KAYAUさんからメッセージを頂戴したので、紹介いたします。



はじめまして。

単なる一庶民で、ど素人でありますが、帝京大学の有賀先生のブログの長年の読者でして、先生のブログは最近になり拝見させていただいております。


緩和ケア分野の医療。

一般的に、昔のイメージからなかなか抜け出せていないことが、私のような素人でもわかります。

大橋巨泉氏の件。

先生の記事で詳細を知りました。

要するに、在宅ケアの主治医先生とコミュニケーションが上手くいかなかった…という理解で良いのでしょうか。


昨今、患者側(患者当人、家族)も、病気に対しての知識の取得や勉強することで、医療側にいらっしゃる方々とスムーズにコミュニケーションを取ることが出来る…と、理解する方々も増えてきているように感じるのですが、まだまだ…ということですね。


実は、私自身身障者で、企業で法務の仕事に携わっていた主人が医学・医療方面にも明るく、(自らも難治の網膜剥離だったのですが)都内の大学病院にそれぞれでお世話になり…という夫婦でした。

その主人は、3年前に椎骨動脈解離によるくも膜下出血で急逝し(この時は某大学病院ICUで大変お世話になり貴重な経験をした、と今も思っています)、現在、10歳の娘との母子家庭ですが、娘も現在、都内子供専門の精神科に通院中で(「適応障害」の診断を受けてます。)、相変わらず大病院にお世話になって おります。


今はネットを始め、様々な情報が簡単に取得出来ますが、自分に取り込むかどうか、その情報が正しいか…の取捨選択が難しいと、感じています。

ご多忙な先生が記事をUPして下さることで、素人=患者も、日々勉強だと思います。

これからも、ブログにお邪魔させていただきます。

お読みいただき、ありがとうございました。



都内在住
ハンドルネーム KAYAU



KAYAUさん、お言葉ありがとうございます。


例えば、治らない病気の場合は、医療と生活のバランスをどう取るか、ということが問題になります。


医療を使って、何を目標とするのか、それは個々人ごとに差があるものだと思いますし、そのためには忌憚なくそれが話し合われることが重要だと感じます。コミュニケーションを通し、もし認識の相違があれば埋めなければ、容易にトラブルにも発展しえます。また何よりも患者さんのためになりません。お互いにとって、コミュニケーション力は重要です。一方だけではだめで、双方のアプローチが大切になります。



緩和医療の従事者も、有賀先生や他にもたくさんの先生方が、継続して情報を発信しておられます。大切なことです。私もよくそのような情報源で勉強させてもらっております。


ただ、医療者向けの掲示板を拝見していると、やはり医療用麻薬にはまだまだ医療者にも誤解が多いと痛感しました。


例えば、低酸素血症となる呼吸不全と、呼吸回数が減じる医療用麻薬の呼吸抑制が、しばしば混同されることを目の当たりにしました。


<付記;別のブログ読者さんのご記事で記されているある医療者の談話”
呼吸器系が麻痺する”というような表現はまさしくそこらへんがごっちゃになってしまっていますし、また普通は起こらないものをまるで普通に起こるごとく話しているという点で、罪深いなあと思います。まさママさん、拙記事の取り上げとご体験談ありがとうございました 。また最近は、最後に症状緩和のために用いるのは鎮静薬で、むしろモルヒネなどの医療用麻薬の使用をいたずらに引きのばしてぎりぎりになって使うのは標準的ではないのでそこらへんもどうかな、と感じます。「モルヒネを使うってことはもうダメだってこと」という言葉もそろそろ世の中から無くしたいですね。このように医療者自身が誤解を(意図しないで。悪意なく)広めてしまっていることもとても多いのです、残念なことなのですが>



実際に大橋巨泉さんの奥様のご発言では、呼吸不全とモルヒネが関与していると医師が話した(ただ本当にその通り話したかは現場にいなければわかりません)ということになっていますが、もしそれが本当に本当ならば、呼吸不全と呼吸抑制がしばしば同義に捉えられてしまうところに根ざしたものかもしれません。


医療用麻薬の呼吸抑制は、1呼吸あたりの換気量が増えて代償するため、低酸素血症になることは少なく、さらに痛みがあれば呼吸抑制と拮抗するとされています(緩和医療学会がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン)。耐性もついて、次第に呼吸回数の抑制も軽減します(しかしそれまで待たずに減量しますが、通常は)。

さらには眠気が必ず先行するので、眠気の段階で増量を控えれば、呼吸抑制にはなりませんし、もし出ても減量すれば元に戻ります。永続的な障害を残すなどは聞いたことがありません。


医療用麻薬の専門家たる緩和医療の実践家が、引き続き正当な情報を供与してくれるであろうとは思いますが、誤解が未だあるのは残念なことです。


私自身も年内に、医療用麻薬の使い方の本(易しい専門書)を上梓しようと考えております。今回の件のようなことがないように、引き続き専門家の方、一般の方、双方に対して正しい情報をお伝えしていきたいと存じます。ただそれでも、現場で双方が良質なコミュニケーションを図ろうとする努力は大切です。


また今回の事例とは無関係に述べますが、私の
在宅医時代の経験だと、本当にごく一部なのですが、在宅医を大学病院やがん専門病院などの医師よりスキルが低いと勘違いされているご家族もいらっしゃって困惑したこともあります。


働いている施設で、このように区別されることがあるのだ……と驚きました。


当時は、大学病院の緩和ケアチームからも「疼痛が取れないのでそちらでも加療を継続的にお願いします」という紹介を受けて、大学病院で緩和できなかった事例を自施設で改善させたりも普通にありました。


もし市井に
「大学病院の医師、がん専門病院の医師>在宅医」というような誤解があるならば、改められるべきだと存じます。それぞれがそれぞれの特性と長所があり、同列に論じられるべきではないですし、専門分野においては大病院の医師よりも在宅医のほうが知識・経験が上回ることはざらにあります。


在宅でも緩和ケアが得意な先生はたくさんいらっしゃいますから、大学病院で働いている今は、安心して在宅医の先生と相談するように、と保証しています。かつての経験からです。


「先入観」をいかに片隅におけるか。それがコミュニケーションにおいてはとても大切なことだと、様々な医療形態で働き、さらには患者を経験した身からすると実感される日々です。


それでは皆さん、また。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
失礼します。