がんの患者さんではない方の慢性疼痛に対しても、いくつかの種類のオピオイドの使用が認められています。
ブプレノルフィンやフェンタニル貼付剤、トラマドールとそのアセトアミノフェン合剤など、いろいろな使用可能な製剤があります。
ただ、がんではない慢性疼痛の患者さんに対して、”がんの患者さんと同じように”オピオイドを使っていい、というのは間違いです。
もちろん妥当性があれば使用して良いです。けれどもがん性疼痛と異なり、慎重に妥当性があるのかを判断した上で、処方されるべきです。
非がんの慢性疼痛に対しての医療用麻薬使用で注意しなければならないことは、がんに対しての使用の場合と異なり、使用が相当長期になる可能性があることです。
またがん性疼痛の場合は、器質的な変化があり、慢性炎症性疼痛あるいは神経障害性疼痛(どちらもオピオイドの依存形成を抑制する機序が働く痛みです)があるので、依存を形成しにくいため、処方者も過剰に慎重になる必要はありません。
しかし慢性疼痛の成り立ちは多様であり、中には器質的異常が存在しないにも関わらず、疼痛を訴える例も存在します。
そのような例は、精神依存や耐性を惹起する危険性があります。
膝が慢性的に痛いから、腰が痛いから、という訴えに対して、器質的な変化をよく確認せずにオピオイドを使用するようなことがあってはいけません。
また、トラマドールやブプレノルフィンという薬剤は、日本の法律では「医療用麻薬」に分類されていませんが、どちらもオピオイド受容体に作用するれっきとした「オピオイド」です。
ゆえに、医療用麻薬に指定されていなくても、医療用麻薬扱いのモルヒネやオキシコドンなどと同様の注意が必要になります。
便秘が起こること。注意しないと非常に高度な便秘となることもあります。
なかには吐き気も起こる可能性がある(のち耐性ができて消失する)ので、制吐剤を併せて処方すること。
いろいろな注意点があります。
最近は整形外科の領域などで、これらのオピオイドが使用されることが増えているようです。
以前の記事でも触れた『非がん性慢性“疼”痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン』を、がんではない慢性疼痛の患者さんにオピオイドの処方を行う医師は読んで頂くのが必要だと思います。
都合50ページくらい(本の後ろ半分は日本語ガイドラインの英訳)で図表も多いので、医師ならばすぐ読み終わると思います。
重要なことが多数書かれているので紹介します。一般の皆さんにも、がんの方と、がんではない方には、医療用麻薬治療の内容がずいぶんと異なるということを感じて頂ければと思います。
◯本邦での非がん性慢性[疼]痛へのオピオイド治療においては、がん性[疼]痛とは全く異なる理念に基づくことを認識しなければならない。 p11
◯非がん性慢性[疼]痛に対するオピオイド治療は、いずれの患者にも適応されるものではなく、以下の基準を満たした患者に限定されるべきである。 p11
1)持続する痛みの器質的原因が明白である。
(略)
5)物質あるいはアルコール依存の既往がない。
6)心因性[疼]痛および精神心理的な問題・疾患が否定されている。
※ 同意書を作成すること p12
※ 突出痛へのレスキュー薬(頓用薬)の使用の非推奨 p13
(ブログ筆者注;レスキューの使用が重要ながん性疼痛と対照的です!)
◯オピオイド鎮痛薬処方を行う医師は、身体的影響、精神的影響などの予想される諸問題およびその対応について熟知していなければならない。 p13
◯痛みの緩和を追求し過ぎて、オピオイド鎮痛薬が高用量になった際に、オピオイド鎮痛薬による弊害が顕著になることが多い。そのため、非がん性慢性[疼]痛におけるオピオイド治療では、オピオイド鎮痛薬の処方は非がん性慢性[疼]痛に精通した経験豊富な医師が行い、処方を受ける患者は一定の基準を満たした患者に限定されるべきである。 p27
◯心因性疼痛へのオピオイド治療は絶対に避けなければいけない。 p28
◯痛みの器質的原因や病態が不明な患者へのオピオイド治療も推奨されない。 p28
◯非がん性慢性[疼]痛では、(略)投与開始初期には(オピオイドの)効果が認められないとしても十分な観察期間を設けて緩徐に漸増しなければならない。なぜなら、短期間の増量で生じる急性耐性形成とそれによる依存の予防が最も重要だからである。 p36
(ブログ筆者注;これも比較的速やかに増量して良いがん性疼痛と対照的です)
※長期使用の弊害(ブログ筆者注;何年もの長期継続使用にて)
長期処方、特に高用量投与が及ぼす、性腺機能不全、免疫系の障害(ブログ筆者注;ただしこの免疫に関してはエビデンスは強くないとも併記されています)、腸機能障害、痛覚過敏、睡眠障害などの生体への弊害が明らかになってきている。 p43
興味深いのは、1994年「薬物依存に対する日米の違い」論文(p15)からの引用です。
「日本では、麻薬及び抗精神薬取締法と医療保険システムの2つの規制によってオピオイドが社会に氾濫することがなく、オピオイド乱用・依存といった問題は未然に防ぐことができた。その一方、米国ではそのようなオピオイドに対する厳しい規制を受け入れることができなかったようで、安易なオピオイド処方が横行し、世界でも稀にみるオピオイドの氾濫した社会を生み出し、オピオイド乱用・依存といった深刻な問題を抱えるようになっていった」(本文ママ)<※>
慢性疼痛にも、モルヒネなどの医療用麻薬使用の適応自体はあります。
使うこと自体は悪いことではありません。
しかし、がんの痛みの場合と同じような用法用量で行ってはいけないのです。
医療用麻薬治療の普及とともに、一般臨床医も、「がん式」の、「レスキューを使う」「痛みが取れる量まで増やす」というやり方には慣れ親しんでいます。
けれども、がんではない痛みの場合は、それとはやり方が大きく異なります。
”非がん性慢性痛へのオピオイド治療においては、がん性痛とは全く異なる理念に基づくことを認識しなければならない”のです。
私個人は、慢性疼痛へのオピオイド使用は上級編であり、またオピオイドを使用してはいけない心因性疼痛の事例も含まれることから、その判断をともに行ってくれる精神科医等とも十分な連携が取れる痛み治療の専門家が非がんの慢性疼痛に対してのオピオイド治療を施行するのが、依存の患者を作らないためにも重要なことだと思います(そのような専門家が少ないという問題はありますが)。
確かに、慢性疼痛に苦しんでいる方もたくさんいますので、他の薬剤が奏効しない方にとってオピオイド治療が検討され、適切に対処されることは重要です。
だからといって、がんではない痛みにある鎮痛薬が効かなければ、次にモルヒネを使いましょう、医療用麻薬を使いましょう、というのは本当にそれが妥当か熟慮が必要です。
例えば、トヨタの役員さんの件では「ひざの痛みを和らげるため」オキシコドンを輸入したと話されているようですが、では非ステロイド性鎮痛薬を使うのはどうだったのか(効く可能性があります)、あるいはアセトアミノフェンを使うのはどうだったのか(これも効く可能性があります)、あるいは片方でも鎮痛不十分なのだったら両方併用するのはどうだったのか(作用点が違うので、足しただけ効果を得られる可能性があります)などと疑問がいくつもわいてきます。
オピオイド以外にも痛みを和らげる薬剤はいろいろとあります。
モルヒネやオピオイドの治療が普及するのは大切で、がん性疼痛の一専門家としても、それを心から願っています(し、そのために平易な専門書も記しています)。
けれども、がんではない慢性疼痛に対しては、引き続き、慢性の痛み治療の専門家により十分検討されて、ゆめ精神依存や耐性が形成されるような事例が増えないことをまた強く願うものです。
以前、高齢者入居施設に入って来られたある高齢の男性に、フェンタニル貼付剤が処方されていました。
変形性腰椎症に対して、最小量のフェンタニル貼付剤が出されていたのです。
その男性は元医師でした。
彼はボーっとして、精神活動は低下していました。
「(最小量でも)過量なのではないか?」
そう考えた一緒に働いていた先生(その先生が彼を最初に訪問診療されました)が、フェンタニル貼付剤を中止し、一般的な鎮痛薬(非ステロイド性鎮痛薬)に変えました。
すると、元の活気ある人(家族談)に戻り、知的な話もたくさんされるようになり、見違えるようになりました。
彼にとっては最小量のフェンタニル貼付剤でも過量だったのです。そして他の薬剤で痛みは十分緩和できるものでした。
そんなこともあります。つくづく薬剤は使いよう、と感じた事例でした。
追伸
トヨタの役員さんの件で、オキシコドンについての言葉がインターネットを飛び交っていますが、「麻薬」「自分に処方されていない」「モルヒネより強い」などの言葉に反応して、救いようのない重罪人のような断定も目立ちます。
この問題の根っこには、アメリカと日本の痛みやオピオイドに対する大きな考え方の違い(ある種対極? どんな痛みも薬剤を使って和らげましょう、という文化と、痛みはできる範囲で我慢することが広く認められる文化と)があります。ブログ本文中に述べた<※>の部分にもそれは表れています。
もちろん日本の常識では良くないことですが、おそらくアメリカ生まれ育ちの方にとっては、救いようのない重罪とまでは言えないことなのではないかと思います。実際、次のような記事もあります。
オキシコドン輸入事件、米メディアはどう伝えたか
様々な価値観がありますから、それを踏まえて、冷静に反応・判断することも重要だと思います。そして特にがん性疼痛に関しては、オキシコドンは良い薬剤ですから、変に誤解されるようなことがないことを一専門家として強く願います。
余談
それにしても上記引用記事の
(オキシコドンは)進行癌のような”極端な(extreme)”ケースに使われている、というニューヨーク・タイムズの言葉の選択に、文化の違いが垣間見えます。
今日の記事を見て頂ければわかるように、極端、というより”妥当”だと日本の専門家としては思うのですが。
私からすると、哺乳類でも牛や豚には何も言わないのに、イルカ等にはやたらに反応する西欧の人たちは理解できないですし、人類の軌跡たる遺跡・遺産を異教のものだからと破壊するイスラムの過激派も理解できませんが、そのような文化に幼少期から育まれた方にとってはそれが当然なのでしょう。
同様に、アメリカの人からすると、日本の規制は前述の引用記事にあるように、やたらに厳しく驚かれているのでしょう。
文化の違いを越えてわかり合う、ということは難しいことですね。
長文のお付き合い、ありがとうございました。
ブプレノルフィンやフェンタニル貼付剤、トラマドールとそのアセトアミノフェン合剤など、いろいろな使用可能な製剤があります。
ただ、がんではない慢性疼痛の患者さんに対して、”がんの患者さんと同じように”オピオイドを使っていい、というのは間違いです。
もちろん妥当性があれば使用して良いです。けれどもがん性疼痛と異なり、慎重に妥当性があるのかを判断した上で、処方されるべきです。
非がんの慢性疼痛に対しての医療用麻薬使用で注意しなければならないことは、がんに対しての使用の場合と異なり、使用が相当長期になる可能性があることです。
またがん性疼痛の場合は、器質的な変化があり、慢性炎症性疼痛あるいは神経障害性疼痛(どちらもオピオイドの依存形成を抑制する機序が働く痛みです)があるので、依存を形成しにくいため、処方者も過剰に慎重になる必要はありません。
しかし慢性疼痛の成り立ちは多様であり、中には器質的異常が存在しないにも関わらず、疼痛を訴える例も存在します。
そのような例は、精神依存や耐性を惹起する危険性があります。
膝が慢性的に痛いから、腰が痛いから、という訴えに対して、器質的な変化をよく確認せずにオピオイドを使用するようなことがあってはいけません。
また、トラマドールやブプレノルフィンという薬剤は、日本の法律では「医療用麻薬」に分類されていませんが、どちらもオピオイド受容体に作用するれっきとした「オピオイド」です。
ゆえに、医療用麻薬に指定されていなくても、医療用麻薬扱いのモルヒネやオキシコドンなどと同様の注意が必要になります。
便秘が起こること。注意しないと非常に高度な便秘となることもあります。
なかには吐き気も起こる可能性がある(のち耐性ができて消失する)ので、制吐剤を併せて処方すること。
いろいろな注意点があります。
最近は整形外科の領域などで、これらのオピオイドが使用されることが増えているようです。
以前の記事でも触れた『非がん性慢性“疼”痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン』を、がんではない慢性疼痛の患者さんにオピオイドの処方を行う医師は読んで頂くのが必要だと思います。
都合50ページくらい(本の後ろ半分は日本語ガイドラインの英訳)で図表も多いので、医師ならばすぐ読み終わると思います。
重要なことが多数書かれているので紹介します。一般の皆さんにも、がんの方と、がんではない方には、医療用麻薬治療の内容がずいぶんと異なるということを感じて頂ければと思います。
◯本邦での非がん性慢性[疼]痛へのオピオイド治療においては、がん性[疼]痛とは全く異なる理念に基づくことを認識しなければならない。 p11
◯非がん性慢性[疼]痛に対するオピオイド治療は、いずれの患者にも適応されるものではなく、以下の基準を満たした患者に限定されるべきである。 p11
1)持続する痛みの器質的原因が明白である。
(略)
5)物質あるいはアルコール依存の既往がない。
6)心因性[疼]痛および精神心理的な問題・疾患が否定されている。
※ 同意書を作成すること p12
※ 突出痛へのレスキュー薬(頓用薬)の使用の非推奨 p13
(ブログ筆者注;レスキューの使用が重要ながん性疼痛と対照的です!)
◯オピオイド鎮痛薬処方を行う医師は、身体的影響、精神的影響などの予想される諸問題およびその対応について熟知していなければならない。 p13
◯痛みの緩和を追求し過ぎて、オピオイド鎮痛薬が高用量になった際に、オピオイド鎮痛薬による弊害が顕著になることが多い。そのため、非がん性慢性[疼]痛におけるオピオイド治療では、オピオイド鎮痛薬の処方は非がん性慢性[疼]痛に精通した経験豊富な医師が行い、処方を受ける患者は一定の基準を満たした患者に限定されるべきである。 p27
◯心因性疼痛へのオピオイド治療は絶対に避けなければいけない。 p28
◯痛みの器質的原因や病態が不明な患者へのオピオイド治療も推奨されない。 p28
◯非がん性慢性[疼]痛では、(略)投与開始初期には(オピオイドの)効果が認められないとしても十分な観察期間を設けて緩徐に漸増しなければならない。なぜなら、短期間の増量で生じる急性耐性形成とそれによる依存の予防が最も重要だからである。 p36
(ブログ筆者注;これも比較的速やかに増量して良いがん性疼痛と対照的です)
※長期使用の弊害(ブログ筆者注;何年もの長期継続使用にて)
長期処方、特に高用量投与が及ぼす、性腺機能不全、免疫系の障害(ブログ筆者注;ただしこの免疫に関してはエビデンスは強くないとも併記されています)、腸機能障害、痛覚過敏、睡眠障害などの生体への弊害が明らかになってきている。 p43
興味深いのは、1994年「薬物依存に対する日米の違い」論文(p15)からの引用です。
「日本では、麻薬及び抗精神薬取締法と医療保険システムの2つの規制によってオピオイドが社会に氾濫することがなく、オピオイド乱用・依存といった問題は未然に防ぐことができた。その一方、米国ではそのようなオピオイドに対する厳しい規制を受け入れることができなかったようで、安易なオピオイド処方が横行し、世界でも稀にみるオピオイドの氾濫した社会を生み出し、オピオイド乱用・依存といった深刻な問題を抱えるようになっていった」(本文ママ)<※>
慢性疼痛にも、モルヒネなどの医療用麻薬使用の適応自体はあります。
使うこと自体は悪いことではありません。
しかし、がんの痛みの場合と同じような用法用量で行ってはいけないのです。
医療用麻薬治療の普及とともに、一般臨床医も、「がん式」の、「レスキューを使う」「痛みが取れる量まで増やす」というやり方には慣れ親しんでいます。
けれども、がんではない痛みの場合は、それとはやり方が大きく異なります。
”非がん性慢性痛へのオピオイド治療においては、がん性痛とは全く異なる理念に基づくことを認識しなければならない”のです。
私個人は、慢性疼痛へのオピオイド使用は上級編であり、またオピオイドを使用してはいけない心因性疼痛の事例も含まれることから、その判断をともに行ってくれる精神科医等とも十分な連携が取れる痛み治療の専門家が非がんの慢性疼痛に対してのオピオイド治療を施行するのが、依存の患者を作らないためにも重要なことだと思います(そのような専門家が少ないという問題はありますが)。
確かに、慢性疼痛に苦しんでいる方もたくさんいますので、他の薬剤が奏効しない方にとってオピオイド治療が検討され、適切に対処されることは重要です。
だからといって、がんではない痛みにある鎮痛薬が効かなければ、次にモルヒネを使いましょう、医療用麻薬を使いましょう、というのは本当にそれが妥当か熟慮が必要です。
例えば、トヨタの役員さんの件では「ひざの痛みを和らげるため」オキシコドンを輸入したと話されているようですが、では非ステロイド性鎮痛薬を使うのはどうだったのか(効く可能性があります)、あるいはアセトアミノフェンを使うのはどうだったのか(これも効く可能性があります)、あるいは片方でも鎮痛不十分なのだったら両方併用するのはどうだったのか(作用点が違うので、足しただけ効果を得られる可能性があります)などと疑問がいくつもわいてきます。
オピオイド以外にも痛みを和らげる薬剤はいろいろとあります。
モルヒネやオピオイドの治療が普及するのは大切で、がん性疼痛の一専門家としても、それを心から願っています(し、そのために平易な専門書も記しています)。
けれども、がんではない慢性疼痛に対しては、引き続き、慢性の痛み治療の専門家により十分検討されて、ゆめ精神依存や耐性が形成されるような事例が増えないことをまた強く願うものです。
以前、高齢者入居施設に入って来られたある高齢の男性に、フェンタニル貼付剤が処方されていました。
変形性腰椎症に対して、最小量のフェンタニル貼付剤が出されていたのです。
その男性は元医師でした。
彼はボーっとして、精神活動は低下していました。
「(最小量でも)過量なのではないか?」
そう考えた一緒に働いていた先生(その先生が彼を最初に訪問診療されました)が、フェンタニル貼付剤を中止し、一般的な鎮痛薬(非ステロイド性鎮痛薬)に変えました。
すると、元の活気ある人(家族談)に戻り、知的な話もたくさんされるようになり、見違えるようになりました。
彼にとっては最小量のフェンタニル貼付剤でも過量だったのです。そして他の薬剤で痛みは十分緩和できるものでした。
そんなこともあります。つくづく薬剤は使いよう、と感じた事例でした。
追伸
トヨタの役員さんの件で、オキシコドンについての言葉がインターネットを飛び交っていますが、「麻薬」「自分に処方されていない」「モルヒネより強い」などの言葉に反応して、救いようのない重罪人のような断定も目立ちます。
この問題の根っこには、アメリカと日本の痛みやオピオイドに対する大きな考え方の違い(ある種対極? どんな痛みも薬剤を使って和らげましょう、という文化と、痛みはできる範囲で我慢することが広く認められる文化と)があります。ブログ本文中に述べた<※>の部分にもそれは表れています。
もちろん日本の常識では良くないことですが、おそらくアメリカ生まれ育ちの方にとっては、救いようのない重罪とまでは言えないことなのではないかと思います。実際、次のような記事もあります。
オキシコドン輸入事件、米メディアはどう伝えたか
様々な価値観がありますから、それを踏まえて、冷静に反応・判断することも重要だと思います。そして特にがん性疼痛に関しては、オキシコドンは良い薬剤ですから、変に誤解されるようなことがないことを一専門家として強く願います。
余談
それにしても上記引用記事の
(オキシコドンは)進行癌のような”極端な(extreme)”ケースに使われている、というニューヨーク・タイムズの言葉の選択に、文化の違いが垣間見えます。
今日の記事を見て頂ければわかるように、極端、というより”妥当”だと日本の専門家としては思うのですが。
私からすると、哺乳類でも牛や豚には何も言わないのに、イルカ等にはやたらに反応する西欧の人たちは理解できないですし、人類の軌跡たる遺跡・遺産を異教のものだからと破壊するイスラムの過激派も理解できませんが、そのような文化に幼少期から育まれた方にとってはそれが当然なのでしょう。
同様に、アメリカの人からすると、日本の規制は前述の引用記事にあるように、やたらに厳しく驚かれているのでしょう。
文化の違いを越えてわかり合う、ということは難しいことですね。
長文のお付き合い、ありがとうございました。