うつの方においては、脳内の神経伝達物質が減っていると考えられています。


それで精神活動が減じることになります。


なぜ減るのか。


その理由の一つとして、


長期にわたって継続するストレスに反応を続けるまたは、過剰に反応してしまうことで、神経伝達物質が過剰に分泌され、枯渇してしまい神経伝達物質量が減少する


と考えられています(『向精神薬の使い方に差がつく本』姫井昭男先生。以下同掲書参考)。


その神経伝達物質として代表的なものが「セロトニン」と「ノルアドレナリン」です。


ごく簡単にその働きを述べると、セロトニンは気持ちの安定に働き、またノルアドレナリンは意欲に関連しています。


不安が中心のタイプはセロトニン神経系の機能低下が、意欲の低下や攻撃性の増加はノルアドレナリン神経系の機能低下が想定されます(なぜノルアドレナリンで攻撃性が増加するのかというと、ノルアドレナリンの枯渇で、受容体が感受性を亢進させるためと考えられています)。



忍耐強い日本人は、概して、「気持ちのため」とされることを嫌がります。


また「どうして私は心が弱いのでしょう」などと嘆かれる方もいらっしゃいます。


けれども、過剰なストレスで、脳内の神経伝達物質が減少することを知っていれば、これを単に「気持ちの問題」などと片付けられないことがよくわかると思います。


うつの専門家は精神科であるために、同科に明らかにうつの患者さんを紹介しようとすると、ご本人やご家族が嫌がられることがあるのも、うつに対する誤解があるからです。


むしろ抗がん剤治療など、長い治療の期間中は、誰でも神経伝達物質の低減状態になる可能性があり、それは気持ちが弱いためでも、克服しようとする努力が足りないからでもありません。


なって当然であり、なったら適切な対処をすれば良いのですが、誤解はその妨げになるのです。


うつ自体も、理路整然とした考えを行うのを妨げますから、治療が必要な方ほど、それを拒絶される傾向もあるというこれまた難しい問題があります。


頑張ることがより神経伝達物質の枯渇を招くのに、そのような方ほど「薬に頼らず頑張ります!」「気持ちのせいなので、自分で何とかします」と、余計に悪い選択をしがちです。


「気持ちの問題」というのは大きな誤解です。


神経伝達物質は、特にがんのような大きなストレスのもとでは、低減しやすく、またそれは治療で良くなるのだ、ということはもっと知られてほしいと思います。