっしゃる患者さんやご家族は枚挙にいとまがありません。

 

 

がん治療と並行した緩和ケアがうたわれ、それが標準的な方法であることが、これだけ言われていてもです。いかに誤解のほうが伝播力が強いのかと痛感します。

 

 

他の言葉と同じように、どこかからか緩和ケアという言葉を知るわけであって、その際に正しい情報がもたらされるならば、容易にはこうはならないのではないかとも思うからです。

 

 

もっとも、私がそれを見聞する機会が多いのは、勤務している病院に来られる患者さんの特性、つまりがん治療を受けたいという気持ちが相対的に強いということも影響はしているのかもしれません。

 

 

 

乳がんで奥様を亡くされた読売テレビのアナウンサー清水健さんのコラムが話題になっています(下がリンクです。考えさせられる記事です)。

 

 

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161013-OYTET50010/

 

 

またこちらhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161104-00010000-yomidr-sociはYahoo!にて反響を報じる記事です。

 

 

奥様は妊娠中に乳がんであることが判明。専門医は出産を諦めることを勧めましたが、熟考した上で、妊娠継続しての治療を決断されました。

 

 

残念ながら、出産から4ヶ月後、病気の進行により、息子さんを残して奥様は逝かれました。

 

 

息子さんは2歳になり、清水さんはお子さんに奥様の努力をこれからも伝えていきたいと文を結んでいらっしゃいます。

 

 

奥様や清水さんのお気持ちを察するにあまりあります。その思いの一端に思いを馳せることしか、同経験がない身にはできません。

 

 

ただ息子さんがすくすくと育ってくれるだろうことを、心から願います。

 

 

 

さて、そのような清水さんの素晴らしいコラムに、地の文なので当然清水さんが語ったことではないのですが、こう記されておりました。

 

 

「15年2月、緩和ケアに切り替えると同時に、清水さんは番組を休んだ。それから10日ほどで、奈緒さんは息を引き取った」

 

 

緩和ケアは切り替えるものではなく、一貫して提供されるもの。

 

 

小林麻央さんもあれだけ発信できるのは、ブログでも以前ご自身で触れられていたように、痛みの治療などを受けている、つまり緩和医療をしっかり受けているから可能になっているものだと拝察されます。

 

 

症状を和らげられる緩和ケア・緩和医療は並行して為されているのです。

 

 

ヨミドクターでも、「切り替える」という表現が出て来てしまうことに、少しだけ残念だと感じました。

 

 

このような場合にふさわしい言葉は、緩和ケアというよりも「ベストサポーティブケア」(医療現場では「BSC」と略されることもあります)という言葉で、基本的には病気に対する治療ではなく、症状緩和やQOL保持にできうる範囲での力を尽くす、というものでしょう。「病気に対する治療がもう無効で、抗がん剤などの治療継続が困難なので」という前提がこの言葉には内包されています。

 

 

下のサイトなどが一般の方にもわかりやすく解説してくれています。

 

 

http://ganmaga.jp/archives/3863

 

 

一方で、緩和ケアは今は「時期を選ばず」という接頭語が付されています。

 

 

とにもかくにも、「緩和ケア」と名乗ると眉をしかめられる患者さんやご家族はまだ存在するわけで、印象に影響を与える立場のメディアには、こんな小さなことと一見思えるようなことでも、正しい表現で記してもらえればと願います。

 

 

清水健さんの奥様もきっと緩和ケアを並行して受けていたはずですが、記事中の言葉を字面で受け取って、「やっぱり緩和ケアって末期なんだ」と思ってしまうと、結局苦しまれている方が緩和ケアにかかることを遅らせてしまいます(するとますます、緩和ケアが末期なように見えるという悪循環!)。

 

 

いつかは誰もががんになる可能性があり、今病悩されている方だけではなく、未来の方のためにも、緩和ケアは切り替えるものではなく、並行して為されるもの、という考え方がもっと普及してもらいたいと願います。