NPO法人「いたみ医学研究情報センター」のホームページに掲載されているファイル


www.pain-medres.info/professional/img/opioid.pdf


に、ペインクリニック誌に掲載された”米国と日本のオピオイドへの意識の違い”がまとめてあります。




オピオイドの社会の印象、米国普通、日本悪い

オピオイドの合法的入手、米国容易、日本保険適応内のみ。

オピオイドの非合法的入手、米国容易、日本困難。

医師の処方、米国安易、日本躊躇。

依存者のイメージ、米国普通、日本犯罪者。

オピオイドの広告、米国積極的、日本消極的。

など興味深い記載があります。


前回の記事でも触れたように、アメリカ並みを目指すことはけして良いことではないと思います。


けれども日本は、オピオイドに関しては、ややネガティブな捉えられ方が多いと感じます。


重要なことは、あくまで慢性的な痛み(特にがんによる痛み)があるのならば、精神依存を来しにくい、ということです。


一方で、がん以外の慢性疼痛の場合は、日本ペインクリニック学会の『非がん性慢性「疼」痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン』でも、モルヒネ換算120mg以上の処方は推奨しないことが記されているように、痛みの成因も多岐にわたりますので、慎重な姿勢が保持されています。


個人的には、特にがん以外の慢性疼痛には、オピオイド投与が適しているか否かを慎重に判断しないと、あるいは熟慮して使用・増量しないと、精神依存を形成する危険がある難しい領域であると考えています。


とにかく、アメリカと日本にはこのようにオピオイドに対する感覚の違いがあるため、「まあ、良いか」的な安易さがひょっとすると役員さんにはあったのかもしれませんね。


報道によると、それでも見つからないように配慮はされていたようなので、おそらく、いけないことというのはある程度はご存知であったのかもしれませんが(でも見つかったとしても、オキシコドンだし、という程度のお気持ちではあったのかもしれません)。



というわけで、これらの報道があっても、基本的な注意は変わらないと思います。


がんの患者さんで痛みがあって、オキシコドンを勧められている方、服用している方は、何ら恐れや罪悪感を抱く必要はありません。指示された通りに服用し、きちんと正直に鎮痛程度を報告し、医師や看護師とともにより良いオピオイド治療にあたってください。


一方で、下記のページ


薬物の脳への作用と依存性薬物の特徴


にあるこの表





のように、人に精神依存をきたす物質は世の中に様々にあり、アルコールや、たばこ、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬などもそうです。どのような物質が精神依存を形成するのか、まずは知る、ということが重要だと思います。


そうすることによって、それらの物質の摂取には慎重になれるでしょう。


先日、「医療用麻薬で性格変化の危険がある」という文言を某所で目にしましたが、少なくとも医療用でオピオイド治療を受けている方は性格変化などほとんどありません。


性格変化は、精神依存の結果として、あるいは薬物による精神障害の結果として、あるいは双方から惹起されると言われています。


精神依存の深まりとともに、生活スタイルが変化し、また薬物を求めようと強迫的になることから、生活リズムや生活姿勢、言動が変化し、性格が変化する(あるいはしたように見える)ことはどの依存性薬物の依存者でも認められることです。


また精神毒性に関しては、覚醒剤やシンナー等が強いとされてます。一方で、実際に上の図をみて頂ければおわかりのように、薬物による精神障害をきたしやすい「精神毒性」はモルヒネなどのオピオイドは強くありません(陰性です)。


残念なことですが、私も年間何百例と拝見しておりますので、中にはがんの患者さんでも、(再三の指導にも関わらず)指示された用法用量をほとんど守らないで、自分の好みで適当に使用されたために、軽度の精神依存を形成しているのではないかという患者さんが年に1例程度はいらっしゃいます。逆に言えば、それだけの数拝見していても、本当に無茶苦茶なやり方をご自身でされた方しか、そうならない、ということです。


処方箋で服用されている方は、きちんと医師と相談し、決められた用量を守ることが重要です。ましてや痛みがない方が嗜癖のために使用することは、破滅への道が開くことです。


もしトヨタの女性役員さんが、明確な疼痛がなく使用されていたのならば、「摂取しないといられない」状況となってしまっていた可能性も考えられ、由々しきことです。



正しい理解が広まってほしいと思うと同時に、恐るべきではない人は恐れず、良い生活の質のために医療用麻薬治療を受けてほしいと思います。