皆さん、こんにちは。大津です。


がんの患者さんのうつは珍しいことではありません。



国立がん研究センター東病院の藤澤大介先生らが翻訳されている下記のスライドが役に立ちます。


(パワーポイント資料です。また医療者向けの内容なので、一般の方がご覧になる時はざっとでご覧になると良いでしょう)


『うつ病とがん』世界精神医学会


いくつか抜粋します。


(以下抜粋。一般の方は同じくざっとご覧になってください)


長年にわたり多くのグループががん患者の抑うつについて調査してきたが、その頻度は調査によりさまざまである (大うつ病3-38% ; 抑うつ関連疾患1.5-52%)


がん患者における抑うつの評価は困難である。なぜなら抑うつは通常の悲しみからうつ病まで連続して認められるものであるからである。


がん患者のうつ病を診断することは難しい。なぜならDSM-IVの診断基準には、がん治療の副作用で認められる症状が含まれているからである (食欲不振、体重減少、睡眠障害、倦怠感、気力低下、集中力困難、精神運動の制止)。


患者は気分や感情の問題のことを身体科の医師に相談したがらない。気分や感情の問題を訴えることで、身体科の医師ががん治療を中断してしまわないか不安感を抱き、患者自身もうつ病に対するネガティブな印象を持っているのである。


炎症性サイトカイン(TNF-alpha、IL-1およびIL-6を含む) は、大うつ病と重複する兆候を示すsickness behaviour症候群(炎症などの免疫反応が生じた際の食欲不振、倦怠感などの様々な行動変化)を引き起こす。


(以上抜粋)


簡単に一部をまとめますと、要するに「身体が原因でも」うつと同じような状態に陥るということです。


またうつの診断基準のひとつを提示しているDSMの診断基準を使うと、高度進行期~終末期の方の大半に当てはまってしまいます。


ゆえに、機械的に判断することは避けねばなりません。


専門家の一意見、というレベルの話ですが、私は悪液質がどれくらいあるかで、一定の目安にしています。


例えば、がんの高度進行期の方の血液検査で、蛋白のひとつであるアルブミンが1台や2の前半など、非常に低下している場合は、高度の悪液質の存在が考えられます。


そのような場合は、心というより身体の衰弱で、まるでうつであるかのように見えることが多いです。


実際に、先ほどのスライドでも「抑うつを伴うがん患者では炎症性サイトカイン濃度が上昇して」いるとあるように、炎症性サイトカイン血症が起きている悪液質と、がん患者の抑うつ(炎症性サイトカインの上昇がある)は、起こっている体内の状況が似通っています。


推測余命があと何週間かと考えられる方に、うつの治療をしても良くならないことが大半です。


これはうつからではなく、全身状態から来ているからです。


またうつの治療に使われる抗うつ薬も、効果を示すには何週間かかかりますから、それよりも先に余命も来てしまいます。


一方で、まだ3ヵ月以上の推測余命が考えられる方が、血液検査や画像所見、その他の治療の状況から、「不釣り合いな」活気のなさや抑うつ気分などを示した場合には、やはり見逃してはならないと思います。


そのような目で見てみると、実はうつのがん患者さんはしばしばいらっしゃいます。


周囲の方や関わる医療者がまずは気がつくことが、とても重要なのです。


次回に続きます。