頂いたご質問を紹介します。
honestycatさんから。
(以下ご質問)
さて、私の周りに、頚椎損傷、二分脊椎&係留解除術後、滑り腰で、トラムセットでは痛みが取れないといっている人がいます。
緩和というと、やはり癌だけが対象なのでしょうか?→これが一番知りたいです。
トラムセットでは取れない人には、「リリカ」が効くそうですが、副作用がひどそうですね。
(以上ご質問)
痛みは、大きな括りでわけると
◯がんからの痛み・・・がん性疼痛
と
◯がんではない痛み・・・非がんの慢性疼痛
の2種類があります。
前者の場合の担当部署は、皆さんも御存知のように、がん診療医(つまり担当医)や緩和ケアチームです。
後者の場合の担当部署は、病院によって異なります。
私の知る限りで、麻酔科が運営しているペインクリニックや痛みの外来などが多くを担っているようです(なお麻酔科ががんの痛みの外来も担っている場合もあります)。
私の勤務する病院でも、後者は基本的に麻酔科の痛みの外来が主担当窓口です。
もっともしばしば境界のものがあるので、臨機応変に対応しています。
がんではない方で慢性の痛みがある場合は、お近くの病院の総合受付などで質問してみたり、あるいは病院のホームページをご覧になって麻酔科が痛みの外来をしているかを確かめるとよいでしょう。
何度か当ブログでも述べていますが、がんの痛みと、がんではない患者さんの慢性疼痛は、対応法が異なります。
それなので方法を使い分けて専門家は対処します。それは過去の記事をご参照頂ければ幸いです。
ご質問の答えですが、緩和ケアの対象はがんに限りません。
しかし現実問題として、緩和ケアの担当者はがんの患者さんだけで手一杯であり、がん以外の患者さんにまで対応する余力がないことも多いです。(もちろん病院によってはある程度<少数の病院では非常によく>、緩和ケアの担当者ががん以外の患者さんの苦痛に対応することもあります。実際、私も時折相談にのっています)
がん以外の「痛み」に関しては、上記のように、麻酔科の痛みの外来が対応してくれているというのが現状だと思います。
後半部分のご質問に関してですが、トラムセットとリリカは作用する場所が違います。
トラムセットは、実は医療用麻薬―モルヒネやオキシコドン―と同じ作用点です。
トラムセットは麻薬の指定になっていないだけで、その中のトラマドールという成分は(正確にはトラマドールが代謝されて体内で変化する物質が主として)オピオイド受容体に作用するオピオイドです。
構造はコデインに類似しています。
それにアセトアミノフェンが中等量合わさっているのがトラムセットです。名前の通りセット製品なのです。
オピオイドですから、脊髄や脳などの中枢神経系に作用します。
痛みに関しては、幅広く効きますが、神経由来の痛みである神経障害性疼痛には必ずしも強力ではありません。
一方でリリカという薬、一般名プレガバリンは、神経と神経のつなぎ目であるシナプス(正確には前シナプスという場所)に作用して、神経の興奮を伝えるのを抑制する作用があります。
基本的には、神経由来の痛みに使う薬剤で、トラムセットと作用点が異なりますし、効きやすい痛みも異なります。
それなので、専門家は痛みの内容をよく効いて、ふさわしいものを選択しています。
なおリリカは、添付文書上の用量より少なく開始するのが、眠気やふらつきによる初期副作用により継続不可能とならないために重要です。
私の病院でも、多くの先生が150mg/日(添付文書用量)では始めず、50mg/日で開始することが浸透しています。
副作用がひどいというイメージがもしあるのならば、それは添付文書の量で開始されている事例のことを見聞されているからかもしれません。
一方で、医療用麻薬と同様に、リリカも「魔法の薬」ではありません。
がんの患者さんだと、リリカによって痛みが7.77→2.5に減ったという報告がありますが、プラセボ群(薬が入っていない)は7.47→3.4でした[Mishra S, Am J Hosp Palliat Care. 2012 May;29(3):177-82]。
2.5と3.4、これをどう捉えるかですが、臨床の現場の実感もしばしばこの結果と相似しています。
時折すごく良く効く事例もありますが、経験上は「何となく効いている」程度の場合も多いです。
いずれにせよ、「どの薬が一番強いのですか?」という質問を受けることもありますが、薬剤はその作用を理解し、痛みの成因を考えた上で、最も適切なものを選ぶというのが専門家の為す鎮痛治療ですから、強いとか弱いとかの問題ではなく、適切なものを選択すればよく効くし、不適切なものを選択すれば効きません。
例えば神経由来の痛みが合併していない腰椎圧迫骨折の痛みにリリカを出しても、まず効きません。
圧迫骨折を起こすのがしばしば高齢の女性であることを考えれば、リリカを150mg/日で開始すれば、(痛みと薬が合っていないので)効かないだろうし、むしろ眠気やふらつきによる転倒を起こしそうだ(→デメリットが多い)と判断し、専門家はそれを控えるはずです(もちろん神経由来の痛みを伴っている圧迫骨折ならば、また話は別で、ごく少量<例えば25mg/日>のリリカを始めて慎重に経過を見たりすることもあるでしょう。全てはケースバイケースです)。
つまり聞いたほうが良い質問としては、「強い弱い」より、「私のこの痛みに関しては、もっとも効きそうなのはどの薬剤ですか?」「メリットが大きいと判断してお薬を処方くださっていると思いますが、気をつけるべき副作用はありますか?」という質問となると思います。
どんな薬もメリットとデメリットがあり、メリットが上回るという判断のもとに、専門家は薬剤を処方しています。
ぜひ上に述べたような情報を元に、痛みがある方は適切なところにおかかり頂き、良くコミュニケーションを取って治療を受けて頂くと良いと思います。
それでは皆さん、また。
失礼します。
honestycatさんから。
(以下ご質問)
さて、私の周りに、頚椎損傷、二分脊椎&係留解除術後、滑り腰で、トラムセットでは痛みが取れないといっている人がいます。
緩和というと、やはり癌だけが対象なのでしょうか?→これが一番知りたいです。
トラムセットでは取れない人には、「リリカ」が効くそうですが、副作用がひどそうですね。
(以上ご質問)
痛みは、大きな括りでわけると
◯がんからの痛み・・・がん性疼痛
と
◯がんではない痛み・・・非がんの慢性疼痛
の2種類があります。
前者の場合の担当部署は、皆さんも御存知のように、がん診療医(つまり担当医)や緩和ケアチームです。
後者の場合の担当部署は、病院によって異なります。
私の知る限りで、麻酔科が運営しているペインクリニックや痛みの外来などが多くを担っているようです(なお麻酔科ががんの痛みの外来も担っている場合もあります)。
私の勤務する病院でも、後者は基本的に麻酔科の痛みの外来が主担当窓口です。
もっともしばしば境界のものがあるので、臨機応変に対応しています。
がんではない方で慢性の痛みがある場合は、お近くの病院の総合受付などで質問してみたり、あるいは病院のホームページをご覧になって麻酔科が痛みの外来をしているかを確かめるとよいでしょう。
何度か当ブログでも述べていますが、がんの痛みと、がんではない患者さんの慢性疼痛は、対応法が異なります。
それなので方法を使い分けて専門家は対処します。それは過去の記事をご参照頂ければ幸いです。
ご質問の答えですが、緩和ケアの対象はがんに限りません。
しかし現実問題として、緩和ケアの担当者はがんの患者さんだけで手一杯であり、がん以外の患者さんにまで対応する余力がないことも多いです。(もちろん病院によってはある程度<少数の病院では非常によく>、緩和ケアの担当者ががん以外の患者さんの苦痛に対応することもあります。実際、私も時折相談にのっています)
がん以外の「痛み」に関しては、上記のように、麻酔科の痛みの外来が対応してくれているというのが現状だと思います。
後半部分のご質問に関してですが、トラムセットとリリカは作用する場所が違います。
トラムセットは、実は医療用麻薬―モルヒネやオキシコドン―と同じ作用点です。
トラムセットは麻薬の指定になっていないだけで、その中のトラマドールという成分は(正確にはトラマドールが代謝されて体内で変化する物質が主として)オピオイド受容体に作用するオピオイドです。
構造はコデインに類似しています。
それにアセトアミノフェンが中等量合わさっているのがトラムセットです。名前の通りセット製品なのです。
オピオイドですから、脊髄や脳などの中枢神経系に作用します。
痛みに関しては、幅広く効きますが、神経由来の痛みである神経障害性疼痛には必ずしも強力ではありません。
一方でリリカという薬、一般名プレガバリンは、神経と神経のつなぎ目であるシナプス(正確には前シナプスという場所)に作用して、神経の興奮を伝えるのを抑制する作用があります。
基本的には、神経由来の痛みに使う薬剤で、トラムセットと作用点が異なりますし、効きやすい痛みも異なります。
それなので、専門家は痛みの内容をよく効いて、ふさわしいものを選択しています。
なおリリカは、添付文書上の用量より少なく開始するのが、眠気やふらつきによる初期副作用により継続不可能とならないために重要です。
私の病院でも、多くの先生が150mg/日(添付文書用量)では始めず、50mg/日で開始することが浸透しています。
副作用がひどいというイメージがもしあるのならば、それは添付文書の量で開始されている事例のことを見聞されているからかもしれません。
一方で、医療用麻薬と同様に、リリカも「魔法の薬」ではありません。
がんの患者さんだと、リリカによって痛みが7.77→2.5に減ったという報告がありますが、プラセボ群(薬が入っていない)は7.47→3.4でした[Mishra S, Am J Hosp Palliat Care. 2012 May;29(3):177-82]。
2.5と3.4、これをどう捉えるかですが、臨床の現場の実感もしばしばこの結果と相似しています。
時折すごく良く効く事例もありますが、経験上は「何となく効いている」程度の場合も多いです。
いずれにせよ、「どの薬が一番強いのですか?」という質問を受けることもありますが、薬剤はその作用を理解し、痛みの成因を考えた上で、最も適切なものを選ぶというのが専門家の為す鎮痛治療ですから、強いとか弱いとかの問題ではなく、適切なものを選択すればよく効くし、不適切なものを選択すれば効きません。
例えば神経由来の痛みが合併していない腰椎圧迫骨折の痛みにリリカを出しても、まず効きません。
圧迫骨折を起こすのがしばしば高齢の女性であることを考えれば、リリカを150mg/日で開始すれば、(痛みと薬が合っていないので)効かないだろうし、むしろ眠気やふらつきによる転倒を起こしそうだ(→デメリットが多い)と判断し、専門家はそれを控えるはずです(もちろん神経由来の痛みを伴っている圧迫骨折ならば、また話は別で、ごく少量<例えば25mg/日>のリリカを始めて慎重に経過を見たりすることもあるでしょう。全てはケースバイケースです)。
つまり聞いたほうが良い質問としては、「強い弱い」より、「私のこの痛みに関しては、もっとも効きそうなのはどの薬剤ですか?」「メリットが大きいと判断してお薬を処方くださっていると思いますが、気をつけるべき副作用はありますか?」という質問となると思います。
どんな薬もメリットとデメリットがあり、メリットが上回るという判断のもとに、専門家は薬剤を処方しています。
ぜひ上に述べたような情報を元に、痛みがある方は適切なところにおかかり頂き、良くコミュニケーションを取って治療を受けて頂くと良いと思います。
それでは皆さん、また。
失礼します。