高樹沙耶容疑者が逮捕されました。

 

 

参院選でも医療用大麻の推進を訴える人や集団がありましたが、彼女はその一人でした。

 

 

大麻と麻薬は「麻」の字が共通なので、よく知らない方は一緒くたになってしまっている場合がありますが、別物です。日本だけではなく世界中で医療用に用いられている医療用麻薬は代表的なものがモルヒネやオキシコドン、フェンタニルですが、それと「医療用大麻」は別物で、一部の国では使用が許可されています。それを日本でも使用できるようにしてほしい、というのが推進派の意見です。

 

 

ただ医療用大麻の推進者の中には「医療用麻薬と比較して云々」と必要以上に医療用麻薬を悪く書く方も残念ながらいます。そのことを憂いて記した7月の記事を一部再掲します。

 

 

医療用大麻推進者も医療用麻薬を貶めず正確な情報普及にご助力を

 

(以下一部修正再掲)

 

 

先の参院選でも、政党や候補者の中に医療用大麻の導入を訴える党(方)がおられました。



以前より知名度が増しているためか、この話題が出た際も、積極的に「モルヒネは☓☓、それに対して医療用大麻は◯◯」の文脈で、比較し、導入を呼びかける人が多くいました。いわくモルヒネより大麻は良い、安全という主張です。



先に医療用麻薬について、今一度確認しておきますが、医療用麻薬は量がとても大切です。



しかも適した量が個人ごとに違うため、一概に◯mgは多い、とか、そのようなことは言えません。



またオピオイド間の強弱を、例えば「フェンタニル最強」とか「オキシコドンはモルヒネより強い」等の発言もされる方がいますが、換算量が同じならば基本的には同程度の強さなのです。



だから例えば、フェントステープ(フェンタニルの貼り薬)8mg/日とMSコンチン(モルヒネの飲み薬)120mg/日だったら、mg数が全然違うし、モルヒネも強そうだから、モルヒネが強い! ……とはなりません。



このような場合は換算すると、フェントステープ8mg/日は内服モルヒネ換算で240mg/日で、単純に言えば、フェントステープ8mgがMSコンチン120mgより力価で言うと2倍ということになります。



しかし体質による差もあるため、医師は慎重に様々なことを考えて、量を設定します。



ゆえに、量を併記しない強弱勝負などは意味がありません。



ところで、大麻はどれくらいの鎮痛作用があるのでしょうか。弱オピオイドと呼称されるコデイン(製剤によっては日本でも医療用麻薬指定がされているものです)との比較はどうでしょうか?



大麻の中の薬理作用を示す代表的物質の1つ、テトラヒドロカンナビノールとコデインの比較はあって、この文献<Campbell , 2001 。英語>によるとテトラヒドロカンナビノール10mg=コデイン60mg(=内服モルヒネ換算6mg/日)です。




モルヒネの通常開始量は20mg/日ですから効果は1/3程度です。また文献によると等換算量(テトラヒドロカンナビノール10mgとコデイン60mgあるいはコデイン120mgとの比較)でもテトラヒドロカナビノールのほうがコデインより副作用は多いです。これだけを見ると、「そんなに良い鎮痛薬か?」と懐疑的になります。



ただ、大麻類はテトラヒドロカンナビノールの他にも、様々なものがあり、栽培して使う医療用マリファナもあります。全体としての鎮痛効果については、海外でも相反する見解が提出されています<※例えばこんなサイト もありました。英語>



1つ言えることは、モルヒネなどの医療用麻薬(正確に言えばオピオイド)が、がん鎮痛に有効なことは、議論の余地がなく、医療用大麻のような議論には既になっていないということです。



がんの患者さんの鎮痛に関しては、オピオイドが主力であることは明確な事実です。現場の一専門家としての個人の見解ですが、医療用大麻は、がんの患者さんの鎮痛に対して、ぜひとも導入してほしいというくらい必要な薬剤ではありません。



医療用麻薬は一般的な、確立された、セオリー通りの使用法に則る限り、精神症状も出しにくく、安全性も高いのです。



従って、がんの患者さんの痛み止めに関してモルヒネなどのオピオイド、医療用麻薬が良いことは明白なのですから、少なくとも「医療用大麻を導入すれば、モルヒネなどの”危険な”薬剤を使用することから避けられる」などというのは言いすぎです。



私としてはその医療用大麻合法化如何の話に、モルヒネを引き合いに出して頂きたくないです。
残念ながら日本においてはいまだ一般の一部に流布している誤解とは裏腹に、モルヒネ類は正当な方法に則る限り、大きな副作用もなく、良い薬剤だということは既にはっきりしており、心配なく使用できるように社会全体が配慮してゆくことが重要です。



実際に何百例と医療用麻薬製剤を導入してきましたが、患者さんに拍子抜けされることも多々あります。多くの場合、便秘と初期の眠気(数日で改善)以外起こりません。吐き気も対策すればほぼ出ないですから、逆に関係ない吐き気まで医療用麻薬のせいにされてしまうくらいです。

 

 

また状態が相当悪くなってからのせん妄は医療用麻薬よりも悪化した身体状態が背景としてあることも多いのですが、それが投与されている医療用麻薬に帰されてしまうことはまだまだ大変多く見聞するもので、非常に残念です。

 

 

実際に本件の報道でも、インターネット上の反応に、「いやいや私の家族の死の前はモルヒネでおかしくなっていました(だから危険)」というようなものもありましたが、その原因はモルヒネだけではないのでは……いやモルヒネよりも終末期の複合的原因によるせん妄そのものなのではないかと専門家の視点からは思ったりもするのです。

 

 

もちろん巧くない医療用麻薬の使用をすればせん妄のリスクは高まります。しかし私が関与しているような正当な医療用麻薬の使用法に則した事例でも、何か不調があると「モルヒネが原因なのではないの?」と尋ねられることは珍しくありません。私のような職種の仕事の一つは、医療用麻薬の誤解との格闘なのです。


いずれにせよ、誰もが、がんの患者さんが良くなることを願っているはずです。だったら、良い薬剤である医療用麻薬を過剰に悪く伝える必要はないはずですし、むしろ、正しい使用法に則る限り、安全で怖くなく、有益性が高く、不可逆的な障害など来さない、精神症状も起こさないという事実がぜひ伝わってほしいと思います。

 

 

(以上改変再掲)

 

 

残念ながら、今回のような件があると、医療用大麻の推進者の中にも、嗜癖として使用したい人がいるのではないかという社会の疑念が増えてしまうと思います。

 

 

 

医療用大麻も効能は種々言われていますが、がんの症状緩和に関しては代替薬あるいはそれ以上に良い薬剤があるというのが現状であると考えます。

 

 

医療用大麻の効能にある吐き気は最近の制吐薬のほうが優れていますし、食欲不振にはプロゲステロンやステロイドが、痛みには医療用麻薬や鎮痛補助薬が、睡眠障害、不安、気分障害にもそれぞれ改善薬があります。大麻でのみ取れる症状は多くないです。

 

少なくともがんの痛みに関しては効果と副作用のバランスで医療用麻薬に勝ることはないと言えますでしょう。

 

 

不思議なことは、どこかから聞いてきた情報が既定事実のように「医療用麻薬は云々」「それに比べて医療用大麻は良い」等々とまことしやかに語られることです。

 

 

医療用麻薬の正しい情報が歪められないように願うと同時に、賛否両論及び効果に(他薬と同様に)限界ある医療用大麻の一部の過剰な持ち上げも、冷静に捉えられることを望みたいです。