昨日のブログ記事の続きです。
さて、抜歯後まずは基本的な状況を確認するために、「鎮痛薬なし」を試してみました。
すると・・・
イタタタタ・・・(当然ですね)
抜歯部分が、うずくような、押されるような、そんな痛みが持続的にあり、不快です。結構痛い。
ではまずはこの痛みを記憶して、それぞれの薬剤を使ってみましょう。なお抜歯後は顔が変形するほど腫れましたが、そのピークはむしろ2〜3日後でしたので、その頃にはぱんぱんに腫れてつっぱるような感じの痛みや、接触痛も顕著でした。
用意しているのは下記の3つ。
A トラムセット錠(うちトラマドール37.5mg≒内服モルヒネ換算3.75mg + アセトアミノフェン325mg)
B ロキソニン錠60mg
C タイレノール錠300mg
Aは前回も記したようにオピオイドです。なお抜歯後の添付文書上の使い方は「1回2錠を経口服用する。服用間隔を4時間以上空け、1回2錠、1日8錠を超えて服用しないこと」となっています。
Bは代表的なNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、Cはアセトアミノフェンです。
① まずロキソニン
まずロキソニンを使用しました。
ロキソニンは鎮痛効果の他に、抗炎症効果もあります。
痛みはかなり抑えられました。しかしまだ残っています。
② そこでタイレノール2錠(アセトアミノフェン600mg)を追加
ロキソニン+アセトアミノフェン。
がんの患者さんにもよく行う治療法です。
ロキソニンは末梢性、アセトアミノフェンは中枢性と作用点が異なるため、併用すると上乗せ効果が期待できます。
すると痛みは……さらに良くなりました。
腫れている感じはありますが、相当楽になりました。
③ 再び鎮痛薬を中止。
そこで痛み止めを再度中止しました。
するとイタタタタ・・・(懲りない感じですね。しかし体験のためにあえて)
④ 次はトラムセットの1錠を単剤で
2錠を本当は飲むのですが、1錠でもどうかとお手並み拝見。
すると・・・
ん? これは・・・
少なくとも痛みはほとんどゼロになりました。
効き方としては今までで一番顕著です。痛くない、あまり腫れていない感じになる(鏡を見ると、でもしっかり、こぶとりじいさんですが……)。
さて、オピオイドの初期投与時から気をつけるべき副作用といえば、モルヒネだろうがトラマドールだろうが共通です。
便秘、吐き気、眠気です。
なおもらったパンフレットには
とあるのですが、吐き気のところには「吐き気止めを飲むとおさえることができます」というようには書いてあるものの、トラマドール製剤はあまり吐き気が出ないこともあり、吐き気止めを出されていない場合も多いのではないかと。
そうすると、例えば慢性腰痛でトラムセットを処方された患者さんに吐き気が出た場合に、このパンフレットを見て「吐き気止めがない!」と困られることもあるのではないかと思いました。実際に処方されて、添付のパンフレットをもらってみないとなかなかこのようなことに気がつかないものです。
なお自分はがんの患者さんにトラマドール製剤を出す時は、念のために吐き気止めを併せて処方します。
さて、副作用に関してはそれぞれどうだったか。
便秘も吐き気も明らかなものは出ませんでした。
またトラムセット1錠は内服モルヒネ換算3.75mgの効果がありますが、この量では私は眠気はありませんでした。
したがって、オピオイドで、眠気も判断力の変化もなく、痛みだけが取れるのだという普段患者さんに伝えていることがそのまま実感されました。
ただたまに「頭のなかで薄皮がはっているようなそんな気がする」とおっしゃる患者さんがいますが、私もその感覚はわずかにありました。
連用に伴い消えたので、これも眠気の一種なのかもしれませんね。
他にも
⑤ タイレノール600mg(300mg2錠)服用
や
⑥ トラムセット1錠 + ロキソニン1錠
なども試してみました。添付文書上の使用法であるトラムセット2錠は、私の印象(と私の痛みの程度)では「そこまで要らない」という感じだったので、試しませんでした。
アセトアミノフェン(タイレノール)は、ロキソニンと異なり、鎮痛作用はありますが、抗炎症作用はありません。
そのせいか、ロキソニン単独よりも、アセトアミノフェン単独(⑤)のほうが、「腫れている感じ」は強くあったです。ちょっと焼けつくような感じとか。
⑥は、既にトラムセット1錠でも相当痛みは消えてしまうのですが、接触痛まで緩和されて、最大の効果を感じることができました。普段がんの患者さんの痛みに(必要に応じて)施行している、オピオイド+NSAIDs+アセトアミノフェンの効果のほどを体感しました。
さて、実際に自分で使用してみて、オピオイドとは本当によく効く鎮痛薬だと実感しました。
痛みだけが取れて、当然のことながら、なんら精神的にも悪影響を及ぼしませんでしたし、眠気もほとんどありませんでしたし、癖になることもありませんでした。痛みだけきれいサッパリ消えたのです。
一方で、がんの患者さんの痛みは、トラマドールの最大量400mg/日=内服モルヒネ換算40mg/日でも一向に取れずに、より効果が強く、より増やしただけ効果を得られるモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルに変更する必要がしばしばあります。
私の顔が抜歯でパンパンに腫れて痛くても、内服モルヒネ換算3.75mg/回で消失してしまう程度なのです(もちろん痛み止めが切れればまた痛くなりますが、自然に治癒していきますので)。
その10倍程度の量を1日に飲んでいてもなお、がんの患者さんの痛みが取れない場合もよくあるのです(特に骨転移痛や、神経浸潤の痛みなどの場合は)。これはがんの痛みの場合には全然珍しくないことなのです。
がんの痛みと対峙する患者さんの大変さはいかばかりであろうかと拝察された次第です。「しっかり緩和されねばならない」という思いがいや増しました。
ただ私が眠気や精神への影響がなく痛みだけが取れたように、その方の痛みとつりあっていれば、モルヒネだろうがオキシコドンだろうがオピオイドで「意識を下げずに苦痛だけ取ることができる」ことは今一度強調しておきたいと存じます。今回のトラマドール使用で私もそのことを体感することができました。
痛みは本当につらいものです。
適切なオピオイド加療がさらに広まることを願いながら、目の前の患者さんの痛み緩和のために知恵を絞り出す日々です。頑張っていきたいと思いますし、良い経験となりました。
注;オピオイドと医療用麻薬は重なるのですが、一部重なりません。前回の記事に記したようにトラマドールは医療用麻薬指定ではないオピオイドです。詳しくは前記事をご参照ください。