アメリカで働く医師の正高佑志先生からメールを頂戴したので紹介します。

 

 

(以下メール)

 

大津秀一先生

突然のご連絡を失礼いたします。
私、現在内科医/救急医をしながら医療大麻専門医としての研鑽を積んでいる正高佑志(マサタカユウジ)と申します。

今回の逮捕劇に絡んだ先生のブログを拝読させて頂きました。
大変理知的で、豊富な臨床経験に裏付けられた文章であり、御指摘の内容はご尤もだと思いました。
しかし、部分的に反論させて頂きたい箇所があり、筆を取らせて頂いた次第です。

まず第一に、先生が御引用された2001年の論文に関しまして。
確認しましたが、上記の論文中のメタ解析で採用された9論文は全て、単離されたTHCもしくは化学合成されたアナログを使用した文献です。
その後の研究の結果、単離THC(ブログ筆者注;テトラヒドロカンナビノール。大麻の成分の1つ)の効果は全草摂取と比べ圧倒的に低く、副作用が多いことが、現在の常識となっております。(全草を使用することによる、アントラージュ効果という言葉が使われます。)
医療用大麻は、まさにフロンティアで、知識の更新が著しく速い分野です。
上記の15年の論文の引用は、正直、時代遅れと言わざるを得ません。

また、これは医療大麻の活動家の側に問題があるのですが、医療大麻と医療用麻薬はトレードオフの関係にはありません。
むしろ、医療大麻専門医は既存の医療麻薬などの標準治療との併用をすすめています。
医療用麻薬に、医療大麻を併用することで、そり相乗的な効果が得られるというのが、我々、医療大麻専門医の見解です。
(日本の医療大麻活動家には、一切の西洋医学や予防接種に対する拒否反応
が強いのは事実です。また現状日本では医療用麻薬の乱用での問題は起きておらず、アメリカのケースを引き合いに出すのはフェアではないと思います。申し訳ありません。)


また、私が今回、最も強く強調したいのは疼痛以外の、特に神経難病での筋痙攣への適応に関してです。

先生の専門範囲ではないと思いますが、医療大麻において、最も科学的検証が進んでいる領域が多発性硬化症の痙性麻痺および筋痙攣です。
これに関しましては、その他の代替薬での副作用が強いケースが多く、医療大麻が第一選択となる可能性が今後高いと思われます。
(イギリスなどの医療大麻が禁止されている国においても、ナビキシモルスという、カンナビスから抽出したオイルが保険適応として認められております。)

私が、カリフォルニアで診療している日本人患者にも、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の後遺症にて、強度の強直と筋痙攣に悩まされている方がおられます。
日本では某大学病院神経内科に通院し、あらゆる投薬を受けましたが、有意な改善を認めず、最後の希望として、アメリカまで渡航したのです。

医療大麻の使用期間中は筋肉の強直が緩み、また夜間の筋痙攣による疼痛で眼が覚めることもありませんでした。
現在は杖歩行ですが、このペースでリハビリを続ければ杖なしでの歩行機能を取り戻すことが充分に見込まれます。(医療大麻の使用なしでは、少し歩いただけで筋痙攣がおき、とてもリハビリどころではなかったと言います。)

一例報告に過ぎませんが、その効果は劇的と言って差し支えないと思われます。(ご希望があれば、本人をご紹介することも可能です。)


医療大麻の作用するカンナビノイド受容体は、全身のあらゆる臓器に分布しております。故に、一説には医療大麻が効果がある疾患は250種類にも及ぶと言われております。
今はまだRCTが組まれていませんが、glioblastoma(ブログ筆者注;脳腫瘍の膠芽腫)などの現在の標準治療では極めて予後不良な悪性腫瘍で、治癒の報告が相次いでおり、これは今後合衆国の臨床治験が許可されれば、科学的な裏付けがなされると思われます。

先生がブログの原文にてコメントしたのは、あくまで緩和領域に限っての話であることは了解しておりますが、結果として、引用先では医療大麻を全否定するような印象を与えてしまっております。

先生のような高名な方の発言は、世論を形成する力があると思います。
結果として、私の患者や友人など、医療大麻以外に実質的に選択肢が残されていない患者に対する不利益がもたらされることに、自覚的であって欲しいというのが私の切なるお願いです。

大変不愉快な話だったかもしれません。申し訳ありません。
ただ、患者の苦痛を緩和し、人生を豊かなものにしたいという我々の思いは同じはずです。
医療麻薬に、医療麻薬にしかできないことがあるように
医療大麻にも、医療大麻にしかできないことがあります。
医療大麻だけが、全面的に禁止されるのは、なぜなのでしょうか?
そこまで徹底して禁止するだけの科学的な妥当性があるのでしょうか?

合法化の暁には先生にも是非、一度有用性をその目で確認して頂けることを切に願っております。

カリフォルニアより Yuji Eugene Masataka M.D

 

(以上メール)

 

正高先生、大変貴重な情報をありがとうございました。

 

多発性硬化症や脊髄損傷の攣縮緩和に使用することは存じていましたが
実際に使用したことが(もちろん)ないために、生の声は貴重なものです。

 

先生がお汲み取り頂きましたように、
私は主としてがんの鎮痛や症状緩和に関してのことを述べました。


がんの症状緩和に関しては既存の薬剤で相当な緩和が可能となって
きております。鎮痛補助薬の知見も進歩しています。


そこで今、がんの症状緩和に関してぜひともほしいとまでの
薬では私個人としてはないということを表現しました。


また全否定にはならないように配慮して記したつもりですが、
引用された先でそのような印象で引かれているのだとすると
残念です。

日本では医療大麻の推進者が、しばしば医療用麻薬を貶めている場合が
あるため、それに警鐘を鳴らす意味合いで記すという目的もありました。


国内では、医療用麻薬の誤解が未だあり、
医療大麻推進者の医療用麻薬へのネガティブキャンペーンが影響を与える
患者さんやご家族がおられます。そのような言説に影響されて、

医療用麻薬を違法使用の麻薬と一緒くたに捉えて、右から左へ悪いイメージを

(時に無意識的に、悪意なく)流してしまう人たちも少なくありません。

そのような状況を残念に思う立場からのブログでありました。
日本の医療大麻推進者が、医療用麻薬を正しく理解するならば、私は当該記事を
書かなかったと存じます。

 

「麻薬」と「医療用麻薬」が異なるように

「大麻」と「医療大麻」が異なることを私たちは冷静に受け止めてゆく必要が

ありそうです。

 

患者さんの苦痛を和らげる新たな福音が、時間をかけた研究と安全性の評価の末に、

もたらされることを願いたいです。