ステージⅣとひと言でいいますが、人の数ほど状態は違います。

 

 

前向きに奇跡を信じて進む方もいる。

 

 

来るべき時を、今は受け止めて日々を楽しく過ごす方もいる。

 

 

中にはステージⅣから長期生存される方もいるし、治療開始に至らずに……という場合もあります。

 

 

ただ、それぞれの人生。それぞれの形があって良いのです。

 

 

Aさんは60代女性の肺がんステージⅣ。

 

 

「抗がん剤治療なんて無意味」

 

 

最初の頃はそう仰っていました。

 

 

激痛だった骨転移痛は、最初に医療用麻薬などの鎮痛薬で、次には肺がんの治療薬の分子標的薬が効いて大きく軽減されました。

 

 

肺や脳の病変も小さくなって、元気に日常生活を送られています。

 

 

今では治療が無意味だとは仰りません。Aさんにとっての、抗がん剤治療を続けて生きてみる意味と向き合っておられます。

 

 

Bさんは、50代男性の単身者の方です。

 

 

難しい消化器がんで入院していました。彼もステージⅣ。

 

 

当初は、今後どうなるのか、その不安も強かったです。

 

 

一度症状緩和を達成し、ステロイドでの見た目の改善が大きかったですから、その状態で治療をするのは一定のリスクを伴うものであったのですが、担当の先生とのじっくりとした相談の結果として、それを承知のうえで抗がん剤治療を選ばれました。

 

 

しかし治療はうまくいきませんでした。効果は乏しく副作用だけが出てしまいました。

 

 

「仕方ないね……」

 

 

これができなくなれば、もう治療としては他にないことは知っています。

 

 

落ち込む彼を看護師が傍で支え続けました。

 

 

時が迫るにつれ、彼の瞳に揺るぎない光がさすようになりました。

 

 

「もう治らないということですよね?」

 

 

強い目は私を離しません。一切の偽りは無用だと瞳は語っていました。

 

 

私が頷くと、彼はこくりと頷きました。

 

 

「そうですよね。わかっています」

 

 

諦めというよりも覚悟の持つ強さがにじみ出るようになりました。

 

 

ある日、死期が迫るまどろみの中で、彼ははっきりと言いました。

 

 

「先生、あと2〜3日だと自分では思います。本当にありがとうございました」

 

 

手を差しのべられ、握手をし、それがまとまった言葉を交わした最後となりました。

 

 

去り際、彼はさよならの手を挙げたまま下ろしませんでした。微笑みがかすかに浮かんでいました。

 

 

 

悔いなく過ごしてもらえば、どんな有り様があっても良い、そう思います。

 

自身の病気と向き合うさまを知ってもらいたいという方もいれば、私の経験を活かしてほしいという方もいる。秘して語りたくないという方もいるでしょう。それぞれが語り尽くせぬ大変さと対峙しています。

 

そんな方々に幸いがあることを。そう願います。