皆さん、こんにちは。大津です。
60代女性の進行がん患者さんの、ずっと良くならない吐き気で依頼されました。
主治医の先生は、様々な吐き気を抑える薬剤を試してくださっていましたが、全く良くならないとのことで依頼が来たのです。
吐き気は持続的。
薬を口に含むと、余計気持ち悪くなる。吐き気止めも飲みたくない。
脳の転移や電解質異常はない。
さて、こんな時に何を考えるか?
実は、様々な吐き気を抑える薬(制吐薬)の治療に反応しない場合は、予測性嘔吐を考えねばなりません。
これは抗不安薬がしばしば効きます。
しかし私はすごく気になりました。
どうにも表情が暗い。
気力がない、そう仰る。
直感で、「うつなのではないか?」そう思いました。
ですが、うつを治す薬剤は、セロトニンという物質を増やし、吐き気を増してしまうことがあります。
それなので、使いづらい。
けれども吐き気を増やさない、むしろ緩和する可能性があるミルタザピンという薬剤があります。
私はそれを選択しました。
しかし抗うつ薬にはもうひとつ問題があります。
それは「すぐには効かない」ということです。
数週間かかります。
そもそも薬を含むだけでも、吐き気がひどい、という患者さんです。
けれども点滴で三環系という種類の抗うつ薬を使っても、これは抗コリン作用で、腸の運動を低下させ、吐き気や便秘につながる可能性がある。
「次第に効いてきますから、どうか飲んでください」
そうお勧めし、諸スタッフにも協力してもらい、ご本人に毎日服用してもらいました。
1週間。
あまり変わりはありません。
所定通り、私はミルタザピンを30mgに増量(2錠)しました。
私の中では一定の確信がありましたが、見守る側からすると半信半疑で、診療録にも
「嘔気の原因は不明」「診断がつかない」
そう書くスタッフもいます。
私は「予測性嘔吐もしくは抑うつが関係した嘔気」と評価し、何度も診療録に書き、そう伝えているのですが、「本当?」と疑っているスタッフもいたと思います。
しかし主治医の先生はじめ多くのスタッフは、そして患者さんは、可能性にかけてくれました。
吐き気もあれば、食欲もない。
これではがんの治療ができません。
とうとう胃ろうを検討される段階にまで至ってしまいました。
そんなある日…。
「吐き気が軽くなりました」
訴えが変わりました。
何より回診に行くと、それまで見たことのない、素晴らしい笑顔!
さらに、日に日に良くなっていきます。
こうして彼女の吐き気は完全消失し、食欲も戻り、見違えました。
別人のように回復したのです。
もちろん他の要素は何一つ変わっていませんから、ミルタザピンが時間をかけて効いて、この劇的な改善を呼び込んだのです。効き始めるまでに2週間は、ほぼ何も変わらない時期がありました。2週間経過後から、どんどん良くなってきました。
一般的には、吐き気を抗うつ薬で治療することはありません。
普通は、吐き気止めで治療します。
けれども、もし彼女に抗うつ薬が処方されなかったら。
皆で、彼女に抗うつ薬の服用を勧めてくれなかったら。
そして彼女自身が、「もうこれは飲まない」と自己判断で中止してしまっていたとしたら。
彼女はおそらくずーっとこの吐き気に苦しみ、うつとわかるまで、他の苦痛も継続してあったことでしょう(食欲低下、気力の減退、不眠等)。
主治医の先生、病棟のスタッフ、そした患者さん本人が、半信半疑の中を信じてくれたことが、この結果をもたらしました。
患者さんに笑顔が戻って、本当に良かったです。
最初から硬い表情であり、それが普通なのか? とも感じるほどでしたが、ミルタザピンが効いてからは本当に別人で、これが元の姿だったのです。
つくづく適切な緩和治療が大切であることを再認識した一例でした。
それでは皆さん、また。
失礼します。
60代女性の進行がん患者さんの、ずっと良くならない吐き気で依頼されました。
主治医の先生は、様々な吐き気を抑える薬剤を試してくださっていましたが、全く良くならないとのことで依頼が来たのです。
吐き気は持続的。
薬を口に含むと、余計気持ち悪くなる。吐き気止めも飲みたくない。
脳の転移や電解質異常はない。
さて、こんな時に何を考えるか?
実は、様々な吐き気を抑える薬(制吐薬)の治療に反応しない場合は、予測性嘔吐を考えねばなりません。
これは抗不安薬がしばしば効きます。
しかし私はすごく気になりました。
どうにも表情が暗い。
気力がない、そう仰る。
直感で、「うつなのではないか?」そう思いました。
ですが、うつを治す薬剤は、セロトニンという物質を増やし、吐き気を増してしまうことがあります。
それなので、使いづらい。
けれども吐き気を増やさない、むしろ緩和する可能性があるミルタザピンという薬剤があります。
私はそれを選択しました。
しかし抗うつ薬にはもうひとつ問題があります。
それは「すぐには効かない」ということです。
数週間かかります。
そもそも薬を含むだけでも、吐き気がひどい、という患者さんです。
けれども点滴で三環系という種類の抗うつ薬を使っても、これは抗コリン作用で、腸の運動を低下させ、吐き気や便秘につながる可能性がある。
「次第に効いてきますから、どうか飲んでください」
そうお勧めし、諸スタッフにも協力してもらい、ご本人に毎日服用してもらいました。
1週間。
あまり変わりはありません。
所定通り、私はミルタザピンを30mgに増量(2錠)しました。
私の中では一定の確信がありましたが、見守る側からすると半信半疑で、診療録にも
「嘔気の原因は不明」「診断がつかない」
そう書くスタッフもいます。
私は「予測性嘔吐もしくは抑うつが関係した嘔気」と評価し、何度も診療録に書き、そう伝えているのですが、「本当?」と疑っているスタッフもいたと思います。
しかし主治医の先生はじめ多くのスタッフは、そして患者さんは、可能性にかけてくれました。
吐き気もあれば、食欲もない。
これではがんの治療ができません。
とうとう胃ろうを検討される段階にまで至ってしまいました。
そんなある日…。
「吐き気が軽くなりました」
訴えが変わりました。
何より回診に行くと、それまで見たことのない、素晴らしい笑顔!
さらに、日に日に良くなっていきます。
こうして彼女の吐き気は完全消失し、食欲も戻り、見違えました。
別人のように回復したのです。
もちろん他の要素は何一つ変わっていませんから、ミルタザピンが時間をかけて効いて、この劇的な改善を呼び込んだのです。効き始めるまでに2週間は、ほぼ何も変わらない時期がありました。2週間経過後から、どんどん良くなってきました。
一般的には、吐き気を抗うつ薬で治療することはありません。
普通は、吐き気止めで治療します。
けれども、もし彼女に抗うつ薬が処方されなかったら。
皆で、彼女に抗うつ薬の服用を勧めてくれなかったら。
そして彼女自身が、「もうこれは飲まない」と自己判断で中止してしまっていたとしたら。
彼女はおそらくずーっとこの吐き気に苦しみ、うつとわかるまで、他の苦痛も継続してあったことでしょう(食欲低下、気力の減退、不眠等)。
主治医の先生、病棟のスタッフ、そした患者さん本人が、半信半疑の中を信じてくれたことが、この結果をもたらしました。
患者さんに笑顔が戻って、本当に良かったです。
最初から硬い表情であり、それが普通なのか? とも感じるほどでしたが、ミルタザピンが効いてからは本当に別人で、これが元の姿だったのです。
つくづく適切な緩和治療が大切であることを再認識した一例でした。
それでは皆さん、また。
失礼します。