文藝春秋さんと言えば、非血液がん(固形がん)と診断された場合に放置するのが良いという「がん放置療法」を唱えた近藤誠さんを応援し続けている会社でもあります。


近藤さんには菊池寛賞という賞も与えられました。


これらの支援がより説の拡散に寄与し、とりわけ医療以外の専門家に対しての権威付けに果たした影響は大きいでしょう。



さて先日、日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之先生の本を拝読しました。






そこには、まっとうなことを主張されていた頃の近藤誠さんと、その後の変化が記されていました。


そんな時代がかつてあったのです(私個人としては、その変節が興味深いです)。


しかし何度か触れているように、最近の近藤誠さんは「結論ありき」でフィクションを作ることとなってしまい、まっとうな医療のことは説明できていません。


緩和ケア・緩和医療に関してもそうです。


そんな中、近藤誠さんに紙幅を与え続けてきた文藝春秋の「週刊文春」に次のような記事が連載され、静かな話題を呼びました。






9月3日号。



大腸がん「早期発見」マニュアル、とあります。


ちょっと待ってください、です。


近藤誠さんの主張をよく載せている(実際この翌号では載せています)「週刊文春」さんが、「早期発見」のマニュアルを大きな扱いで載せているのです。


近藤誠さんの主張は、非血液のがんの「早期発見と治療」には意味がないと言うものです。


例えば、文春新書(文藝春秋発行)の下記の本の説明文(リンク先参照)には次のように書いてあります。


がん治療で殺されない七つの秘訣



―「早期発見・早期治療が大切だから、がん検診は受けるべき」という通念もすべてウソ


しかし件の記事では……



「早期発見さえできれば決して怖い病気ではない」とあります。



読者はどちらを信じれば良いですか?




2015年現在に「早期発見」の効用を説く週刊文春さんでも2年前は、近藤さんの次のような記事を掲載していました。


(週刊文春2013年11月21日号の記事『近藤誠「“がんもどき理論”は絶対正しい。長尾先生、対談で決着を!」』より引用)【同号の全見出しはhttp://shukan.bunshun.jp/articles/-/3341で確認できます】


検診などで早期にがんが見つかった時、そのがんが『転移するがん幹細胞によるもの』ならば、いくら早期でもそれ以前の段階で転移は起きていますから、手術で根治する事は不可能です。逆に、『転移する能力がないがん幹細胞によるもの』ならば、放っておいても『おでき』のようなもの、即ち私が『がんもどき』と呼んでいるものなので、慌てて手術や抗がん剤治療を受ける事はない。つまり、患者さんは自らのがんが『がんか、がんもどきか』を気にせずに、ゆっくり様子をみていくというのが結論です。そして自覚症状が出てきて『QOL』(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)が落ちてきたときに、初めて対処を施していけばいい。すぐに手術したり抗がん剤投与を始めたりするのは、かえってQOLを下げてしまう事に繋がります。


(以上引用)


つまりお亡くなりになった川島なお美さんが結果的にされたように、診断後にしばらく様子を見ることを勧めています。


(※もっとも上の文章では”症状が出てQOLが下がるまで”というもっと長い間待って良いということですが)


当ブログで以前この文を紹介した時<近藤誠さんの、がんは「がんもどき」と「本物のがん」だから放置で良いという「がん放置療法」の弱点 を書いた時>にはまだ週刊文春WEB上で件の記事は閲覧できたのですが、今は見ることができなくなっています。


本当に全例、様子見で良いのですか? 何も補足説明がなくて良かったのでしょうか?



そして本年9月3日号の「早期発見さえできれば、決して怖い病気ではない」と締めくくる記事を拝読して、私が”怖い”と思うのは、信じることで危険な事態を招き得る誤情報を強く支援してきた後に、そろりそろりと鞍替えしていることなのです。


静かな鞍替えでなくて、それは「なぜ起き」「なぜ変化したのか」を教えてもらえれば、読者としても理解の深まりや、誤認識の払拭につながるのではないでしょうか。



文藝春秋の名前はブランドだと思います。


もう少し過ちに気がつくのが早ければ。


怪しい説を支援することから手を引いていれば。


様子を見るべきではない腫瘍で、助かる命を失ってしまった方々を出すことはなかったと思います。


随分前から、原稿を書いている医療に詳しいライターさんたちには、この件を尋ねると「私はこの説は間違っていると思う」「おかしいと思う」という意見を聞くことが大半でした。


それなのに論は大きく広がりました。まさしく応援しているメディアの力を強く感じた事例です。




自分の身を守るのは自分のみ。それをつくづく痛感させられます。


残念ながら、書店に行くと、怪しい本のほうが数的優勢な状況です。


「◯◯で治る」「◯◯で健康になる」というようなタイトルの本はほとんど嘘ですから、どうかくれぐれもお気をつけくださいね。