安楽死選んだ女性 最後の16時間の一部に密着



という記事が、一時期Yahoo!のトップページに出ていたのでよく読まれているようです。



安楽死とは、世界的には、患者の明確な意思表示のもとに医師が薬剤を用いて患者を死に至らしめることで、オランダ・デンマーク・ルクセンブルクなどのごく限られた地域で行われているものです。致死薬を医師が注射します。



この記事は、わかりやすさ重視で「安楽死」とタイトルを付けていますが、実際は「医師による自殺幇助」(PAS;physician-assisted suicide)です。「医師による自殺幇助」は医師から処方された死に至る薬剤を自らが服用します。



日本における一般的な考えでは、苦痛が耐え難いから「医師による自殺幇助」を望むように思えますが、それよりも生きるのに疲れたなどが(高齢者の場合に)理由となっているようです。


生きる意味の喪失や、自律性の喪失の恐れなどが重要な決断要因となり、耐え難い苦しみがメインではないのです。


記事に出て来る事例では、「モルヒネを使用しているのにも拘らずに痛みが取れていないので理解できる」というような感想も散見されました。


しかし、たとえ難治性の痛みがしばしば出得る膵臓がんとは言え、「あなたが帰ってから朝まで痛みがあって眠れなかった」(記事中より)のは、はっきり言いましょう、疼痛緩和が拙劣だからです。医療用麻薬などが適切な方法で使用されていない事例だと考えられます。


まともな症状緩和を受けていないので、「患者の痛みを和らげる緩和ケアが各国で主流になっていますが、私の意見では、まったく無意味だと思う。それは単なる嘘でしかない。この痛みを和らげることなんてできませんから。特に私の癌は、とても不愉快な痛みです」(記事中より)となってしまうのです。


「顔には微笑みがなかった。初めての挨拶でニコリともしないヨーロッパ人を、私はほとんど見たことがない」(記事中より)はうつ状態であることも示唆します。


要するに、まともな緩和医療を受けていないので、痛みが夜もひどく、うつも合併し、症状緩和に否定的で、自殺を望んだ事例と考えられます。


海外の事例ではありますが、とても残念な事例だと思います。


この事例は、もっと残り時間をよく過ごせる可能性があった、家族とも穏やかな時間をもっと長く過ごすことができた、他の選択肢もあったのに痛みやうつによる負の感覚が判断に影響してしまって他を考えられなくなってしまった、と思われます。


痛みもうつも、生への否定的な気持ちに影響しますが、特にうつは改善するとおっしゃっていることが180度変化することも稀ではなく、いっときの気持ちで自殺を選ぶことは本当に悲しく、周りの方にとっても悲しいことにつながります。


上記の記事で伝えられる教訓とは、亡くなった方がスウェーデン人だということで、世界的にも先進国においてまだまだ優れた症状緩和が普遍的に為されていないこと、まともな症状緩和で取れるはずの苦痛で自殺を選ぶのは悲しすぎるということであります。


苦痛やうつがないにも拘らず、自律性の喪失などで死を希求する、というような事例だったら、また考えさせられるところがあったとは思いますが、この事例は自殺する必要性がなかったのに不十分な症状緩和のせいでそれを望むようになってしまったと読むべきでしょう。


しっかりとした症状緩和の普及を願ってやみません。